凶悪オークと無力な勇者
「……なにかいる」
真上に昇った太陽が辺りを元気よく照らしている。
お腹がすいた僕達はご飯を調達する為に少し道を外れて探索していた。
すると、深い森の奥にリリーが何かを感じ取った。
慎重に気配の元へ近づいていくと、1匹のオークと3人の人間が戦いを繰り広げていた。
状況を把握する為に、高い場所からその戦いをこっそり安全に眺める事にする。
「――マジかよ」
その戦いを見た一言目に、まるで現代の若者のような感想が自然と口から流れ出た。
今までオークという生き物は雑魚モンスター代名詞みたいな存在だと思っていた。
ゴブリン→コボルト→オークみたいな序列で、ゴブリンより少し強いイメージだ。
そんな幻想をぶち壊してくれるかのように、視界に映るオークは僕の身長の2倍近くあり、全身の筋肉を緑色の肌がより威圧的に際立たせていた。
頑丈そうな銀色の兜をかぶり、背丈と同じ長さの巨大な斧を軽々と振り回す。
冒険者の戦士が剣で切り付けるが、城壁のような皮膚が全てを阻んでいるようでオークには全くダメージが通っていないように見える。
遠くからアーチャーが矢を放つが、こちらも結果は同じだ。
後方支援をしているのは僧侶のようで、前線2人のフォローに徹していた。
辺りをよく見ると、戦っている3人の後ろに倒れている人間が見える。
逃げようにも仲間を置いては逃げられない、そんな緊迫した戦いが冒険者側から伝わってきた。
オークの攻撃は一撃一撃が重く、直撃を喰らったら四肢が軽く消し飛びそうな威力だ。
そんな猛攻をなんとか凌ぎつつなんとか前に進ませぬよう戦士とアーチャーは交互に絶え間なく攻撃をしかけるが、ダメージを受けないオーク側が圧倒的に優位なのは揺ぎ無かった。
「ほかに気配を感じたら教えてね」
隣でうつ伏せになっているリリーにそう伝えると、僕は目を閉じて集中する。
オークが巨体で狙いやすいとはいえ、少し距離が遠い為になかなかなかうまく力が籠められない。
両手を握りしめ、いつもの倍以上時間をかけて三重の束縛トラップを発動させた。
轟音を撒き散らしていたオークの動きが静止する事で、辺りがまるで時間が止まったかのような感覚に陥った。
何事かと冒険者側は混乱していたが、1人冷静だったアーチャーから即座に放たれた鋭い矢は見事にオークの右目を貫いた。
「グゥヴォォォォォ!!!!」
オークの絶叫が森にこだまする。
瞬間、僕の三重束縛トラップが残らず全て剥ぎ取られた。
「――マジか!?」
持てる限りの力を注ぎこんだつもりのトラップを、目の前のオークは軽々と力任せに破壊した。
トラップと同時に僕の自信も粉々に砕け散った瞬間だった。
オークが怒りに任せて振り下ろした斧は大地に突き刺さり、衝撃で周囲は空間ごと大きく揺さぶられる。
めちゃくちゃ怖えぇ……
もし対峙していたのが僕だったら、全裸で土下座しながら命乞いを決め込んでいたに違いない。
それくらいの威圧感、そして脅威が分かりやすく目の前に存在していた。
心を落ち着かせながら今度は火属性魔法をオークの背中に張り付ける。
先ほどより激しく動き回るオークに力を籠めるのはなかなか難しい。
その間、戦士とアーチャーが猛攻を凌ぐが徐々に後方に追いやられてしまい、倒れている魔法使いの場所まであと僅かの距離となった。
――三重の火属性魔法
オークが斧を大きく振りかぶったタイミングでトラップを発動させる。
背中で爆発した衝撃で前のめりに吹き飛び、頭から地面へ叩きつける事に成功した。
火だるまになったオークは苦しみから逃れるように地面を転げまわる。
「グガァァヴアアア!!!!」
苦痛を訴える咆哮は、まるで一種の兵器のように辺りを威圧した。
炎に包まれても死ぬ気配の無いオークに、1個縛りを加えて動きを制限しながら2個の火属性魔法で追撃を繰り返す。
「グヴォォォォォー!!!!」
先ほどより大きな奇声が森中を駆け巡る。
印象が強すぎて、今日の夢には確定で出演されてくれそうだ。
いつの間にか冒険者はオークから距離をとって、辺りを警戒していた。
それはそうだ、急に標的が動かなくなったり爆発したり火だるまになったりしたら、寝たきりの老人ですら飛び上がって双眼鏡を覗き込みこむ。
そのままオークに追撃を繰り返していると、右手に刻まれた勇者の紋章が黄色く光りだした。
何事かと思い周囲を確認すると、対峙していたアーチャーがこちらの方向にまっすぐ視線を向けていた。
アーチャーの右手も、お互いを勇者だと証明するかのように黄色く輝いていた。
「……逃げよう」
周囲にトラップを仕掛けながら、僕とリリーは一目散に来た道へと引き返した。
もし僕を見つけたとしても、生きてるオークと倒れている仲間を放り出してまで追跡はしてこないだろう。
あわよくばオークと一緒に奴らを殺そう……なんて考えが少しだけ頭によぎったけど、屈強なオークと渡り合った冒険者3人を相手にするのは、いくら相手が疲労しているといえ分が悪い。
しかも1人は少なくとも勇者だ、危険すぎて背筋が凍りそうだ。
というか、僕はもう安全を確認しないと基本的に戦いたくなんかない。
鳥と槍を操るチャラ男との死闘みたいな、血だらけでボロボロになる戦いは二度とごめんだ。
殺すならば、危険を感じずに一方的な暴力で殺したい。
肩を上下に息切れしながら、元の道へ戻ってきた。
隣には、呼吸を乱すことなくリリーが立っている。
この子に強さを求める前に、自分もまた強さを求めなければならない。
それが分かっただけで、意味もなく危ない橋を渡った甲斐があったというものだ。
僕らはまだまだ弱い。
分かりきっていた事だけど、オークと直接対峙する前に再認識する事ができてよかった。
RPGで新大陸に渡ったらとてつもなく強い敵が出てきた心境ってこんな感じなんだろうな、なんて考えながらリリーを見ていると「……なに?」と首を傾げられる。
「……いや、お腹がすいたと思ってね」
ご飯を探しに森に入った事をすっかり忘れていた。
そうだねと肯定するかのようにリリーは首を縦に振った。




