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第五十二話

「おはよ、マイダーリン♡」


と朝から愛想振りまいてみると、彼はムスッとした顔をして


「その呼び方やめてくれませんか?」


と照れ隠しのように言う。俺の恋人は男子高校生。ベッドから起きると、朝食を作り始める。所謂、スパダリなんじゃないかと疑っている二日目の朝である。

今日の朝食は焼きチョコトーストとヨーグルトに珈琲。「その珈琲、美味しいでしょ」と得意げに彼が微笑む。俺の好きな香り。朝、一杯の珈琲が精神を安定させる。


「俺の好みだね」


毎朝缶コーヒーを買っていたけれども、この朝食の時間があるならば、自販機前に立つ必要は無くなるな。

カラコン入れてスーツを着て、将来の自分に近付ける。黒髪だけど大丈夫だろうか?


「髪色は染めたことにしましょう。黒髪もお似合いです」


「こう見ると俺と馨くんはよく似ているね」


「黒髪だけですよ」


少しくせっ毛のある黒髪が俺のパーマをかけた黒髪と本当によく似ている。勿論、それ以外のところでも。


「飯田 銀、貝原 碧、胡麻 歩夢、粥川 麗……」


教員の集合写真を見ながら顔と名前を一致させるために暗記。この時の俺、表情が固い。


「学校でのみかちゃ、いえ、塩先生は冷淡でよく言えば博愛主義。人情味がない効率重視の仕事人間です」


「そんな教師を演じて楽しいのかな?」


「それは知りませんが、依怙贔屓はされません。恋人なのに」


特別扱いされないのが不服のようで、最後に少し唇を尖らしていた。


「へえ、恋人なのにね。じゃあ、俺が学校で誰かとベッタベタしてたらおかしいんだ」


「そうゆうことです。やめてくださいよ?将来の貴方のための忠告です」


邪な考えを見透かされているようで釘を刺された。確かに、将来の俺が戻った瞬間にパニックになりそうだ。それとも……



「お、塩 蜜柑。やっと復帰か」


……えっと、誰だっけなあ??


「ああ、この度はご迷惑おかけしました」


「喉は治ったみたいだな。症状酷かったんだって?」


「え、あ、まあ、それなりに……」


俺のデスクは、ここら辺なんだけど、


「黒髪にしたんだな。暇だったのか?」


「はは、声が出なかっただけなので」


ん?これか?このガラクタが置いてあるデスクが、俺の?


「あっ、みーちゃんじゃん!!」


「お粥さん、」


と言った瞬間に抱きしめられ、頭を押さえつけられて口を肩で塞がれる。


「ここでは粥川って呼んで。敬語はなしね」


小声で耳打ちされて、彼が極秘ミッションの共謀者思えて、胸が軽く踊った。


「粥川、何の用?」


そう馨くんに言ってたように冷淡に返すと、お粥さんが満面の笑みを浮かべて


「みーちゃんに会いたかったんだよおお」


と激しめにハンドシェイクされた。次いでに「今日は一日中ずっと俺と一緒にいようね何処にも行っちゃダメだよ」なんてメンヘラ彼氏のような台詞を吐かれた。


「粥川、お前、あの件は一段落ついたのか?」


また知らない人、誰だろ?


「あの件って?何のこと?知らなーい」


ってかなり大袈裟な身振り手振りで煽ってる。あの件、あの件、あ、ズル休み電話。


「お前なあ」


うんざりした表情を見せられて


「貴方には関係ないでしょ?行こ、みーちゃん」


その心配を切り捨てるかのように嘲笑い、俺の手を拾う。


「粥川 麗、授業放棄するな。させるな」


「貝原ぁ、何ぃ?聴こえなかったぁ」


隣にいる俺だって、よく聞こえてる。絶対に聞こえてるはずなのに、ねちっこく言って不気味に笑う。


「粥川 麗、塩 蜜柑を離してやれ」


「え、やだぁ」


「授業があるんだ。離せ」


近づいてはこない。ただ命令をするだけ。最終判断をお粥さんに任せているような、お粥さんの他人への配慮を信じているような、そんな感じがした。


「……みーちゃん、授業頑張ってね。応援してるから」


両手で手をしっかりと握られてから、離された。お粥さん、俺のこと心配してくれてる。お粥さんと馨くんしか事情を知らないから余計に。


「粥川も頑張って」


「うん」


手をヒラヒラさせて、職員室から出てった。不満を晴らしたかったのか、音を立ててドアを閉めてったけど。


「はあ、粥川 麗は優秀なのにもったいないよな」


貝原さん、俺の隣のデスクなんだ。


「あの人、優秀なんですか?」


「え?」


やば、お粥さんが優秀なことに対して初耳反応しちゃった。よし、優秀だと思ってないスタンスでいこう。


「何処が優秀だと思うんですか?参考程度に」


「まあ腐っても藝大出身だし、正直才能を見る目はあると思う。ただあの出立ちがその根拠消して無責任だと思わせる」


「へえ」


藝大出身なんだ、知らなかった。あっ、授業授業。失礼します、っと。


「いつもみたいに『貴方が粥川を褒めることがあるんですね』なんて口歪ませると思ったのに」



教壇に立つのが、こんなに怖いことだとは思わなかった。生徒達の期待とつまらなそうな目。俺がここから発する言葉、果たして彼らは聞いてくれるのだろうか。この学問の魅力を彼らに説くことができるのだろうか。不安でいっぱいで、顔をあげるのが怖い。将来の俺が用意してくれていた授業教材。俺の工夫を凝らした逸品なのがだだ漏れだ。頑張れ頑張れ頑張れ、これが俺の夢への第一歩。憧れへの道。


「こんにちは、塩 蜜柑です。はじめまして」


「あはは、塩ちゃん何言ってんの?」「お休みだったからって私達のこと忘れないでよぉ」と生徒達が次々に話してざわめき立つ。


「冗談です。さて、授業を始めましょう」


自分の憧れの真似をして話している途中、眠っている生徒が目に入った。将来の俺はどうするだろうか。放っておくだろうか?注意するだろうか?……ごめんなさい、私の伝え方が魅力的でなかったのですね。


「生物は所詮、暗記科目です。このような授業を受けなくても、教科書を暗記さえしてしまえば解けることでしょう。だからと言って、私は授業放棄は致しませんし、授業中に睡眠を取ることもあまり許容できません」


「塩ちゃん、キレた??」「やば」「寝てる奴起こして」ああ、そのざわめきさえも苛立つ原因となってくる。怒りが募る。


「いえいえ、お疲れなんでしょう。どうぞ寝かしといてください。ですが私が教師を目指した理由の一つとして、ここのような教壇の上で、恩師が見せてくれる世界に時間に言葉に、魅了されたというのがあります。人生は流動的です。流れ着いた先で後悔はしないようにしてくださいね」


穏やかな表情だけは守って、荒んだ心が船酔いの苦しさで吐いている。憧れがまた遠くに見える。一歩、踏み込んだはずなのに、前よりもずっと遠くに感じてしまった。



「ねえねえ、お砂糖ちゃーん、暑ないの?」


まだ六月なのに太陽がジリついていて、地面に残った水溜まりを蒸発させている。


「暑いよ、蒸し暑い」


と言いながら長袖シャツの腕まくりさえしないんだからね。不思議だよね。


「右腕だけまくったげるぅ」


陽気に右腕のシャツをクルクルする飴ちゃん


「ふふっ、左腕もやってあげて」


「……良いの?」


目を丸くした。


「んー、不愉快にさせないかだけが心配だけどね」


「全然、不愉快じゃないよ」


僕の左腕のシャツもクルクルして、傷でボコボコしてるところを撫でられた。


「あはっ、くすぐったい」


「ザキには?」


「言ってない」


「言える?」


優しい瞳で問いかけてくる。


「ふふ、言えない」


「そっか」


と言って、それ以上は踏み込まない。それが飴ちゃんだ。僕の言わない権利を尊重している。何でも言える友人じゃなくていい、傍にいて安心する友人がいい。そしたらふと言える日が来るだろうから。


「馨、助けてくれ。さっきの全くわかんなかった。今度の中間で俺死ぬかも」


と教科書と問題集とぐちゃぐちゃでこんがらがった数式が書かれたノートを僕の机に持ってきた。


「ったく、ザキはお砂糖ちゃんに甘えてばっかで」


「良いよ。ザキに教えるのは得意だからね」


「馨まじで助かる!今日の昼奢るな!」


休み時間はザキに勉強を教えて終わる。また次の休み時間も昼休みも討論が続く。疑問の渦の中にいるザキ、その渦を解剖するのが僕の仕事。その解剖結果からザキが渦の弱点を突いて打開していく。それが僕の快感。


「ザキ、自力で解けたじゃん!!」


「うわあ、まじ馨のおかげだわ!!すげー!!すげーっ、解けた!!」


そうやって、いつもそう、その純粋に喜ぶ顔が僕は見たいんだ。


「あははっ、おつかれちゃーん。はい、労いモンスターあげるぅ」


飴ちゃんからモンスターの缶を貰った。


「ありがと」


とプシュっと缶を開けてグイッと一飲み。はあ、幸福感が炭酸のように舌先で弾けている。


「ザキも飲む?僕の飲みかけだけど」


「そんなん気にしねぇよ、ありがと」


とザキが飲んでいる時に横から飴ちゃんが


「間接キッスだけどぉ?」


とザキのことを囃し立てる。吹き出しそうになって、ザキの顔が赤くなる。


「ああっ、危な!回し飲みなんて、しょっちゅうやってるっての!」


飴ちゃんに堂々と主張する。ことでもないようなことだけど。


「でも最近やってなかったね」


「おいおい、馨まで……」


「悪ノリが酷い?でも僕のファーストキスはザキだよ」


「え」「え?」


二人が顔を見合わせて


「「まじ!?」」


困惑を露わにして問い詰めてきそうな勢いだ。可愛い、あたふたしてる。


「こんなこと冗談でも言わないからね」


それを僕は優雅にモンスターを飲みながら鑑賞した。


「え?だだだってザキ、覚えてないの?」


「おおお俺、キス、とかしたことないし……」


「まあ、ただの接触事故、かもしれないけど」


小学生の頃、二人でバスケをやっていた時。僕がオフェンスでザキがディフェンス。僕は下手くそでドリブルもできなくて、ただ突っ走ってザキを抜かそうとしてもボールを足にぶつける始末だった。そしてその時はドリブルに意識を集中してて、近くにいるザキに気付かずに思いっきりぶつかって、ザキが床に倒れ込んだ。後頭部を強打したみたいだった。コンクリートの床だ。僕は意識が飛んでるザキを見てあたふたしてしまって、訳も分からず人工呼吸で生き返らせようとしたんだ。


「……接触事故……接触事故(?)」


頭をひねらせて思い出そうとしているザキが面白かった。だって、覚えているわけないんだもん。意識飛ばして倒れてたんだから。


「馨ちゃん、彼女とうまくいってないの?」


飴ちゃんは早くも鋭く僕の意図に切り込んでくる。耳打ちでこしょこしょっと言われた。


「まじで、嘘じゃないよ。本当の話」


そんなことを言うとますます胡散臭さが増してくる。でも本当だから、それしか言えない。


「あれか?お互いに顔ゴツンした時、唇切れてた」


「いつ?」


「中学ん時、部活の練習で1対1やってて」


「ああ、よくやってたね」


「疲れ果ててプレーがお互いに雑になってさ」


「本当、必死だった。ああ、懐かしい」


ファールだろって、服引っ張ったり横から手出したり色々やって喧嘩し合ってた。ふと、笑みがこぼれる。


「またバスケやんない?」


「んー、今は負けるから嫌だ」


「あははっ、お砂糖ちゃんは勝てる勝負しない主義ぃ?」


「勝負ってのは、そうゆうもんでしょ?」


飴ちゃんに虚勢張って強がってみせた。負けてなかったら、こんな劣等感を抱いているわけがない。


「勝負じゃなくて普通に遊びでだよ!みんなで楽しめるようなの!」


ザキが突っ込むように訂正を入れる。まあ、そうだろうとは思うけど、断る理由をまたさがさなきゃだ。


「良いじゃん、やろーよ馨ちゃん。勉強の気分転換に!」


「ふふっ、わかったよやるよ」


と答えると手を繋がれてルンルンと左右に振られる。みかちゃんは、大丈夫、だといいけど。



「塩 蜜柑、残業か?」


「……あ、はい」


本に集中していて何て言っていたのか聞きそびれるところだった。残業とは少し違って勉強みたいなものだが。


「その大量の本は何だ?」


「これは生物学から教育学、心理学まで色々と授業の参考にしたくて」


「そうか、初心に帰るとは良い心掛けだな」


あはは、と笑うことしかできない。初心に帰るってか、初心者に戻っただけだけど。


「貝原先生は?資料作りですか?」


「え?、ああ、まあそうだが……」


なんか煮え切らない返答。まあどうでもいいが。


「お疲れ様です」


「……おちょくってんのか?」


「え?おちょくってなんかいませんよ」


突然ぶつけられた疑問に吃驚して、少し吹き出して笑ってしまった。


「笑ってんじゃん」


「いや、ふふ違いますよ」


指摘されると笑いのドツボにハマっていって、否定したいのに肯定するような笑顔を見せてしまう。


「じゃあ、俺の名前は?」


「え?……呼んで欲しいんですか?この私に」


正直に言うと、苗字だけ覚えればいけると思って名前までは暗記できていなかった。だから、貝原さんが言うように今度は意図しておちょくってみた。


「ああいや、もういい!」


そう投げやりな言葉を放ってから彼はパソコンに向き合う。ちょっとだけ賭けるか。


「碧先生、いつもはそう呼んでますよね」


「……ああ」


はあ、良かったああああ。名札をちらっと確認したのだ。変なあだ名とかつけてなくて良かった。


「今日は初心に帰ろうキャンペーン中なんですよ、私限定で。だから、決しておちょくってなんかいません」


「そんなキャンペーンをするなら先に言え」


へえ、突っ込む場所そこなんだ。その変なキャンペーンはなんだとか普通なら言ってきそうなのに。


「サプライズ決行はダメなんですね」


「ダメだダメ、心臓に悪い。本当、俺のこと、忘れたのかと思った……」


ああ、何だこの顔。この仕草。つらかったをこちらまで体感させられるような感覚。それと同時に安堵で口からポロッと出た、俺を突き刺した言葉が俺の焦りへと変わる。


「それじゃあ、次のキャンペーンは心労の多い先輩のために、ストレスフリーで長生きしようキャンペーンですね」


「内容は?」


「そうですね、居酒屋でパーッと」


「健康に悪くないか?それ」


口角が上がったそれだけで緩和される緊張。将来の自分なんてどうでもいい、ここだけでも凌げればそれで良い。



「失礼しまーす、教室の鍵返しにきましたぁ」


夜の十九時、校内は暗闇に包まれているが、職員室は蛍光灯の明かりで眩しいくらいだった。ドアの隙間から中を覗いた。みかちゃん、まだ仕事してる。……楽しいの、かな?

教室に残って三人で自習して、教室の鍵を置いてくるついでに飴ちゃんが体育館の鍵を盗んでくる計画実行中。


「Gotcha! It worked!!」


飴ちゃんが鍵を何気ない素振りで取っても誰も気づかない。それを見てザキが拳を握りしめて小声でそんなことを言った。


「ザキ、洋画かぶれやめて。笑っちゃう」


「スパイミッションみたいでワクワクすんじゃん」


このミッションで最も奔走しているのは飴ちゃんだけど、見てるだけでも緊張する。とゆーか、ただ鍵を盗むだけでこんなにワクワクする僕達って何だか愉快だよね。


「飴 霰、お前一人か?」


碧先生!?まあ、担任だし声ぐらいかけるか。頑張れ、飴ちゃん。


「え!?えーっとぉ、ここにいるのは俺一人ってことで、良いんですかぁ?」


おそらくパニクって質問の意図が伝わってない。僕達には強がって見せてたけど、だいぶ緊張してたんだな。誤魔化すようにヘラヘラ笑っちゃってるし。不審がられるかな?


「あー、いや、その……」


「飴ちゃん、何してんの?早く帰ろうよ」


ドア付近で飴ちゃんを呼んで急かした。要は一人で帰るのは危ないってことでしょ?僕達がいるって見せれば解決するじゃん?


「あはは、それじゃ」


「お、おう、気をつけて帰れよ」


「はぁい、失礼しましたぁ」


ドアを閉めた瞬間、緊張が解けて、三人ともため息をついた。鍵は無事に手に入れた。最後、飴ちゃんを呼んだ時、みかちゃんと目が合った。僕の声に反応したかのように振り返った。


「まじで焦ったあ、馨ちゃんがいなかったらやばかったわあ」


「霰、柄にもなく変な受け応えしてたよな」


「ザキが俺を弄るなあ」


「……じゃあ、遊ぼっか」


ガラガラと建付けが少し悪い重たいドアを開ける。シンとした体育館。多少ホコリっぽいのは、テスト期間で部活中止のため。全ての電気をつけて、体育館の半分も使わないのに、贅沢を満喫した。バスケットボールを弾ませると、その振動と音が体育館中に響き渡る。心臓の鼓動のようなそれにメトロノームと似たものを感じた。


「じゃあ、誰が一番先にフリースロー決められるか勝負ね。あ、ザキはバスケ部だからスリーで」


「馨だってスリー打てんだろ」


「僕は帰宅部のか弱い男子高校生だよ?」


とぶりっ子ポーズをすると


「ぷふっ、ふざけんなあ」


と貶されながらもバカ笑いされた。でもフリースロー権を獲得した。


「お砂糖ちゃん、フォームだけは綺麗だよぉ」


「あははっ、まじで笑わせないで」


三人で代わる代わるシュートをするが誰も入んない入んない。惜しいのばっか。


「ねえ、罰ゲーム決めない?」


流れ作業のようにシュートをしては刺激がないので飴ちゃんが良い提案をしてくれた。


「賛成」


「はあ?俺が一番不利じゃん」


「じゃあ、ザキが内容決めたら?」


「おお、めっちゃ良いじゃん!公平で」


「んーーー、一発芸?」


頭をひねらせたザキが絞り出したのが、一発芸。笑ってまた方向がズレた。


「えー、つまんなーい」


「お前、さっきまでめっちゃ良いって言ってただろ」


「いや何かぁ、もっと際どい奴にしてよぉ」


「エロいの?」


際どい=エロいに繋がるのは本当、男子高校生やってると思う。笑ってまた力が抜けた。


「あは、男だけでエロい罰ゲームって何?」


「まあまあお砂糖ちゃん、ザキがそうしたいって言うんだからさあ」


って飴ちゃんが僕の肩を持った。おそらくこの状況を楽しんでいる。


「言ってねえって聞いただけだし」


ザキが不服そうだ。まあこれも一興。


「ふふっ、良いよ。次で絶対に入れるから」


「お、馨ちゃん、強気だねえ」


ドリブルしてリズムを整えてボールを放る。それは綺麗な放物線を描いて、リングに当たりもせずネットに吸い込まれるよう落ちた。


「やば」


「こっわ、有言実行しやがった」


「おいおい、マジかよ馨ぅ」


「そーだよぉ、馨ちゃんがいないと面白くないじゃん!!」


「あはは、僕はできる男なんで」


と上機嫌でピースサインを堂々と見せつけた。二人の落胆する顔が僕には面白かった。


「俺とザキでやってもぉ、正直面白くなくなーい?馨ちゃんのえちえち姿を拝みたかったんだからぁ、でしょ?」


「おま、そんなこと考えてたのか?」


「ここで裏切んなよぉ、ザキぃ」


二人がフリースローラインに立って話し合ってる。このままこの勝負を続行するか、いや、中止するための言い訳を考えているんだろう。


「僕は見てみたいよ、二人が辱めを受ける姿を」


「どーすんの!?ザキ!!馨ちゃんがまじサイコだよおおお」


「俺に言われたって、今更どうにもなんないだろ?!!」


「腹括りな、罰ゲームなんだから。まあどちらか一人はまだ生き残れるけど」


「あ、そっかあ、ザキどいて」


「おい待て待て待て」


がむしゃらにフリースローとスリーポイントを打ちまくる二人。数打ちゃ当たるだろうけど、焦りは禁物だよね。あ、飴ちゃんのが先に気付いた?深呼吸してからボールを放つ。


「よっしゃあああああ!!!」


飴ちゃんのボールとザキのボールが続けざまに入った。けど飴ちゃんのが先だ。めっちゃ飛び跳ねて喜んでる。


「いや、今のは、ここからの距離が……」


フリースローとスリーポイントではゴールからの距離が違く、シュートするタイミングが早くても負けるとか何とか。


「男に二言はないよ。ザキ、罰ゲーム」


と両肩を掴むと身震いされた。


「ねーねー、お砂糖ちゃーん!罰ゲームはぁ、何にするぅ?」


特上機嫌の飴ちゃんは僕の肩に肘を置いて、僕の左手で遊びながら、ニコニコで質問してくる。


「そうだなあ」


ガラガラガラッ!!


「お前ら!こんな時間まで何やってんだ!!」


「げっ、碧ちゃん」


飴ちゃんのテンションがやや下がる。


「青春ですけど、何か?」


僕が何食わぬ顔で言ってみると、


「はあ、寄りにもよってお前達かよ」


体育館に明かりがついていたから叱りに来たのだろう。僕達の顔を見られると碧先生は頭を抱えた。


「早く帰った方が良いですよ。親御さんが心配しているだろうから」


その背後には僕達のことなど興味無さそうなみかちゃんがそんな助言をした。


「はーい」


素直に返事してボールを拾って、ボールカゴへと小走りで戻しに行った。


「ザキの罰ゲームはどうするぅ?」


「また明日」


「決定事項なのかよ……」


グダグダ言いながらだけど、テキパキと動いて帰り支度をした。そして鞄を背負って、三人並んで先生の方へ向き直ると


「お前ら、何でこんなことをした」


と叱られた。何でって、やりたかったから?お互いに顔を見合わせて、何でだろうねと思ってんだろうなと思った。


「碧先生、説教は明日にして今日は帰らせた方が良くないですか?時間も遅いですし」


「塩 蜜柑、お前はそうやっていつも叱らないで問題をそのまま放置して」


「私は明日って言ったんです。ちゃんと覚えていれば叱れるでしょう?」


みかちゃん、若干キレてる?口調が強い。まあ、とばっちりみたいなものだからかな?


「……わかった。それじゃあ、明日までに反省の意を文章にして纏めてくるように」


「うわっ、めんど!!」


飴ちゃん、声に出てる声に出てる。


「分かりました」


それで許してくれそうにないけど。今日のところは解放されそうだ。


「君、主犯格でしょ?ちょっと来て。後の二人は帰っていいよ」


……え?みかちゃんが帰してくれないの?僕を指さして手招きするみかちゃん。


「塩先生、馨は悪くないです。俺がやろうって誘ったんです」


とザキが僕のことを弁護すると、みかちゃんが苦い顔をした。あ、これ、説教じゃなくて別の用事かも。


「あっそ。別に誰でも良いんだけどさ、体育館の鍵返しに行ってくんないかな?責任取って」


はい、思い上がった僕恥ずかしい。職員室に鍵返すだけじゃん。


「良いよザキ、僕が行ってくる。電車の時間あるでしょ?」


「あ、ああ、悪ぃな」

「お砂糖ちゃん、よろぴくぅ」


「うん、また明日ね」


手を振って二人が遠くへと歩いていく。


「暗いから気をつけて帰れよ」


そういう碧ちゃんのが今の塩先生よりも優しい気がした。


「では、私達も帰りましょうか」


「砂糖 馨は?」


「あー、君の家どこなの?」


わざとらしい。知ってるくせに。


「正門から少し歩いたところの住宅街です」


「あ、それなら私の家のすぐ側ですね」


わざとらしい。嘘ついた。


「俺は電車だから彼奴らについてってやれば良かった」


「じゃあ二人共、ダッシュしてください」


「「え?」」


「ほら早く」


と手を叩くみかちゃんに急かされて、僕は鍵を持って職員室にダッシュした。碧ちゃんは飴とザキを追いかけたのかな。蜻蛉返りするとそこにはみかちゃんしかいなかった。


「俺、演技上手かった?」


「はい、僕にはバレバレでしたけど」


「ふふっ、そっかあ。だから鍵ダッシュしてくれたんだね」


その柔らかい笑顔は、正しくみかちゃんだ。


「一緒に帰りたかったんですか?」


「いやまあ、そうなんだけど、家の場所がわかんなくて」


うわあ、恥ずかしいその二じゃん。目的が僕じゃなくて、目的地が目的だった。


「さあ、帰りましょうか」


と暗闇に歩き出すと後ろからついてきたみかちゃんが僕の手にちょんと触れる。手持ち無沙汰そうなその手を僕は捕らえて握りしめて、指を絡めた。


「恥ず……」


そっぽ向いたみかちゃんの耳が赤い。初対面の人とヤるよりもこうゆう恋人っぽいことをする方がみかちゃんにとっては恥ずかしいんだから可笑しい。


「初々しいリアクション、ありがとうございます」


「あのさ、これ俺のせい?」


絡めた手じゃなくて、その上を見つめてくる。その視線の先にあるのは僕の赤い線。


「いや、」


「違うの?」


「これは僕のせいですよ」


僕が自分で自分の腕を切りつけたから僕のせい。違くないでしょ?


「そうゆうことじゃなくて、心理的な原因のことを言ってんの」


ふざけるなを言わずとも言われた気にさせる。その真剣味に圧倒される。


「それもこれもみんな僕のせいです」


僕がみかちゃんのプライベートを蹴散らしたし、僕がみかちゃんの好みだって勝手に思い込んでいた。浮ついていた。


「そうなんだ、残念」


「何が?何が残念なんですか?」


「俺のせいで君が傷付けば良かった。そうじゃないから、残念」


淡々と話す姿はまだ塩が抜け切っていない。


「僕のこと傷付けたいんですか?」


「そうじゃないよ、昨日の話。俺のせいなら俺が罰せられて済むことだった」


「意味わかんないですよ」


「君のおかげで、俺は自分の弱さに気づいたんだ。君はそれを知っているのに、俺は君にそれを見られたくなくて認めたくなくて、傷付けた。だから俺のせいじゃん?」


「ふふっ、罰ゲームですね」


「何?」


「みかちゃん、エロい罰ゲームって何だと思いますか?」

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