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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
5章 魔法都市マジックスター
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戻ってきた平和な日常

◇◇◇◇◇


「何の実績もない勇者に許可を出す前例がありませんのでな。再度申請はしましたがおそらく無理でしょう」

「そうですか」


 この世界にきて23日目の朝を豪華なベッドで迎える事ができた僕は、朝一番で図書館使用許可の状況についてヤードさんに聞いてみた。

 結果はダメだった。


「儂個人なら入れるが…… 差し支えなければ要件をお聞かせ願えれば調べましょうぞ」


 この魔法都市に来た目的、つまりここで何の情報も得る事が出来なければ魔王救出への道が一筋も見えないまま閉ざされてしまう。

 聡明すぎるこの男に欠片でさえ情報を渡したくない状況ではあったが、どうやらそうも言ってられそうにない状況だ。


「300年前の勇者と魔王の戦いについての詳細が知りたいんです。つまりは剣と魔法で退治できました、めでたしめでたし…… ではなく、詳しい内容についてです」

「めでたしめでたし、ではなかったとお思いで?」

「それはそれでいいんです。具体的な魔王の倒し方さえ分かれば」

「なるほど、今夜までには調べておきましょう」

「ありがとうございます」


 ヤードさんは教師をやっているらしいから、この辺りの話は既に知っているような気がしてならなかった。

 それでもあえてこの場で即答せずに今夜まで伸ばすという事は、きっとこの行為に何か意味があるのではないかと僕は少し疑心に思っていた。

 何はともあれ、これ以上こちら側に足を踏み入れられてしまうのは危険すぎてしょうがない。

 この繋がりと関係は今日でお終いにしようと決意した。



 徹夜で修理してくれた職人さんに感謝をしながら、新品同様に綺麗になった防具を身に纏い外へとくり出した。

 まだ早い時間だというのに、街中は魔力と人で活気に満ち溢れている。

 二度と曲がり角で激突しないよう細心の注意を払いながら辿りついたお店で帰還の鈴と食料、そして都市周辺の地図を購入した。

 地図を購入した理由は、分かりやすく初心者から中級者向けダンジョンのマークが示されていたからだ。


 今現在トランさん救出の手がかりに唯一なりそうなのは、ダンジョンの奥で厳重に封印されていた、力と魂がごちゃ混ぜになったような闇の塊だけだ。

 吸収した時に魔王の紋章に1本線が加わった現象の意味は、何度考えてもまったく見当がつかない。


 紋章が完成されれば開放されるのだろうか? 7つ集めればなんでも願いが1つ叶うのだろうか?

 この世界は知らない事が多すぎる。とりあえず他にできる事も無いので、今日は夜までダンジョン巡りをすることに決定した。




 早々と外に出て集合場所に向けて歩いていると、まるで待ち構えていたようにリリーがひょっこりと姿を現す。


「今日は来ないのかと思っていました」


 腰まで長くなった黒髪をゆらゆら揺らしながら自然と僕の隣に立つリリー。

 改めて明るい場所で彼女の姿を見ると、何とも例えがたい緊張感を覚えてしまう。


 初めて会った時はあんなに幼女してたのに、今では褐色肌で美女でしかも獣娘ときたもんだ。

 インスタントなリアル源氏物語を体験している事に気づいた僕は、とてもじゃないけど平常心ではいられなかった。


「……リリー、今日はこの辺のダンジョンを巡ろうと思うんだ」


 自分の気持ちを誤魔化すように今日の計画を彼女に伝えると、一瞬猛烈に嫌そうな顔をした瞬間を僕は見逃さなかった。

 地図を見せながら簡単なダンジョンだと説明をすると、安心したようでいつもの笑顔に戻ってくれる。

 僕の不注意で軽くトラウマを植え付けてしまった事は深く反省しなければならないと思いながら、目的地に向けて足を一歩踏み出した。



 ◇◇◇◇◇



 地図によると一番近いダンジョンでも都市から歩いて2時間近くかかる場所にあるらしい。

 魔物の巣が都市から近すぎたら危ないという事はよく理解できるのだけど、このファンタジー異世界はもう少し僕に優しく、そして都合よく接してくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。

 そんな黒い感情を吸い込んでくれる、元気よく大地を照らす太陽と澄み渡る青空からの癒しに感謝しつつ、軽く整備された道を魔力を纏いながら走っていく。

 もう少しで到着という所で、リリーの耳がピクリと反応した。


「人間?」


 大きな狼姿のリリーは、大きく目を開きながらこくんと頷いて肯定した。


「今日は朝から豪勢になりそうだね」


 右手に罠を仕掛け、こちらも索敵しながら嬉しそうなリリーの後に続いていく。

 できれば3人以内でお願いしたい! といった期待を裏切るかのように、間も無く視界に入ったのは4人組の冒険者だった。

 更にオマケと言わんばかりに、勇者の紋章が薄く光りだす。

 つまりあの中に最低でも1人勇者が居るって事だ、ダンジョン攻略前になんとも先行き不安なトラブルが発生してしまった。


 冒険者をスルーしてダンジョン攻略しよう! と提案しようにもリリーが悲しむ所か怒り出しそうな雰囲気を放ってるし、よく見れば冒険者のすぐ後ろにはダンジョンらしき入り口が存在している。

 避けられない強制イベント発生、なんとも朝から憂鬱で仕方がない。

 時間が経てばそのまま何処かに移動してくれるかなと思っていたけど、何やら言い争いをしていて約20分以上経過してもそんな気配を微塵も感じさせない。

 リリーの「どうするんですか!? いつ殺すんですか!?」という視線を痛いくらい感じながら、僕は重い腰を上げながらゆっくりと冒険者達の方へと向かっていった。


「みなさん、どうかしたんですか?」


 勇者の紋章を見せ、無害でない事を証明しながら近づく。

 突然の声に最初は構えた姿勢を取っていた冒険者達も、ある意味最強の身分証を確認してくれるとゆっくりと剣を収めてくれた。


「いやな? このダンジョンには既に冒険者が入ってるみたいだからよ、他に行こうって話をしてんだ」

「だからもっと早くここに来たらよかったじゃない! アンタがチンタラご飯食べてるからこうなったんでしょ? ここから更に1時間歩かせるわけ!?」

「アルレットさん、そこは貴方もお化粧に時間をかけていたのでお互いさまですわ」

「まったく、喧嘩するほどなんとやらですよ、みなさん」


 こんなしょうもない議題で20分近く言い争っていたのかよ! その時間使って別のダンジョン行けよ! という言葉を一生懸命飲み込んでいく。

 朝から消化の悪そうな物を胃に放り込んでしまった僕は「そうなんですか、大変ですね」という言葉以外吐き出す事ができなかった。


「そうだ、アンタに決めてもらおう。俺とコイツ、どっちが正しいと思う?」


 物凄く力強そうな戦士が、無関係の僕にとんでもなくめんどくさそうな事案を加工せずにそのままの品質で提供してきてくれた。

 更に追加オーダーの如く、イライラしながら右目だけを大きく開き睨みつける女剣士の視線が突き刺さる。

 とりあえずその右手に握っている剣を収めてほしい、そう願いながら僕は1つの提案をする事にした。


「んー、ジャンケンだと不満がでそうですし、ここは1つ勇者が正しい! という事にしませんか?」


 それを聞いた鋭い目つきをしていた女剣士が嬉しそうに手袋を外し、意気揚々と右手を青空に捧げる。


「聞いた? じゃあ唯一勇者であるこの私が正義って事でいいわね! アンタ私に謝罪しなさい! 食べるの遅くてすみませんってね!」

「あ? 俺は3回以上おかわりしねーと体が動かねーんだからしょうがねーだろ!」

「アルレットさん、謝罪の強制はよくありませんわ。お互いを許し合えば争いは起きません」

「まったく、時間の無駄ですよ、みなさん」


 僕の提案が悪かったのか、それともどちらが正しいと言っても状況は同じになったのかは分からない。

 ただ、勇者はこの女剣士1人だけという事だけははっきりと判明した。


「では、こうしましょうか」


 右手に剣を握りしめ、そのまま魔力を送り込む。

 まるで今日の太陽みたいに光り輝く聖なる剣に意識を持っていかれる冒険者達。


「喧嘩両成敗ってことで」


 死への恐怖すら感じさせないように、そのまま一振りで仲良く並んだ女僧侶と男アーチャーの首を切り落とす。

 意識の外から放たれたはずの一撃を、先ほどまで馬鹿みたいに言い争っていた戦士の斧によって制止される。


 力任せに剣を弾き返す男戦士、そのまま流れるように剣をこちらに構える女勇者。

 仲間の死を目の前にしても即座にこの行動とは、ひょっとしたらそこそこの強者なのかもしれない。


 ただ、この状況で敵が僕1人だけだと思っている時点でその程度なんだろうな、そう考えながら男につけられたリリーのマーキングを見つめ続ける。

 2人が異変に気付いた瞬間、男の首はこの世から存在しなくなっていた。


 ただ1人生き残った女勇者は、僅かに動揺した後にこちらに大きく踏み込んだ。

 その僅かに止まった時間に仕掛けた束縛トラップ3個を全力をもって発動させると、まるで今にも動き出しそうな彫像みたいに固まった彼女。

 その光景を確認して、ひとまず僕は安心する事ができた。


「アンタ、一体、なん、なのよ……」


 ……オークどころかトロールでさえ呼吸を許さない威力のはずなんだけど、目の前の勇者は絞り出すように言葉を発していた。

 よく見ると身に着けている鎧が青白く薄っすらと光っている。

 魔力を纏ってガードしているのだろうか、それとも装備の効果なのだろうか、何にしてもなかなか困った事をしてくれる勇者さんだった。


 僕は剣を左手に持ち替え、闇の剣で勇者の鎧を軽く小突く。

 纏っていた青白い魔力は闇に吸い込まれ、彼女の体を守っていたものは全て無くなった。


「ガッ―― ガガァア――!」


 ようやく苦しみだしてくれた勇者の姿にほっと胸を撫で下ろす。

 束縛トラップだけではこの先上手くやっていけない、その情報を得られただけでもこいつらを殺しに来て良かったと思った。

 一仕事した体を労わるようにダンジョンの入り口へ寄りかかりながら、僕は彼女にこう伝えた。


「今更ですけど、うちのリリーもいっぱい食べるので僕は戦士さんが正しいと思いましたよ」


 いつの間にか1人を食べ終わり、2人目の頭を丸かじりしているリリーを見て思わず少し笑ってしまう。

 近くに転がっていた女僧侶の道具袋を覗いてみると、聖水や医療品の他に化粧品セットのような物も入っていた。


「そういえば化粧していたから遅れたとか言っていましたね。僕は女性の化粧とかはよく分からないんですが、もしかしたら気になる男性がこの中にいたんでしょうか? そうであれば悪い事をしましたね」


 有用そうな物以外を地面に放り捨て、続けて2人目の遺品を検品していく。


「まあ、現在進行形で悪い事をしている最中なんですけれどもね……」


 体が大きく成長したリリーには人間3人分は少し食べごたえが無かったみたいで、あっという間に完食してしまった。

 魔力たっぷりの美味しそうな勇者を食べさせてくれとの催促を受け、僕はゆっくりと勇者に近づいた。


「チンタラ遅くなってすみません。最後に言い残す事はありますか?」

「ギギッ―― ギギイィィ――!」


 口から大量のよだれ、眼から大粒の涙を流しながら懸命に何かを訴えているように見える。


「無さそうですね」


 僕の良心が最後の言葉くらい聞いて上げろ、なんて囁いている様に聞こえたが「今日と言う日はまだ始まったばかり、朝から体力を使うべきではない」と冷静な判断を脳が下した。

 我ながらなんて我が儘な思考なんだろう、なんて思いにふけっているとリリーが我慢できなかったのか生きたまま足を噛み砕き始めた。

 恐怖と苦痛で勇者の顔が恐ろしい形相に変化していく様をみて、さすがに可哀そうだと思い左手を彼女の頭に優しく置いた。


「おつかれさま」


 おそらく世界一緩いであろう死の宣告を受けて、彼女はそのまま苦痛の中で息を引き取った。




 勇者の肉を美味しそうに食べるリリーの姿を見ながら、僕は木影で休みながら一方的に4人を殺せた達成感で心が満たされていくのを感じていた。

 ……そうそう! こういう危なげのない戦いが1番なんだよ! ギリギリの殺し合いなんかもうこりごりだ! 僕は平和が大好きだ! 毎回こうやって穏便に終わってほしい!

 不要な遺品を燃やしながらようやく日常が戻ってきた実感を感じ取る事ができた僕は、血にこびり付いた剣を拭きながら気分よくダンジョンの奥へと歩み進める事にした。

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