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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
6章 集合都市アクアコット
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命を懸けた拷問転移

「今回に限っては僕という存在は必要ないと思うんですよ。リリーみたいに気配を隠す事もできないし、セバストさんみたいに飛ぶこともできない。よって隠密行動はおふたりにお任せしたいのですが」


 集合都市で一番偉いエルフを脅迫して情報を吐き出させる、という現代の山賊もビックリな強硬手段を決行する事になった僕達は、夜が更けるまで少し離れた所で穏便に話し合いをする事にした。


「この場で現状を一番把握しているアキ殿が行かないなんて道理はありませんぞ」


 大量に購入していた保存食を口に放り込みながら、この作戦に1人抵抗し続ける僕はまるで駄々をこねる子供のように反抗し続けた。

 集合都市とは呼ばれているけどアレは、つまり1つ1つの小さな国が集まった連合国。

 そんな巨大な国に忍び込んで、中枢にいるであろう王の首を取る…… なんだか一昔前に流行ったステルスアクションゲーのようなうたい文句。

 そんな無理ゲーを僕にやらせるだなんて、どんなプロゲーマーでもこんな主人公というハンデを背負っていたらクリアーできるハズがない。


「というかセバストさん、300年前に生きてたんだったら魔王の行方について何か把握してないんですか? 当事者が知らない事を他人が知っているとは思えなくなってきたんですけど」


 どうにかしてこんな馬鹿みたいに無謀な作戦を中止させたいと心の奥底から願っていた僕は、そもそもこの行動自体が無意味なんじゃないかと判断したいが為に、セバストさんにそう投げかけた。


「紋章で繋がれているという事はですな、運命を共にする事と同義。主が死ねば契約者も死ぬ、とまではいきませんが、主から流れていた魔力が止まると力を大きく失ってしまうのです」


 まるでお嬢様に仕える執事のように片眼鏡をクイッと上げながら、セバストさんは話を続ける。


「魔王様からの魔力を失った私は、この体を維持する事すらできませんでした。 そんな私ができる事といえば、薄っすらと残っている紋章を信じ生き続け、待ち続ける事しか無かったのです。主から受ける力の大きさはアキ殿とその従者がよく理解していらっしゃるはずです。シャドーウルフが短期間でここまで大きく成長する事は本来であれば不可能なのですから」


 沈みかける綺麗な太陽を背景に、セバストさんはまるで劇場で踊る役者のようなポーズで感情を表現していた。


「何もできなかった無力の己を恥じ続け300年! 突然紋章が大きく光りだしました! 初めは魔王様が復活なされたと確信しておりました!」


 クライマックスが近づいてきた為なのか、演技が大げさになってきたセバストさんは徐々にこちらに近づいてくる。


「そこに現れたのがアキ殿! 魔王様ではなかった事は残念ではありましたが、魔王ミクトラント様がご存命でいらっしゃる! そしてこの人間こそが救世主だと! それを証明するかのように今まで命を賭して旅を続けてきたアキ殿! 今ここで行動しなければそれらは全て偽りという事になってしまうのではありませんか!?」


 さぁ! 共に参りましょうぞ! みたいな雰囲気を辺り周辺にまき散らしながらこちらに右手を差し出してきたセバストさんに、僕は食事の手を止めずにこう言った。


「超大作が始まりそうな感動秘話を演じてくれたことには感謝したいんですけど、ソレとコレとは話が違いますよね。前後の話がこれっぽっちも繋がってないですよ。どうしてその話でこんな無茶で無謀な作戦を決行しないといけない事に繋がるんですか」

「……バレましたか」

「バレますよ。今ので確信しましたけど、間違いなく僕の事馬鹿にしてますよね」


 馬鹿というか見下している感が物凄い伝わって来ているのを感じている僕は、もうこの作戦を決行する気なんて地面に落ちた干し肉の欠片すら残っていなかった。


「今の話で理解できた事は、トランさんから貰った魔王の紋章のおかげでセバストさんは気兼ねなく行動できているって事ですね。そして僕が死ねばセバストさんとリリー、両方が大きく力を失うという点ですよ。そんな僕が敵国という危険地帯に足を踏み入れる利点は何処にもないように思えますけどね。逆にどうして行かなければいけないのか、その道理とやらを教えてくださいよ」


 遥かに年上のセバストさんに僕だって本当はこんなキツイ言葉を発したくない、ただ命が掛かってるからしょうがないんだ。

 悲しい瞳でばつの悪そうな顔をするセバストを見ながら、自身に暗示をかけるようにそう説得した。


「……リリー殿はどう思いますかな!? アキ殿と一緒に行動したほうが心強いのではありませんかな!?」


 泣きつくようにリリーに近づいたセバストさん。

 助けを求めて差し伸ばした右手を、リリーは害虫を払うように大きく叩き落とした。


「マスターの身の安全が大事に決まっています。心強いとか、そういう低次元の話とマスターの命を比べないでください」


 僕よりもドギツイ言葉で放ったその一撃で、セバストさんは本当に折れるんじゃないかと思うくらいのスピードでひざを折った。

 お、いいぞリリー! もっと言ってやってくれよ! そんな応援を頭に浮かべ、ようやく安心した僕はゆっくりと冷たい水を飲み喉を潤していく。


「……と言いたい所なのですが、マスターの目的は魔王の開放ですよね?」


 水分補給という命に直結する大切な行為を中断し、ばつの悪そうな顔をしながらリリーの方向に顔を向けた。


「マスターを守る為なら当然命を捨てる覚悟でいますが、マスターも命を懸けているのであれば行動すべきだと思います」

「つまりリリー殿はこう言いたい訳ですな! 仮にこの手段が失敗した場合、アキ殿は私とリリー殿という武器を同時に失ってしまう訳です。その後の行動にアキ殿になにか考えや手がかりがあればそれでもいいかもしれませんが、何か案がありますかな?」

「いや、特にはないですけど……」

「失敗したら後がないのであれば、今ここで全てを賭けて挑んでみてはいかがでしょうか。魔王様を復活させるという強大な目標、全力を出し切らねば達成なんてできませぬぞ」

「マスター。コイツの言い方には腹が立ちますが、同じような事を思っていました」


 有利だった戦場がいつのまにか不利な状況に傾きつつある事に気づいた僕は、必死に彼等を説得しようとする、というかしないと死んでしまう、間違いなく死ぬ、絶対に死ぬ。


「いやね!? 僕だって行きたいという志のような物はあるんですよ!? だけど向き不向きって問題がある訳じゃないですか。気配を消す事ができないから実行できないんですよね、参った参った!こりゃ参ったよ!本当は行きたかったんだけどしょうがないなー!」

「……アキ殿、転移魔法を使えばよろしいのではありませんか? 私達で対象を見つけてから、転移されてはいかがかと」


 宝物を見つけた盗賊のような悪い顔で、セバストさんはニヤリと笑ったのを僕は見逃さなかった。


「移動中にも言いましたけど、アレはめちゃくちゃ難しくて50メートルくらいしか転移できないですよ。しかも時間をかけて集中しなければできませんし」


 一瞬で都市に戻れる魔法かと思って喜んでた時期が懐かしい、そして絶望した時の感情を僕は未だに覚えているし忘れる事はないだろう。

 そう、だから無理、絶対無理なんだよ。だって集中する時間を使って歩いたほうが速いって本末転倒な魔法なのだから。


「リリー殿にトラップを付けていただき、そこを目指すように転移してみてはもらえませんかな」


 なんだかとても嫌な予感がする、そしてこの予感はメジャーリーガーも驚くほどの打率を誇っている。

 試しに300メートル離れた所で手を振っているリリーをイメージしながら、足元に転移魔法のトラップをゆっくりと慎重に創り出してみる。




「私の古い友人も転移魔法が使えましてな! 転移先のイメージ、そして目印になる魔力干渉物さえあれば転移可能と言っていましたが、大正解のようですな!」


 気持ち悪いくらいに成功した転移魔法に、とてもご機嫌な様子のセバストさん。

 何故か半端ない船酔いのような気持ち悪さに襲われている僕は、そのまま四つん這いになって先ほど飲んだ水を軽く戻した。

 そんな重症患者の頭上から響かせるように、セバストさんは歓喜の熱狂を続ける。


「紋章で繋がっているアキ殿とリリー殿の間には見えない魔力の道が存在している訳ですから、更に距離が離れていても転移できそうですな!」


 ですな! ですな! って五月蠅いなこの爺さん。くそ、僕に力があれば今すぐにでも黙らせてやるのに。

 今日以上に力を欲した日は無い、そんな己の無力さに打ちひしがれながら、背中をトントンしてくれるリリーの優しさを感じていた。



 ◇◇◇◇◇



「すっごく疲れます。しんどいです。これめっちゃ体が重くなります。しんどいです。ダメです」


 マグロ漁船で宙吊りにされたかのような最悪の船酔い気分を代償として、約1キロくらいの移動に無事成功。

 血の気が引いた顔色、立つ事もおぼつかないくらいに木端微塵に破壊された平衡感覚を何度も何度も味わった僕は、光源が月しかないこの世界に吸い込まれるように、草原で苦しみながら横たわっていた。


「では早速、リリー殿は地上、私は空から探し出す事にしましょう」

「ようやくマスターのお役に立てる事ができそうです」


 戦いながら発動できるか、ジャンプしながらでも大丈夫か、なんて事を途中から面白半分で僕の体を使い実験させられた。

 不安定な態勢で転移しようとするセバストさん、その不安定な状態を全身を使って受けとめるリリー。

 何が楽しいのかまったく理解ができないが、いつのまにか一致団結した二人の調子の乗り具合はとどまる所を知らなかった。


「厳重に守られていたら撤退する事だけは約束してくださいね……」


 闇夜に紛れて消えていく二人の後ろ姿を見送りながら、僕は思う。

 いくら時間がかかっても、異種族を説得して話を聞いて貰えば良かったのではないのか……と。

 殺し屋2名を差し向けておいて都合の良い話だとは思っているが、こんなハズでは無かったんですと、事が始まる前に神様に弁明だけはしておこう。

 まだ何も始まっていないにも係わらず既に限界が近い自分の体を労わり、僕は涙目になりながらそう思った。

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