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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
5章 魔法都市マジックスター
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魔法の鎧と2つの剣

 大剣が2つに分かれて両手剣になる? なにそれめっちゃロマン!

 斧に魔力を込めれば刃の部分が爆発する? 近代戦士みたいでカッコイイ!

 見た感じ勇者の装備っぽい鎧が全身青白く輝いている! なにこれメッチャ欲しい……。


 武具屋に到着した僕に待ち構えていたのは『僕が考えた最強の装備』と題した中学2年生のノートを見ているかのような光景だった! ……なんて事を昨日も言っていたような気がする。

 前回は現実を分からせてもらったおかげで冷静では無かったが、今はもう落ち着いて辺りを見渡せる状態まで心が回復した。

 そんな穏やかな精神で、僕は心ゆくまでこの美術館のような空間を楽しみたいと思いながらアチラコチラを眺めていた。


「もしかして、貴方がアキ様で?」


 後ろから、店主らしき人が恐る恐る訪ねて来る。


「ええ、そうですが」

「それはよかった、アイオロス家からくたびれた鎧と剣を持っているアキという者がきたら、最高級の装備を見繕えと依頼を受けております」


 言いたい放題だなおい。

 ここまで来ると悪意があるんじゃないかと疑ってしまう所だよ。


「そんなに持ち合わせては無いんですけど……」

「お金は既に前金で戴いております。ささ、こちらに」


 美味しいご飯はご馳走されるし、最高級の装備を奢ってもらっちゃうし、今夜僕はどんな扱いを受けるのだろうか。

 興味は尽きないが、今は最高級にかっこいい装備を楽しみに現実から逃避する事にした。



 奥から運ばれてきたのは、白を基調とした鎧……と言うよりも、服に近いのかもしれない。

 肩や腰に多少の金属は使われているようだが、基本は布でできているように見える。

 所々に蒼く光るロマンが要所要所に散りばめられていてカッコイイ感じだが、見た目からは決して防御力が高そうには見えない。


「初めはみなさん同じ事を考えられます。どうして鎧ではないのか、と」


 見透かしたかのように、店主は続けて説明してくれる。


「この布は貴重な魔獣の素材から創り出した魔法糸で出来ております。そこに飾ってある目立つだけの鎧よりは遥かに頑丈で硬質です」


 少し触れてみると、厚い布を触っているハズなのにまるで岩を相手にしているような錯覚に陥った。

 意思を持っているかのようなカッコイイ神聖な鎧に、僕の心は釘付けになってしまった。


「重くて頑丈だけの鎧は見た目だけはいいので、そこに飾っておけば売れるのですよ。本物の装備を求めるのでしたら、これしかありません」


 何も知らなかったら間違いなく飾ってある鎧を買っていただろうな、なんて思いながらヤードさんとベルさんに心の中で感謝した。



 試着してみると、まるで生きているように魔法の鎧が全身に馴染むようにフィットした。

 どの角度に全身を動かしても、決して体を邪魔をする事はない。

 どんな仕組みになっているか到底理解が及ばないが、今まで見て来た中で1番ファンタジーっぽい凄い物だと断言できる代物だった。


「よくお似合いですよ」


 馬子にも衣裳を体現した姿が鏡の前に存在していた。

 軽くポーズを取ると、せっかくのカッコイイ装備が台無しになるくらいダサく見えたので、二度とやらないと心に決める。



「そして、こちらが剣になります」


 腰より少し大きい、少し前のリリーと同じくらいのサイズだ。

 中央が青の魔法石で装飾され、刃は白銀のように白く光っている。

 パラディンだったら似合いそうな剣だ。ただ、僕には少し大きすぎて使いこなせそうにない。


「……軽い」


 手に取ってみると、今まで使ってきた剣より大きいはずなのに、軽い。

 羽とまでは言わないが、まるでプラスチックで構成されているのかと疑ってしまう程の軽さだ。

 しかし、ここまで軽すぎてしまうと切れ味の方が心配になってきてしまう。


「魔力を込めてみてください」


 魔力ってどう込めるのか分からないけど、いつも罠を作っているような感覚で、右手で持っていた剣に力を込める。

 青の魔法石が白く光り、刃の部分が白銀のオーラで纏われた。


「さすが勇者様、見事なまでの光属性をお持ちのようで。その剣は持ち主の魔力によって属性が変化し、切れ味が増します。今まで使っていた剣なんて棒切れみたいに感じられますよ」


 なかなかワクワクするような事を言ってくれる。

 だとすると、オークやトロールも切り裂くことができるようになるのだろうか。

 あの太くて堅い腕や首を一刀両断できるのであれば、いますぐにでも試し切りがしたくてたまらなくなってくる。


「試しに外に出て魔物で試し切り、なんてしてみてはいかがですか?」


 ……なんだかこの店に入ってから、ずっと心を見透かされているように感じる。


「初めはみなさん同じ事を考えます」


 顔に出ていた疑問を、上等な装備が売れたおかげかニッコリと笑顔な主人はそう答えた。

 ではお言葉に甘えて、そうさせて貰うとしよう。


 店から一歩踏み出すと、いつもとは違う空気が肌に触れているような、そんな不思議な感覚が全身をめぐり始めた。

 なんだか今日はいい事がありそうだ、そう、僕の直感は意外と良くあたる。

 いい事っていうのは、分け合ってこそ輝くものだ。

 そんな綺麗事を並べながら、ひょっとしたらお腹を空かしているかもしれないリリーの為にある程度食料を調達してから外の世界に向かう事にした。




 ◇◇◇◇◇




 集合場所を決めてなかった事に気づき、焦りながら一昨日リリーと別れた場所へと向かっている。

 1日会わなかっただけなんだけど、理由は不明だがなんだか妙に緊張している自分がいた。


 ゆっくりと歩いていると、森の奥から気配が近寄ってきたのが分かった


「リリー!」


 あまりの嬉しさに我を忘れて走って近づいた。

 姿を現したリリーは獣型でおもいっきりジャンプし、空中でくるんと回転しながら人型になり、僕の胸に飛び込んできた。


「ますたー!」


 お互いに少し涙を流しながら抱きしめ合う。

 第三者から見ればまるで長年会えなかった恋人みたいな出会い方だが、別れてから僅か1日の出来事である。




「……にあってる」

「あ、ありがとう」


 事情をザックリ説明し、僕達は試し切りの為に森の奥へと入っていった。

 僕が居ない間も問題なく狩りはできていたようで、顔色がとても良かった。

 と言うよりも、僕より戦闘能力が高いんじゃないかってレベルまで成長しているリリーを心配する前に、そろそろ自分の成長具合を危惧するべき時なのかもしれない。


 そんな事を考えていると、リリーが何かを感知して走り出した。

 それに合わせて、僕も全身に魔力を込める。

 魔法の鎧が魔力を糧に推進力を創り出し、まるで重力が半分になったかのような軽さで風のように全身が駆けだした。


 それを見たリリーは獣型となり、僕とくっつくようにして並走する。

 数分かかるであろう距離を数秒で駆け抜け、丸々と太ったオーク2体が食事をしている場面を視界に捉えた。


 目視した距離が一瞬にして縮まっていく。

 オークがこちらに気づいた時には、既にこちらは剣を振り下ろしていた。


「オッラァ!」


 右手に力を込め、白く光り輝いた剣でオークの首へ全力で斬りかかる。

 まるで通販番組の切れ味紹介のように、簡単に堅い皮膚を骨ごと切り裂く事ができた。


 その状況を見てもう1体のオークは驚愕している様子だったが、たぶんこの場で一番驚いているのは間違いなく僕だろう。

 剣技なんて問題じゃなかった! 良質の武器さえあれば全て解決! なんて素晴らしいファンタジー現象なのだろうか。

 これが宝から得た得物ではなく、店売り装備だっていうんだから驚きが3割増しになってしまう。




 ――臨戦態勢のオークに視線を合わせ、剣を構える。

 ――人目があって試せなかった事を、ここでどうしても確かめてみたくなった。


 勇者の右手から魔王の左手に剣を持ち替え、魔力を込める。

 魔王の紋章が僅かに疼き、一瞬にして剣が光から闇へと染まっていく。

 周囲の光を吸い込みながら無数の何かが蠢いているように見えるその剣は、意思を持った妖刀のような邪悪さを纏わせていた。


 目の前のオークの足が後ろに一歩下がる。

 僕はこの時初めて、オークに脅威として認識された。


 逃げそうなオークをその場で縛りあげ、勢いよく飛び上がり闇の剣で首を縦に斬り裂いた!

 ……ハズが、まったく全然これっぽっちも斬り裂けない。

 というか、切り傷1つ付いていない。

 いきなり最強の剣がひのきの棒に変身したかのような、見た目とは裏腹に殺傷性はゼロとなってしまった。

 とりあえず右手に持ち替え、オークの命を光の剣で刈り取った。




 リリーがオークを食べている間、僕は左手に剣を持ったままだった。

 禍々しい闇の剣は、オークの体を貫いてはくれなかった。

 試しに木や石を切ろうとしてみるが、結果は同じ。


 シンプルに言えば、何も切る事が出来ない。

 ……まったく意味がわからない。

 図書館にいけば闇の剣の事について何か書かれているだろうか、いや絶対に何も書かれていないだろうな。

 じゃあ誰かに相談できるか? と言われてもこんな事を相談できる相手なんて世界中探してもいやしない。


 ……いや、そういえば1人いた。

 魔王の家臣セバストさん、あれから一度も会えてないけど一体何処に行ったんだろうか。

 記憶の片隅に追いやられて久しいけど、忘れない内にもう1度会っておきたいな。


 答えが導けない難問を思考しながら見慣れたリリーの食事風景を見ていたら、なんだか僕もお腹がすいてきた。

 収納袋から今朝買ったパンを取り出そうとすると、一緒にコロコロと小さな魔法具が転がり落ちた。


 ポケットサイズで超便利☆魔法障壁。

 たしかそんな昭和っぽいうたい文句で並べられていた魔法具だ。


 魔法なら切れるかな? そんな軽い気持ちで魔法具に力を込める。

 手元が光り、目の前にはファンタジーチックな透明の盾が展開された。

 どんな魔法にせよ、例外なくどれもカッコイイ。

 僕のトラップは地味だから、自分の手で魔法の盾が展開される所を見てしまうと感動すら覚えてしまう。


 震わせた心を抑えながら、左手に持った闇の剣を振り下ろした。

 透明の盾は切り裂かれた……といより、闇に飲まれたという表現が正しいのかもしれない。

 切り裂いた場所だけでなく、周辺の魔法跡が黒色に染まりながら剣へと吸い込まれていく。



「……地味だなあ」


 めちゃくちゃ便利で応用が効きそうなソレに対して、素直な言葉が素直に口からそのまま吐き出された。

 魔力を掃除機のように吸収するっぽいその闇は、何か不満があるか!? と訴えるようにぐにょぐにょとオーラを動かしていた。


 もっとこう「闇の刃を飛ばす!」とか「吸収して倍返しで反撃する!」とか「空間を切り裂く防御力無視の一撃!」……みたいな事ができるのかと思ったけど、そこまで便利でかっこよくはなさそうだ。

 黒きカラスによる捕食ブラック・バード・プレデターとか、導きの衝撃波(ブリンク・インパクト)とか、流星の弾丸(エストレラ・バレット)とか、そんな素敵な技を僕だって身に着けたいんだ。


 僕は立ち上がり、剣を構えた。

 瞳を閉じ、闇の弾丸を遠くに飛ばすイメージを全力で想像する。




 ――闇の流星(ブラック・メテオール)




「……なにしてるの?」


 ただの黒い剣を空振りしているだけの変人を、気の毒そうにリリーが覗き込んできた。


「わかんないよ……」


 意味の無く流れる悔し涙が、僕の表情と視界を歪めていた。

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