魔王親衛隊と不思議な契約2
「これまた難儀でしたな」
この世界に来るまでの出来事を、一部始終全てセバストさんに伝えた。
魔王の側近、そして僕と繋がる魔王の紋章を持っている人物だったらこれ以上に信用できる人物は居ない。
というか言わないと殺されそうだし、結果裏切られたらもう色々と諦める覚悟でいこうと思った。
「いえいえ、貴方ほど複雑な紋章ではありませぬ。魔王ミクトラント様の盟友とは比べ物にならない、ただの忠誠を誓う証みたいなものでございます」
そう言いながらグイっと僕に証を見せてくるが、何かする度に僕の後ろに隠れているリリーが怯えるので本当にやめてあげてほしい。
こんなに怯える彼女を僕は初めてみた。
きっと彼女がかわりに怯えてくれなかったら僕もこうなっていただろう。
「セバストさんは今の魔王には仕えなかったんですか?」
「今の魔王には興味はありませぬ。私の主はただひとり、ミクトラント様だけでございます。そんな私が現魔王に近づくとなると、まあ親衛隊あたりに殺されるでしょうな」
笑いながら状況を説明してくれるセバストさんは、実に楽しそうだった。
「そういえば何故ここに来たんですか?」
「魔王の紋章が光ったのです。ミクトラント様が復活したか、あるいは何かが起きているのか分かりませんでしたが、光が反応する方角に向かったら聖都があったものですから驚きました。様子を見ていた所に、不用心にもノコノコとがアキ殿がいらした訳ですな」
これ以上ないくらい用心していたつもりだったんだけれど、やはり僕の常識はこの世界の非常識だったみたいだ。
リリーと一緒に行動する為には聖都を離れなければならない。
聖都を離れたらセバストさんに捕捉されてしまう。
まぁ、低レベル勇者にラスボス前に構えているようなボス的存在が追撃ミサイルのように現れたら、どんなに用心したってどうしようもない気がするが。
「にして、一応勇者、そして人間であるアキ殿の後ろに隠れている小さなシャドーウルフはどうされたのです?」
気配を察知する能力が高いリリーは、セバストさんの威圧をまともに正面から受け続けている為か、何もされていないのに既に疲労困憊している。
獣耳までシュンと垂れ下がってる状況を見るに、既に色々と限界が近いのかもしれない。
僕は急いで彼女と会った経緯も全てセバストさんに伝えた。
「ふむ、ずいぶんと慕われている様子。この際ですから契約をされてはいかがですかな」
「契約とはどのような?」
「魔王ミクトラン様と、私のような主従関係でございます。アキ殿が一方的にシャドーウルフと契約するのです」
メイドとか使い魔みたいな関係になるらしい。
こんなまだ何もしらない子を勝手に契約してもいいのだろうか。
なんだか騙しているみたいで少し気が引けてしまう。
表情にそんな考えが出ていたのか、セバストさんは続けて説明する。
「まさかこのまま育てるおつもりで? 何百何千と食事を繰り返さないと一人前になぞなりませんぞ。その能力と警戒心の無さから言わせてもらえば、いずれ死に絶えるでしょうな。本来であれば狩りからなにやら全てを親から教わっているはずですが、それすら無い。生きる手段が無い」
リリーを見ると、何も言わず地面を見つめていた。
その無言は、その言葉を肯定しているように見えた。
「万が一、成長できたとしても理性を抑えきれずに必ずアキ殿を殺すでしょうな。シャドーウルフとはそもそも子育て以外は単独で行動する一匹狼です。ですが、主従関係があれば理性を抑える事ができます。アキ殿は力を得る。この子は生きながらえる事ができる。決めるのはあなた方でございます」
今まで野良猫に餌付けする感覚でいたけど、このまま飼い主にならないと僕はどうやら喰われて死ぬらしい。
育児放棄するか、契約するか。
リリーの一生を大きく左右する重い選択肢を、そのまま彼女に問いかけた。
「どうする?」
「……する」
「いいの?」
「……うん」
もう少しよく考えたほうがいいと思ったが、考えてみれば1人で食事ができない彼女にとっては選択肢は無いようなものなのかもしれない。
僕にとっても悪い話じゃない。
彼女の感と嗅覚は頼りになるし、これから何をしようにも1人だと行動に制限ができる。
今更人間とパーティーを組む事なんて、心休まる暇がなさそうで考える事ができない。
だとしたら、決してお互いを裏切れない契約があった相棒がいた方がお互いの為だ。
「じゃあよろしく」
握手しながら、僕は初めてリリーの体に触れた事に気づく。
背丈が腰くらいしかないリリーの手は、僕の半分くらいのサイズだった。
「初々しいですな」
何が初々しいのか分からないけど、セバストさんの手助けにより無事お互いの左腕にはカッコイイ紋章が刻み込まれた。
まるで結婚してもないのに一児のパパになったような気分だ、なんて事は絶対に口に出すまいと思った。
「さて、王の生存を確認した所で、ワタクシはしばらく別行動を取らせていただきます」
「一緒に来てくれないんですか?」
「私がいると並大抵の魔物が近づかなくなりお二人が成長できませんぞ。それに私と一緒に居る所を気づかれたら最後、聖騎士団や城塞都市ゲートラントに所属する勇者の精鋭部隊全てを相手に戦う事になりますが、それで良ければ話は別ですが」
「いえ、全力で遠慮させていただきます」
要するにガレンさんモルガナさん達より強い人達と事を構える可能性があるって事だ。
僕はそんな事になる可能性を0.01%すら残したくなかった。
「貴方という存在がこの世界に現れたという事が、何かが始まる予兆なのかもしれません。」
コウモリのような、吸血鬼のような大きな羽を左右に大きく展開しながらセバストさんは目を紅くした。
周囲の空気は赤黒く染まり、地面に咲いていた花は一瞬で枯れていく。
「またすぐに会う事になるでしょう。我が主が認めたお方です。信じておりますぞ」
そう言い放つと、セバストさんはジェット機になったかのように一瞬で遠くの方角へ飛んで行った。
本当に敵じゃなくて良かったと心の底から安堵した瞬間だった。
「っはー!」
大きく息を吐きながら、大自然のベッドに大の字に倒れこむ。
緑の香りが僕を慰めてくれているようだ。
既にお菓子を運ぶために何度も死んでいる僕が言うのもなんだけど、この世界に来て僕はあと何度死ぬ思いをしなければならないんだろうか。
自分の意志で死ぬのと、誰かの意志で死ぬのはちょっと次元の違うお話になってしまうので、その辺りは運命の神様がいたらどうにかしていただきたい所だ。
建設的じゃない考えを張り巡らせていると、真上からリリーが顔を覗き込んでくる。
「ご飯にしよう」
「……うん」
干し肉とパンを水で流し込みながら、周辺のゴブリンを狩り始めた。
契約の効果からか、彼女の顔を見るだけでだいぶ感情が分かるようになってきた。
困ったり悲しい表情をしていたら、お腹がすいているって事。
嬉しい顔をしていたら、美味しいと表現しているって事だ。
それは契約前と後で、何も変わっていなかった。
ただまあ、時たま見せていた悲しそうな表情が表に出てこなくなっただけでも、契約をしたかいが有ったという物なのかもしれない。




