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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
6章 集合都市アクアコット
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色気の欠片もない悪夢のような温泉回

「カッカッカ、いや最高じゃのうお主! カッカッカー!」


 この世界にきて26日目の朝を迎えた。

 何故か大変ご機嫌そうなアリディラさんが、早朝からボロボロになった僕の背中を遠慮なく叩いてくる。

 ボロボロというか、クタクタと例えるべきなのか、僕は始発から終電まで働き詰めたサラリーマンのように精魂共に疲れ果てていた。


「マスター、何があったんですか?」

「ごめんリリー、その言葉を僕の口から出すにはもう少し時間が必要みたいだよ」


 リリーが顔色を伺いながら聞いてきたその言葉に、僕は何も答えたくはなかった。

 あちこちにできた切傷が癒えてからじゃないと、とてもじゃないが話す気にはなれない。

 1日でも早くトランさんを助けて隠居したい、それしか頭の中には入れたくなかった。


「カッカッカ! いやな、アキの昨日からの行動が本当に面白くってのぉ!」


 空気と心を察する能力がなさそうなアリディラさんは、どこから仕入れたかは分からないが僕の昨日の行動を細部まで語りだした。

 僕は目の前に朝食が届けられるまで、切傷に塩を塗り込まれる思いをしながら昨日の事をフラッシュバックのように思い出す拷問を受けるはめになりそうだった。



 ◇◇◇◇◇



 リリーと白銀のシルヴィアさんと別れ、布団の中で半ば泣きながら寝ていた僕は夕方あたりに叩き起こされた。

 アリディラさんとセバストさんが僕の紋章とここ最近の行動を確認したいらしい。

 そういう事なら僕は喜んで協力しよう、僕は顔を洗って気持ちをリセットしてから現場へと向かった。




「まだ温泉に入ってないのか? 今がちょうどよい時間じゃ、そのまま行ってくるがよい」


 一通り話し終えた後、アリディラさんは再度温泉をオススメしてきた。

 個室は無いのかと聞くと、無いと回答が返ってきた。どうやら僕はあの怖い魔獣やらと一緒に温泉に入るしかないらしい、嫌だ、実に心苦しい。

 無防備な姿で巨大な虎や牛と一緒に入らなければならないなんて、想像するだけで心臓が痛くなる。


 だけども、入浴の感想を聞かせんかい! なんて脅しているような目をしたアリディラさんが何度も重ねてオススメした温泉に入らなかったら、更にもっと恐ろしい事になりそうだ。

 今日は休日では無かったのか、こんなのは休日じゃない、代休をよこせ! そう床に語り掛けながら、僕はおとなしく自慢の温泉とやらに向かう事に決めた。



 今日が何曜日かは分からない。そもそも曜日の概念があるのかすら分からない。

 多くの猛獣達が入浴している光景を見ると、おそらく休日なのだろうと察する事ができる。

 肩身の狭い思いをしながら入浴場に入ると、あちこちから絶え間ない視線を感じた。


 温泉って安らぎを得るために入るものだと思ってたけど、この世界では違うものなのかもしれないな。

 素早く全身を洗いながら1秒でも早くこの場を去ろうと心に誓った僕は、キラキラ輝く湯気が立ち上る温泉へと入ろうとした。



「熱!!! あっつ!!!」


 片足を入れただけで全身が火傷しそうな熱さ、というか風呂じゃねーよ! 鍋だよ鍋! 沸騰してるんじゃねーのかこれ!?

 猛獣基準で温度上げてんじゃねーよ! いや猛獣しか入らないからそうなんだろうけどさ!

 平然と湯につかり続けるこいつらはやっぱ生き物としての根本的な何かが違う、僕は真っ赤になってしまった右足を見ながらそう後悔した。


 ちょっとでも、ほんの少しでも楽しみにしてた僕が馬鹿だったみたいだ。

 そう吐き捨てながらこの場を去ろうとすると、一番端っこに区切られた温泉がある事に気づいた。


「……ギリギリいけるな」


 摂氏42度くらいの温泉が、僕の為に用意されたんじゃないかと錯覚するような形でそこに用意されていた。

 なんだ、ちゃんと入れる温泉があるじゃないか。そうだよね、どいつもこいつもあんな沸騰したお湯に入れる訳ないんだよね。

 僕は肩まで湯につかりながら、目を瞑ってゆっくりと自然の滋養を味わえる事に神へと感謝した。



 ◇◇◇◇◇



「カーカッカ! もうだめじゃー! 笑い死んでしまうー!」

「ハッハッハ! アキ殿、そこは子供用の温泉ですぞ!」


 色々な意味が含まれてそうな視線の中に「子供用の風呂に入る大人」という意味が含まれていたと知った時はさすがの僕も軽く死にたくなった。


「マスターは皮膚が弱いですからしょうがないですよ」

「弱くないよ! 普通だよ!」


 この場にいる全員が微笑ましい何かを見るような顔つきになってるけど、本当に不愉快だからやめてほしい。

 というか朝食まだかよ! ここに女王がいるんだからあまり待たせちゃだめなんじゃないの?


「カッカッカ! この話にはまだまだ続きがあってじゃな!」



 ◇◇◇◇◇



「あ、にんげんだー」


 背丈が小学生くらいの子供数名がリラックスしながら浸かっている僕の温泉を木端微塵にする勢いでダイブしてきた。

 まるで市民プールのように暴虐の限りを尽くしながら、すぐ隣で湧き上がってる熱湯を僕の顔にぶちまけてくる。

 まだ子供なのにこの残虐性、将来が本当に恐ろしいと僕は心底恐ろしく思った。


「おいにんげん、何か面白いはなしをしろ」


 黙れ人外! 年下の癖に上から目線で話しかけてきやがって! 人間様をなめるなよ? ……なんて言える毛の生えた心臓を次の異世界では標準搭載でお願いします。

 そう神に祈願し、子供たちに桃太郎と浦島太郎を聞かせて差し上げる事にした。

 桃太郎では鬼と人間の立場を逆にして、浦島太郎は最後におじいさんになった人間を笑う魚たちを取り入れた。

 子供たちにはメチャクチャ大好評だったが、人間である僕の心境は若干ではあるが複雑な心境だった。



 観客を満足させた事を確認した僕が湯船から出ると、まるでRPGの主人公になったかのようにぞろぞろと子供たちが後ろに続いていく。

 決して尊敬されてるとか、そういう訳じゃない。新しい玩具を見つけたみたいな輝いた目をみればそれは分かった。

 どうやらまだしばらく僕を開放させる気はないらしい。


 ついでに何か変な行動を起こせば殺すぞって感じのオーラを放ってる大人の猛獣達もぞろぞろとついてきた。

 神様、そろそろ僕を助けてくれたって罰は当たらないと思うよ? 分かる? 分かんねぇんだろうなぁ!


 何とか無事に着替え終わり、更衣室を出た所で売っていた牛乳をいただいた。

 本当はキンキンに冷えたお酒でも飲みたかったけど、僕の周りをうろうろする子供がいる手前、そんな事は健全な大人の手本としてはできなかった。


「ぎゅうにゅうかよー。こどもだなー」


 気を使ったんだよ。分かれよ。大人なんだよ。

 その言葉を、目の前で美味しそうに牛乳を飲む子供たちと同時に飲み込んだ。



「ずるいずるい! わたしにもおはなしして!」


 遠くから合流してきた女の子たちが、僕の服を破きそうな力で引っ張りながら訴えてきた。

 気づけば1クラス分の男女が僕を追い詰めるようにまわりを包囲している。


「……最初に言っておくけど、大した話じゃないんだからね」


 少し大きめのソファーに腰かけながら、最後に魔女に復讐を果たす白雪姫、いじめた者を鼻で笑いながら王子と結婚するシンデレラ等々、適当に脚色した物語を子供たちに頑張って聞かせてあげた。

 ちょっとした物珍しさに大人も集まってきたが、これは決して僕の話が面白いからという訳ではない。

 目の前で散歩していた犬が、急に言葉を理解して喋り出したらどう感じるだろうか? 更にちょっとした小話まで交えて来たらどう思うだろうか?

 "何故か人間が、俺達の理解できる言語で創作話をしている" 言葉だけでなく、ちょっとしたユニークな語りができるだけで彼らにとってはきっとそこそこのエンターテイメントなのだろう。


 トランさんを助けたらこれで生計を立ててもいいかもしれないな。

 そんな未来予想図を描きながら話をひと段落させると、遠くから地響きを立てながらこちらに向かっている猛獣が視界の中に入ってしまった。


「貴様かァ!? 娘に変な話を吹き込んでいる人間というのは!」


 カンガルーとゴリラを足して2で割った後にオマケで虎がついてきたような猛獣が、遠くから僕に向かって走り込んでくる。

 ダンプカーがアクセル全開で向かってくる迫力、避けなければ死ぬという単純で分かりやすい脅威が僕の目の前まで迫っていた。


「アンタァ! せっかく人間さんが芝居をしてくれてるっていうのに、なんで邪魔すんのかね!」


 同じようなサイズの猛獣が横からとんでもない威力のパンチを迫りくる脅威に向かって放ち、暴走機関車は木製の壁を破壊しながらどこか遠くに飛んで行った。

 この状況をなんと表現したらいいか僕には到底表現できそうにないが、風呂上りのはずなのに既にビッシリ汗をかいている光景を見る事できっと第三者は察する事ができるだろう。


 ……今更だが、本当に今更だけど今日という日は貴重な休日のはずだったんだ。

 何やら大声で言い争いをしているようだが、僕がこれ以上痛めつけられる理由がどこにも無いハズだ。

 この場にいる全員が2匹の喧嘩に注目している隙をついて、僕はこっそりと身を潜めながら避難する事にした。



 ◇◇◇◇◇



「マスター。その話、聞きたかったです。白雪姫ってなんですか?」

「残念だけど、二度とやる気はないよ。と言うかもういいでしょこの話は、朝ご飯はまだ来ないんですか?」


 食前に用意されたお茶をとっくに飲み干した僕は「やはり人間は面白いのぉ!」と笑っている2人を無視しながらいつまで経っても姿を現さない配給係の人に文句をつけた。


「カッカッカ! もう並べてよいぞ」


 アリディラさんがそう言い放つと、影で隠れていた侍女さんがトコトコと料理を運んできた。

 なんで止めていたんだろうか、どうしてもこの話をしたかったからなのだろうか。

 僕には到底理解できないが、この人は僕をいじめる事が好きに違いないという事だけははっきりと理解できた。


「で、アリディラ。その話の続きはまだですかな?」

「実はな、この先の話がまた面白くてな!」


 そんなくだらない話は置いといて、僕は魔王救出への鍵だとか、手がかりとか、そういう有益な話を聞きたいんですけどどうでしょうか?

 ……なんて言葉を口にできる毛の生えた心臓を次回召喚時にはお願いします。食前にそう祈りを捧げながら、僕は話の続き、言い換えれば悪夢のような出来事を強制的に思い出させられるはめになった。

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