↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/142

野盗デストロイ

 アスファルトで舗装された道路なんてない。

 全て天然素材でできた一本の道を、大自然を堪能しながらただひたすら歩いていく僕達。

 都会育ちの僕には新鮮で綺麗に見えたこの風景も、残念ながら5時間も見続けていれば流石に退屈で弱音を吐きたくなっていた。


 腰に差した剣は約2キロだろうか、長距離を歩くとなると想像以上の継続ダメージを僕に与えてくる。

 軽鎧は何キロだろうか、見た目より軽く感じる鎧でも3キロはあるんじゃないかと感じる。

 この重さがボディーブローのように徐々に僕を痛めつけながら追い詰める。


 加えて、このままだらだらと歩いて進んでいたら本日の目的地である村にすら到着できない可能性も僕を苦しめた。

 GPSもナビも無いから現在地が分からない、残り何キロみたいな案内板があるかと思えばそれすらない。

 だから今のペースが速いのか遅いのか判断がつかないこの状況は不安でしかない。

 爽やかなはずの風は、僕の神経を逆なでしているようにしか思えてならなかった。


 隣にいるリリーを見ると、美味しそうにゴブリンの腕を食べながら息も切らさず歩いている。

 もし半年前の自分に会えるとしたら、1日1回は外に出て運動しろと命令したい。

 元気な太陽の攻撃を受け額に汗をかきながら、僕は何もない道をただひたすら、ひたすらに何も考えずに歩く事にした。



 村まで8時間で到着する計画なので、残り3時間で到着する所まで来た辺りでリリーが人の気配を感じ取った。

 しばらくすると僕の察知範囲にも1人の人間が入り込む。


 このまま何事も起きずに到着できればよかったんだけれど、残念ながらそうは問屋が卸さないみたいだ。


「……ゆみをもってる」


 僕には認識できなかったけど、どうやらリリーの鋭い目には武器を持った男が見えたらしい。

 猟師だとしたら隠れながら僕達を監視する理由がない。

 本当に残念だけど、どうやら相手は間違いなく野盗のようだった。


 ただでさえ疲れているのに、そのうえ野盗に襲われるなんてたまったものじゃない。

 そんな"森を歩いていたら何故か必ず野盗に襲られる"なんて絵に描いたようなファンタジー展開になってたまるか。


「リリー、僕は決して自分の為にあいつを殺す訳じゃないんだよ。ここを通る人達の安全を守るために、致し方なくあいつを殺さなければならない。結果としてあいつを殺す事になるだろうけど、それは勇者として、人々を守るために正義を執行したまでなんだよ。分かる?」


 僕はリリーに諭すようにこれから行動する理由について説明した。


「……わからない」


 首を傾げながら答えるリリーの姿を見て、僕は少し笑ってしまった。


「ごめん、僕もわからない」


 なんともご都合主義に作られた僕の嘘は、自分を騙せてもリリーは騙せなかった。

 剣を抜き、野盗の隠れる方向へ意識を集中させる。


 僕の能力は相手の攻撃に対する受けに対して脆弱すぎる。

 動いている相手に対しては集中しないとトラップを仕掛けられないし、最大3人までしか束縛、攻撃する事ができない。

 大勢で襲われたら対処できないし、しかも能力の高い相手だったらトラップ1個でちゃんと束縛できるか分からないから不安定な戦いになってしまう。

 

 対して、攻めはどうか。

 相手が気づいていない内にトラップを仕掛け、束縛するなり爆発するなりで相手を殺しておしまいだ。

 こちらにはトラップの索敵範囲とリリーの嗅覚によって敵の位置は把握できる。

 相手の数がいくら多くとも、気づかれずに1人1人暗殺していけば済む話だ。


 上手くいくかはわからない。

 どちらにしろ、僕は"攻撃されたから仕方なく反撃した"スタンスで行動するのは危険だと判断した。

 障害になりそうなリスクは全てこちらから排除していく。

 その対象がこちらに危害を加えようとしている人間だとしたら尚更だ。


 少し高い位置に潜む気配に向かって、トラップを適当に爆発させる。

 驚いた野盗が、立ち上がってこちらの状況を確認してくる。

 僕はゆっくりと男の方向に剣を向けながら、束縛トラップを胸に仕掛ける。


 ようやく気付かれた事に気付いた野盗は、森の中に逃げていく。


「今度はこちらが見つける番だよ」

「……ごはんっ!」


 どんなに入り組んだ森に逃げようとも、僕のトラップとリリーの嗅覚からは逃れる事はできない。

 先ほどまで重く感じていた身体は、いつのまにか羽のように軽くなっていた。



 ◇◇◇◇◇



 10分程追跡すると、奴らのアジトらしき小屋にたどり着いた。

 大きな木を背に作られた木造の小屋には3人、外には2人が小屋を囲うように巡回していた。


「リリー、他に気配は?」

「……ない!」


 目と口元をキラキラさせながらリリーは答える。

 その幸せそうな顔を見て少し噴き出しそうになるのを我慢しながら、僕は隠れながら近場の木陰にトラップを爆発させた。

 その音に気付いた2人の野盗は、お互いに顔を合わせる。


「俺ちょっと様子見てくるわー」

「おー、気を付けてなー」


 のこのこと1人歩いてくる野盗に聞こえるように、更に奥で小さく爆発させる。

 野盗は辺りを警戒しながら、ゆっくりと音の発生原へと足を踏み入れていく。

 ――そこは既に、仲間からは見えない死角とも知らずに。



 男に向けて束縛トラップを思いっきり三重に重ねて発動させる。

 直立不動になり、そのうち白目になりながら全身を痙攣させ始めた。

 大の男が失禁しながらピクピク動くさまは、なんとも奇妙な光景だった。


 3分くらい続けた所で反応が無くなり、トラップを解除して様子をうかがう。

 無事に呼吸停止を確認できた所で、めちゃくちゃ重たい男の身体を奥へと引きずっていく。


 何故か正座で待ちわびていたリリーの前に男を差し出すと、狼型に変身し頭から美味しそうにガブガブと食べ始めた。

 リリーが食べている間、もう1人の野盗が様子を確認しにこちらに近づいてきた。

 木陰に踏み込んだ瞬間、同じように息の根を止める。


 あまりの理想通りに、思わずガッツポーズを取りながら歓喜の声をあげてしまう。

 これ、これだよ、僕が求めていた理想の戦闘は!

 わざわざ殺すたびに綱渡りしてたら身体が持たないんだよ。

 そうそう、こういう安全な場所から殺せればそれが一番ベストなんだよ。

 今日を担当している運命の神様は事情がよく分かってらっしゃる、一生ついていきたい気分だ。


 倒れた野盗の頭に蹴りを入れて反応が無い事を確認した後、リリーに2体目をプレゼントした。

 おかわりを食べている間に、小屋の入り口に火属性トラップを三重に仕掛けておく。

 これでもか! ってくらい力をぶち込んだトラップは今までで一番の自信作だった。



「リリー、美味しい?」

「……おいしい!」


 何故か人型に戻って野盗を食べ始めたリリー。

 時間はかかるが、狼よりこっちのほうが美味しく感じる事ができるそうだ。

 獣耳をピクピクさせながら口のまわりを血だらけにしているその姿は、絵具で遊んでいる無邪気な子供のようだった。

 ……子供なんだけどね。


 木にもたれ掛けながらその平和な光景を見つめてリラックスしていると、大きな爆発音が周囲を響き渡らせた。

 自分でしかけたトラップに驚きながら小屋の方向を確認すると、屋根の半分が爆風で数メートル上に吹き飛んでいた。


「怖っ!」


 想像以上の威力に自然と声を出して驚愕しながら、食事を中断してもらったリリーと一緒に小屋へと向かう。

 中にはまだ生きている野盗2人が、トラップを踏んだ男の血と肉が飛び散っている部屋の中で、腰を抜かして床に倒れこんでいた。

 なんてもったいない事をしてくれたんだと言わんばかりのオーラを放つリリー、僕はその顔を直視できなかった。




「さて、貴方達にお聞きしたいことがあります」


 まだ生きている野盗2人にとりあえず束縛をしかけて、尋問を行う事にした。

 右手に持っている剣でわざと大きな音を立てるように、テーブルを思いっきりぶち壊しながら問う。


「何故、勇者である僕を襲おうとしたんですか?」

「許してくれ! 税金が高くて払えなかったんだ! 追い剥ぎでもして金を作らなきゃ嫁と子供が持っていかれちまう!」

「そうだ、勇者とは知らなかったんだ! シャドーウルフがいるってんで人通りがすくなかったからチャンスだと思っちまったんだ! 殺すつもりはなかった! 許してくれ! このとおりだ!」


 なんとも野盗らしい自分勝手な理由だった。

 そんな理由で少なくない数の人間が殺されていたのかと思うと、不憫でならない。

 部屋の片隅にゴミのように捨ててある血の付いた服を見ながら、僕は大きなため息をついた。



「なるほど、事情は理解できました。貴方には家族がいて、自分の身を危険にさらしてまで、家族のために仕方なく殺しをしてきたという事ですね」

「そ……そうなんだ! だからお願いだ! 俺が居なくなっちまったら、残った家族がだめになっちまう!」

「仲間が1人死んだんだ! これでなんとか手打ちにしてくれ! 頼む!」



「町はここから近いんですか?」

「勇者様が歩いていた道沿いをしばらく歩けば着きます! 是非、お詫びにご馳走させてくだせえ!」


 木造の小屋が焦げたいい香りを楽しみながら、僕は少し考えた。

 こいつらが目的の村に住んでいる事は間違いなさそうだが、これは別に問題ではない。

 問題は、こいつらが野盗という行為を行っている事を村の住人がどれくらい知っているかという事だ。

 働き盛りの男5人が、税金が払えないくらい貧しい村から居なくなっているんだ。これが本当なら誰も不思議に思わない訳がない。

 仮に村ぐるみの犯行だとしたら無計画に宿泊するのは危険すぎる気がする。


 ……残念ながらこの2人からこれ以上情報を聞き出す手段を僕は持ち合わせていない。

 四肢のどれかを切り落とせばオウムのように喋りだすのかもしれないけど、それが本当かどうか判別つかない。


 このファンタジー世界で一番恐ろしいのは自然でも魔物でもなく、どの世界でも共通して人間なんだなと呆れながらつくづく思う。

 出口の見えない考えを止めようとした所で、リリーが僕の服をクイクイと引っ張ってくる。

 そういえば食事の途中だった、リリーには悪い事をしてしまっている最中だった。


 ゆっくりと剣を男の首元に突き付けながら僕は言った。


「次も命を狙われないとは限りませんので、どちらか1人を殺させてください。1人相手なら反撃されてもどうにかなりますので」

「勘弁してくだせえ!」

「僕は両方でもいいんですよ。どちらか残った方が残りの家族も養えばいいんですよ。今すぐ決めてください」

「決められません! 勇者様助けてください!」


 必死に懇願する野盗だったが、彼らに殺された人たちもこうやって命乞いをしながら殺されていったんだろうなと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

 別に、殺された人の気持ちを汲もうって訳じゃないけど、それでも彼らの為に何かをしてあげたいという気持ちが少しながら湧き出てくる。


「じゃあ外で気絶している2人を殺すか、あなた方どちらか1人が死ぬか、決めてください」

「……え?」

「外の2人より、あなた1人のほうが稼ぎがいいと言うのであれば、ソレでもいいですよ。そのかわり2人の家族を養ってあげてくださいよ?」


 2人はかろうじて動く首から上をお互いに向かせて話し合う。

 この状況を見てると、初日に僕がゴブリンを殺せるかどうかって賭けをしていたガレンさん達を思い出す。

 成程、確かにこれは楽しい実験のようなものだ。


「……外の2人がもっと働いていればこんな事にはならなかったんだ」

「……そうだ、あいつが悪い」


 もっとも、この状況でも賭けは成立しそうにもないけれどね。


「じゃあ外の2人を殺すという事で?」


 男2人は、無言で頷き肯定する。


 なんでこんなに楽しいんだろう、なんでこんなに愉快なんだろう。

 力を持つという事、命を握るという事とはこんなにも自由で素晴らしい事だとは思ってもみなかった。

 強者はこの光景を眺めながら弱者をいたぶっていたのか、成程これは確かに癖になりそうだ。


「……忘れてました。外の2人は既に殺していたんでした。すみませんがあなた方も死んでください」


 男の左腕に思いっきり剣を切り付ける。

 まるで駄菓子のように柔らかく、スパっと綺麗に腕が切り落ちた。


「リリーは右、僕は左ね」


 痛みと恐怖の叫び声を聞きながら、僕は笑いながら男の右足に体重を乗せながら剣を突き刺す。

 蛇口を全開にひねったように生暖かい血がドボドボと流れ出る、同じような光景を何度も見ているとはいえゾクゾクと興奮を覚えてしまう。


「止めろおお!! お前それでも勇者かよ!? 人間かよ!?」

「馬鹿と強欲という単語で全てが説明がつきそうな人間を殺す行為に何も思う訳ないだろ。黙って死ね」


 剣技なんて覚えのない僕は、力任せに何度も何度も切り付けた。

 一週間前、この世界にくるまでは部屋に現れた虫すら怖くて殺せなかった人間とは思えないくらいに、悲鳴と血を一身に浴び続ける。



 ――僕の顔にはいつのまにか小さく涙が流れていた。

 悲しいからか、怖いからか、嬉しいからか、興奮しているからか。

 自分の事なのに、それすら分からない。

 剣を振る音しか聞こえなくなっても、僕はしばらく男の身体を切り刻んでいた。





 リリーが1人前を完食した所で、僕は近くの椅子に腰を下ろした。

 道具袋から水を取り出し、頭から浴びるようにして水を飲み込む。



 ――いつから自分がこうなったかは分からない。

 記憶共有、魔王の紋章、勇者の紋章、そして元々持っていたスキル【復讐者の進化】アヴェンジャー・エボリューションの影響なのか。

 それとも元々こういう人間だったのか。


 殺す為の理由を無意識に他者に求め、命乞いをしている人間を痛めつけて殺す。

 今更だけど、今まで出会ってきた中で一番の極悪人は僕だという事にようやく気付いた。


 物語の主人公がどいつもこいつも"攻撃されたから仕方なく反撃した"スタンスでいる事の理由が今なら理解できる。

 仕方なく相手を攻撃する、この究極の受け身はこの世で一番精神的に楽な戦闘態勢だからだ。

 そんな簡単な答えに辿りつくのに僕はここまで時間がかかった。



 リリーが残りを美味しくいただいている間、僕はしばらく目を閉じた。

 森の香りと、それを運ぶ優しい風が優しく、こんなにも酷い僕の肌を優しく撫でてくれたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。