第十四話
時は無情にも俺らを置いて流れていく。
時間を持て余してばかりの人生だったけど、君と出会ってからは時間の少なさに嘆くことが多くなった。
俺にとって、恋とはただの暇つぶしだった。
お互いの存在を承認して、安心して、離れられなくなるっていう危険な遊び。
自分の存在価値がわからない時が最も恋に陥りやすい。それに加えて、人間に存在価値なんてないって事を知らない時はなおさらだ。
だからか、人間は誰かからの価値のある人間になりたくてしかたがないんだ。
違う、人間は価値が与えられてないと生きていけないからだ。
「長かった夏休み、皆さんはどの様に過ごしましたか?先生は…相変わらずですね。さて、夏休み気分をいつまでも引きずったままではいけませんね。文化祭の準備をしないとですから。」
文化祭、高校生活、最大の行事と言っていいほど、私の中ではトップクラスに位置付けられる楽しい行事、だと思う。
漫画で予習しているんだ。放課後まで頑張って準備して、頑張りを好きな人が認めてくれて、それで…。
文化祭マジックなんて言葉があるくらいだ。
青春のいちページ。作るぞー。
クラスでの出し物決めはどうでもよかった。何でも良かった。だから、多数決で適当に決まった。
結局、お化け屋敷になった。
「景ちゃん、この板塗って。」
とクラスのリーダー的存在に言われた。
何となく文化祭準備でスクールカーストがはっきり見えてきた。
「大して仕事もしてないくせに、仕切ってんじゃねーよ。」
「女王様気取りまじでうざい。」
という愚痴もちらほら聞こえてくる。
「みんな、平和にやろうよ。」と心の中で思っても、解決しないよな。
友達の間では共有できている。
あの子はああで、あの子はこうだ。その子が愚痴言われてて、この子はあまり性格が良くない。
でも、みんな楽しく文化祭をやりたい気持ちは一緒だ。
スクールカースト中位層下位層は特に何も発言しないで、大人しく女王様に従ってれば良いのだ。
けど、それは違う気がする。
スクールカースト上位層は楽しそうにお買い物にお喋りですか。
鬱憤溜まっているのはみんな一緒だ。私もそう。
じゃあ、誰が指摘する?
みんな嫌われたくないのは同じだ。いじめられたくない。
でも、変わらないよ。どうすれば良いの。
「ねえ、喋ってないで、ちゃんと仕事して欲しいな。」
やばい。言っちゃった。どうしよ。
「え?何?桃原さん。私達が仕事してないって言いたいわけ?みんなの為にこんなに買い物してきて、休憩もさせてくれないとか酷すぎない?」
え、怖い怖い。休憩なら十分してるって。
「そうじゃなくて。仕事、たくさんあるからさ。みんな大変なのは同じだし。手伝ってくれたら嬉しい、なんて。」
「ねえ、もっとはっきり喋ってくんね?よくわかんないんだけど。」
やばいやばい、超泣きたい。
「あの、えーと、その、もっと仕事して、欲しい。」
「は?私達にこんなに買い物させておいて、まだ働けとか、まじブラックだわー。」
「奴隷扱いされてね?」「うちら、かわいそー。」
「ああ、じゃあもういいです。私がやりますから。」
ああああ、もう最悪。
何で私が悪いみたいになってんの?
私、間違ってないよね。
涙止まんないし、トイレから出れないし、クラス入りたくない。
こんなことになるなら文化祭なんてなくて良かった。
「ホームルームか、教室戻んなきゃ。」
教室の前まで行くと、見覚えのある人が立っていた。
「あれ?桃ちゃん、ホームルーム始まってるよ。」
「どうしてここにいるんですか?砂糖先輩。」
「ああ、それは中にいる担任の先生にちょっと用事があって…って、桃ちゃん。目、赤いよ。何かあったの?」
と心配そうに聞いてくる先輩。つくづくお人好しだ。
「えっと、これは、ちょっと、クラスでごたついちゃいまして。」
「そっか、それは大変だね。」
と先輩は悩む様子を見せた。言葉を選んでくれているのだろう。
「桃ちゃんは文化祭、楽しみ?」
「んー楽しみ、でしたね。今はもう違います。」
「じゃあ、どうやったら、また楽しみになると思う?」
「みんなが準備に協力的だったら、良かったんだと思います。けど、私の想いだけ押し付けるのは駄目でしたね。失敗しました。」
「すごいね。ちゃんと分析できてるじゃん。なら、どうしたら協力的になってくれるのかな?」
「え、んーと、もので釣る、とかはどうです?」
「いいんじゃない?僕だったら、同調圧力かけて脅すけど。」
「何ですか、それ。怖いですよ。」
「やり方は人それぞれだから、自分が良いと思うのが一番だよ。」
「そうですね。自分のやり方でまた頑張ってみます。」
「うん。あーあと、クラスだけが世界じゃないから。桃ちゃんの味方はちゃんといるから安心して。」
ああ、何その言葉、嫌でも惚れちゃうじゃん。
優しさが染みて、また涙が出てきそう。
「ありがとうございます。」
「ふふっ、頑張って。」
「はい。あっ、ホームルーム。」
「ちょうど終わっちゃったみたいだね。」
教室から聞こえるゴタゴタという音。
誰かが出てくる。
「あ、桃原さん。会えてよかっ…馨、泣かせた?」
「え、違いますよ。お悩み相談的なアレです。」
「ふーん。で、解決した?」
「はい、砂糖先輩のおかげで。」
「へー。馨、良かったじゃん。良い先輩面できて。」
と先輩の頭をわしゃわしゃっと先生が撫でた。
「ああ、それ、やめてくださいよ。」
「お二人って仲良いんですね。」
あの先生があんなに生徒を可愛がるなんて思わなかった。
「…確かに、仲良いかもね。はい、これプリント。明日はちゃんとホームルームに出るように。じゃあ。」
と先輩を引っ張って、先生はその場から走早と去っていってしまった。
変な事言っちゃったかな?しかもあの間、ちょっと引っかかる。
「仲良いかもって言いましたね。」
「生徒に面と向かって、そんなこと言えないよ。依怙贔屓になるからね。」
「評価する対象でもないのに依怙贔屓だなんて。」
「それに俺も夏休み気分が抜けてないな。いつもだったら、あんなことしないのに。」
「確かに、人目が付かないところでしかやりませんね。」
「で、悩み相談って何だったの?」
「えーと、文化祭準備に協力的でない人達とちょっと揉めたらしいです。言わないでくださいよ。」
「わかってるよ。それに、先生なんてせいぜい助言くらいしかできないから。」
「僕も同じようなものです。」
「生徒同士の方がまだ良いよ。贔屓できるから。」
「先生も色々と大変ですね。」
「馨、みかちゃんって呼んで。もう先生じゃないから。」
「わかりましたよ、みかちゃん。」




