回転寿司もビックリな殺人者
翌朝、僕達はもはや本格的に拠点と化した町から1時間ほど離れた街道で待ち伏せをしていた。
宿屋の主人によると、1日だいたい7人くらいの宿泊があるらしい。
シャドーウルフ騒動が無ければこの5倍くらいは客がいるとの事なんだから、まだまだ脅威として恐れられてるんだなぁと他人事のように思った。
野イチゴのジャムがついたパンを頬張りながら早朝の街道をぼーっと監視する。
早起きは三文の徳としてついてきた炊き立てのパンは、この世界で一番おいしく感じられた。
そうこうしている内に、3人の冒険者がノコノコとやってくる。
素晴らしい事に辺りに他の気配は無い。
街道のど真ん中にトラップを仕掛け、パンを食べ終える事にちょうど冒険者達がゆっくりと確実に、時間をかけて力が込められたトラップを踏み込んでくれた。
――火属性の罠
轟音と共に2人の足首と体が辺りに血を撒き散らしながら空高く吹き飛ぶ。
そのさまは、爆発音さえ無視すればトランポリンでジャンプしているようなメルヘンな感じにも見えた。
残り1人には直撃せず、残念ながら後方に軽く転んだ程度で済んでしまっていた。
腰を抜かしながら悲鳴を上げている1人をそのまま眺めていると、首元にリリーのつけた紫色の紋章が浮かび上がる。
数秒後、その場には首の無くなった冒険者がまるで自分が死んだことに気づいていないように膝で立っていた。
整備された街道に罠があるなんて思う訳がなく、理想通りに事が運んでくれた事に思わずガッツポーズをしてしまった。
「……食べていい?」
「だめだめ、ここじゃ血の跡が残りすぎちゃうよ。向こうに持っていこう」
ずるずると引きずりながら森の奥へと引きずっていく。
筋肉マッチョの大人が鎧やら剣やらを装備していて、重量100キロ以上はあるんじゃないかと思うくらいの重さを両手で引きずれるくらいには成長している僕の体は思っている以上に進化しているみたいだった。
流石に中学生くらいに成長したリリーでも重い冒険者達を持ち運ぶ事は無理だった。
重い物を男が持ってあげる、だなんて久々に男らしいことをしているような気がして本日の僕はとてもご機嫌な気分だった。
計画通りではあるけれども、欲を言えば冒険者ではなく勇者を殺したい所ではある。
そうしないと【復讐者の進化】で能力が奪えなく、僕の成長には繋がらないからだ。
まあ300人もいるんだ、こればっかりはその内ひょこっと現れる事を祈るしかなかった。
リリーが3人を食べ終えて少し落ち着いた頃、再び3人組の冒険者が遠くから現れた。
今度は男戦士だけでなく、どうやら女僧侶らしき人もいるみたいだ。
ただまぁいくら後方支援が居ようとも、とりあえず先に前衛を殺せば問題ないだろう。
そう考えながら、同じように街道へトラップを仕掛けて相手が通るのを待った。
ノコノコと歩きながら、お手本のように先頭の男がトラップの上に踏み込んだ瞬間、たっぷり仕掛けた火属性トラップが発動する。
今度は3人まとめて喰らってくれるかと想像していたが、その期待は裏切られ、後ろで歩いていた男戦士が女僧侶の体を引っ張りながら間一髪で回避した。
なかなか感が鋭い冒険者みたいだが、別に大きな問題ではない。
男のほうに2個、女には1個、束縛トラップを仕掛けて発動させる。
まるで石像のように動けなくなった2人、あとはリリーに殺してもらってお終いだ。
なんて簡単でイージーなお仕事なんだろうか。
なんて思っていた、その時だった。
――反魔法領域!!
女僧侶が魔法を呟いた瞬間、辺り一面の地面が光りで覆われ始めた。
同時に、男と女の体が動き出す。
……よくわからないが、あの奇妙な光は僕のトラップを跡形もなく消し去った事実だけは即座に理解せざるを得なかった。
女僧侶はそのまま罠に直撃した男の治療を開始し始る。
まずいまずいまずい!
反射的に近くに転がっていた石に魔力を込め、2人の冒険者に投げつけた。
石は投げられた瞬間に魔力が剥がれ、ただの石となって冒険者の元へ僕の場所を知らせに飛んで行ってしまう。
当然ながら周辺を警戒していた男がギロリとコチラを睨んでくる。
「タリアァ! あいつは俺が抑える! お前ははやく治療してやれ!」
男が筋肉ダルマとは思えないくらいの恐ろしい速度でこちらに踏み込み、背丈くらいの大剣をこちらに思いっきり振り下ろしてくる。
後ろに飛ぶ事でギリギリ避ける事ができたが、態勢が崩れてしまい地面と背中がくっついた状態になってしまった
「はっ! どんだけ強えぇ奴かと期待したら、魔法だけのお坊ちゃまかよ!」
男が力強く剣を握りしめながらゆっくりとこちらに向かってくる
「お前の負けだ、ヒョロガキが」
「そうですね、"この勝負は"僕の負けです」
そう言葉を発したタイミングで、地面に広がっていた神々しい光りは元の自然色へと戻っていく。
男が慌てて後ろを振り返ると、そこには僧侶のクビを咥えているリリーが立っていた。
「――!?」
こちらに振り返ろうとする男の首はもうこちらには向く事はできなかった。
「貴方が2個で動けなくなるのは知っていますので」
僕は土で汚れた服をパパッと払いながらそう伝えた。
ぐるっと男の前に回り込むと、ギギギと歯ぎしりの音を立てながら抵抗する姿を見て少し驚いた。
「3個使われてまともに呼吸ができた人間を初めてみましたよ。凄いですね」
「――コロ……す!」
顔に存在する全ての筋肉に力を込めたその形相はまさに鬼のようだった。
「リリー、全力でお願い」
くるりと人型に変身したリリーは、ゆっくりと男の姿を見つめる。
男の顔に紫色の紋章が死の刻印のように浮かび上がる。
「貴方には感謝します、僕はこの世界を知らな過ぎていたようです。お礼として、一瞬で殺して差し上げます」
男が何かを叫んだ瞬間、その顔はあるべき場所にはもう存在しなかった。
噴水のように噴き出す血の量は、まるで断末魔のように勢いよく辺りを染め上げていた。
その光景に心惹かれていると、茂みから全身を土で汚しているリリーが顔を赤らめながらトコトコと戻ってくる。
「……勢いつけて飛びすぎちゃった」
僕は男の断末魔に負けないくらいの大笑いを辺りに響かせた。
「まあお互い、ゆっくりと自分の力を確認していこう」
しばらく人間狩りをしようとしたが、今日のコレで終わりにする事にした。
戦力が2倍になったからって、ちょっと調子に乗りすぎていた節がある。
まずは、やっぱり魔法都市に行こう。
強さより、まずは知識が必要だ。
このままじゃ毎回ちょっとしたギャンブルだ。
今回は魔法を打ち消すだけでよかったけど、もしかしたら跳ね返したり吸収する魔法だって存在するのかもしれない。
逆に、僕達2人だけで多くの敵を相手に立ち回れる手段も存在する可能性もある。
相手のチップは山ほどあるのに、こちらは2枚しかない。
そんな相手にギャンブルなんて割に合わない。
そもそも僕は賭け事が嫌いなんだ。
一か八かの勝負とか、ギリギリの勝負とか、命を懸けた戦いとか、そういうのは大嫌いなんだ。
確実に勝つ、その方法があるなら探しておくべきだと僕は思う。
時刻はお昼を過ぎたあたりだろうか。
雲行きが怪しい、この世界に来て初めての雨が降りそうだ。
少しはやめに、僕達は宿に避難する事に決めた。




