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第三十話

「うわっ、何その真っ黒いタバコ。身体に超悪そううう」


とお粥が眉をひそめてこっちを見てくる。


「ん?吸ってみる?」


「嫌だって」


「チョコレートフレーバー」


「ああだから、めっちゃ甘ったりぃ」


「美味しいのに」


「みーちゃんって何でタバコ吸ってんの?そういえば」


「美味しいから」


「きっかけは?」


「セフレに勧められた、吸えば?って」


「その時、何で吸ったの?」


「好奇心と、あとは、死にたくて」


「ふーん。煙草吸ってなければ、もうちょっと綺麗だったかもねえ」


「さほど変わんないよ、醜いまんま」


「肺が」


「ああ、真っ黒いかもね」


「ついでに腹も」


「それはお粥じゃないの?」


「えっ!俺はこんなにもピュアなのにぃ」


「笑うことしかできないね」


「じゃあ、煙草は吸えないね」


とお粥が突然、俺の吸っていた煙草を奪った。


「え、ちょっと返して」


「それは俺じゃなくて、馨くんに言って」


「馨に?」


「修学旅行中だからって、頼まれたんだよわざわざ」


「それを聞いたの?お前が?」


「いや、そんなわけないじゃーん。ちゃんと報酬は貰う」


「何?」


「誰にも言ってない秘密を教えてくれるって」


「誰にもって、俺にも?」


「そう言ってた」


「……聞いても俺には言わないで」


「え、逆に聞きたがるかと思ってたのに」


「知らぬが仏ってやつ」


「残念。にしても、どうやって煙草の本数まで管理するんだろうね。まあ、馨くんなら数えてなくもないかあ」


一日に煙草は三本、酒は二缶まで。約束、守んないと。


「でも、新しく買ったやつは?」


「俺が報告しなきゃバレないよ、たぶん」


「天使と悪魔が戦ってる」


「俺は悪魔側の応援席にいる」


「これ、美味しいんだよ」


寂しいんだよ、楽しみがそれしかないから


「口止め料は?」


「はい、預かってて」


と煙草の箱をお粥に渡した。


「ちぇっ、つまんねーの」


「そして、馨に報告してよ。ご馳走様でしたって」


「あははっ、やっぱ腹黒いね。禁煙後に美味しくいただくってわけでしょ?」


「そういうこと、でも約束は守ってるよ」


「俺で予行練習しとく?」


「ごめん、俺、菩薩になるから」


「そんな断わられ方は初めてだわ」


「煙草、捨てないでね。結局、菩薩にはなれないから」


「はいはーい、分かりましたよーん」


と分かってるのか分かってないのか分からない返事をされ、何か拗ねている様子で机に突っ伏した。


「みーちゃん、俺のくだらない話聞くー?」


「聞きたーい」


「俺さあ、よく通販利用するんだけど。ああ、これはめんどくさいっていうより、教師ってさあ、スーパーとかで買い物しにくいじゃん?休日に生徒となんか会いたくないしぃ」


「わかる、プライベート見られたら終わる」


「そうでしょ?だから、致し方なく通販ヘビーユーザーなったわけで。それで、よく会う配達員の子がいるんだけど、めっちゃ可愛いんだよねー。俺好みの顔してんの」


「良かったじゃん」


「さらに、回想してもいい?」


「どうぞ」


「そして、その子と玄関前で喋るようになって。今回は何頼んだんですかー?みたいな会話をして、俺のこともすごい聞いてくれて、初めは仕事したくないんだろうなあって思ってたんだよ」


「んー」


「でもね、俺が本名を言うとその子は何て言ったと思う?"貴方にぴったりな素敵な名前ですね"なんて歯が浮きそうになる台詞を言ったんだ。思わず、笑っちゃったよ」


「それ、完璧に口説かれてんじゃん」


「そうなんだよ、逆だと思わない?普通」


この状況、俺が会いたいからって何回も通販で頼んでいるみたいな状況に見えんじゃん?しかも、どっかで読んだエロ本でもやっぱり俺が誘う側なんだよね、なんて言われたが


「普通はないと思うけどね」


としか言えない。


「まあね。だけどさあ、これってやっぱり俺が誘うべきなのかなあ?」


「やりたければやれば?」


「適当すぎぃ。でも、俺は今の関係性が好きだからなあ。崩れるのが怖い」


「意外に大人なんだ」


「やっと分かったんだあ」


「思いのままに行動するのが粥川 麗って思ってたんだけど、何かあったの?」


「何かあるとすれば、失恋くらいしか思いつかないかな?」


「俺のこと?」


「そう、みーちゃんのせい」



修学旅行中にザキと喧嘩をしてしまった。

発端は僕がザキにキスをしようとしたこと。

恋人と間違えてキスしようとした。なんて分かってるのかな。


「ザキ、アイス食べない?」


真冬の日本とは打って変わって、こっちは真夏であっつあつだ。


「いいね、食べたい」


拙い英語でアイスを二個頼む。


「飴ちゃん、今頃何してんだろうね」


「まさに自由行動って感じだよな」


歩夢ちゃんとデートしてくる、っていういい加減な理由で僕達を二人きりにした。


「ザキ、あれ見て」


大きな橋の支柱のアーチ部分の上に人が登っている。自殺とかでは無さそう。ゴールデンゲートブリッジとは違うから。


「すげえ」


「やってみたい」


「え?」


「ザキ、やってみようよ」


「まじかよ」


手を引いて橋の近くまで走っていく。

巨大な橋が目の前に広がる。その支柱に登ろうとすると、


「馬鹿、危ないだろ」


とザキにシャツを掴まれる。


「何で?」


「見たらわかるだろ、落ちたら死ぬぞ」


「落ちないから大丈夫だって」


「馨、もうやめよう。俺が悪かったから」


「何言ってんの?僕はやりたいだけなんだけど、悪い?」


「悪い、悪いよ、危なっかしい。俺の心臓がいくらあっても足りねえよ」


「じゃあ、僕が落ちないようにザキが支えれば良いでしょ?」


と再度、登り始めるとため息をつかれ、渋々ついてきた。


「我儘、王子様」


「ザキ、そんなに離れてて良いの?」


と煽りながらザキから逃げる。昔やった、鬼ごっこを思い出した。


「待てよ、馨」


焦って僕を追いかけてくるザキが面白い。

異国の地でノスタルジーに浸って不思議な感じだ。

橋の頂上まで登ると、綺麗な景色が一面に広がる。


「美しい、死んでもいい」


そんな景色に誘われて、本当に落ちてしまいそうになる。


「やっと捕まえた、落ちるなよ」


と申し訳程度に手を繋がれ、目を逸らされる。


「こっち向いて、僕の目を見て」


「はあ、何?」


「やっと見てくれた」


「何だよ」


「良かった、僕の目が嫌いになったのかと思った」


「そんなんありえないだろ」


「あははっ、その言葉を聞くと安心する」


そうやって笑うとザキは不安そうな顔をして、


「馨を見てると、現実が何か分からなくなる」


と言い出した。


「ふふっ、何それ」


「ずっと、これは夢なんじゃないかって思う。綺麗な景色に俺の隣りに馨がいる、なんてさ」


「へえ」


「でもたぶん、これは夢じゃないね。俺がとてつもなく格好悪いから」


「そう?」


「それに、この胸がとてつもなく苦しいから」


「ああ、それは、大丈夫なの?」


「まったく大丈夫じゃない、参っちゃうよ」


「そっか」


「馨、ごめん。やっぱお前のこと好きだわ」


「……ありがとう、ザキ。心の底からすっごく嬉しい」


「気を使わなくて良いって」


「僕もザキのことが好きだから」


「やめろ、そんな嘘は聞きたくもねえ」


「嘘じゃないって」


「恋愛対象じゃないくせに」


「好きは好きでしょ?」


「そういうのが、余計に苦しいんだって」


「ごめん、でも、ザキのことは本当に好きだから」


「わかったよ。友達として、な?」


「ザキはさ、僕の恋人になりたいの?」


「そりゃあ、まあ、なれたら嬉しいよ」


「それで、恋人として何したい?」


「え?」


「キスとかセックスとか?」


「いや、ちょっと待って」


「僕は、ザキなら構わないかな」


「お前、恋人は?俺に気ぃ使って、そんなん、ダメに決まってんだろ。嫌いにさせないでくれ、俺は好きなままでいたい」


「やっぱザキのそういうとこ、めっちゃ格好良いわ」


「相変わらず、惚れさせるのがうまいわ」


「素直な感想なのに」


「でもごめんな、俺は格好良くない。馨にキスされそうになったとき、そのままキスしたいと思った。その後も、キスしてみたいってずっと考えてた。告白して、デートして、愛し合って、幸せになって、馨に死にたいなんて思わせないように、ずっと一緒にいたいって、ずっと考えてる。かなり気持ち悪いだろ?もう、俺のことは嫌いになったか?」


「そんなんありえないでしょ」


「あははっ、ああ、安心した。嫌われたら落ちるところだった」


「落とさないよ?」


「こちらこそ」




俺の父親は今どきありえないくらいの亭主関白で人をよく顎で使う奴だった。俺は感謝の言葉を奴の口から聞いたことはない、傲慢で短気なクズだった。そして、俺の母親は我儘で思い通りにならないとすぐに怒り出す女だった。子供の俺から見ても子供だと思っていた。そんな二人だから、喧嘩は絶えず子供の俺達がフォローしないと離婚寸前の二人だった。だが、今はもう連絡は取ってない。たぶん別れたと思う。医者になった兄貴とはたまに連絡取るけど、金持ち自慢しかしないから嫌気がさしてこっちから切った。そうゆう家族から俺が学んだことと言えば、人生において、主導権を握ったものが勝者ということだ。お金、地位、名誉、権力、美貌、暴力、あらゆるものを使って、主導権を握ることが大事だと学んだ。だから、俺の将来は犯罪者だ。法律が俺の自由を奪うから。その恐怖と隣り合わせで生きてきて、生きやすさを求めている。相反する欲求が解消することはない。

今日もインターホンが鳴る。何を買ったのか思い出せない。酔って千鳥足のまま玄関まで向かう。


「お届け物でーす」


と顔見知りの配達員。


「いつもありがと」


とボールペン片手に対応すると、そいつは少し驚いた顔を見せた。


「麗さん、何で泣いてるんですか?」


「ああ、泣いてる途中に君が来たから?」


「そうじゃなくて、泣いてる理由を聞いているんです」


女が泣くと可愛いのに男が泣くと気持ち悪い。そんな古臭い考え方のが気持ち悪いと俺は思うけど。


「教えなーい、俺に黙って抱きしめられてて」


と受け取った荷物を廊下に放り投げて、その子を抱きしめた。人の体温が安心する。すると、もっと涙が流れてきて、さらに安心感を求めて強く抱きしめる。


「……痛いまでに抱きしめてくれますね」


「黙って」


「おかげで寒くないです」


手の感覚がなくなるくらい寒いのに


「俺は寒いんだけど」


「じゃあ、中に入りますか?」


「あははっ、それ君が入りたいんでしょ?いいよ、入って入って」


とバッグハグをしながらくっついて歩く。


「これって、夢じゃないですよね?」


「ん?キスして確かめてみる?」


「機嫌良いんですか?」


「いいや、すこぶる悪いね」


と冷蔵庫を開けて、追加の酒缶を取り出す。


「帰れなくなります」


「帰さないつもりなんだけど」


「麗さん、めっちゃ可愛いです」


「そお?もっと褒めて」


「とってもお綺麗です」


なんて言うから、キスの雨をお見舞した。


「ふふん、ありがと」


と調子に乗って酒をさらに入れる。


「今日は何頼んだんですかー?」


ダンボール箱を見つめてる。結構重かったって文句を言ってる。何を頼んだのか全然記憶にない。


「おおっ、漫画まとめ買いしてた。読む?」


「え、あの、何か表紙でセックスしてるんですけど」


「何か問題でも?」


「いえ、ありませんっ!」


と漫画を真剣に黙読し出すから面白かった。


「この絵、めっちゃ綺麗だ」


漫画を読んでも、内容よりも絵に注目が向いてしまって、話が見えなくなってくる。


「麗さん、かなりやばいです」


呼吸を少し荒くして、頬がピンクに染まっている。うわっ、可愛い。


「俺に何して欲しい?」


「意地悪ですね、ここまでしておいて」


「何のこと?言ってくれないと俺わかんないからさあ」


「……キス、してくれませんか?」


と照れながら言うその子に


「具体的に」


と端的かつ冷徹に伝える。


「ええ!?んーっと、舌をねっとり絡ませる感じの濃厚なディープキスがしたいです」


さらに頬を赤らめるのがおかしい。


「わかった」


と注文通りのキスを提供する。


「ん、美味しい」


俺が感想を言うと


「はああ、無理ですぅ。可愛すぎて無理ぃ」


と今度は向こうから襲ってきた。この子と俺では温度差がある。俺はまだ冷めたままだ。

キスを終えると、虚しさでいっぱいになる。


「君は可哀想なほど愚かだ」


綺麗に涙が頬を伝って流れ落ちる。俺のどうしようもない性をまだ知らないのだから。


「また俺を馬鹿にしてるんですか?Fラン出身脳筋バカって」


「ふふっ、そうゆう次元の話じゃないよ。わかりやすいように、例え話でもしようか。もしも俺が椅子だったら、君はどうするかな?」


「愛用にしますよ」


「そうじゃなくて、俺がこの椅子の中に入ってて、君の肉体、声、匂い、息遣いまでもこの皮一枚を挟んで感じていたら?」


江戸川乱歩の人間椅子、君は知ってるかい?

とても気持ち悪がられるんだよ、椅子の中に入っている人間は。「悪魔の国の愛慾」。それは、仮面を付けた人間どもの罪であり、至高の愉しみだ。


「あははっ、キュン♡って来ちゃいますね」


あーあ、やっぱりペーパーテストは参考にならない。俺、強がりは結構好きだけどね。


「じゃあ、またべろちゅーして」


口の中に入ってきた舌に犬歯を食い込ませて穴を空ける。硬い肉を噛み切るように愉快で豪快に。唇が血の紅で染まる。

そう、そうやって、俺を睨みつける目。嫌悪、不快感、グロテスク、様々な負の感情の熟成カレーみたいにドロドロしてる。

この瞬間、俺はこの世の悦を超えた域に到達する。


「げほっ、ごほっ、はあはあ」


彼は口元を抑えて、出血を気にしている。


「何でこんなことをするのか?って聞きたいのかい?いいよ、気分が良いからね!」


そうやって彼の顔に軽く触れると、ゾッと背筋が凍りついたみたいに青い顔をされる。舌を隠されたまま。


「舌の痛みで俺を感じて欲しいんだ。俺のことを常に考えていて欲しい」


「それはそれは、可愛らしい、ですね」


と血に塗れた唇を見せてジョーカーのように掠れた声で俺のことを庇う。格好付けてるつもりなんだろうけど、愚かすぎて可愛く見える。ああ、可愛い、なんて良い表情だ。


「んなのは嘘で、本当は痛がってる君が見たいから、でしたあ」


我ながら今すぐに殺したいほどのクズだ。そのニヤついた顔が原型を亡くすまで引き裂きたい。という君の心情、お察しするよ。


「本音を嘘で隠さないでください」


真っ赤に染まった唇を重ねて、またしても舌を絡ませてキスしてくる。鉄の味がする。こいつ、もう一度噛まれたいのか?それとも、俺を噛む気なのか?

そんな憶測は外れて、普通の恋人同士を思わせる、キスの後に澄んだ目で見つめてくる。


「何してんの?」


「はあ、血液の味、覚えました?俺の」


「あはっ、それは安心して。超不味くて忘れられない味してるから」


「貴方が馬鹿にしている、その味が、きっと貴方は恋しくなりますよ」


「んなわけないじゃん、やっぱ馬鹿なの?」


「そうかも知れません。でも、貴方のことは分かります」


「へえ、何があ?」


「麗さん、貴方は寂しくて泣いてたんですね」


と涙の跡を血のついた手で拭かれる。



「歩夢ちゃん、俺ってさあ、馬鹿そうに見えて、意外と勉強できちゃうタイプなんだあ。だから、将来の収入はかなり期待できると思うんよ」


「えー?」


「背も平均よりは上だしぃ、顔はタイプかどうか分かんないけど」


「んー、確かにぃ。優良物件かもねっ!」


「え、本当に?」


「高校生じゃなければ」


「うわあ、盲点!」


「私は経済力のある歳上好きなの、お子様と遊んでる余裕はない」


「って言っても、右から、おっさんおっさんおっさん、一つ飛ばして、おっさんじゃん」


「おっさんって言わないで、あれは経済力のある、おじさまだから」


「……結局、金なんだね」


と現実に悲観的でいると


「ああああ、嘘嘘嘘。世の中にはちゃーんと真実の愛が存在するから、安心して、ね?」


と突如、理想を刷り込んでくる。


「教師がホラ吹きこんで、良いんですか?」


テストのときの教師の如く、意地悪く問うてみる。


「ええっ!待って、これは、あの、信じるか信じないかは貴方次第、的な?」


まじでテンパってる。可愛い。


「歩夢ちゃん、やっぱ可愛いっすね」


「ピピーッ、飴 霰、イエローカード!」


過去何枚も貰っているイエローカード、俺はレッドカードを貰うまでは大丈夫だと思ってる。けど


「じゃあ、俺はここで退場させてもらいまーす」


「え、待っ……薄情者」


楽しそうに海に入っているザキと馨ちゃんを見つけてしまっては、飛び込まずにはいられないから。


「ザキ、おっと危ないっ!」


と後ろからザキの背中を押してサプライズ登場。


「ちょっ、馨……」


「あははっ、僕じゃなーいしぃ」


と馨ちゃんはザキに少量の水をかける。

いつの間にか仲直りしてる。


「ジャジャーン、飴 霰の登場でーす!」


「本当、自由人だわあ」


「おかえり、霰」


と馨ちゃんに歓迎のハグをされたかと思えば、手についた水を俺のシャツで拭かれた。


「あっ、ちょっと、お砂糖ちゃーん!」


バレた?って悪戯っ子な顔の馨ちゃん。まじで可愛い。


「ザキ、馨のシックスパック透かすぞ」


「了解」


とやる気満々のザキと二人でお砂糖ちゃんの背後から水をかける。


「ちょっ、まじで、冷たっ!」


透け始める背中、大爆笑で逃げる馨ちゃん。

追いかけるザキ、それを俯瞰して見てる俺。

ザキと見つ合って笑い合いながら後ろ向きで歩いて逃げてた馨ちゃんが突然、足を滑らせた。


「え、馨!?」


ザキが急いで、馨ちゃんのもとへと近づく。


「あははははっ」


ザキの心配を他所に、めっちゃ大爆笑してる。自分の失態が面白いんだ。

頭までびしょ濡れになった馨ちゃんはシックスパックどころか、乳首まで透けている。


「馨ちゃん、やばすぎぃ」


少し遠くから囃し立てる。笑ってあげた方が気が楽になるやつだ。


「石がすっごいツルッツルしてたあ」


いまだ笑いながら報告された。


「馨、これ使って」


ザキはなんと驚くことに鞄からバスタオルを取り出した、ドラえもんかよ。


「さすが、ありがと」


とそのバスタオルで馨ちゃんは適度に水分を飛ばす。いや、水も滴る良い男。写真集ですか、これは。


「すげえ、やるじゃん」


ザキの功績を褒めたたえた。


「馨は絶対に海に入りたがると思って」


それできっと自分が濡れると思ったんだ。馨ちゃんに水かけられて。


バシャッ!!!


「冷てっ!」


馨ちゃんがザキにかなりの水をかけた。


「仕返し」


とニッと笑う。


「逆恨みだろ、それはあ」


笑いながらザキも思いっきり馨ちゃんに水をかける。あーあ、やっぱこうなるのね。


「こうなったら、霰も道連れにしてやる」


と手の水鉄砲で馨ちゃんに撃たれる。俯瞰して見てたの、バレた。


「ええ、そこはザキだけで良いじゃーん」


「一人だけ逃れようなんて。許さねえぞ、飴 霰」


ザキからも水をかけられた。水に濡れんのはまじ勘弁なんだけど。まあ、良いや。今、最っ高に楽しいから。

羽目を外して、三人で全力で海で遊んだ。

そして、三人で並んで怒られた。碧ちゃん、容赦ねえわ。


「いい思い出になりました、と」


日記を書き終えて、またあの二人のところへと向かう。今日はどんな面白いものが見れるんだろう。


「ちょっと、これ、無理なんだけど」


と馨ちゃんの笑い声。

中に入ってみると、裸体にバスローブを着て、ぶどうジュースが入ったワイングラスに片手に、足を組んで夜景を優雅に眺める馨ちゃんがいた。


「あはっ、めっちゃ金持ち」


とそれを写真に収めているザキ。


「お砂糖ちゃん、金持ちっぽいこと言ってみて」


「支払いは、カードで良いですか?ああ、一括で」


「ああ、わかるわあ」


「隙間市場だろ」


そのひとことから細すぎて伝わらないモノマネ選手権が始まった。


「と、なるのでえ、答えは①!と、なります、はあい!」


なんて先生のモノマネをしては笑っている。


「砂糖 馨、こんな夜中まで遊んでいるとはどういうことだ?なんて言ってきそうだよね、碧ちゃん」


と碧ちゃんのモノマネをしているとザキと馨ちゃんが引き攣った顔をしている。


「飴 霰、その通り、よくわかってるじゃないか。これはどういうことだ?」


真後ろに碧ちゃんが仁王立ちで圧力をかけてくる。


「まあまあ、碧先生。今日くらいは良いじゃないですかあ」


と馨ちゃんが媚びを売る。


「今日くらいって、お前はいつもそう……」


碧ちゃんが言葉をつまらせ、頭に手をやる。


「碧先生、どうかしたんですか?」


「いや、俺も疲れてるんだ。早く寝てくれ」


碧ちゃんの雷が落ちなかった。不自然なくらい、説教もなし。

お砂糖ちゃんがうまくいった、なんて微笑みを浮かべている。

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