第十三話
今日の貴方は綺麗だ。
だから、きっと明日の貴方も綺麗に違いない。
では、いつになると貴方は綺麗でなくなるのであろうか。
僕の中の貴方はずっと綺麗なままだ。
何の曇りもない透き通ったダイヤモンドのように、貴方はその輝きを失わずに生きている。
だが、些細な事で僕が貴方を傷をつけてしまったらどうだろうか。
綺麗という価値が下がってしまうのだろうか。
それとも愛着という新たな価値が生まれてくるのだろうか。
貴方ではなくなってしまうのだろうか。
だが、一度手に入れてしまったら、それを失うのは、それはとても…。
「馨、見て。パンダがいる。」
「本当ですね。でも、パンダの価値はこの希少さだと思いませんか?それが無かったら、騒がれることも無い。」
「ん?随分と冷めたこと言うね。何か悩んでる?それとも、動物園は嫌いかな?」
「動物園、好きですよ。檻の中で大切に育てられて生きている動物は、まるで鏡写しに僕を見ているようです。」
「ふふっ、すごい嫌そう。」
「でも、みかちゃんと一緒にいられるのは楽しいですよ。」
「じゃあ、俺が馨に生物の魅力を説けば、もう少し楽しめるかな?」
「授業始める気ですか?」
「ううん、ただの恋人同士の会話だよ。」
案の定、その会話の内容は、ただの恋人同士の会話とはかけ離れたものだった。
パンダには指が七本あるだとか。
一日、十二時間寝るだとか。
目の周りが黒いのは日除け効果だとか。
たくさんの知識が次から次へと出てくる出てくる。
「そんなパンダ好きなみかちゃんにこれあげる。」
と頭に被せたのは、パンフレットの横に置いてあったパンダのペーパークラフトサンバイザー。無料。
きっと子供の為のやつだろうが、大人もよく似合ってる。少し、いやだいぶ、子供っぽいか?
「へー可愛い。今日一日被ってよう。」
と嬉しそうに言う彼に
「ああっ、それは無しです。」
と慌てて言い返す。
「え、なんで?」
と不思議そうに聞き返す彼。
「客寄せパンダみたいな美しさの貴方が、これ以上パンダになってどうするんですか。」
「ぷっ、はははは、俺はパンダにならないよ。」
ちょっと思い付いたジョーク。笑ってくれた。
しかし、みかちゃんに注目が集まるのは僕的にかなりやばいのである。
「僕だけのものにしたいです。唯一無二の貴方を。」
人間というカテゴリーの中で僕は生きていて、きっと檻の中で飾られていたら、僕は人間と呼ばれるのだろう。
傍から見たら、僕も人間で、その人も人間だ。
違いなんて分からないだろう。
だが、僕は彼を知っていて、僕の中では彼は特別な存在なんだ。
唯一無二という言葉がぴったりとはまる。
「ナマケモノ。可哀想な名前付けられましたね。」
「じゃあ、馨なら何て名前を付ける?」
「そうですね、低燃費とかどうですか?」
「ふふっ、悪くないね。自動車の印象が強いけど。」
「体質で遅くなってしまうのを怠けているって言われるのが気に食わないです。」
「きっとよく知らなかったんだよ。よく知らないから攻撃してしまうこともあるだろう?日常生活でも。」
「それを教えてくれるのがナマケモノってわけですか。動物園、少し興味深くなってきました。」
「興味が湧いてくれたのなら嬉しいよ。」
動物園には動物達に癒されるのはもちろん、共感しに来ている部分もあった。
最低限の生活は守られた上で、自由はなく、ただ生きる彼らに。励まされていた。
様々な見方があって、それはそれは面白い場所だ。
「みかちゃん、面白いもの見つけましたよ。」
とお土産屋でお宝を見つけ出したみたいに楽しそうに持ってきた。
「ラバのストラップ?」
「違いますよ。ラバのラバーの為のラバーストラップです。」
二つ一組のラバがハートマークを持っているストラップ。
「ふふっ、親父ギャグ好きだね。高校生なのに。」
「発想が面白いじゃないですか。」
厳密に言うと、ラバは交雑種だから子供はできないけど。
繁殖能力が無いからって愛し合わないとは限らないってわけか。
確かに面白い。
「あと、ナマケモノも買います。良い教訓を忘れないように。」
「そんなに気に入ったんだ、それ。」
今日の動物園、馨が楽しそうでなによりだ。
次は馨の興味あることを一緒にできたらいいな。




