サイコパス
◇◇◇◇◇
美しいステンドクラスに囲まれた神々しい大聖堂。
どこかでみたことがあるようなその光景。
よくよく思い返せばそこはこの世界に来て一番最初に見た景色だった。
そこに面識のある、一番最初に出会った美しい聖女、そして数人の神官が囲む様に立っている所を見てしまうと、そこはもう間違いなく勇者が召喚される部屋なんだと理解する事に時間の必要は無かった。
……ただ1つ、あえて異なる点を挙げるとするならば、先日復活した自称神の聖女が、天使の羽を生やし、右手を血だらけにしながら、その場に相応しくない言動と態度で怒り狂っている事くらいだろうか。
「ダンジョンの封印が解かれただと!? 貴様等は一体何をやっていたのだ! それでも聖女か! それでも我が末裔か!」
「も、申訳ありません!」
聖女を殴り蹴るの暴行を繰り返すバイオレンスな女は、毎日綺麗に手入れをされているであろう壁や装飾具に血と熱を飛ばしながら怒り狂う。
聖女が2人だとややこしい、ここでは仮に羽を生やしている女を皮肉を込めて神と名付けておく。
「誰の仕業なんだこれは!?」
「ア、アキという勇者でございます……」
「勇者だと!? 勇者にはあの封印は解けぬハズだぞ!」
顔芸をしているのかと勘違いする程、歪んだ表情から大量の汗がにじみ出す神は、ここ聖都に最もふさわしくない魔力を惑わせながら神官を1人壁へと蹴り飛ばした。
もはや悪魔に近い形相の聖女に、仮にでも神と名付けた自分に些か後悔を感じていると、いくつかの小さな魔力が光りを纏い、色鮮やかなステンドグラスから通り抜けそのまま神のもとへと集まりだした。
「これが全て……だと……ッ!? 数百年育て上げた魔力が! あらゆる魂全てだと!? ふざけるなッ! アレは私にしか扱えないはずだぞ!?」
大切に丹念に育て上げた作物を鹿と狸に全部食べられたかのようなリアクション、つまり頭を両手で抑えながら視線を地面に下ろしながら、神は足元に転げ落ちていた人間の頭を踏みつけながら話を続けた。
「その勇者は今どこにいる! どこにいるんだ!」
「そ……、それが、2日前に城塞都市ゲートラント付近のダンジョンでの目撃を最後に……ッ! 足取りを掴めておりません!」
「馬鹿者があああああ! 何故守っておかんのだ! それくらいの考えはお前でも持っていただろう!?」
「先鋭部隊200人で守っておりました! しかし! 魔物の大群に襲われた隙を付かれたようで」
「役に立たないクズ共ガァァアア!」
柔道家も絶賛するような蹴りが綺麗に神官のアゴにクリティカルヒット、そのまま部屋の片隅へと弾き飛ばされる。
よく見ると同じ場所に重症の神官が何人か転がっているのが見えてしまった。
口には決して出せないが、隣で腹を抱えながら笑い転げるトランさんよりよっぽど魔王らしいと僕は思った。
「勇者だろう!? 勇者なんだろう!? そのアキという人間は本当に勇者なんだろうなァ!?」
「は、はい! 確かに勇者の紋章を受け取っております! 能力は狩人の罠、管理せずとも脅威ではないと判断致しました!」
足元には血だまり、顔はいつのまにか痣だらけ。ボロボロになった白い服を握りしめながら、聖女は涙ながらにそう伝えた。
「……計画は万全だったはず。何かがおかしい。そのアキという人間、殺しておかなければまずい!」
画面越しに端的な物騒レベル99くらいの言葉を口走りながら、神官をまた一人おもちゃのように握り壊した。
「今すぐアキという勇者をここに連れてこい! 生死は問わぬ! 今すぐにだ!」
「ま、魔王の討伐はいかがなさいましょう!」
「あんなクズでマヌケな馬鹿の話なぞ今はどうでもいいわ!」
腹を抱えて笑っていたトランさんが一瞬にして笑顔が消えた。
地獄の鬼のような怖い表情を一瞬見てしまったような気がしたが、僕は全力で見なかった事にしながら画面に視線を戻す。
――支配者の眼
神が小さく呟くと、壁に飾られた世界地図に多くの点がまばらに光りだす。
大半が城塞都市と魔王城に、後はバラバラに、まるで夜空の星のように輝いている。
「魔王討伐へ向かっていない勇者は全員殺せ……」
「……は?」
「今! 聖都に残っている34人を今すぐ全て殺せと言っている!! この光っている点が勇者の居場所だ! 敵地以外で光っている異物、まずは全て狩り尽くせ!」
暴力で縛られた聖女と神官は、死の恐怖で我に返る事ができたのか、肯定の言葉だけを口にして一目散に部屋を後にした。
ようやく解放された生存者が出て行った部屋には、神と動かなくなった人の山だけが残った。
神々しいステンドグラスから差し込む光を受けながら、まるで懺悔するように神は空へと独り言をこぼし始めた。
「――300年、300年だぞ。その間、息絶えた勇者の魂とその力、そして300年かけた民の信仰が私を神格化させたのだぞ。だから、そう。何かの間違えで魔王が復活しても倒せる力を持っている。そうだ、そのはずだ。本来であれば魔王を開放させる前に魂は全て私のものにするはずだった」
視線を右手に逸らし、神様らしくない苦渋の表情を創り出す。
「――何がおきている? 封印は私しか解除できないはずだぞ。どんな魔力を行使しようが当時4人しかいなかった勇者の力を捻じ曲げるだなんて、そんな奴がこの世に存在する訳がない。神に等しい存在になる為に祈り続けた300年。民は祈り続け、勇者の魂を捧げ続けた300年。そして今、300の勇者が神の加護で強化され、神の命令で動く。万全、そう、完璧だったじゃないか」
ずいぶんと早口でペラペラと心境を吐露させている辺り、だいぶ焦っている事が僕に出さえ分かってしまう。
この状況に限っては神からは程遠い存在。哀れな天使の翼を付けたただのコスプレ人間にしか見えない。
「アキとは誰なんだ。何なんだ。クソッ! 殺す! 絶対に殺す! 苦しめて殺す! グチャグチャにして殺す! 手足を切り落として目の前で家畜のエサにしてやる! この世の絶望をぶち込んでからゆっくりと殺してやるッ!」
物騒レベル999くらいの言葉を口にした瞬間、全力メンヘラコスプレ神様はその場に居る死体もろとも部屋ごと破壊する程の魔力引き放ち、通信は途絶えてしまった。
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