↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/142

勇者殺しと108匹わんちゃん

 10分後、手筈通りに狼の群れが冒険者達を包囲するように姿を現した。


「こいつらが山賊が操る狼ってやつかぁ!?」


 冒険者全員が1人残らず臨戦態勢へと移行した。

 僕も、形だけはと思い剣を構えた。


 狼達には「冒険者の力を知りたいからとりあえず威嚇してみてよ」とだけ伝えてある。

 何をするにしても、とりあえず冒険者側の戦力がいかほどの物かを知っておきたかったからだ。


 強すぎたらそのまま冒険者側についていき、なんとかなりそうなら何処かのタイミングで始末できればいいなと軽い考えて考案した作戦だった。




「狼如きが俺等に勝てる訳ねーだろうが! ――導きの衝撃波(ブリンク・インパクト)!」


 勇者の放つ光の斬撃は、狼数匹を樹齢千年くらいありそうな巨大な大木ごと簡単に切り裂いた。

 直撃を受けた狼は跡形もなくこの世から消し去り、大木はそのままこちらの方に倒れてくる。



「風よ! 目の前の障害を撃ち砕け! ――流星の弾丸(エストレラ・バレット)!」


 もう1人の勇者によって放たれたその銃弾、いや、銃弾と言うより大砲と例えたほうがいいのかもしれない。

 一発一発が一撃必殺を越える威力を持つその弾をマシンガンのように放つ勇者の手によって、岩と大木、そして数匹の狼は粉々に撃ち砕かれた。



 ……結論から言わせてもらうと、どう足掻いても勝てる気配が一切しない。

 その光景をまるで見慣れているかのように冷静でいる冒険者達を見るからに、こいつらも相当の実力者って事が推測できる。

 これからこんな奴らに強襲を受ける山賊に同情すら感じてしまいそうな、圧倒的な暴力。


「ハッ! 狼が怯えてやがるぜ! 野生の勘って奴が働いてんのかぁ?」


 狼だけではなく僕まで怯えているのだが、この場にいる誰もがそんな事を気にかけてはくれなかった。

 なんとも心臓に悪い戦場だ、はやくどちら側につくか決めようと腹をくくりながら、戦士と勇者2名に火属性トラップを仕掛ける。

 先ほどからガタガタと大声で響く音を発声する戦士が斧を振り上げた瞬間を狙い、首筋に仕掛けたトラップを神に祈りながら発動させる。


『神さま仏さま! 朝に訪れなかった幸運をここで僕にお授けください!』


 そんな心の叫びが通じたからか、聞きなれた爆発音と共に戦士の首から上が勢いよく上空に舞い上がり、ピンボールのように無数の木にぶつかり続けた。

 顔があった場所からはスプリンクラーのように血が噴き出し、緑一色だった景色を残酷な色に染め上げる。


 本来であればここでガッツポーズを決めながら自撮りを決め込みたい所だが、同じように仕掛けたはずの勇者2人が無傷で生還しているのを見ると今朝食べた朝食が逆流しそうな気分になってしまった。

 僕は確かに目撃した。

 発動させたはずのトラップを、長年の勘なのか能力による物なのかは理解できないが、爆発したと同時に体を光で多い、更に爆発と同じ方向に体を傾かせた事で満点の芸術点を叩き出しながら回避した瞬間を。


 悪の不意打ちなぞ、正義には通用せん! という漫画やゲームでよくあるセリフが、敵からしてみたらんなにも絶望する言葉なのかと頭痛がするくらい理解ができた。

 やはり勇者というだけあって、こいつら2人は別格に強い。

 正面から挑んだら一億回戦って一度も勝てない、そんな圧倒的な武力を兼ね備えている事は何も考察せずともハッキリした。



「魔法だ この狼魔法を使うぞ」

「狼じゃねえよ、どこかに別の奴が潜んでやがる」

「反魔法領域をだせ! とりあえず様子見だ」


 ――反魔法領域マジック・プロテクター!!


 ……ポピュラーすぎだろその魔法。

 みなさんご存じみたいな感じで頼むから使わないでくれ。



 圧倒的な戦力で、魔法を封じられたこの状況。

 残念ながら僕の攻撃手段が完全に断たれてしまった事になる。


「みんな! 狼だけでなく山賊の一味が潜んでいる可能性が高い! 固まるんだ! お互いの背中を守りながら戦うんだ!」

「そうだ! 攻撃のタイミングに敵は何かしらの行動を起こすはずだ! 周囲を警戒しろ!」

「そ……そうだな! 不意打ちさえ貰わなければこちらがやられる訳が無ぇ!」


 ――戦友よ、我に従い周囲を探れ! 妖精の探究者(フェアリー・シーカー)


 まるで厳正な規律を保持している軍隊のように、勇者を中心として素早く流れるように行動が成されていく。

 色々な意味で気分が悪くなっている僕を気遣ってくれるくらいの余裕が、既に彼等には存在してしまっていた。


 冒険者達がペアで背中合わせになっていく中、1人取り残されそうになる僕。

 やめてくれ! 体育の授業を思い出してしまう! ますます気分が悪くなってしまう!

 トラウマがフラッシュバックしそうな状況で、僕は必至に混ざれそうなグループを探した。


 そんな時、勇者2人が背中合わせで警戒している光景が視界に入る。

 誰もが見ても、戦場でこんなにも頼もしくて安心できる2人組は他には居ないと言い切るだろう。

 だけども、何故だろう。彼等を見ていると――



 ――鳥肌が立つような寒気、だけども頭は燃えるように熱くなり。

 ――呼吸が困難な程に鼓動は速くなり、毛穴から滝のように汗が噴き出てくるような気持ちの悪い感覚が全身を襲い。

 ――それらの感覚は、全て魔王の紋章から発せられている事を無意識に感じ取った。



 ……感じた事のないデタラメな症状は僕に理性を失わせ、まるで夢遊病のように全身を勝手に動かし始める。

 金縛りにあったかのように硬くなった全身が、流れるように混乱する戦場を駆け抜け、勇者2人の元へたどり着く。

 自然と2人に背中を預けながら、勇者とは正反対の場所(・・・・・・・・・・)に火属性トラップを仕掛け、発動する。


 なんでもない爆発音は、先ほどの奇襲のような魔法攻撃を思い出させ、この場にいる全員に戦慄を走らせる。

 全員が爆発した方角を意識している中、僕1人だけが違う場所を向いていた。



「死ね」



 勇者2人の頭に手を置きながら、乾いた喉から殺意を発した。

 その不意打ちに、自身の身に何が起きたのか気づけないまま、勇者は成す術もなくこの世を去った。


 どれだけ未来を想定しても、どれだけ敵の行動を予測できても、同じ勇者から攻撃されるとは微塵も思っていなかっただろう。

 それがひよっこの勇者相手であれば尚更だ。



 勇者2人を殺す問題の最適解を解き終えた時、ようやく体に自由が戻る。

 勝手に体を動かした何者かが、後はどうにかしろと身勝手に責任を放り投げた事は、意味はわからなくとも理解はできた。


「……勇者さん!? どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」


 我ながらバレバレな三文芝居だと思ったが、心の支えとなっていた物が壊れた人間には簡単に通用したようだ。


「お……おい! 勇者が倒れてるぞ! どうなってるんだよ!?」

「訳わかんねぇ! 相手は山賊と狼だけじゃねぇのかよ!? 俺達は一体何と戦ってんだよ!?」

「どうすんだよ! 勇者が抵抗できなかったら俺らになんとかできる相手じゃねえぞ!」


 リーダーが突然訳も分からず殺された状況に、一同一瞬にしてパニックの波に飲み込まれる。

 先ほどまでの規律が嘘のように崩壊する様を見ながら、この場の主導権を握る為に僕は剣を振るう。


 ――世界を導く戦神よ、我に仇なす者に制裁を! 全てを切り裂く正義の鉄槌を! 無慈悲な深紅の神判クリムゾン・ジャッジメント!」


 ……物凄い適当な事を言い放っちながら剣を全力で素振りするのと同時に、なるべく目立つように高い位置で火属性魔法を3つ重ねて爆発させた。

 その冗談交じりで発動した魔法が、発動地点を中心に触れるもの全てを燃やし尽くす巨大な煉獄を創り出した。

 見る物全てに紅が混じり合い、その美しさの根源はこの場の全てを魅了し、圧倒的な力は生きる者の思考を残さず支配した。


 非現実的でファンタジーの光景に、この場にいる冒険者と狼の全てが口をあんぐりさせながら呆然と恐怖していた。

 そして、この場の主導権を握ろうと試みただけなのに、先ほどの勇者2人から想定外のとんでもない力を奪った事に気づいた僕が、この場で一番ビビっていた。


「み……皆さん一ヵ所に纏まってください! 勇者の力で全てを無効化する聖域を張ります! そこに乗りながら一度退却しましょう! この場は危険すぎます!」


 難しく考える事は後回しにする事にして、とりあえず敵は全員排除する事に決める。

 勇者なのに一番弱いと見下していた奴が実はとんでもない力を持っていたという事実、彼等からしてみれば喉から手が出るほど望んでいた危機から救う救世主の登場! みたいな感動的シーンになっているに違いない。

 めちゃくちゃデタラメな僕の言葉に、まるで羊の群れのように従ってくれる冒険者達。




 ……元の世界で実際に戦争で使われている地雷は、実は殺傷能力がほとんど無いらしい。

 理由は単純で、殺してしまえば戦力は1人減るだけだが、片足が吹き飛ぶ程度の負傷であれば踏んで負傷した1人と、負傷者を運ぶ者やそれを治療する者の人員、つまり戦力を大幅に削る事ができるからだ。

 何が言いたいかと言うと、僕の火属性トラップも意図せずとも四肢のどれかがダメになる程度の威力だった。



 しかし、たった今、冒険者達に放ったトラップは、過去の比ではなかった。

 何と例えればいいのだろうか。

 そう、食べ物で例えるならば、フライパンの中でパンパン弾けるポップコーンのような感じだ。

 まるで体だけではなく、命まで弾けたように空高く飛んでいく様はまさにソレと同じようだった。


 見た事もないおびたたしい量の血液が、まるでゲリラ豪雨のように自然と一体になっていく。

 かろうじて生きている人間も、顔に紫の紋章が刻印されたと同時にリリーの牙によって刈り取られていく。

 リリーが死体の上で大きく吠えると、待ってましたと言わんばかりに狼の群れが瀕死の冒険者達を襲い始めた。


 息のある者は狼達に生きたまま喰われ、血の香りと悲鳴が辺りに木霊する。

 今ここで繰り広げられているのは、理想通りの、一方的な殺戮だった。




「……僕に襲い掛かってきたりしないよね」


 考えつくには遅すぎるその言葉を口にしながら、僕はぼーっとしながら非日常的でファンタジーな光景を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。