↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/142

天啓のグレネード

 寝不足の目を容赦なく太陽が照り付ける8日目の早朝。

 口の中の水分を容赦なく奪っていくパンにかじり付きながら村の外に隠れている僕達。


 僕のスキルが効かない勇者に、世間を騒がすシャドーウルフを見られたという一触即発的な緊急事態。

 そんな爆弾みたいな存在を野放しにする訳にはいかない。

 いつどんな風に爆発してくれるか分かったもんじゃない、だから素早くこの世界から撤去しなければいけない。


 連日飽きずにイベントが発生しているが、一週間に1日くらいは休みがあってもいいんじゃないかと思ってしまう。

 このままブラック企業も顔負けなスケジュールが続けば僕の心と身体が持ちそうにないからだ。


 ため息をつきながら、甘いジャムが塗られたパンを口にする。

 甘いものは大丈夫かなとリリーに少し食べて貰ったら「……だめ」という感想を貰った。

 食いしん坊なリリーが虫歯にだけはならなそうで少し安心した。



 ちょうど朝食を食べ終わる頃に冒険者4人組が宿から出てきた。

 目視で確認できるのは4人、トラップで感じる気配は3人。

 昨日と同じ、不気味で奇妙な状況だった。

 彼女がゴーストでないのを祈ろう、まぁゴーストは魔法でできたトラップを解除できない生き物だとは思うけど。

 ……ゴーストがどういう存在化は分からないけど、そうであると願いたい。


 冒険者らは昨日と同じ方向に向かっているようだった。

 トラップだと感づかれる可能性があるので、リリーの嗅覚に全力で頼りながら彼らを追跡した。





「氷の力を思い知れ! ――氷の刃(アイス・ブレイド)


 途中、昨日より少しサイズの小さいオークと遭遇するも魔法使いの活躍により難なく撃退していく冒険者。

 過ぎた事をぐちぐち言うのもアレだけど、やっぱり思い切りと行動ってのは大事なんだなとつくづく思う。


 1時間程歩いた所で、前日より三割増しに増強された戦力を持った冒険者たちは勇み足でダンジョンの中に入って行った。

 森の中に不気味に存在するダンジョンに迷わずに突入した所を見ると、目的地はここで間違いないみたいだ。



 さて、ここからどうしようか。

 ダンジョンの中までいくか? ここで待ち構えるか?


 僕はトラップ使いだから本来であれば待ち構えたほうが圧倒的に優位に立てる。

 だけれど、理屈は分からないけどそのトラップはあの女の前では無効化されてしまう。

 という事は、今までのやり方では戦えないという事だ。


 ダンジョンの入り口に、シャドウウルフ対策として買っといた煙玉を置いてみる。

 これを爆発させて、煙に紛れながら倒すというのはどうだろうか。

 それはダメだ、現実的じゃない。


 戦士だって強い。巨大なオークと渡り合った力を持つ。

 魔法使いだって強い。一方的にオークを倒せる魔法を習得している。

 僧侶だって強い。前衛を支援しながら倒れた仲間を回復させるくらいの技量がある。

 アーチャーなんかオークの目を正確無比に狙える技術を持って、しかも勇者だ。


 なんだかこう考えると、絶望的にこちらの戦力が足りなさすぎている事に気づいてしまう。

 よくよく考えれば僕はこの世界にきてまだ8日の新米勇者だ。

 相手がどの程度熟練した冒険者達なのか分からないけど、どう考えても戦力が足りなさすぎるし殺すのなんか絶対に無理だ。




 ……そこを、どうにか考えて殺すしかない状況に軽いめまいを覚える。

 戦士、アーチャー、魔法使い、僧侶。

 僕がボスキャラだったら裸足で逃げ出したくなるくらいの隙が無いバランスパーティー。



「なんだかもう嫌になっちゃうよ」

「……がんばる」


 リリーに苦笑いをしながら愚痴を漏らすと、前向きな応援が贈られてきた。

 あぁそうだ、そうだね、頑張らなければならない。

 彼女の為にも、僕の為にも、そしてトランさんの為にも頑張らないといけない所だ。



 散漫になっていた集中力を取り戻すように目を閉じる。


 どこかに弱点は無いのか?

 弱点といえば、最初に会った時は何故か魔法使いが倒れていた。

 そういえば彼等は不意打ちを受けたとか言っていたような気がする。


 トラップによる不意打ち。


 一番最初に考え、トラップが効かないからと諦めた案だけれど、果たして本当にそうだろうか。

 扉の外側のトラップは消されていても、内側のトラップは消されていなかった。

 という事は、直接触れないとトラップは消せないのかもしれない。

 意識をすれば触れなくても消せるのかもしれないが、何にせよ自動的に消される訳ではないみたいだ。


 不意打ちとは、文字通り不意を突いて攻撃するという意味だ。

 昨日オークに不意打ちを受けた人間が、今日明日のレベルで油断してくれるだろうか?

 ……いや、しないだろうな。


 町に戻った時、食事をしている時、寝ている時。

 油断するタイミングはそれくらいしか思いつかないが、どちらにしろ町にいる時じゃないと気を抜いてはくれないだろう。


 アーチャーは僕の事を信用しているだろうから、呼び出して殺せるとしよう。

 他の3人はどうだろうか?

 僕が助けたと予め説明して貰って、信用されてから1人ずつ呼び出せはしないだろうか?


 ……いや、前提がそもそもおかしいんだ。

 アーチャーがシャドーウルフを見た事は確実、この時点で相手が僕の事を疑い、警戒している事を前提に考えないといけない。

 だとしたら呼び出す行為は危険すぎる。


 という事は油断させて殺す事はまず無理だ。無理というかできない。

 戦力で考えれば一対一でも勝てるかどうか分からない相手、しかも相手は4人、それも町中で戦うとしたら分が悪すぎる。

 騒ぎがばれたら僕は悪い夢でも見ているかのような状況にぶち込まれるだろう。


 残念ながら町中で殺す事は諦めるしかない。

 外で油断させて殺す事しかできなさそうだ、でも油断は絶対にしてくれない。



 ――考えろ、何かあるはず。

 絶対にあるはず、4人が油断するタイミングが。


 ダンジョンのセーフルーム? 絶対にしない。

 食事のタイミング? これも無い。

 馬鹿な僕だって油断しない、だって一番油断しそうで狙われるタイミングなのだから。



 そもそも僕が油断したタイミングなんかあったか?

 ゴブリンすら怖かった頃なんか常にトラップを仕掛けて周囲を警戒していた僕が。

 一撃喰らえば大怪我する状況のこのファンタジー異世界で。





 ……あ、あった!

 まるで天啓のように閃いたアイデアに重かった身体が雲のように軽くなる。


 あったあった! そういえばあった!

 油断しないんじゃなくて"警戒できない"タイミングが一度だけあった!


 即座にリリーと一緒にダンジョンの中に入る。

 そしてすぐに道具袋の中から1つのアイテムを取り出し、使用する。

 そのアイテムとは、帰還の鈴。


 一瞬で全身が光りに包まれ、ダンジョンの外に瞬間移動する。


 そうだ、これを使って脱出した直後だけは警戒ができない。

 視界は光で見えないし、転送先の状況は何も分からない。

 これはもう状況としては油断しているようなものだ。


 ここまで来ればあと一歩だ。

 ダンジョンから脱出した4人をまとめて倒す方法を考えよう。


 真下にトラップ設置は消されるので却下。

 なるべく近くにトラップを仕掛けても、直撃でないと致命傷にはならないからこれも却下。


 一撃で、重傷を負わせないと話にならない。

 確実に、なるべく近くで、殺す方法。

 あと一歩、あと一歩なんだ、何か案があるはずなのになかなか思い浮かんでくれない。


「リリー、お父さんやお母さん、他の仲間達ってどうやって殺してたの?」


 眠そうな顔をそているリリーに、野生の勘でなんとかなるんじゃないかと思い助けを求めてみる。


「……わかんない 教えてもらうまえにしんじゃった」

「それは悪い事を聞いてしまったね……」

「でも、後ろか上がいいっていってた」


 後ろか上、恐怖の暗殺者は死角から攻撃すれば効果は抜群だと言っていたらしい。

 考えてみればそりゃそうだとしか感想は出てこなさそうだけど、僕はその発想を持っていなかった。


 転送先で向いてる方向なんて予測できないから、後ろからってのは難しそうだ。

 だとしたら上しかなさそうだけど……


 首を大きく曲げて上を眺めると、雲一つない海のような青空が広がっていた。

 気持ちのいい涼しい風が辺りの木々を揺らし、雲の代わりに木の葉が空を舞っていた。


「上からのトラップだなんて、ゲームだとしたら迫りくる壁とか、爆弾が降ってくるとか、落石くらいなものだけどなぁ」


 ――爆弾? 落石?

 ゆっくりと視線を青空から緑の草原に切り替え、足元に転がる何の変哲もない石を眺める。


「まさかグレネードみたいにはならないよなあ」


 石にトラップを仕掛け、遠くに投げながら発動してみる。

 大きな爆発音が辺りを響かせると共に、石は粉々に砕け散った。


「怖っ! 危険すぎるだろ火属性魔法!」


 隣を見ると獣耳をピョーンと伸ばしたリリーがこちらを睨みつけていた。

 殺意が込められた視線がめちゃくちゃ怖かった。


「リリーさんすみません、この石を持って真上にある枝まで登ってもらえませんか?」


 恐れ恐れお願いするとリリーは何も言わず狼となり、石を咥えてぴょんぴょんとめちゃくちゃ高い枝まで昇る事ができた。


「落としていいよー 地面に落ちる前に爆発させるから気を付けてねー」


 口を開けて放たれた石は、重力に従い地面に向かって落ちていく。

 地面に落ちる直前に、三重に仕掛けたトラップを発動させてみる。


 空気を振動させ、まるでプラスチック爆弾のような見たこともない特撮のような大爆発が周囲を無差別に襲った。

 石の破片が耳元をピューンという怖い音と共に飛び去って行く。

 背筋が凍る状況とは裏腹に、爆発地点から熱い空気が流れ込んできた。


 ……火柱を伴う火力を小石に凝縮させるとこんな事が起きるのか。

 我ながらなんとも恐ろしい武器を作り出してしまった。



 高所からピョンピョンと降りたリリーが人の姿で駆け寄ってくる。


「リリーありがとってグヘェ! 痛い! 痛いです!」


 目じりを険しく吊り上げながら脇腹に腰の入ったパンチを繰り出すリリー。

 こんなに感情をあらわにしている彼女を僕は初めてみた。

 その感情が怒りだったのが残念でならない。


「僕も驚いたんだってば! ごめんって!」

「……ゆるっ ……さなっ ……い!」


 いつも大人しい表情なのに、今は噛みつかんばかりの殺意を表現した狂暴な顔をしていらっしゃる。

 ……いかん! このままだと冒険者じゃなくてリリーに殺されてしまう!


「……おな! かが! すい! た!」

「分かりました! 今すぐ! 今すぐご飯を調達しますので! リリーさん、すんませんッ!」


 僕が食べらるか、ご飯を見つけるか。

 命を懸けたタイムアタックが火蓋を切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。