第十五話
「お砂糖ちゃん、宿題パス。」
「じゃあ、ザキにそのままパス。」
「霰。宿題くらい自分でやれ。」
とノートで頭を叩かれた。
パスしただけなのに、暴力反対。
お砂糖ちゃんは、お絵描きしてて、ザキはゲームしてるのに、なんで俺だけ宿題なんてつまらないものをやらなきゃいけないんだ。
「ねーねー、俺も遊んで良いでしょ?二人とも遊んでるし。」
「音出さないよう配慮してるんだ。ちゃんと…」
「僕は別に良いと思うよ。飴がどんな目にあっても知らないけど。」
「ははっ。こういう時、馨が一番こえーよな。」
「え、そう?」
「もうやーめた。腹くくるわ。遊ぼー。」
徹夜すればどうにかなりそうだし、せっかく友達がいるのなら遊ばなきゃっしょ。
四泊五日のお泊まり会。会場はザキんち。
目的としては、文化祭のための動画作り。
「馨の両親、よく許してくれたな。」
とザキに聞かれたが、
「終わらせた宿題と模試の結果を見せれば、楽勝だったよ。」
と少し誇らしげに言ってみた。
事実、勉強しているという証拠、結果が見えれば案外、大丈夫なのだ。
さらに、あの父親から離れられると思うと気分も良い。
「ねー、本気で女装とかは?」
「それ、面白そう。やってみよ。」
「え、まじで?」
文化祭の出し物は動画配信になった。
アオチューブという名目で、クラスのみんなが個々に動画を撮って、それを配信するというのだ。
お客さんが行列などで退屈しないための工夫とは言っているが、ただ文化祭の出し物をみんなで作り、それを当日、運営するのがめんどくさいだけである。
「千咲ちゃん、確か中二だったよね?」
「いや、普通に殺されるって。メイク用品とか勝手に使ったら。」
「それって、許可取れば良いってこと?」
「あはっ。馨ちゃん、冴えてるぅ。早速、行こ。」
と飴と二人でザキの妹、千咲ちゃんのもとへ行った。
「ということで、動画作りの道具提供してくれないかな?」
「んー、馨にぃならあり。」
「え、なんで?」
「馨にぃが三人の中で一番女顔だから。」
「ねー飴。これって喜んで良いの?」
「わっかんね。」
動画内容はザキの妹、全面協力で馨ちゃんを女の子にする。に決定した。
「じゃあ、お披露目まで、さん、にー、いち。」
と掛け声に合わせて出てきた、セーラー服に身を包んだ馨は、美少女という言葉がよく似合う、可愛らしい女の子になっていた。
「うわっ、やっば。超本格的。めっちゃ可愛い。」
と霰は写真を撮っては、おかしさで笑っている。
もうこの状況、笑うしかないよな。
目の前にいるのは、男のはずなのに超が付く美少女。
「可愛すぎて、俺、ちょっと惚れたわ。」
「僕、あっ、私も鏡で見たときすごいびっくりしたわ。」
と馨のいつもの声をだいぶ高くした声でそう言った。
「ぷはっ、ちょっと待って。それは反則。」
「普通の喋り方にして。笑える。」
とその喋り方には冗談交じりのブーイングの荒らし。
「なんで?この方が私にぴったりでしょう?」
と馨もふざけ始めたところで動画のオチはついた。
動画内容は満足いく結果だ。
「馨ちゃん、スカートん中どーなってんの?」
霰が容赦無くスカートをめくる。
「ただのパンツだよ。」
と馨も嫌がる素振りも見せず、淡々と答えている。
「本当だ。ただのパンツだ。つまんねー。」
「ランジェリーでも着てた方が良かった?フリル付きの奴。」
「あはははっ、それもう別領域でしょ。」
「ちょっと期待してたくせに。」
「ねーザキ、馨ちゃんがひでぇ。」
「んなことない。」
「ことないな。」
「ほらあ。」
「うわあ、裏切りおった。たくちゃんは私の事、好きじゃないの?」
と高めの声でノーパソをいじっている俺の近くに寄ってきた。
ビジュが圧倒的女神。
「ああ、それはずるいわ。」
「え、何が?」
「見た目が女の子なのにそんな質問しちゃ駄目だよー。」
と霰が俺の心情を簡単に解説してくれる。
「でも、僕は僕じゃん。」
「じゃあ、好きだよ。これで勘弁して。」
と机にうつ伏せになった。
「ザキ、照れてんの?」
とそれを面白がって馨が聞いてくる。
「馨ちゃん、ザキ死んじゃうから。」
「ふふっ、わかったよ。ザキはうぶだからなぁ。」
「生憎、馨みたいにいい加減な付き合いはしないんで。」
「は?僕だって、いい加減じゃないよ。付き合ってる内につまんなくなっただけだし。」
「それがいい加減だって言ってんの。」
「ちょっ、ちょっと待って。喧嘩はやめて。えっと、個人的な意見述べても良いですか?…馨ちゃんの恋愛話とか超聞きたいんだけど。」
そう。飴霰は高校からの友達だから、馨の中学時代の話はよく知らない。
「良いよ。飴ちゃんだから特別に。」
いや、待てよ。馨の恋愛話って俺もちゃんと聞いた事無くないか?
「中学時代は告白されたら、付き合うようにしてたんだ。だって、告白するってすごい勇気いることでしょ。だから、それに答えてあげたいって気持ちがあったし、付き合う内に好きになれるかもって思ってたわけ。けど、みんな、僕の事は全然興味無かったんだ。僕の顔しか見てくれないし、褒めてくれない。結局、つまらなくなって、付き合ってすぐに別れるっていうのばっかだった。それで、高校では付き合わないようにって思ってたんだけど、僕の方が一目惚れしちゃった。」
「えー、馨ちゃんの今の恋人、すごい気になる。写真とか無い?」
「あるけど、見せたくないな。僕が嫌だったから。顔で判断されるのが。」
あと、性別とか教師とか色々と問題が重なってくるし。
「そっか、わかった。でも、ちゃんと性格の良さは伝わってるから。」
「ふふっ、良かった。」
「…馨、あんなこと言ってごめん。」
「謝らなくて良いよ。彼女より友達優先したり、本当いい加減だったから。あの時。」
「でも、馨と彼女の関係、何も知らないのに…。」
「ザキってそんな真面目くんだったっけ?」
と馨がにやけながら、聞いてくる。
「そうだよ。もっとザキはザキらしくおちゃらけてれば良いってもんよ。」
「それ、お前には言われたくなかったわ。」
と飴に少し突っかかってみる。
「は?俺がおちゃらけてるって言うの?事実だけどさあ。」
飴霰は本当にすごい人物だ。
場の空気を一番に考えて、悪くなったと思ったら、すぐに意見を出して建て直す。
その場合、自虐もお手の物だ。
盛り上げ役としても活躍していて、テンションが高さを維持して頑張っている時、疲れてしまわないか、少々心配ではある。
飴ちゃんは誰とでも仲良くなれるクラスの人気者という立ち位置。
そんな彼が僕達と仲良くしているのにはある理由がある。
彼はテンションの高低が激しい人間だ。
テンションが高いときはやり過ごせるのだが、テンションが上がらないとき、低いときにテンションが高い人間を演じるのがつらいという。
そこで、テンションが低いまま会話している僕達と一緒にいる時が彼にとって過ごしやすいらしい。
それに、喧嘩しても安心して見てられるとも言っていた。どーせ仲直りするからねって。
「飴ちゃん、もう眠い?」
食事も風呂も済ませて、ザキの部屋でホラー映画鑑賞。
隣りで飴ちゃんの瞼が落ちかかっている。
「んー。」
と覇気のない返事。きっとすごく眠いのだろう。
ホラー映画を途中で切って、
「もう寝よっか。」
と言ってみた。
「うん、そうだな。もう寝るか。」
とは言っているが、ザキは全く寝れそうにないだろう。
ホラー系すごい苦手な人だから。
飴ちゃんとザキを一人用ベッドに詰めて入れて、僕はクッションを枕にタオルケットをかけて、床で寝る。
「馨、起きてるか。」
ベッドに入ってから、一時間は経っただろうか。
ザキから小さく声をかけられた。
「起きてるけど?」
「どうしよ。やばいくらい寝れねぇ。」
「寝ようとするから寝れないんだよ。目を閉じて、横になるだけで少しは回復する。」
僕は寝付きが悪いタイプの不眠症だ。
考えれば考えるほど眠れなくなっていって、考え疲れたときにようやく寝れる感じ。
だから、ベッドに入ってすぐさま眠りはできない。
特に安心感が無いと寝れないようだ。
最近気づいた。
僕はみかちゃんと一緒だと寝付きが良い。
夜はいつの間にか寝ていて、朝はふと目が覚める。
寝るだけでこんなに疲れが取れるのかと新鮮な驚きがあった。
寝ていた記憶は無いが、熟睡したという感覚だけが残っているのが実に不思議だ。
「目、閉じるとさ、あいつが出てくるんだよ。映画のあいつが。」
「怖がりすぎ。」
「しょうがないだろ。苦手なんだから。」
「じゃあ、眠るまで一緒に話そ?」
「いいよ。何話す?」
「んー特に話すこともないかもね。」
「なんだよ、そっちから言い出したのに。」
「ごめんって。」
「なら、馨の幸せな話して。」
「幸せな話?つまんないよ?」
「そのほうが好都合だ。」
他人の幸せな話ほどつまらない話は無いと思う。
聞いたところによると、結婚式はだいたい一辺倒になってしまうという。
それは、幸せというレールが引かれているから。
そのレールから外れなければ、そのレールに沿った話しかできない。とてもつまらない話だ。
「僕は好きな人の笑顔が見れたら一番幸せかな。もちろん、好きな人とは一緒にいるだけで幸せ。」
「じゃあ、今すぐでも恋人に会いたい?」
「んー会えたら嬉しいけど、今は友達との時間だから良いかな。僕は友達といても幸せだから。」
「へー人生楽しそうだな。」
「うん、今がピークかも。」
と冗談か本気か自分でも分からないひとことを付け足した。
「そっか、良かったよ。馨がちゃんと幸せで、明るく楽しく過ごせてるなら。」
たぶん、ザキは僕の第二の保護者だろうな。友達でもあるけど。
「次、ザキの番ね。」
「え、俺も喋るん?」
「もち。」
「俺はー相変わらず、馨とこうやって仲良くできて嬉しいよ。」
「ん?照れてるん?」
とまたザキをからかってみた。
「まあ、恥ずかしいわなあ。あと、単純に暑い。」
とベッドから手足を出している。
「こっち来たら?床冷たいよ。」
とその手を引っ張るとザキがベッドからゴトッと音を立てて落っこちた。
「痛った。」
「ふふっ、ごめんごめん。わざとだけど。」
「わざとなのかよ。」
フローリングの床はひんやりしていて夏にはちょうど良かった。硬いけど。
「あー冷たくて気持ちいい。」
フローリングにザキが大の字で寝っ転がっている。
「ちょっと狭い。」
とザキを無理矢理退かして自分の領地を守る。
「あっ、馨の手、冷たっ。」
と退かした際に触れ合った温度差で、気づかれ、掴まれた。
「ここエアコンすごい当たるから。」
と謎の言い訳をしていると、右手で僕の左手の指の間に指を挟んで、ギュッと握った。
「冷たくて気持ちいい。」
ともう離さないと言った具合に僕の左手を握って笑顔を見せている。
「離して。暑い。」
ぶっきらぼうにそう言うと、
「えーちょうど良いじゃん。馨、冷え性だし。」
と言い返される。幼なじみを敵にまわすと怖いと思った。




