第三十三話
あーあ、死にたい。
僕が生きてんのがいけないんだ。
全部全部全部全部、僕のせいだ。
不満も愚痴も飲み込んで、他人の気持ちを推し量り、誰も傷つけずに、人形のように笑ってろ。
「馨くんとはさ、一年生のときから同じクラスで席も近かったし、それに、飴がさあ、私達のグループと仲良いじゃん?それで、よく喋ったりもしてたし、その時から、一緒にいて楽しいなあって思ってて、でも馨くんって誰にでも優しいし、しかも格好良いし。完璧すぎて、私なんか相手にされないだろうなあって感じるところもあって、自信ないんだけど、馨くんとはさ、私的にたぶん、うまくいくと思うんだよね。私さ、連絡はして欲しいけど、デートとかはそんなにしないでも大丈夫だし、何か一緒にいられれば良いかな?って感じで。束縛もしないし、まあ、もちろん嫉妬はするけど。馨くんは浮気しないで一途で愛してくれそうだし、私の自慢の彼氏になると思うんだ。けど、馨くんはさ、ちょっと完璧主義者っぽいし、勉強も一生懸命でしょ?だから、ストレスもかなりかかると思うからさ、私はそんな馨くんのことを頑張って支えたいんだよね。だからさ……」
結論はこの長ったらしい告白が始まる前から決まっている。放課後の教室で帰りたいのに帰れずにいる。君は僕の何を知っているの?
「馨くんのことが、好きなの」
「ごめん……あ、いや……その、ごめん」
一回目は断わりの、二回目は断わり方の。
「即答って。あーあ、何か馬鹿みたい」
泣かれてしまった。帰りたい気持ちが強すぎた。
「ごめん、君を傷つけるつもりはなかったんだ」
自分のミスを挽回しようと僕は必死だ。
「何それ、振っといておいてそれは無いじゃん」
とそこら辺に置いてあった教科書を投げられた。逆効果だった。
「ああ、確かにそうだけど」
さっきの反省を踏まえて、頭の中でこの危機的状況の解決策を探っては、脳内シュミレーションをする。何も出てこない。
「私の何が悪いの?何がいけないの?」
そうやって泣いて僕を困らせるところ、とか?
「あー、君はもちろん魅力的な人だとは思うよ」
当たり障りのない慰めの言葉をかけようと努める。
「嘘言わないでよ。どーせ、私よりも可愛い子の方が好きなんでしょ?やっぱ男は顔なんだ」
ああ、生憎、否定できない。
みかちゃんよりも顔が整った人を産まれてから見たことがないから。
「んー、まあ、」
「はあ?最っ低、私のことブスだと思ってんの?」
話している途中で食い気味にキレられる。
「あっ、いや、そんなことは思ってないから」
言葉を発すれば発するほど状況が悪化していく気がする。
「嘘つき、思ってるくせに」
「思ってないって」
最悪、めんどくさ
「それなら、何?何で私とは付き合えないの?やっぱブスだから?」
「それは、まあ、顔が綺麗に越したことはないけど、それ以上に、お互いを理解し合える相手が良いと思うんだ、だから」
「最悪、つまんない綺麗事ばっか。そんなの、付き合ってみないとわかんないじゃん。私は馨くんのことをもっと知りたいと思って告白してんのに、馨くんは私のことなんかことさら興味ないんだもん。破綻してるよ」
彼女の言い分の方が筋が通っている。対比して、僕の言葉には厚みがない。
「……わかった、もう嘘をつくのはやめる。僕には恋人がいるんだ、だから君は愛せない」
「何それ、初耳なんだけど」
「ザキと霰にしか言ってないから」
「ああ、最悪。最初から無理なんじゃん」
「ごめん」
「無理なら無理って始めから言ってくれればいいのに」
「ごめん」
「変に期待させないでよね」
「ごめん」
「まじで嫌だ。それに、何で恋人のこと隠してんの?インスタぐらい載せればいいじゃん。そしたら、こんなうざったい告白も聞かされなくて済んだのに」
「……あまり知られたくないから」
「何で?」
「言えない」
「私は告白までしたんだよ?教えてくれたって良いじゃん」
「そうだよね、でもごめん。僕の恋人に迷惑はかけたくなくて」
「え、それってどういう意味?私が馨くんに振られた腹いせに馨くんの恋人を傷つけるとでも思ってんの?」
と半笑いで責められる。僕はもう何を言ってもダメなようだ。
「そういうことじゃなくて」
「じゃあ、どういうことよ」
「僕の恋人は、」
君もよく知っている美しすぎる生物教師だと喉まで出かかっている。しかし、こんな噂が校内で広まってしまったら、僕はみかちゃんの立場を奪うかもしれない。それだけは何としてでも避けたい。
「あー、顔が綺麗すぎるから(?)」
苦笑いで誤魔化せる範囲でないことはわかっている。けど、もうこうした方が楽だ。
「は?」
「僕がかなりの面食いだって君にバレちゃうなあ、なんて。本当は、保身のことしか頭になくてさ。はは、嘘は良くないね」
「うっわ、そんな人だとは思わなかった。最悪、好きにならなければよかった。まじで馬鹿じゃん、私」
机が蹴られてバタンっと大きな音を立てて倒れる。鞄を手にして、目からは涙が流れている。
「君は僕の何処を見て、好きになってくれたの?」
「死ね、クズ野郎」
と言い放たれて、勢いよく教室から出ていかれた。教室に一人残される。
「ああ、死んどく」
彼女の言葉が胸に刺さったまま抜けない。死ぬべきだよな、僕は。
言葉の中に、皮肉を込めて、相手を傷つけるのは、僕の得意技だ。意図せずとも傷つけてしまうこともある。迷惑極まりない最低のクズ野郎である。
帰り道、グラウンドではサッカー部が練習している。練習中にも関わらず、飴ちゃんが駆け寄ってきて、僕を慰めてくれる。彼女が飴ちゃんに僕のことを愚痴ったんだろう。僕のためにこんなことをさせる羽目になってしまったことをお詫び申し上げるとともに死をもって償いたいと思う。
「お砂糖ちゃん、今日は災難続きじゃない?」
「飴ちゃんも、僕のせいで色々とごめん」
「良いの、野次馬は楽しいから。帰ったら愛しの恋人ちゃんによーく慰めてもらうんだよ?それで、また明日。会おうね、元気でも元気じゃなくても」
「ん、ありがとう」
こんなにも心が綺麗な人に会うと、世界はまだまだ綺麗に感じる。そして、僕の未熟さをますます感じる。
斯くして、現在に至った。この物語をみかちゃんはチョコレートフレーバーの真っ黒なタバコを吸いながら笑って聴く。その笑顔にはタバコの格好良さが加わっていて、盗っ人に心を奪われる感じがした。
「煙草が格好良く見えるの、貴方が初めてです」
ベランダで夜空を見上げ煙草を吹かす恋人を隣りに照れながらも想いを伝える。寒さは感じない。代わりに、澄んだ空気の中で甘い香りに包まれる。
「ふふっ、馨は煙草嫌いじゃないっけ?」
「嫌いですよ」
と言うと、みかちゃんは煙をまた吸って、ため息とともに吐いた。僕がキスした後に上書きされている気分だ。けれど、そんな気持ちを乗せて、少しの哀愁漂う甘い写真を撮った。
「投稿しなくていいの?」
やはりその笑顔は罪深い。僕の苦労も知らないみたいに。
「貴方のために"死ね"って言われたクズ野郎の気持ちも考えてください」
地面を見下ろしても、石ころが転がっているだけ。僕もこんな石ころみたいな存在になりたい。あってもなくても良くて、他との違いも分からないけれども。ここに存在している石ころには"死ね"なんて誰も言われないだろうから。
「ごめんね、ただ俺の社会的立場が死んだ方がまだマシだったって思ったの」
「何てこと言うんですか」
「そしたら、余生は家で遊び放題じゃん」
「はあ、悲しいくらい楽観的ですね」
「本当、現実を知らない馬鹿みたいでしょ?でも馨が生きているからそう考えられるんだよ」
酔っているみたいに気持ち良く話しているみかちゃんは前しか向いていないみたいで、憧れる。置いていかれてしまいそうなほど。
「……僕は学校に行きますけど?」
と意地悪すると
「あー、俺は本当に現実を知らない馬鹿だな」
と小声で呟いては目を逸らして恥ずかしがっている。
「可愛らしくて良いじゃないですか。僕も貴方といるこの瞬間だけは孤独を忘れていられます」
「孤独を忘れるまで、ずっと俺のこと考えてたら?」
「数三が解けなくなります」
「ははは、俺は唇に指が触れる度に君のことを考えているのに」
みかちゃんが考え事をするときの癖みたいなものだと思っていた。真剣な表情をしているから、そんなことを考えているとは思ってもみなかった。
「僕でどんなことを考えているんですか?」
「んー、想像に任せるよ。口にするのは気が引ける」
とニヤついて煙草を吸うときにも唇に指が触れている。
「じゃあ、唇に唇が触れるときは?何を考えてますか?」
自分の唇を指で触れて、指し示すと同時にその感触を確かめながら煽る。みかちゃんの唇のが柔らかい。
「そりゃあ、まあ」
と返答を考えながら、みかちゃんは煙草の火を消した。
「もっとやばいこと?」
僕が揶揄って笑うと、恍惚にも似た優しい表情、口調で
「ううん、愛してる」
と面と向かって言われた。錘のようにその言葉が僕の心を沈めて深くに響いて、笑えなくなった。
「……僕もです、愛してます」
その頬に手を置いて、キスをする。甘い香りが僕を誘って、依存症へと導いてゆく。脳内が壊されて乗っ取られて、
もう君なしでは生きていけない。
「君が生きているだけでこの世界は見蕩れるほど美しくなる」
モノクロ写真が色鮮やかに蘇る。虚構しか描けない、息が詰まりそうな場所で、とうに色褪せて原色が見えなくなってしまった僕に、君は色彩というものを教えてくれた。太陽の光が気持ち良いのも、自然の香りが心地良いのも、触れ合ったら温かいのも、全部君が教えてくれた。僕の幸せだ。
「お粥、教師って生徒に何を教えれば良いんだろうね?」
また煙草を吸いにきた、俺の親友。
「みーちゃんならあ、"依存症の恐怖"とか?」
「ふふっ、お前は?」
ぴったり当てはまりすぎて、本人も笑ってる。煙草を吸いながら。
「俺はあ、"ファッションを学ぶ"なんてどお?」
手でタイトルを空間に出すようなジェスチャーをして強調する。
「雑誌の見出しみたい」
とまた笑った。
「モデルはみーちゃん、虚ろな目をして遠くを見つめて教室内を歩くの」
「あはは、でもモデルはお粥が良いな」
「何で?」
「高身長でスタイルも良くて綺麗で、何よりも格好良いから」
みーちゃんが微笑んで、俺のことを褒めてくれてる。こんなこと滅多になさすぎて
「みーちゃん、死ぬの?」
と口が滑ってしまった。冗談。
「え?何で?」
まだ微笑んだまま。優しい表情。
「ごめん、あまりにも綺麗すぎるから天使と見間違えちゃった」
夕焼け空の暖かい光が窓から入り込んで、みーちゃんの白い肌を赤く照らしている。
「天使は煙草なんて吸わないよ」
なんて分かりきったように、目を細める。
「俺は好きだけどなあ、天使が煙草吸ってたら」
「そんなこと言われても、俺は翼が真っ黒な悪魔にしかなれないよ。元から、肺が真っ黒だから。ついでに、腹も」
「あはは、笑える。ところでさあ、黒い翼の天使と白い翼の悪魔の話、知ってる?」
「ううん、知らない」
「なんかね、神様の国には天使界と悪魔界てゆーのがあって、その境界線には大きな門があるんだけど、そこではずっと門番が見張りをしているらしいの。で、門番は機械のようにいつもこう言うんだ。"悪魔の方はこの先は許可がないとお通しできません"って。天使と悪魔の区別を翼の色でしている門番に、うんざりした表情でいつもその黒い翼の天使は自分の頭上にある輪っかを見せるらしい。すると、門番は慌ててすぐに門を開くんだけど、向こう側にはいつも白い翼の悪魔がいて"ああ、会いたかったあ"と天使の顔を見るなり人懐っこく抱きつくんだ。"コイツが全然通してくれなくてさあ"って愚痴を言いながら。天使の方はというとそれを嫌がるフリを見せながら心の中ではそれを望んでいるところもあって、そんな感じで二人は性格も趣向も正反対な天使と悪魔だけど奇跡的に仲良くなったんだ。それから、二人は対立を深める面倒で邪魔なその門を破壊しようと結託して、天使は悪魔界に悪魔は天使界にと入り込むんだけど、その上の権力者同士がどうにもいがみ合ってて苦境に陥り悩みに悩んだ」
「それで?」
「ここからが俺のめっちゃ好きなところで。なんと、その天使と悪魔はお互いの翼を削ぎ落とすんだよ。しかも、自己再生能力があるから何度も何度も苦痛に耐えて訴えかけた。その結果、門は破壊されて天使と悪魔の歴史的な大戦争が起きた。もちろん、その元凶となった二人もこんなはずじゃなかったと大喧嘩して、嫌いあって恨みあって憎みあって、それでも愛しあってて、最終的にはお互いにお互いを殺しあって死んじゃうんだ。そんな激しい戦争を経て、今は生き残った少人数の天使と悪魔が少し離れたところに暮らしているという。だから、天使と悪魔には翼はもうないらしいよ」
「へえ、よく知ってるねそんな話」
「結構有名じゃない?どうしたあ、元オカルト研究部う」
「部活動なんてほとんどあってないようなものだったから。魔法陣のお絵描きか、クソ長い神話を読むか、墓地散策という肝試しとか」
「えー、楽しそうで羨ましいわあ」
「まあ」
「でもさあ、天使が白で悪魔が黒って誰が決めたんだろうね?」
「さあ、人間じゃない?」
「だとしても、天使だって結局は悪魔になるって示唆なのかな?」
「白を塗りたくったら黒になるからね、誘惑に負けた堕天使がその例」
「でも、何色も入り交じった黒は高貴なイメージがある感じ」
「子供は白で純粋でピュアで、大人は黒で混沌でカオスだと思わない?どっちが良いとかの話じゃなくて」
「うん、人生はシーソーゲームだから、子供が羨ましいけど、俺はそれでも大人でありたいって願ってる。かなり矛盾してるよ」
「俺は歳をとるにつれて、生きやすくなったからなあ。初めから真っ黒だったから、もう過去には戻りたくない」
「うわっ、なにそれ育てたい!!!」
「はあ?」
半笑いと煙草はよく似合う。
「めっちゃ嫌味とか皮肉とか言ってる子供のみーちゃん、想像しただけでも可愛すぎて、ああ、育てたいわあ」
「お粥が親だったら、もっとグレて……いや、一緒にいられるのならそれなりに、楽しいかな?」
と煙草の火を消した。
「やっぱ、大好き」
煙草の匂いがまだ消えていないみーちゃんを抱きしめた。
「ありがとう」
「愛してる」
「こちらこそ」
そんな優しい言葉、信用できないから。そんな自分が憎いから。
「みーちゃん、俺は教師に人間と人間の繋がりを教えて欲しかった。俺のは、たぶん異常なんだって、気づいてるから」
「それがお前じゃない?気に病まなくてもって思うけど」
「あははっ、好きだわ」
楽しいから一緒にいる。みーちゃんとは、そんな関係だと思う。愛に飢えてて、気持ち悪い。それが俺だ。
けれど、最近は異常な治療法で普通になりかけてるから少し混乱している。今も不味い血液がこの身体の中を流れている、きもっ。
「疲れた、と感じる勉強は、勉強ではありません。勉強とは自身の知的好奇心を満たす行為であり、それに加え、成長の喜びを感じることができます。充実感のある勉強をしてください」
自分のことを先生と呼ぶ先生が説く勉強論。
「勉強に賢者タイムは無いのかよ」
後ろから聞こえてくるカチカチというシャーペンの音と重なって、荒れているお砂糖ちゃんの独り言。彼は机に突っ伏して授業放棄の意志を示しながら寝ている。
「それに、勉強が嫌だとかやりたくないとかそういう声を耳にしますが」
「何もかもやりたくない」
「将来のことも考えて」
「どーせ墓ん中だし」
「真面目に授業は受けてください」
「脳味噌、労働時間外なんだけど」
「ふふっ、ふ、ふふふっ」
顔を隠して、笑っているのを教師から隠した。馨ちゃんがものすごくやさぐれているのがおかしくておかしくて
「飴くん、何を笑っているんですか?」
「いや別に、ふふっ、何でもありません」
顔が真っ赤になるほど笑っているのに、あからさまな嘘をついた。考えると余計に笑えてくる。
「それにその後ろの砂糖くんも、その授業態度は何ですか?」
呆れたという表情に怒りの籠った口調。
「すいません、今日は朝からすごい体調が悪くて、保健室で寝てようとも思ったんですけど、受験までもうすぐですし、みんなに置いていかれるのが怖くて、授業には出ないといけないって思ってそれで……本当に申し訳ないです」
と座り直してから、俯き加減で饒舌に話した。これにはさすがの先生も
「体調管理も重要ですからね」
なんて拍子抜けした返答で、怒る気力を削がれている。お砂糖ちゃん、上手いなあ。
「あーあ、睡眠薬忘れた、つら」
あははっ、もう笑わせないで欲しい。
授業終了のチャイムとともにお砂糖ちゃんのもとへ、ザキが寄ってくる。
「馨、大丈夫か?」
と机に突っ伏して寝ている彼を心配している。授業中の独り言はうーん、知らない方がいい。
「うんん、ダメみたい」
顔を上げてザキの方を見て微笑み答えるお砂糖ちゃんはザキの反応を楽しんでいるようだ。
「そっか、俺に何かできることない?あっ、暖かい飲み物でも買ってこようか?」
いつにもなく優しいザキは何か調子が狂わされる感じ。でも、それくらいにお砂糖ちゃんのことを大事に思ってるのが伝わってこっちまで胸が焦がれる。
「ありがと、じゃあ暖かいココアをお願いしてもいいかな?」
とお砂糖ちゃんが今度は少し申し訳なさそうに微笑むと
「任せろ」
とザキは教室から颯爽といなくなった。
「はは、かっけー」
お砂糖ちゃんはまた顔を下げて、怠そうに腕を枕にして寝ている。
「飴ちゃん、僕は最悪だね」
顔を両腕で隠してるから、声が籠ってて、泣いているようにも見える。
「何が?」
「ふふっ、学校の自販機にココアなんてないのに、ザキに頼んじゃったよ」
顔を上げたお砂糖ちゃんは頬を赤くして嬉々として笑っている。さっきまで涙を流していたのを無理して隠してるみたいに。
「お砂糖ちゃん、最高だわ」
と言うと、愛想笑いを返されて、目が少し泳いで、目は合わせずに
「……ごめん。本当に、ごめんなさい。迷惑ばっかかけて」
とデジャヴような謝罪。
「俺は先生じゃないから、表面的な謝罪はわかっちゃうよお」
挑戦的で空気の読めない面倒な奴をわざと演じて、お砂糖ちゃんの言葉を何としてでも取り消したかった。
「いや、これは嘘じゃなくて」
「そうゆうのシラケるからさあ、嫌いなんだよね。俺に謝んないで」
語気を強めて、怒っているようにみせた。
「ごめん、ああ、ごめ……」
「あはっ、驚いた?ドッキリ大成功!でも、謝んないで欲しいのは本当だからドッキリじゃないかもだけど、そもそも謝る理由なんてお砂糖ちゃんにないでしょ」
「それはない、僕の問題で飴ちゃんが巻き込まれ事故してる」
「違うって、お砂糖ちゃんの問題に俺が介入してんの。それに、事故んのは生きてる実感して好き、何かワクワクしない?」
「やば、変な奴」
お砂糖ちゃんがやっといつも通りに笑った。
「怪我の功名とかよく言うじゃん」
「それより怪我しないように気をつけなよ」
「お砂糖ちゃんのが傷だらけなのに?」
「ああ、それはパラドックスのあれ」
「あれ?」
「あれ、わかんなくなっちゃった」
可愛い笑顔で惚けている。
「ふふっ、ずるいわあ」
「いや、まじで頭ん中クソでも詰まってんのってくらい働いてくれない」
「あははっ、それはずるいわあ。脳内便秘とか」
「クッソ、汚ねえ」
「完璧にそれ、睡眠薬でも食べる?」
「ただのラムネじゃん」
「確かに無料だけど、睡眠薬と思えば睡眠薬な睡眠薬だしぃ」
「プラシーボ効果だっけ?」
「うん」
「じゃあ、自殺薬だと思えば死ねるのかな?」
「それはさすがに」
「無理?」
「お砂糖ちゃんが好きな人に怒られちゃうよ?」
特にザキとかは。
「……ラムネのこと?」
「はあ、完璧に馨ちゃんのこと」




