第十八話
文化祭マジックなど戯言だった。
なんなら、クラスからちょっと浮いた。
「桃原さん、ちゃんと聞いてる?」
「え、あっ、はい。」
やばっ、聞いてなかった。
私は勉強する人になるのだ。
クラスで浮いていようが、勉強できることによって一目置かれる存在になるのだ。
そもそも、学校は勉強するところだ。
休み時間にスマホばっかりいじる馬鹿と私は違う。
あんな群れてないと生きていけない人達とは違う。
中間テストで結果を出す。夏休みだって私は頑張ったのだ。
母さんがみかちゃんと僕が付き合っていることを知ってからというもの、僕への束縛が厳しくなった気がする。
「馨、今日は何処へ行くの?」
「今日はみかちゃんの家で勉強を…」
「ちゃんと図書館で勉強しなさい。送ってあげるから。」
今週末も駄目か。
「お砂糖ちゃん、どーしたの?」
と僕が深いため息をついていると飴ちゃんが心配してきた。
「欲求不満。全然満たされない。」
と延々と悩んでいる。
「え、何があったん?」
「朝帰り決め込んだら、恋人に会えなくなりました。」
「ういい、やるじゃん。」
「その夜までは最高だったんよ。」
「そのまま朝までぐっすりしちゃったんだあ。」
「そう。それで、見事に会えなくなりました。もう僕は死ぬ。」
「馨ちゃんがそれ言うとまじで洒落に聞こえないよ。ザキ、ヘルプ。」
「ん?何?」
とザキがこっちまで来た。
うつ伏せで寝ている僕を飴ちゃんが指さしてジェスチャーで伝えている。
「馨、美味いもんなんか食うか?」
「まじで?ザキ、神。」
と飴ちゃんが返事をする。
「お前じゃねえ。馨にだよ。」
とそれにザキが突っ込む。
「ごめん。食欲も無いみたい。」
と徐ろに席を外す、今行きたい場所といえば、一つしかなかった。
夏の蒸し暑さが消えかかって、秋の涼しい風が吹き始めた。
「この場所で出会ったんだよな。」
と低いフェンスに肘をついて、辺りを意味もなく見渡す。
「あっ。」
と二人で目が合った。
「煙草休憩ですか?」
「うん、吸わないとやってられないから。」
と胸ポケットから煙草を取り出す。
「同じですね。」
「ふふっ、煙草吸えないくせに。」
と煙草を咥えながら笑われた。
「僕だって吸えますよ。副流煙なら。」
「うわ、身体に悪そー。」
白い煙が立ち込める。この匂いも彼が好きなものならば良いなと思ってしまう。
「みかちゃんと話せるのなら、毒でも美味しくいただきます。」
「ふふっ、狂おしいほど愛おしいね。君は。」
「僕にとっては、みかちゃんと会えない方がよっぽど毒ですから。」
「それは私も同じだよ。」
とまだ吸い始めて間もない煙草の火を消して、両頬を撫でられ、軽く口付けをされる。
「煙草、もう良いんですか?」
「うん。馨がいるから、必要無い。」
とすごい可愛いことを言われたので、今度は僕から口付けをする。
そして、ずっと欠けていた養分を補給するように何度も何度もキスをした。
「もっとずっとこうしてたいです。」
もうすぐチャイムが鳴る。
「俺も。授業ばっくれてここにいたい。」
「悪い先生。」
「君も大概じゃないか。」
「一緒に行きましょう。早くしないと遅れちゃいますよ。」
と重い足取りの彼の手を引く。
「あれ、お砂糖ちゃん。どったの?」
僕が突然、嬉しそうにしているので、飴が不審に思ってそう言ってきた。
「あはは。人生って、楽しいね。」
「馨ちゃん、情緒不安定すぎ。」
と笑われた。
もうすぐ中間テストか。と先生の話を聞きながら思い出す。
授業後、
「先生、テスト範囲ってどこですか?」
とワークを広げて、聞いてみた。
聞いた範囲を付箋にメモして貼っておく。
「どこら辺が重要ですかね?」
と何となく山をはるために聞き込みをする。
「全部、重要だ。勉強しろ。」
と一刀両断してきたのは碧先生。
「ううっ。でも、こういう文化系の記述は出さないですよね?」
「俺は何も答えないぞ。」
「いや、何となく顔でわかりますよ。」
と鎌をかけてみる。
「はあ、入試ではそんなことできないからな。全部ちゃんと勉強しておけ。」
ビンゴ、だと思う。じゃあ、ここら辺はそこまで覚えなくても大丈夫で…。
放課後になっても、情報収集は続いた。
「飯田先生、いらっしゃいますか?」
と職員室のドアの近くに立って、そう言うと、先生達が呼びに来てくれた。
ちなみに、飯田先生は英語を教えてくれるおじいちゃん先生。
「飯田先生、今回の中間テストの範囲ってどこですか?」
と教科書もワークも参考書も手に持って、準備万端で臨んだ。
「えーと、この教科書のここの本文二つと、ワークはそれに沿って、ここからここまでで、あっ、このページも入るな。」
とワークを見ながら教えてくれる。
「じゃあ、参考書はここのページも覚えた方が良いですか?」
「ああ、そうそう。これは重要だよ。」
と分かりやすく出そうなところを教えてくれる。
「わかりました。ありがとうございます。」
自分の頭の中で重要なところが整理できた。
「テスト勉強して、すっと赤点回避してんかい。」
「ふふっ。はい、頑張ります。」
最後にダジャレぶっ込まれた。
あのおじいちゃん好きだよな。ダジャレ。
授業中しらけるけど。僕は好きだし、何なら密かに笑ってる。
「馨、俺は呼ばないの?」
とスマホにメッセージが入る。可愛いいい。
絶対、拗ねてるよ。他の先生ばっか呼んでるから。
「呼んで欲しいんですか?笑」
と送ると、既読は付くが返信が中々来ない。
きっとどう返すかすごい悩んでるんだろうな。
だって、みかちゃんは僕の教科担当じゃないから。
「一回だけ。お願い。」
と悩みに悩んだんだろう返事が返ってきた。
「わかりました。」
と返信してから、職員室のドアをノックする。
「すいません、塩先生。いますか?」
と職員室のドアを開け、見渡すと、うつ伏せで寝ているみかちゃんが目に入った。
「ほら、塩 蜜柑。呼んでるぞ。」
と隣りの碧先生が寝ているみかちゃんの肩を叩く。
そして、みかちゃんが笑いを抑えながらこっちに歩いてきた。
「どうしよ。俺、顔真っ赤。」
とほんのり赤くなった頬を手で冷やしている。
「そんなに呼ばれるのが嬉しかったですか?」
「うん。」
と満面の笑みで答えられると、ああ、可愛すぎて無理。
「中間テスト終わったら、何かご褒美くださいね。」
「わかったよ。約束する。」
「そろそろ戻んないとですよ。」
と声をかけると、ちょっと寂しそうにするのもいちいち可愛い。
「じゃあ、馨、また明日ね。安心して、口実はちゃんと考えてあるから。」
「はい、わかりました。また明日、会えるのを楽しみにしてます。」
と言って、みかちゃんは職員室へ戻ってしまった。
「塩 蜜柑、何だったんだ?」
碧先生は自分の生徒のことが随分と気になっている様子。
「私のクラスの生徒が名札、落としちゃったみたいで。わざわざ届けに来てくれました。」
「ああ、そうなんか。あいつ、俺のクラスの優等生。」
「でしょうね。よく先生方に質問してる姿、見かけます。」
「本当、勉強熱心で感心するよ。」
「そうですね。」
テスト勉強ってやってもやってもキリがないよな。
休日にそんなことを思いながら、机に向かう。
時間があっという間にすぎていく。
もう日が暮れる。みかちゃんは今日何をしてたんだろうか。会えないのがつらい。
連絡でもしてみようか。
「みかちゃん、何してますか?」
とメッセージを送ると、
「映画見てる。」
とすぐに返信された。
映画の邪魔しちゃったかな。
「馨は?」
とその後にまたメッセージが送られた。
「勉強してました。でも、少しだけ休憩です。」
「そうなんだ。じゃあ、ちょっと通話でもする?」
「良いですね。」
と送信すると、電話がかかってきた。
「もしもし、馨?」
「はい。みかちゃん、声聞けて嬉しいです。」
「俺もだよ。どう?勉強は順調そう?」
「ああ、まあまあですかね?やることが多すぎて大変です。」
「ふふっ、お疲れ様。」
「みかちゃんはどんな映画見てたんですか?」
「んー、何だろ。ミュージカル映画かな。」
「面白いですか?」
「うーん、ちょっと寝てたから、内容全然入ってない。」
「それじゃあ、また見ないとですね。」
「そうだね。なんか馨がいないとすっごい暇。」
「何でですか?僕と会う前に戻っただけですよ。」
と意地悪く言ってみると、
「そうなんだけど、何しても心が満たされないんだよ。ずっと虚しい感じで。」
とみかちゃんの心を聞き出せた。
「ああ、それわかります。僕もみかちゃんがいないと余計に勉強が疲れます。」
「それ同じ?」
「同じですよ。みかちゃん、顔見て話したいです。」
「良いよ。」
とテレビ通話に切り替える。
「今は良い時代になりましたね。離れていてもこうやって話せるんですから。」
「そうだね。でも、触れることができないのがちょっともどかしいよ。」
「もっと未来になったら、そういうこともできるようになるんじゃないですか?技術の進歩で。」
「それはなんかまた別な気もするけど。」
「確かにそうですね。」
ロボットと握手して、間接的に感じることしかできなそう。
「馨、そこに置いてあるのは教材?」
と机周りが写っているので、ちょっと気になっている様子。
「そうですよ。さっきまで書いてたノートです。」
とノートの見開きを画面いっぱいに見せる。
「あっ、落書きしてる。」
「これは、デフォルメしたみかちゃんですね。」
「ふふっ、可愛い。」
とスクショをして、その落書きを写真として保存している。
「みかちゃんは描いてて飽きないです。とても魅力的なので。」
「じゃあ、ずっとこっち見ててよ。」
とじーっとこっちを見てくる。可愛い。
「凄い可愛いです。」
「馨は俺の何処が好き?」
「全部好きですよ。」
「具体的に。」
「じゃあまずは、その顔が好きです。」
「もしもこの顔が原型もわからないくらいぐちゃぐちゃになったら?馨はまだ俺の事、好き?」
「好きですよ。その性格が好きです。」
「馨を傷つけて、悲しませるような性格だったら?馨は俺を嫌いになる?」
「なりませんよ。まだまだ好きな要素がありますから。例えば、その名前が好きです。」
「名前?俺がこの名前が嫌いで改名したら?その後は?まだ好き?」
「ずっと好きですよ。あとは、その匂いが好きです。」
「匂い…凄いキツい香水付けてたら?」
「ふふっ、好きですよ。他にも、その手が好きです。」
「手フェチなの?なら、俺が手を切り落としたら?」
「その手、貰いたいですね。じゃあ今度は、その足が好きです。」
「俺が義足になったら?」
「介護しますよ。リハビリも手伝います。あとは、その声が好きです。」
「もしも俺が喋れなくなったら?」
「手話で話しましょう。僕、頑張って覚えるので。」
「でも、俺が目も耳も悪かったら?」
「そしたら、たくさん触れ合いましょう。僕は、その触感が好きです。」
「俺が全身麻痺になって、馨の事を感じれなくなったら?それでも好き?」
「好きですよ。僕の事を記憶している、その脳味噌が好きです。」
「じゃあ、記憶喪失になって、馨の事全部何もかも忘れたら?」
「僕の事を覚えて、また好きになって欲しいです。全力で惚れさせます。」
「ふふっ、それはそれで見たいかも。でも、もしも俺が回復の余地が無いってくらいずっと植物状態になったら?」
「そしたら、ずっとそばにいますよ。毎日話しかけて、お世話をします。だって、みかちゃんが生きてるんですから。その心臓が好きです。」
「もしも心臓も全部、移植して取り替えたら?」
「その遺伝子が好きです。遺伝子はさすがに移植できないですよね?」
「組み換えならできるよ。俺は自分の遺伝子が嫌いだから、組み換えちゃうかもね。」
「それでも好きですよ。その存在が好きです。」
「なら、俺が死んでから、骨が粉々になって、馨の元に何も残らなくなったら?ふふっ、これじゃあ好きも嫌いもないね。」
「いや、まだ好きですよ。その心が好きです。死んでしまっても、心は死なないと僕は信じてます。だから、好きです。」
「そっか。そんなに俺の事が好きなんだ。」
「はい。お分かりの通り、執拗いくらいずっと好きですよ。もしもみかちゃんが自分の何もかもを消してしまっても、僕の中ではずっと大好きなみかちゃんですから。」
「うん、本当に執拗いね。でも、その気持ちが凄い嬉しい。ありがとう、馨。俺も、もしも馨が単細胞生物になったとしても好きだよ。」
「何ですかその例え。ふふっ、みかちゃんらしい。」
「なるとしてもせめて、希望としてはゾウリムシ辺りになって欲しいかな。」
「それは善処します。」
「冗談だよ。それより、勉強の手を止めて悪かったね。」
「いえ、良い休憩になりました。」
「じゃあ、また学校で。会えるの楽しみにしてる。」
「はい。僕もですよ。」
と手を振られて、通話が切れる。
虚しさに心を支配されそうだったが、そんなのには構ってられない。
明日またみかちゃんに会える。その予定だけで充分だ。
中間テスト、早帰り。…即勉強。
これはさすがに病むって。
ああ、なんでテスト期間に限って、母さん家にいるんだよ。帰ったら、監視される。でも、即帰らないと怒られる。
「お砂糖ちゃん、テストお疲れ様会三日目はスタバでも飲まん?ザキも行くってよ。」
「霰、やばい。それ無理だわ。」
と母から電話がかかってきた証拠の画面を見せる。
「わお。馨ちゃんママ、鬼ぃ。」
「もしもし?」
「テスト三日目、お疲れ様。どうだった?」
「んー普通だよ。いつも通りかな。」
「そうなのね。今日はもう帰りなんでしょう?寄り道せずにちゃんと真っ直ぐ帰ってくるのよ。お母さん、お昼ご飯作って待ってるから。」
「ありがと。もうすぐ帰りのHRだから切るね。」
うぐっ、良心が痛む。というより、圧力が怖い。
一日目、少し遅く帰ったら、ちゃんと問いただす辺り、ちゃんと説教する辺り、二日目、三日目と念を押しに来る辺り、超怖い。
「僕はもう一生、この人には逆らえない。」
そんな気すらする。
「ああ、怖え。」
「でも、お砂糖ちゃんもちゃんと反抗期でしょ?」
「そうだよ。凄い悩みどころだよね。」
「馨、ちょっとお茶するくらいだぜ?大丈夫だって。」
とザキに肩を持たれる。
「ザキ。ザキはちゃんとこの人の怖さ、知ってるよな?」
「おっ…おう。」
「その上で、僕を誘ってるんだよね?」
「ああ、うん。そうだな。」
「え?何?どういうこと?」
「馨が馨母の言い付けに反抗する時は、それに関わった人物、だいたい俺が怒られてんの。」
「え、まじで?怒られんの?ザキ。」
と冗談半分に笑いながら言うと、
「そうだよ。霰、お前も道連れにしれやる。」
とザキが悪魔の微笑みで飴ちゃんに話しかける。
「今回は特にやばいよ。色々とやらかしてるし。」
「確かにお砂糖ちゃん、朝帰り決めてるからねー。」
「え、その分は俺関係無いっしょ。」
「そうじゃなくて、その分最近アングリーだから。」
「ああ、もう良いよ。腹くくってやるよ。」
「よっ、ザキ。漢だねー。」
と飴ちゃんが囃し立てる。
「おい、霰。お前もまじで道連れだかんな。」
「えー、俺最寄りちげーし。」
「その分は僕が払ってあげるからさ。」
「え、丁重にお断りさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
と引き攣った笑顔で聞いてくる。
「ふふっ、冗談だよ。ザキだけ連れてく。」
「よっしゃ、お茶すんぞ。」
と空元気を出していた。
「ザキ、それお茶するテンションじゃないでしょ。」
と飴が冷静に突っ込みを入れる。
「良いの。こういう時の馨は、いつもの一・五倍テンション高いから。」
と耳打ちで話した。
「ねーねー、写真撮ろうよ。」
とフラペチーノ片手に馨がスマホを取りだしている。
「いえーい。」
とピースをして、笑顔を作る。
「ねー、俺も入れてよ。」
「ごめんごめん、さっきのは証拠写真だから。次は一緒に撮ろ。」
と言われ、今度は三人で撮り直す。
「お砂糖ちゃんってやっぱ怖いよな。」
「もう慣れた。」
カシャ。
「俺、インスタに上げるう。写真ちょーだい。」
「良いよ。」
「お砂糖ちゃん、可愛いいい。」
「結構、盛れたっしょ?」
と馨が笑う。
「ただいま。」
ど玄関を開けると、
「はあ。こうもなってくると、もはや恒例行事ね。」
と深いため息の後、乾いた笑みを浮かべる。
とりあえず、中に入るように促された。
そして、母は僕の手を引いて、無言で僕に平手打ちをくらわせた。
一旦、叩いておきたかったのだろう。
「それで、匠くん。貴方は別に来なくたって良いのよ。なんで来るのかしら?」
と僕を叩いて少しは気が晴れたのか、笑顔でそう言っている。
「馨を遊びに誘ったのは俺なんで。」
「それ、毎回言うわよね?ここまで改善されないとなると、反省なんて全くしてないんでしょう?だから、貴方にはもう言うこともないの。悪いけど。」
「俺は言うことあります。馨になんでそんなに厳しくするんですか?」
「何を言ってるの?厳しくなんてしてないわ。ルールを破ったから怒ってるだけ。それは普通でしょう?」
「そんな話じゃないです。そのルールに問題があるって話ですよ。そんなに自由を奪って束縛したら、いくら何でも可哀想じゃないですか?」
「貴方って本当に馬鹿ね。相変わらずで安心すらしたわ。貴方だって長い付き合いなんだから知ってるでしょう?馨がどれだけ苦労してるか。」
「はい、わかってるつもりです。」
「なら、馨の事を思って頂戴。もう高校二年生のしかも二学期なのよ。大学受験まで時間が無いの。本当、高校一年生の時からもっと厳しくしておくんだったわ。今になってあんな馬鹿な真似されて…」
「母さん、その話は関係無いでしょ。」
と馨が口を挟む。
「馨。これだけは聞かせて。あんな奴とはもう別れたわよね?」
「…まだだけど。」
「貴方、本当に頭おかしいわよ。あんなの貴方の人生において害でしかないの。」
と強い口調で馨に言い寄る。
「母さん、この見てもまだそれ言える?この僕すごく楽しそうでしょ?」
と馨はさっき撮った写真を見せている。
「僕には友達との時間も恋人との時間もすごい大切な時間なんだよ。」
「そんなの大学受験が終わってからいくらでも…」
「いつ死ぬかわかんないのに、何でそんなこと言えんだよ。」
「…え?馨、それってどういうこと?」
「もう良い。行こ、ザキ。」
と馨に手を引かれ、家を出ていった。
家を出て、少し歩いて、馨が道端で蹲った。
「どうしよ。絶対に心配してる。あんな変な事言っちゃった。」
とボロボロと大粒の涙を流している。
「なんだよ。ここまで来て、母親の心配とか。わけわかんねえ。…しょうがないだろ、馨もつらいんだから。な?」
と頭を撫でてみた。
「ザキ、僕はこれからどうしたらいいんだろ。」
「そんなの、俺に聞かれてもわかんねえよ。とりあえず、泣きたいだけ、泣けばいいんじゃないか。」
「なんだよそれ。すげー笑える。」
まあ、笑ってくれたから良いか。
「ザキ、ありがとね。毎回、僕が言えないこと言ってくれて。」
「毎回、言いくるめられるけどな。」
「言ってくれるだけで、ありがたいから。」
「そっか。…馨、死ぬなよ。」
「え、何で?」
と俺の発言が可笑しいようで笑ってる。
「どんなにつらくて苦しくても、死んだら全部無くなっちゃうからな。良いことも、良い思い出も。」
「…ザキ、僕を泣かすなよ。」
潤んだ目で笑ってる。
「泣かすつもりは無かったんだけど。」
「ありがと。こんな僕と一緒にいてくれて。」
「それはお互い様だろ。」
この時間が好きだ。この瞬間が好きだ。この儚さが好きだ。
中間テストは過去最高点。
「桃原さん、今回は頑張ったね。」
と担任のイケメンに個人的に言われると周囲の視線が痛い。
「ああ、まあ、これは…」
と優越感にちょっぴり浸ったところで、
「せんせー、あたしも今回頑張ったくないですか?」
と邪魔された。
「ああ、はいはい。そうですね。」
「ちょっと、せんせーてきとー。」
「じゃあ、何て言って欲しいの?」
…イケメン強い。
「えっと、それは…。」
と女の子が照れて、考えている内に先生は颯爽と逃げていった。
「あっ、せんせー待ってよ。」
中間テスト、前回比少し低いくらい。
遊びも勉強も両立!充実した学校生活をエンジョイしよう☆
なんて、広告でよく見るけど、ありえない理想だよな。
今すぐにこの紙切れを燃やしたい。
トントン拍子に予備校生になって、勉強漬けの毎日。
安易に想像ができる。
「みかちゃん、もうここで会うのも最後ですよ。」
生物準備室。放課後、よく足を運んだ場所。
「そっか。寂しくなるね。」
と冷静に珈琲を一口飲んでいる。
「大丈夫ですよ。みかちゃん、人気者じゃないですか。」
「それまじで言ってる?」
「ふふふ。人生において幸せってのは、きっと毒なんでしょうね。」
「俺はずっと毒に溺れてたいよ。」




