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第五十四話

「みかちゃん、僕の過去の楽しい誕生日会の話でも聞く?」


みかちゃんが急かせかと僕のお祝いの準備をしている途中に僕はそうやってどうでもいいことを口にする。


「うん、聞かせて」


僕は過去に自分で買ったバースデーサングラスをかけながら、黒くなったショートケーキを凝視した。


「あっ、その日は僕のお兄ちゃんの誕生日だったんだけど、サプライズでみんなでお祝いしようってなって、ケーキを買いに行く係になったの。お金を握りしめて、近くのケーキ屋さんまでバスと徒歩で、まあ六歳だったから、一時間くらいかかったわけ。それで無事にケーキは買えたんだけど、とにかく時間がなくて、走ってバス停まで行こうとして、思いっきり転んで、ケーキの箱が三回転くらいした。もう血の気が一気に引いたよね、でも買い直してる時間もお金もなくて、渋々そのケーキを家に持ち帰ったんだ。で、どうなったと思う?」


「それは、ハートフルなお話?」


わざわざ、ハッピーバースデーの風船を膨らませながら、話の展開に胸を膨らませるように、聞いてきた。


「さあね、僕にとっては笑い話だけど」


「ケーキの美味しさは変わらないもんね」


「どうかな?とにかくね、家に帰ったらまず血だらけの両膝よりもケーキの心配をされたよ。何だこのケーキは。俺はこんなぐちゃぐちゃのケーキなんか頼んでねえ。金返せ。使えねえクソガキ。なんて散々文句付けられて、挙句の果てには、このケーキ全部お前が食えって、顔面に押し付けられたね。床に落ちたのも食えって、髪の毛やホコリが付いてようが食ったよ」


みかちゃんがせっかくケーキとともにお祝いしてくれようとしてるのに、僕はその空気も読まずに苦虫をひたすら噛み潰している最悪な気分で最悪な人間だ。


「……ごめん馨、ケーキ嫌いだった?」


忖度させて申し訳なさそうな顔で、彼に僕の顔色を伺わせた。何で僕はこんなぐちゃぐちゃで最悪な話をしているんだろう。


「好きだよ。甘くて美味しいし」


あのときのケーキは何故かしょっぱくて不味かったけど。ああ、思い出せば思い出すほど胸が苦しい。過去のトラウマに溺れて助けてくれなんて、馬鹿らしい。その過去はもう誰にも変えられないのに。


「馨、泣いていいよ。泣きたそうな顔してる」


「嘘、ほぼサングラスで見えないでしょ」


強がってはみたけど声が少し震えた。本当は、みかちゃんに抱きしめられて泣きたい。


「そうだけど、俺には何となくわかるの」


「何で、は愚問だね。あああもう、こんなはずじゃなかったのに……」


サングラスをおでこにずらして、こぼれてくる涙を次々に手で拭く。慌ててみかちゃんがティッシュボックスを持ってきてくれて、「大丈夫」と隣りで僕の背中をさすってくれた。


「馨、つらかったよね。苦しかったよね。うん、大丈夫、俺がいるからね。安心して、身をゆだねていて」


みかちゃんが僕の頭を抱き寄せる。そんなんじゃ僕は物足りなくて、みかちゃんの胸に抱きついて、そのスウェットを僕は持ち前の意地汚さで汚してしまう。


「みかちゃん、」


ああ僕、みかちゃんにこうやって、慰めてもらいたくて、こんな話したんだ。僕が誰かに甘えられるのは、この情けない泣き顔を晒した時だけなんだ。


「馨が生きていて良かった」


みかちゃんが大人の余裕を醸し出してきて僕のだいしゅきホールドに何の反応も見せない。僕は赤ちゃん返りしてその首筋に額を擦り付ける。


「ふふっ、死にたくなくなるじゃん」


「俺はもうとっくに死にたくないよ」


僕の後頭部を優しくポンポンとしてくれた。それで鼓舞されて、ちょっとだけ元気が出た。


「みかちゃん、ケーキ食べよ」


「そうだね」


撫でるように涙を拭かれながら、その隙間からみかちゃんの非力な笑顔が見えた。


「ほら、あーんして♡」


僕は図に乗って、彼の口元にケーキを運ぶ。目を逸らしてぎこちなく口を開いてく様は照れているのがあからさまで可愛い。


「馨も、する?」


みかちゃんが気を使って気を張って、それで僕の気が触れた。


「ううん、古傷抉らないで」


「ごめん」


「謝りもしないで?」


僕は意地悪く笑ってみかちゃんをからかった。


「……」


フォークと皿がぶつかり合う軽快な音。ケーキを切断した。ファーストバイトもセカンドバイトも全部、全部僕がいい。


「だから、覆い尽くしてよ」


最後の頼みのように、みかちゃんを味あわせてもらった。僕のつらい記憶、新たなトラウマで覆して。

みかちゃんが僕の唇を食む。


僕はきっと依存症なんだろう。肉体的な繋がりも精神的な繋がりも、なくなると震えるほど不安に陥る。確認するための愛の言葉も縛っておくための悦ばす言葉も、全てが自分本位だ。みかちゃんが快楽で腰を痙攣させるのを見たって最近は興奮よりも安堵が勝る。僕から離れないで。いなくならないで。そんな自分が心底、気持ち悪い。


「馨、どうして泣いてるの?」


「あ、いや、なんか、泣いちゃった。わかんない」


みかちゃんと繋がっているのに、僕の背筋が凍って、涙が溢れてきた。不安で不安で、不安で不安で不安で、みかちゃんを失いたくない、とその気持ちだけが先行して、彼を感じているこの瞬間に泣けてきた。将来が読める人間は、それによって死亡率が低下した。けれども幸福度は?と聞かれたら首を捻ることしかできない。ただ、みかちゃんに抱きしめられていたい。


「馨、何かしたいことはある?」


僕をぎゅっと抱きしめてから、優しい声で僕の名前を呼ぶ。その問いかけに、僕はさらに涙を溢れさせて、何も言えずに暫くそのままでいた。


「なんでもないよ」


最初に出たのはその言葉だった。


「そっか、今日は馨の我儘いっぱい聞こうと思ったのに」


「我儘を聞くだけなの?」


「ふふっ、できることならば何でもするよ」


「じゃあ、チューして」


子供っぽくせがんでみると、大人びたそれを返された。それから僕は、涙で泥酔した頭のなかで思い付くことを次々に口にして言った。


「愛してるよ、馨」


「ふふん、次は、みかちゃんが僕にしたいことをして」


「そうだなあ、あっ、プレゼント!!……危なっ、渡しそびれるところだった」


慌ててみかちゃんが小さい袋を持ってきた。白くて刻印がキラキラしてて、高級感のある小さな紙袋。きっとアクセサリーだ。ネックレスかな?指輪だったりして。婚約指輪だったら、どうしよう?


「なぁに?」


「開けてみて」


リボンのついた箱、開けると雫型のアクアマリンが煌めき揺れる、美麗なピアスだった。


「綺麗、泣き虫な僕にピッタリだ」


「ふふふ、馨に似合うと思って、それを選んだんだ」


「付けてくれる?」


お粥さんから貰ったニードルをみかちゃんに渡した。きっと裏で繋がってた。覚悟を決めた表情で、でもそれを悟られないように口元は柔らかに彼は微笑む。


「良いよ」


肉に針が刺さる瞬間。細胞が死んだのか、肉がプチプチと潰れていった。血が耳の縁を伝って流れ、微かな温かさを感じる。思ったよりもあまり痛くはなかった。もっとずっと僕は痛がりたかったんだと恥ずかしめに気付いた。僕の血液がニードルを通すための潤滑油。ニードルを通し終わったあと、みかちゃんの指先が僕の血液で汚れる。


「ごめんね」


「ううん、謝らないで」


「でも」


「言い訳もしないで?」


みかちゃんに意地悪く笑われ僕はからかわれた。


「僕の真似?」


「ふふっ、そうだよ。だからこの後は、分かるよね?」


彼に誘導されて、僕は夢見心地で、ただ抱きしめられていた。その人肌の温もりが僕の心まで温かくした。


「誕生日、祝ってくれて、ありがとう。ここまで生きこれて、良かった」


「俺も、馨と出会えて良かった。とっても幸せ♡」


お互いの存在を確かめ合うように強く抱きしめて、何だか一つの共同体になってしまいそうだ。


「ねえ、みかちゃん」


「何?」


「寿命があと一年もないって本当?」


「うん、そうだね」


みかちゃんが情けなく笑うのがとても切なくなってくる。泣くのをこらえて、僕は誕生日が終わる直前に最後の我儘を言う。


「それまでに僕、立派に一人前になって自立して、みかちゃんに天国で心配されないように頑張るからさ」


「うん」


「ずっと僕のことを見守っててよ」


「ふふっ、ずっとそのつもりだよ」


みかちゃんとは、もう何も言わなくとも伝わっているような、繋がっているような安心感が、今この瞬間に心に落ちた。その柔らかな微笑みを僕は永遠に忘れられないだろう。



「馨くんのピアス、良いね。センスあるよ」


「お粥に言われると自然と笑顔が貼り付いちゃうね」


「じゃあ、それを剥がしてコレクションにしたいよ」


「ふふっ、一生笑うなって言ってる?」


「怖え語弊ごめん!あはっ、こっち向いて!」


カシャッ、二人で自撮り、スマホで取られた。

なんて言ったって、今日は体育祭だ。でも、運動はしない。ハチマキを付けて(馨に猫耳にされた)、三つ編みをして、日焼け止め塗って、着慣れないジャージを着て、テントの中で待機する。とゆーか、俺は元々いなくていい存在。だけど、生徒との思い出作りに来ている。お粥は運動着でも派手というかお洒落で目立つ。我が道を行ってて、蛍光色が眩しい。俺達アラサーでJKかよ。


「塩 蜜柑、俺達の組応援してくれんのか?」


「はい、この色が一番可愛かったんで」


ハチマキの色は馨と同じ、つまり碧先生と同じだ。担任持ってた頃は、自分の役割をこなすのに追われてたけど、今日はゆっくりと観戦できる。まあ、自分のクラスがあるのはそれはそれで楽しいのは碧先生の格好から見て分かるが。クラスカラーで身を包んで、お祭りムードだ。


「猫耳」


「生徒にやられました」


「相変わらず人気あるな」


「今日、碧先生走るんですよね?」


「ああ」


「頑張ってくださいね、応援してますから」


「プレッシャーかけてんのか?」


「ふふっ、違いますよ」


これが教師人生最後の体育祭か。去年は全然、馨の活躍とか姿さえもあまり見れてなかったから今年こそは、頑張って応援するよ。



飴ちゃんと隠れて作っていたザキ応援うちわとメガホン。体育祭当日にそれを本人に見せたら「俺はアイドルなんかじゃねえよ!!」ってガチ照れしたから二人で大笑いした。


「馨ちゃん、気合い入ってんね〜」


「今日のために走り込みしてきた」


ドヤった。三つ編みもみかちゃんとお揃いでしてきた。定期テストも全力で走った。まあまあ良い方だった。


「おっ!あの馨があ?何だ何だ?雪でも降るのか?」


「うっさいなあ!僕がだって楽しみにしてたんだよ!」


ザキにからかわれ、何か照れた。だって、みかちゃんには格好良いとこ見せたいじゃん。


「ザキ、黄色い声援の練習しとこっかぁ」


「きゃー馨くん格好いー♡ってか?」


「ふふっ、やめて裏声まじ笑っちゃうから」


あ、もうすぐ始まるかな?

みかちゃんは始まる前からなんか女の子から人気で嫉妬したけど、まあいいや。僕が猫耳したし。

この炎天下の中では、校長の話が耳に入ってこない。みんなで校歌斉唱も準備体操もするけど、強い日差しで目が眩みそうだ。みかちゃん、熱中症とかならなければ良いけど。とゆーか、テントにみかちゃんいるの可愛い。


「飴ちゃん、汗だくになって土埃かぶってきて」


「あはっ、何で馨ちゃんは素直に一生懸命やってきてって言えないの?」


「霰には言い逃れされそうだから、ね?」


「じゃーあ、今のうちに可愛い写真撮らせてね〜♡」


スマホでパシャリ。今日だけで何枚も撮られてる。


「期待してるから」


肩を叩くと


「楽しんでくるよ」


と白い歯を見せられた。

でも相変わらず盛り上げ上手で、長縄で誰かが引っかかっても士気を高める飴ちゃんは、とても輝いて見えた。素敵な友人だと再認識させられるような。

結果は二位だったけど、飴ちゃんは僕の中ではMVPだな。


「ザキぃ、まじ最後まで残んなきゃ俺キレるからぁ」


「え、霰ってそんなキャラだっけ!?」


「ザキ、僕達がこれだけ応援してるんだから恥ずかしい結果は見せないでよ?」


「馨まで……まあ、格好良いところ見せてやんよ」


騎馬戦に挑むザキの背中を押す。腕のリーチで勝てる奴だけ狙えとか肩の付け根部分を押せとか、背後から行けとか二人色々と言いまくった。

放送部の気合いが入った実況に、一同が笑いの渦に包まれた。何が漢達が今戦いの火花を散らすだ。まじ笑う。でも、体育祭の中で一、二を争う盛り上がりを見せるのは確か。体格いいザキを支えるのはバスケ部のメンバー達。さすが、コミュニケーションもスムーズだ。言うだけあるじゃん!次々と騎馬を倒してく。


「オラァ、取ったぁあああ!!」


「ザキやば、超楽しそうじゃん!」


「ザキぃ、調子乗んなぁ!!」


そんな野次を飛ばしながら、大将戦。ザキと野球部のキャプテン。ザキが腕を伸ばした瞬間のカウンターを狙われて、でもザキも負けじとその腕を咄嗟に掴んだ。腕掴んでいがみ合って、押したり引っ張ったり、バランスを崩したザキが前かがみになったところ帽子を取られた。勝負が決まって、オーディエンスが盛り上がる。


「ザキぃ、頑張ったじゃーん!」


「格好良かったよ」


応援席にザキが少し肩を落として帰ってきた。二人で慰めようとするが、何だか喪失感でいっぱいって感じだ。今にも泣き出しそう。


「最後の最後で……」


「あーあ、上出来だってば!」


とその肩を叩いて、僕は何とかして元気付けたい。


「そうだよザキぃ、ザキが一番目立ってたしぃ」


「そーゆーことじゃ」


「僕にはザキが一番輝いてみえたよ?」


「馨」


「それに、僕が次優勝してくるのに泣いてていいの?」


強気に意地悪く微笑んで、泣きやめと言わんばかりに煽った。これでできなかったら"かなり"恥ずかしいけどね。


「あははっ、馨はやっぱすげぇな。俺の分まで優勝してこいよ!」


「勿論、言われなくとも」


「ザキぃ、一緒に黄色い声援送ろうね〜☆」


「うんっ☆」


とぶりっ子ポーズしたザキがノリノリの裏声で返事した。切り替え早っ!!


「ぶふっ、ちょっ……聴こえない範囲でお願い……」


「「ひど〜いっ!!」」



次の種目は借り物競争、整列してレーンに並ぶ。あー、何か一緒に走る人ら足速そうな運動部ばっかだ。こうゆうの文化部のお楽しみ的なのじゃないの?運悪いなあ。やば、あんなこと言った手前すごい緊張する。手も足も震えそう。ふと、関係者席のみかちゃんに目をやる。その視線に気付いたらしく、口パクで「頑張れ」って。きっとそう言ってくれた。

クラウチングスタート、ピストルが鳴る。お題の箱まで全力疾走するけど、やっぱ運動部には若干負ける。すぐ手に触れた紙を取って、走りながらお題を確認すると、関係者席に向かって、


「粥川、せんせっ!!全力ダッシュ!!」


と必死に叫んだ。関係者席はゴールテープにも近く、ロスなく走り切れる。関係者席の端で悠然と足組みながら鑑賞モードのお粥さんは、顔を一旦顰めてから、しぶしぶと出てきて、そこを僕が手を取り捕まえた。


「待って!!痛い痛い!!早いって!!」


ゴールテープまであと数メートル。文句を言われながら引っ張りゴールテープを切った。手を離し振り返るとお粥さんが膝に手を付け息を切らしていた。僕も自分自身でこんなに必死だったのが笑えた。

次にみかちゃんが運動部の人と手を繋いで、一緒にゴールしてきた。めっちゃ妬いた。一位という旗の後ろにお粥さんと立たされてるけど、二位のがとても羨ましく感じた。そもそも、喘息持ちのみかちゃんをそんな走らせないで欲しい。


「みかちゃん、大丈夫かな?」


「え?ああ、妬いてんの?」


「別に?ただ心配してるだけですけど」


「とゆーか、君のお題は何なの?絵が上手い人?」


「後で分かりますよ」


最後の人がゴールテープを切って、答え合わせの時間に入る。放送部の人が司会進行をするのだけど、ぶっちぎりの一位!!って囃し立てられるのが、とてもこそばゆかった。


「お題は何ですか?」


「はい、他所ん家の鍵です」


と優等生演じて紙を広げると、お粥さんが隣りで


「はあああ!!?」


と大袈裟なリアクションをする。大勢の生徒に笑われる。漫才か?これは。


「何?」


「え、お題、人間じゃないじゃん!!何故に俺こんな走らされたの??」


「いやだって、わざわざ取り出すのに時間がかかるでしょうし。手ぶらで学校に来てる人、貴方しか知らないんで」


「なっ!?ああもう、まじふざけやがって……」


と頭を抱えるお粥さんでまたひと盛り上がり。いつもちゃんとズボンに鍵引っ掛けてんの知ってたから、利用させてもらった。


「次に二位の答え合わせに行きましょう!今度は塩先生ですね!お題は何ですか?」


「イケメンな人です!」


二位の人が堂々と答える。ああ、これは確かにみかちゃん選びたくなるけど。審美眼があって腹立つ。それにみかちゃんも満更でもない顔して、


「ふふっ、少し照れますね」


なんて言うのが、教師だからって立場もあるだろうけど、それだって、かなりメンタルに響いた。僕がお姫様抱っこしてゴールテープ切ればよかった。


「あは、怖い顔っ!せっかくの顔が台無し」


ってお粥さんにも弄られるし。


「いやあ、塩先生は学校一のイケメン先生ですからね!!」


事実だけど、何となく鼻につく言い方。


「ほら、『俺も俺も!』って」


お粥さんを肘でつつく。


「嫌だよぉ、馬鹿げてるじゃん」


「ただのジョークですよ」


次に三位、四位の答え合わせをしている間に、みかちゃんの様子が少し変になった。ふらついてて、やば、倒れる!!咄嗟に駆け寄って支えて、はあ、一安心。この期に及んでも可愛いみかちゃんの傍にいられて嬉しいという感情が芽生える。


「馨、?」


「お姫様抱っこでもしましょうか?」


と若干本気の冗談を言いながら、二位の人をつい睨んでしまった。貴方がみかちゃんを連れ出し、、いや、そんなことよりまずはみかちゃんの健康だ。


「良いよ、支えてくれるだけで」


彼の腕を肩に回して、そそくさと救護テントに連れて行く。軽い熱中症だと言われた。みかちゃん、体調がベースで良くない。咳もさっきからずっと止まらないし、酸素を入れて頭を冷やして、色々と手を尽くそうとした。そうしてないと僕が不安で、


「砂糖くん、ありがとうね。もう大丈夫だから」


と歩夢ちゃんに言われるけど、僕はまだここにいてたいし、心配で心配で気が気でない。泣きそう。


「あっ、それじゃあ、僕は、」


用済み。彼の苦しい時にそばにいてあげられないことがどれほど僕の心を苦しめるか。その資格を持ち合わせない僕は重い足を引きずって、


「砂糖、一位、おめでとう」


みかちゃんがつらそうに横たわりながら嗄れた声で、そんなことを言ってくれた。


「え、ああ、そんなこといいんですよ。横になって薬飲んで塩分摂って、安静にしといてください」


お母さん?って歩夢ちゃんにこの心配性を笑われた。愛せば愛すほど心配になるのはきっと遺伝だろう。


「良くないよ。最後まで、立たせてあげられなくて、ごめん」


あ、みかちゃん、僕の必死の形相見てたな、恥ず。


「大丈夫です、僕は何度だって一番になれますから」


みかちゃんの手を取って、おもむろに撫でた。何もかもが愛おしい。絶対につらいはずなのに僕に気を遣う優しさが、その甘さが僕は好きだ。


「お、言ったな?砂糖 馨。それじゃあ、この後の競技は全部お前に一位独占してもらおっかな?」


「碧先生、いやいや、他の生徒の見せ場を僕が奪っちゃあ、悪いじゃないですかあ」


「あはっ、機転の利く奴!」


「まじムカつくよね〜っ!!俺のこと走らせやがって!!」


やば、お粥さんまで出てきた。「生徒にそう言うこと言うな」って碧先生から怒られてる。笑う。


「二人とも、馨の頭の良さに、嫉妬してるんですか?」


みかちゃん、何自慢げに話してるの?可愛いけどさあ


「「してない!!」」



借り物競争も女子のレーンになってきた。応援席でいつも通りに暇を潰していると、


「単語帳っ、持ってませんか〜??」


という女の子の声。あ、桃ちゃん。


「ほら、お砂糖ちゃん」「馨」


ザキと飴ちゃんに急かされる。三年生の応援席にあると踏んで来るの頭いいなあ。


「頑張って」


と手を伸ばして、持ってた単語帳を渡すと、


「ありがとうございます!!」


なんて律儀に深々とお辞儀するから、「ダッシュ」って口パクしながらゴールを指差しした。あっ!、って思い出したように走り出すのに何だかんだ癒された。


「馨ちゃんだけだよぉ、こんな時にまでそんなの持ってんのぉ」


「嘘、ザキは?」


「持ってない」


「え?受験生だよね?」


「「怖い怖い怖い怖い」」


めっちゃ怯えられるんだが。


「お題は、なんと単語帳!?誰から借りたんですか?」


「三年生の先輩から……」


「おお、この学校にもそんな勤勉な生徒がいるんですね〜」


放送部員のコメントに教師陣がザワつく。「うちの生徒はみんな真面目だ」とか「勉強熱心だ」とか。


「馨ちゃん、勤勉な生徒だってさあ」


「良いよ、ガリ勉でも何でも言って」


「馨は国公立目指してんだよな」


「うん、学費にあんまお金かけたくないから」


「かっけえよな、ほんと」


「お砂糖ちゃん、まじかっけえ、まじ親孝行息子で好きぃ。息子にしたいわぁ」


「厄介だとは思うけどね」


お昼ご飯は適当に教室に戻って食べる。みかちゃん大丈夫かな?スマホを開いてメッセージを送った。せっかく作ったお弁当、一緒に食べたかったなあ。


「唐揚げ美味そお、食っていい?」


「どうぞ」


「ありがと、んうめぇ!!」


ザキに唐揚げと卵焼きを交換された。ザキん家の卵焼きは甘くて美味しいんだよね。


「元気になったよ、ありがとう」


返信、嬉しい。行儀悪くスマホを弄りながら、弁当をつつく。みかちゃんにたくさん言いたいことがあるけど、どれから言おうか迷うし入力が遅くて悩ましい。


「お砂糖ちゃーん、スマホばっか見ないでよぉ」


「あ、ごめんごめん」


「そう言えば、砂糖の借り物競争ウケたよなあ」ってクラスの男子が噂してる。ウケ狙ったんじゃね?って、まあ、お粥さんがいればどの状況でもウケそうだけど笑っちゃう。僕はただ一位だけを狙ってた、けど、その一位もなんだか、そこそこのものだった。


「考えてるの?」


「うーん、目立ちたがり屋って思われてんのかな?」


「馨は何しなくても目立つだろ」


「ザキぃ」


「たぶん、お粥さんのこと、傷付けた。悪いことした。はは、浮かれすぎたね」


罪悪感に飲み込まれていく。僕のせいで、僕が、傷をつけた。ごめんなさい。だから、お祭りごとは後の祭りで十分なんだ。


「そうじゃない、一人で罪悪感に溺れんなよ。馨は罪を買いかぶりすぎだ」


唐揚げを箸で持ち上げながらそんなこと言われても。


「よっ!唐揚げが似合う漢っ!!」


「何?罪を買いかぶりすぎ??」


「罪を一人で償おうとして、周囲を不快にさせるんじゃねえよ。加害者と被害者が成立してから罪を被れっての。今のままじゃ、馨が一生被害者面して生きることになるだけだぜ?」


「そうだね、とりあえず、謝ってくる」


「何であれで馨ちゃん通じるの??幼馴染、怖っ!!」


お粥さんって、粥川先生って言うべきだった。仲良しすぎじゃんね。

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