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第二十話

「馨ちゃん、どーしたん?その傷。てゆーか、今までどこ行ってたの?」


と心配してくれる友がいるだけ僕は恵まれているな。


「ちょっと、散歩して、猫にやられた。」


へにゃっと笑って、やり過ごそうとする僕は本当に格好悪い。


「おい、馨。そんなわけ…。」


ザキが強い口調で聞いてくる。嘘だってすぐにわかるよな。

だけど、そのザキの言葉を遮って、飴ちゃんがこう続けた。


「そっか。良いね、猫ちゃん。俺、好きだよ?」


「よく知ってる。」


空気を読んで、人が言いたくないことは無理に聞かない。そんな優しさが僕には痛い。


「でもね、本当は飛び降りたんだ。屋上から。」


「え?」


こっちの方が現実味無さすぎて、嘘みたい。固まっちゃって。


「これは本当だよ。」


「怪我は?してない?」


「見た通り、奇跡的に軽傷。笑っちゃうくらいね。」


「馨、馬鹿じゃねーの。」


それ、散々言われた。


「ザキ、良かったじゃん。軽傷なんだから。」


「良くねえよ。命を捨てようとしたのが気に食わねえ。」


「僕も僕が気に食わないよ。自己嫌悪でまた死にそう。」


「人生、つまんねーか?」


「いや、楽しい。」


チャイムよりもうんと遅くきた先生が席に着けと命令する。


人生は楽しいもの。死にたいと思うのはただ魔が差しただけ。そう洗脳されないと生きていけない。


「馨ちゃん、良いもんあげる。」


と授業中にも関わらず、飴ちゃんは後ろを向いて、僕の手の上に何かを置いた。


パイン飴。手を広げてみるとそこにはパイン飴があった。

なんでパイン飴なんだ。という疑問が強く湧いた。

もしかしたら音がなるんじゃ…?

こういうの見たことあるし。

だったら鳴らしてみるしかない。


口にくわえて、息を吹くと、スーっと息が漏れる音が微かにする。

あっ、これ。鳴らないやつじゃん。

前の席に座っている飴ちゃんが静かに笑ってる。

これか、狙いは。まんまと嵌った。


今度は紙切れを渡してきた。


「授業中に音鳴らそうとするとか勇者っしょww」


ちょっと期待に応えたかったんだわ。


「眠気覚まし用だよ、それ」


あっ、そういうこと。やばい、精神的ダメージ。

自分でも笑えてくる。


「ありがと」


と書き加えて返した。笑いが止まらん。


「お砂糖ちゃん、自滅してんじゃん。」


はい、おっしゃる通りでございます。


「砂糖、何笑ってんだ。」


と先生からも注意を受ける始末。

ああ、すごい楽しい。


「お砂糖ちゃん、まじでやばい。」


「うん、自分でも頭おかしいわ。」


授業後、二人で話足りなかったさっきのことを話す。


「さっき、何してたん?」


とザキが気になったらしく、声をかけてきた。

馬鹿なことして、馬鹿みたいに笑って。

きっと笑えるだけ僕は幸せだ。馬鹿で良いや。


「みーかちゃん、ここで会うのも何だか久しぶりですね。」


と出合い頭で抱きついた。


「勉強は良いの?」


「はい、勉強はみかちゃん摂取しないと捗らないですから。」


「何かのビタミンか、俺は。」


「ふふっ、僕の一番の栄養剤です。」


と唇同士を重ね、まあ言わば経口摂取する。


「ああ、馨。」


と僕を呼ぶ声がもう艶かしいというか、何ならすべて好き。


「みかちゃん。」


「何?」


「今日は毒に溺れたいです。」


「ん?したいの?」


うわあああ、めっちゃ可愛い。


「はい、とても。」


「俺もちょうど甘い砂糖を味わいたかったよ。」


「食べすぎ注意です。」


「お互いね。」


ジャンクフードに甘いスイーツ。どれをとっても美味しくて、高カロリーでは身体に悪い。

でも、世の中はバランスだ。

栄養失調では動けない。


「馨、痩せたね。」


「褒めてくれてますか?」


「ううん、痩せすぎ。ちゃんと食べて。」


「わかりました。じゃあ、いただきます。」


とみかちゃんの首筋にキスをした。


「俺食べてどうすんの。」


あっ、久しぶりに照れてる。可愛いいい。


「とびきり美味しいじゃないですか。」


「普通にご飯を食べな。」


「僕はみかちゃんしか食べたくないです。」


「俺の手料理でも?」


「それは、ありがたくいただきます。」


「単純。」


「作ってくれますか?」


「馨のためならね。」


「ああ、抑えきれなくなりそう。立てなくしたらごめんなさい。」


「良いよ。今日は特別。」


甘やかしてくれる。僕が落ち込んでるから。

僕の欲しい愛をくれる。


「サーモンマグロアボカド丼。切るだけだから俺でも簡単に作れんの。」


と得意気に料理を差し出された。エプロン姿がよく似合っている。


「おお、すごい美味しそうです。腕上げましたね。」


見た目が前よりも綺麗。大きさも揃って切れている。ちょっとした感動を覚えた。


「ちょっと頑張っちゃった。」


と可愛く微笑まれると、美味しさが倍増する。

ああ、何で僕の彼氏ってこんなに可愛いだろ。嫁にしたい。


「ん、美味しいです。」


「良かったよ。口にあったみたいで。」


「みかちゃん。」


「どした?」


「ありがとうございます。」


「こちらこそありがとう。」


「美味しいです。」


「さっき聞いた。」


「人生、捨てるもんじゃないですね。」


「うん、俺は何回か捨てたことあるけど。」


「何してんですか。」


「ちゃんと後悔してるよ。あの時間、無駄だったなあって。今になって気づく。」


「そうなんですね。」


「ずっと他人のおもちゃだったよ。ああ、思い出すだけで吐きそう。」


表情が曇る。笑顔だけど、少し目が潤んでる。


「大丈夫ですか?」


「ごめん、大丈夫。」


「全然、大丈夫な顔してませんよ。」


「なんでわかんの?」


つらさを紛らわすためにずっと笑ってる。


「恋人ですから。」


「ふふっ、おかしくなりそう。本当の俺はもっと醜いよ。酒入れていい?」


「好きなだけどうぞ。介抱はします。」


「ありがと。」


と冷蔵庫からビールを三本取り出してきた。

適量はよくわからないが多分飲みすぎだと思う。


「馨、恋人が人間のクズでごめんな。」


「人間にクズも完璧もいない。って、みかちゃん言ってたじゃないですか。」


「それはそれ、これはこれ。だって、酒も煙草も恋人もセックスも。全部に依存してるんだよ?クズいじゃん。」


こんなに自己嫌悪に陥っているみかちゃん初めて見た。いつもと違ってすごい弱気。

でも、どんなみかちゃんでさえ可愛いのには変わりない。


「依存症、治したいんですか?」


「うん。でも、さらに酷くなった気がする。」


「じゃあ、恋人にはずっと依存しててください。お酒も煙草も忘れるくらい僕がキスしてあげますから。」


「馨、天使。なんで俺の恋人やってんの?」


「好きだからですよ。」


「ふふっ、過去の俺にも会わせてやりたい。こんなに良い恋人ができたよって。」


「僕も過去のみかちゃんに会ってみたいです。」


「ああ、やっぱ会わないほうがいいかも。やばいから。」


「やばくてもどんなでもいつの時代も。みかちゃんは可愛い、は真理ですから。自ずと好きになっちゃいます。」


「じゃあ、俺がセックス依存症で誰とでもやるような奴だったら?」


「まずは、嫉妬しますね。次に、自分磨きをして。最後には、僕でみかちゃんを満足させてみせます。」


「うわっ、可愛い。」


「そして、僕以外では満足できない身体にしてあげます。」


「ああ、馨らしい。」


「でも、僕は中学生か小学生ですね。」


「あはっ、手出しにくっ。」


「たぶんやれないです。やれてもキスぐらい。」


「俺が満足するには十分だよ。」


「みかちゃん、セックス依存症なんですよね?」


「うん。だけど、好きな人とのは他人のよりもよっぽど気持ちいいじゃん?」


「ふふっ、さあどうでしょうね。小中学生の僕では。」


「まあ、数年でこんなになっちゃうんだから。資質はあるだろうね。」


「じゃあ、大人の僕はもっと期待できませんか?」


「これ以上、俺を気持ち良くさせてどうすんの。頭ぶっ飛んじゃう。」


「それくらいがちょうど良いです。愛で満たされてください。」


「ふふっ、本当に。満ち足りてるよ。馨とセックスすると愛されてるってすごく感じる。」


「当然、愛していますから。貴方を独り占めしたいくらい。」


ただ純粋に愛してる。子供みたいだけど、ずっとこの手で抱きしめて離したくない。


「もう全部、馨のだよ。他人なんて眼中にも入らないね。」


「それ、最高に可愛いです。」


「馨がそうさせたんだから、ちゃんと責任取ってよ?」


「はい、もちろんです。」


一生涯、みかちゃんと共に生きていきたい。みかちゃんを愛していきたい。

そう思う僕にさせたんだから、みかちゃんもちゃんと責任取ってくださいね。


キスして、愛情を確かめ合って、契約を結ぶ。

もう貴方以外を愛さない、と。


「馨、死んだら駄目だよ。」


「何でですか?」


珍しいな。みかちゃんがそんなこと言うの。酔ってるからかな?


「生きるのは怖いし、つらいし、痛いけど、死ぬのはもっと怖いし、もっとつらいし、もっと痛いから。経験者からのアドバイス。」


「ありがとうございます。」


「うん、ちゃんと自分の人生を生きるんだよ。俺にも振り回されないで。」


「みかちゃんにも、ですか?」


「もちろん。馨の人生に必要無かったらちゃんと切ってくれないと。俺、困っちゃうから。」


「そんなこと…。」


「あるかもしれないよ。いずれ、俺が邪魔になる時が。そしたら全部、捨てていいからね。」


「捨てられますかね?こんな良い思い出達。」


「さあ?まあ、そん時には忘れたい過去になってるんじゃん?」


と意地悪く笑ってる。


「俺は馨よりも先に死んじゃうからさ、ちょっと心配なんだよね。」


「そもそも、死なないでください。もし死んだら、僕もみかちゃんと一緒に死にますよ?」


「ほら、それ。俺の一番の心配要因。自分を大切にしないところ。」


「いや、そうじゃないです。これが一番自分がしたいことなんです。これって自分を大切にしてません?」


「ふふっ、相変わらず詭弁が得意なようで。まあ、そういうところも好きだけど。」


「あはっ、何なんですかあ。」


「ともかく、自分を生きろってこと。」


「んー、頑張ります。」


ビール三缶目。

バラエティー番組を見ながら、ソファでくつろいでいる。


「馨。今日、泊まってく?」


「はい。あっ、ちゃんと許可は取りましたよ。」


「ふふん。やった。」


と肩に寄りかかってきた。

あざと可愛いってこういうこと。


「みかちゃん、ここで寝たら風邪引いちゃいますよ。」


瞼が重いようで、そう声をかけても、また目が閉じかかっている。


「しょうがないですね。」


抱きかかえて、ベッドまで連れていく。


「馨、ありがと。」


ベッドに下ろすと、眠そうな目をして微笑んだ。


「おやすみなさい。」


とおでこにキスをする。


「ふふっ、おやすみ。」


可愛い。寝顔も見れるって幸せだよな。



ふと目が覚めた。今、時間?

目覚まし時計のライトを付ける。

二時五十分。まだ朝じゃない。


「すいません、起こしちゃいましたね。」


とずっと抱きしめてくれる彼氏に言われた。

振り返って顔を見ようとすると、こっち見ないでください、って止められる。


「馨、寝れないの?」


泣いてるのは、顔を見なくてもわかる。


「はい、薬は飲んだんですけどね。」


「寝れない間、何考えてた?」


「みかちゃんのこと、可愛いなって思って…今もずっと思ってますよ。」


と頭を撫でられる。


「じゃあ、何で泣いてるの?」


「泣いてないですよ。」


声が少し震えた。


「嘘はつかないで。お願い。」


彼の手に自分の手を重ねる。


「本当は、何度も何度も泣いてます。僕はもう泣きたくないのに、自然と涙が集まって、目からこぼれ落ちちゃって、気づいたら何故か泣いてるんです。それで、こんな時間まで寝れなくなりました。」


「そっか、今日は色々とあったからね。少しリラックスしようか。頭を休めて。」


寝返りを打って、馨と向かい合う。


「ほら、酷い顔してるでしょ?」


と涙を拭きながら、笑ってる。


「可愛い。」


涙でぐしゃぐしゃになった顔でも、愛する人の顔は可愛かった。


「なんでキスするの?」


また目から涙がこぼれてしまいそうだ。


「そんなのしたいからに決まってんじゃん。今は俺に集中して。」


つらい過去を反芻せずに、思い出に変えることができたなら。

どれほど楽に生きられるだろうか。

今はまだそれを誤魔化す術しか知らない。



「馨、起きて。遅刻するよ?」


みかちゃんが僕の名前を呼んでる。


「んん、あとちょっと。」


「それ、さっきも聞いた。」


「じゃあ…」


と眠気と戦いながら、起きる気力を欲している。


「これでしょ?」


彼はキスしたあとに誇らしげな顔をして笑った。


「ふふっ、おはようございます。」

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