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第二十二話

「みかちゃん、今日はちょっとアブノーマルな楽しみ方しても良いですか?」


「何?」


「じゃーん、手錠と目隠しです。」


とテンション高めで紹介される。


「やりたいの?」


「はい、とっても。」


「馨、十七歳だよね?」


なんだか、罪悪感が募る。


「だから、好奇心旺盛なんですよ。」


「わかった、手錠かけて。」


手を後ろで拘束される。


「目隠しはどうしますか?」


「馨の顔が見れなくなる。」


「そんな可愛い顔見せられたらできないですよ。」


と頬を両手で包み込まれてキスされる。


「でも、良いよ。馨が望むなら。」


「最強に可愛いです。」


目隠しをされて、視界を奪われる。

真っ暗な世界。ただ一人になったみたい。


「みかちゃん、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。」


「じゃあ、一時間放置します。」


「え、ちょっと、馨?」


なんだろ、寝かされてるパン生地の気持ちに何か似てる。よくわかんないけど。

そもそも、パン生地の気持ちってなんだ?

というより、馨ってこういうとこあるよな。突然、いたずらっ子になって、俺の反応を楽しむところ。

まあ、可愛いから余裕で許せるけど。


「ん、んん。」


唇の触感、舌の熱さ、リップ音、唾液の絡まり、甘さ控えめなほろ苦い味???

全て感覚が研ぎ澄まされて、脳内に送り込まれる。


「みかちゃん、美味しいですか?」


馨の優しい声。


「チョコレート。」


「正解です。口に含んできました。」


「すぐに戻ってきてくれて良かった。」


「怖かったですか?」


「ううん、それよりも孤独で寂しかった。」


「じゃあ、寂しくないようにたくさん愛を注いであげます。」


馨が触ったところが刺激として伝わってくる。たくさんキスしてくれる、くすぐったいくらいに。


「みかちゃんってマゾっ気ありますよね。」


「そう?普通だと思うけど。」


「特に焦らされんのが凄い好き。違います?」


「ふふっ、悔しいけど、当たり。」


「あと、だいぶ恥ずかしがり屋さんですよね。可愛いです。」


「やめてよ。」


手で顔を覆いたいけど、手錠のせいでできない。


「顔、もう火照っちゃってますね。」


「見ないで。」


「すごい可愛いですよ。」


と頬にキスされる。

そして、首筋を舐められるとゾクゾクとした感覚が身体に走った。


「ああ、可愛い。」


馨のうっとりした声が聞こえる。


「みかちゃん、気持ち良いですか?」


「ふふっ、うん。」


思わず笑ってしまうほど、感覚がそのまま伝わってきてすごい気持ちが良い。

狂ってしまいそうだ。


「身も心も全部、僕に委ねてくれてるんですね。可愛すぎます。」


とギューって抱きしめられる。


「俺は馨のものだから。好きにしていいよ。」


「ふふっ、余裕そうですね。じゃあ、極限状態まで楽しみましょうか。」


全てを奪われる又は与えられると人間の本性が出てくる。

馨の本質はやはり優しさでできていると思う。

どんなに隠そうと自分を偽ったって、優しさは消えることがない。

言動に散りばめられたピースがそれを物語っている。

だから、愛されてるのがよくわかる。


「馨、好き。」


「あああ、僕も、好きです。みかちゃん、大好きです。」


嬉しそうな声、見なくても優しく微笑んでくれてるのがわかる。

俺が好きっていうと必ずと言っていいほど、馨は大好きって言って倍返しをしてくる。


素直に愛情表現をしてくれるのがとても可愛い。




「みかちゃん、おはようございます。」


ベッドの中でみかちゃんが起きるのを待ってた。眠そうに微笑んで「おはよう」と返してくれる。


「馨。」


「なんですか?」


「今日、休みたい。」


「体調悪いんですか?」


「ううん、馨と遊びに行きたい。」


きっと無理だって自分自身がよくわかってるから、そのおかしさで笑ってるんだろう。


「みかちゃん、可愛いですけど、それは駄目ですよ。」


「じゃあ、いつ遊べるの?」


とちょっと拗ねて、そう聞いてきた。

僕が勉強ばかりしてるから随分と我慢させてたんだなと反省した。


「んー、期末テスト後になっちゃいますね。でも、そのときは何処か行きましょうよ。夢の国とか。」


「馨、ありがとう。大好き。」


と抱きしめてきて甘えてくる。朝から可愛い。


「みかちゃん、僕の大学入試が終わったらもっとたくさん遊びましょうね。」


「うん、そうだね。」


別々に家を出て、学校へ行き、また学校で会う。


「みかちゃん、今日も可愛いですね。」


「ああ。」


と肯定せずにどうでもいいというような素っ気ない態度を取るのが教師のみかちゃん。


どっちも可愛い。




「あーあ。」


駄目だ、完全に仕事モードに切り変わんない。


「随分と朝からだるそうにしてんな。やる気ないのか?」


と随分と朝から角が立つ言い方だが、隣りでパソコン打ってるのは感心する。


「碧先生、人生には何が必要ですか?」


「いきなり何を言うんだ?」


「碧先生は死ぬと分かってたら仕事しますか?」


「はあ?」


「もっと単純に、仕事よりも優先することがありますか?」


「無いな、仕事一筋だ。」


「…あーあ、碧先生に聞いたのが間違いだった。」


背もたれに寄りかかって、相談相手をまた脳内で探してみる。


「何なんだよ。」


「いや、もう忘れてください。終わったことなんで。」


と愛想笑いでやり過ごそうとすると、


「人に聞いといて、説明無しに、忘れてくださいは、流石に無いだろ。人として。」


と怒られてしまった。


「ふふっ、そうですよね。じゃあ、ちゃんと話します。…私、教師やめようかと思って。」


座り直して、真剣に相談した。


「え、何で?」


「ああ、なんて言えばいいのか、よく分からないんですが、その、老後をどう過ごすか、みたいな話で。」


「はあ?」


そりゃあ、わからなくて当然だよな。こんな前置きも無い話。


「仕事よりも自分の時間を優先させた方が幸せになれるかなあ、なんて。」


「ちょっと待て。一旦、整理させろ。お前は、仕事をやめるのか、やめないのか?どっちだ。」


「七三で、やめます。」


「…やめんのかあ。」


「寂しいですか?」


と自分でも笑ってしまうようなおかしなことを聞く。


「…まあ。」


と予想外の答えが帰ってきたから、驚いてしまった。


「へえ。」


寂しいんだ、意外。


「塩 蜜柑、何か不満なことでもあるのか?」


「そんなの無いですよ。恵まれた環境で働けて幸せです。」


「じゃあ、何で?」


「あっ、もう朝礼の時間ですね。」


と腕時計を見て、話を深掘りされるのを躱した。


「塩 蜜柑、今日昼飯付き合え。」


朝礼が終わり、職員室に戻ると、碧先生にそう言われた。


「おい、そんな嫌そうな顔すんなよ。」


と碧先生が笑ってる。


「分かりました。付き合います。」




「僕の恋人ってば、どうも饒舌で困る。」


なんて彼氏の愚痴を言う彼女の気持ちがよく分かる。


「どうしたん、お砂糖ちゃん。」


「ん?何が?」


「何かずーっと物思いにふけってるから。」


「ふふっ、考えることが尽きないからね。」


「何?悪巧みでもしてんの?」


「あはっ、違うよ。」


「じゃあ、何考えてたの?」


「ん?飴ちゃんがどうしたらもっと笑ってくれるかなって。」


「え、俺のこと?何で?」


「友達だから。」


「あははっ、怖いねー。」


「素直に落ち込んでいいのに。」


「…嫌だよ、キャラじゃないもん。」


「そっか。」


「というより、何で分かっちゃってんの?ずっと隠してたのに。」


「簡単だよ。好みじゃないキーホルダー付けてたり、スマホ隠しながらメールしてたり、部活に楽しそうに行ってたり。元カノは、一年のマネの子で当たってる?」


「うわっ、鳥肌立ったわ。お砂糖ちゃん、まじで怖いよ。」


まあ、一緒に歩いてるところ見ちゃったから。


「それで、何で別れちゃったの?」


「んー何となく、合わなくって。疲れちゃったんだ。彼女の理想と俺は違かったから。」


「そうなんだ。飴ちゃん、よく頑張ったんだね。」


「ああ、何かお砂糖ちゃんが神に見えてきた。」


「え、何で?」


「お砂糖ちゃん、俺の欲しい言葉をくれるからさ。加えて、とにかく優しい。まじで神。」


「そんなに褒めても何も出ないよ。」


「ただ俺が褒めたいだけ。」


僕にとっては飴ちゃんの方がすごい人だ。




昼休憩、たまには先輩に付き合うのも悪くない。


「それで、理由は?」


「それが、なんて言うか、自分の中の話で、人には説明しにくいんですよ。」


「なんだよそれ。」


真実を言っても受け入れないだろう、特にこの人は。


「そうだ。分かりやすく説明するために、例え話でもしましょうか。もしも碧先生が結婚して家族ができたとして。」


「俺が、結婚?」


「話がありえなさすぎますか?」


「いや、結婚ぐらいするだろ。もうこんな歳だし。」


「え、するんですか?」


「まあ、できたらいい。くらいだが。」


「意外ですね。一生、独身貴族かと思ってました。」


「そんなの今はどうでもいいだろ。それで?」


「そしたら、仕事よりも家族優先になりますよね?というか、家族を優先すると仮定してください。」


「ああ、うん。」


「ここで、医者から余命あと一年と宣告されたらどうしますか?」


「まず、治療して、家族とも…。ていうか、もしかしてお前がそうなのか?余命あと一年って。」


「いや、そんなわけないじゃないですか。ただの例え話ですよ。」


「本当のこと言えよ。」


「碧先生は俺が死ぬと思いますか?こんなに元気なのに。」


「思わない。けど、そういう可能性も少なからずあると思う。」


「ふふっ、妥当な答えです。」


「実際のところ、どうなんだ?」


「これ言わなきゃですか?というより、俺が言うの渋ってること自体、答えみたいなもんですよ。」


「…病名は?」


「んー、賞味期限切れ。ですね。まあ、塩には賞味期限ないですけど。」


「はあ、そこ冗談で返すところか?」


「碧先生が深刻そうな顔してるんで。」


「そう言うのいいから。」


「まあ、ここら辺は軽く流してください。」


「は?」


「本題に入りましょう。私はこれからどう生きるべきですか?」


「そんなの自分で考えろ。」


「ここまで聞いておいて、それはないですよ。」


「そうだよな。じゃあ、仕事はやめるな。」


「何故ですか?」


「ただ家に引きこもって、死を待つだけの生活するよりはマシだろ。」


「あははっ、そうですね。」


「それとも、やりたいことでもあるのか?」


「まあ、遊びたいというのはあります。」


「ああ、すげーよく分かる。俺も宝くじでも当てて、ずっと遊んで暮らしたい。」


「そうなんですか。」


全然、言うことが似合ってなくて笑えてくる。


「でも、何事もバランスが大事なんだと思うよ。ていうか、そう思いたい。仕事してるからこそ休日があるように。遊びが特別だから遊びなんじゃないか?」


「確かに、何か考えが変わりました。」


「そっか。まあ、俺から言えんのはこれぐらいかな。最終的に決めるのはお前だから。」


時計を気にしている。次、授業なのか。


「はい、ありがとうございます。碧先生に相談して良かったです。あっ、このこと誰にも言わないでくださいね。」


「わかってる。」


「それじゃあ。」


「ああ。」


あーあ、言っちゃった。




「お粥せーんせっ。」


美術室で漫画を読んでると、入ってきた生徒にそう呼ばれた。


「何?馨くん。俺に会いに来てくれたの?」


漫画を置いて、彼に近づく。


「はい、授業ですから。」


一定の距離を保ち、避けられ、自分の席に座った。


「とか言っちゃって、純粋に俺と会いたかったくせに。」


休み時間の分が余裕である。生徒は君以外誰も居ない。


「変な言い方やめてください。」


と和やかに笑った。


「で?何を教えて欲しいの?四十八手?」


「ああ、良いですね。」


適当に返事してくるので、危うく聴き逃しそうだった。


「…まじで?それじゃあ、手取り足取り、一から百まで、俺が全部教えたげる。」


「四十八までしかありませんよ?」


「少なすぎて物足りないじゃん。」


「お粥先生、欲求不満なの?」


か、可愛え。煽ってるんだろうが、幼さが滲み出てて超可愛えよ。


「あははっ、猫ちゃん。授業後、楽しみにしてて。」


髪飾りを指差して伝える。

二人の空間を邪魔するように他の生徒が教室に入ってきた。


授業中はずっと心が弾んでいた。

そして、こんなに授業時間が長いなんて知らなかった。


ずっと貧乏ゆすりが止まらない。

読んでた漫画にも集中できなくて、内容が入ってこない。


妄想が頭を支配して、各方面からシュミレーションをしていく。

やばい、考えただけでにやけてしまう。

時折、時計の針を見つめて、早く動けと急かした。


「猫ちゃん、可愛いね。」


授業後、わざと片付けるのが遅いフリをして俺と二人きりになるのを待ってたんだ。


「ホームルームがあるので、放課後でも良いですか?」


「駄目、俺がどれだけ待ったと思ってんの?」


感情が高ぶって、抑えきれない。

顔を掴んで、キスしようとすると拒まれた。


「すいません、まだ未成年なんで。あと一年は待ってもらわないと。」


「あははっ、よく言うよ。俺を誘っておいて。」


腰に手を回して、身体を密着させる。


「わいせつ行為で訴えますよ?」


「教えを乞うてきたのそっちじゃん。」


「これは望んでません。」


「じゃあ、何をお望みかな?」


「僕に、美術を教えて欲しいです。」


「ふーん、そう。」


彼の唇に触れて、触覚から形をとらえる。


「何するんですか?」


唇を触られて、喋りにくそうに話す。


「猫ちゃん、美術に重要なのは何だと思う?」


「情報量、と」


接続詞の続きが出てこない。


「…目的?」


「あと、やる気も。」


付け足してみた。俺が言いたいこと、わかるかな?


「やる気は何するにも必要です。美術に限らずに。」


「うん。」


「…結局、ふりだしに戻りますね。」


「あはっ、物分りが良くて助かる。」


「はあ、貴方に頼ろうとした僕が馬鹿でした。」


と額に手を当てて、ため息をつかれた。


「そんなこと言わないでよお。やる気、ちょーだい。」


逃げようとする猫ちゃんを抱きしめて捕らえた。


「そうやって、みかちゃんにもくっついてるんですか?」


「うーん、たまに?」


「あまりそういうことしないでくださいね。」


「君にとやかく言われる筋合い無いんだけど。」


「一応、みかちゃんの彼氏なんですが。」


「へえ、で?何か問題ある?」


「…もう離してください。」


「もしかして、怒ってる?」


「もしかしなくても怒ってます。」


「あははっ、可愛い。余計、離したくなくなる。」


「本当、嫌がらせするの好きですよね。」


「違うよ、嫌がる顔が好きなんだあ。」


「…」


「無表情にしてんの?可愛いね。」


「…」


「わかったよ、もう離すから。…ごめんね。」


「…」


「ねえ、無視しないで。」


「ふふっ、ごめんなさい。笑っちゃった。」


「そんな怒ってないじゃん。」


「ちょっとは怒ってましたよ?」


「じゃあ、許してくれる?」


「嫌です、あははっ。」


「まあ、それでも良いけどさ。」


「僕に美術を教えてくれるなら許しますよ?」


「簡単に俺を騙せると思うなしぃ、ばーか。」


「ふふっ、僕への興味は無くなりましたか?」


「いいや、顔は好きだよ。そのよく喋る口は嫌いだけど。」


「そうですか。じゃあ、また今度。」


「はいはーい。今度はその唇縫っといで。」


お互いに間合いを探り探りだ。人間関係構築も楽じゃない。

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