終わりの見えない未開のダンジョン
ダンジョン最下層で仮眠を取り、僕達は地上を目指していた。
封印の間を攻略したんだから帰還の鈴くらい使えるだろう!? と期待しながら祈ったけど、まったくピクリとも反応しなかった。
話に聞いた通りの、強制転送トラップからの期間アイテム禁止コンボに僕達はハマってしまったようだった。
途中、レイスと呼ばれるお腹のあたりにある大きな口で噛みつくゴーストや、死してなお徘徊するオークゾンビ、ポルターガイストのように動く鎧や剣に遭遇したけど、闇の剣を持っているだけで何故か襲い掛かってくる事は無かった。
ひょっとしたら僕の傷だらけの体を見て、同族とでも思っている可能性も少しながら残っていたが、あまりこれ以上ネガティブな事を考える事を止めようと脳に提案書を提出する。
モンスターハウスのような空間に出くわしても襲われる事の無い、なんとも緊張感の欠片すらないダンジョン攻略なんて容易だと確信していた、していたはずだったんだけど……
「階段どこにもないんだけど」
そうなのだ。
先人たちが攻略していれば、リリーがその匂いを追跡してハイお終い! というお気楽イージーモードだったはず。
だけども、今回は違う。まったくの未開地なんだ。
仮に転送トラップを無視できれば上層から攻略できるだろうけども、転送されて誰一人帰って来ないような危険なダンジョンなんて誰も攻略なんてしてないんだ。
つまり転送トラップの恐ろしさはボス部屋に放り込まれるだけじゃなく、いつ地上に辿りつけるか分からない未知の迷宮との闘いでもあった。
そして更に追加でトラブルが発覚する。
出てくるのは魔物はどいつもこいつもゾンビ、お化け、剣と鎧。
つまり、食べられない。食べられる所が一切ない。
これが何を示すのかと言うと、隣にいるリリーがものすっごく不機嫌そうなオーラを放ち続けているのである。
敵は全て僕が追い返す、自分は嗅覚は役立たない、そしてご飯も食べられない。
そんな複雑極まった三重苦の苛立ちオーラが、この場にいるどの魔物よりも僕の心臓を締め上げながら襲ってくるのだから恐ろしい。
そして思い出してしまう、ダンジョン突入からどれくらい時間が経過したのかわからないが、アイオロス家との食事の約束も破ってる事に。
あのおじさんとベルさんを怒らせたら恐ろしく怖そうで「二度と魔法都市に入れてたまるか!」なんて事を権力を駆使されて実行されかねない。
……胃が痛くなることだらけだ! ファンタジー世界にきたら人間関係のしがらみから解放されると思ったのに! あんまりだ!
そんな誰にも理解されない黒い悩みを馳せながら、僕は無造作に闇の剣を振り回しながら重い足を動かしていった。
◇◇◇◇◇
「疲れた…… もうやだ……」
何時間、何十時間かかったか分からない。
僕達はダンジョンの中層にあるセーフエリアっぽい場所になんとか到着する事ができた。
……ここに来るまでセーフエリアの存在なんて忘れていた。
だっておかしいよ。ダンジョンの一室がそのまま安全地帯だなんて。
まったくもって信じられない、だけど今なら信じられる、否、信じるしかない。
「……リリー、寝てから先に行こう」
「……そうですね」
いくら安全地帯と言えども、狂暴なモンスターが襲ってこない保証なんか壁のどこにも書かれていない。
お互いに警戒できるように、背中合わせで横になった。
「マスター」
「……なに?」
眠りにつこうとしたタイミングで、背後からリリーが声をかけてくる。
「……助けてくれてありがとうございます」
「!? 急にどうしたの!?」
唐突にこの世のお別れみたいなセリフを伝えられた僕は、ビクっと体を震わせた。
頼むからもうドキドキハラハラするイベントをこれ以上発生させないでくれないかな!? と願いながら次の言葉を待った。
「最初に会った時にご飯をいただいて、いつも気にかけてくれて、今日もキマイラから助けて貰いました」
「……いいんだよ。僕だっていつも助けて貰ってるんだから」
自分の身を犠牲に僕を助けようとした事については抗議したい所ではあったけど、それは別の機会にする事にしよう。
……あぁそうだ、これだけは聞いておきたかったんだった。
「リリーはそれ以上大きくなるの?」
「お父さんとお母さんと同じ大きさになりましたが、これより大きい同族はいますのでどうなるかは分かりません」
これ以上大きくなられたら、ほんのちょこっと残っている誇りというか、威厳というか、何というかそういう類の物が失われてしまう気がするんだ。
今のリリーは美しくていいけど、小さいリリーは可愛いくて良かったなぁー!
なんて考えを読み取ったかのように、リリーは少し大きな声で疑問を投げかけてきた。
「マスターは大きい子と小さい子、どちらが好みなんですか?」
「……僕はね、見かけで判断しないように心掛けてるからね」
平静を装いながら、僕は答えになっていない言葉でそう答えた。
「だけどもまぁ、キマイラくらいに大きくなるのは困る」
「そうですね、困ります」
ふふふと、リリーは笑った。
僕もつられて笑いながら、閉じたがっていた瞳をようやく閉じる事にする。
背中から伝わる熱を感じながら、そのまま心地よい眠気に意識を手放す事にした。




