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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
3章 ファンタジー異世界
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魔王親衛隊と不思議な契約

 6日目の早朝、外の騒がしい人声で僕は目を覚ました。

 どうやら昨日から行方不明の冒険者4人組の足取りが掴めていない事で、都市は軽く混乱に陥っているようだった。


 「ただの魔物相手に勇者がいる4人パーティーがやられる訳がない!」「間違いないシャドーウルフだ!」「配送や調達はどうするんだ!」

 こんな危ない内容の声があちらこちらから聞こえていれば、今日はきっと酔っ払いか、馬鹿な命知らずくらいしか都市の外に出る事はないだろう。


 周りが騒がしい中、1人蚊帳の外にいる僕は軽く身だしなみを整えて朝ご飯を食べにいく事にした。

 昨日の帰りに美味しそうなパン屋さんを見つけたので、今日の朝は絶対そこで食べると寝る前から決めていたんだ。


 最近の楽しみは食べる事くらいしかない。

 異世界に勇者として召喚されたからといって、女の子にチヤホヤされたり強いモンスター相手に無双できたり大金持ちになったりした訳じゃない。

 よって、唯一の娯楽である食事という行為にはなるべく妥協をしないよう心に深く誓っていた。

 世間をお騒がせしている自覚はあるけれど、とりあえず今は無関係を装って美味しい苺ジャムを想像しながら宿を後にした。




 数分後、パン屋についた僕はこの世の絶望を垣間見たような表情をしていたに違いない。

 完全に無関係を決め込んだのが僕に神様が罰を与えたのかもしれない。


 シャドーウルフ騒動で流通が止まる、そうなると材料の供給も止まる。

 無くなる前に買い占めようと考える人が食料を買いあさる。

 当然、昨日から物凄く楽しみにしていた甘い苺ジャムがいっぱい乗せたパンケーキが美味しいと評判のパン屋なんかは速攻で完売の札がさげられてしまう訳だ。


 なんとも最悪な1日だ、あの甘いパンケーキを想像した後に味気ないパンやパッサパサのサンドウィッチを食べないといけないかと思うと本当に鬱になる。

 ひょっとしたらそれすらないのかもしれない、はぁ、軽く死にたくなるような気持ちだ。


 疲れた体を少し歩かせ露店通りに顔を出すと、僕に苦いポーションを飲ませやがった商人が美味しそうな苺ジャムを乗せたパンをムシャムシャしながら食べていた。

 こいつの所では一生買い物しないと心に誓った。


 別の露店で保存の効く食料、新品の収納袋、そして使う事はないであろう煙玉を購入した。

 これで魔物の耳と目で食べ物がベタベタになる心配はなくなった訳で、幾分か快適な冒険ライフが過ごせるようになったはずだ。

 昨日殺した4人から頂戴したお金はまだ十分に残っており、この先しばらくは食事には困りそうになくて助かる。

 完全に強盗殺人のソレみたいになってるけど、僕はあまり深く考えない事にした。



 パッサパサのサンドイッチを頬張りながら悠々と都市の外に出ようとすると、不意打ちのように少し大きく声をかけられた。


「今の状況を知っているか? それでも行くのであれば、勇気と無謀の違いを理解してから通るがいい」


 人生一度は行ってみたいカッコイイ言葉で、門番さんはサラッと僕に忠告した。

 こういうキザな言葉が似あう男になりたいものだ。


「僕はここで立ち止まる訳にはいかないんです」


 逃げる為の煙玉を見せながら、僕もカッコイイ言葉を使ってみた。

 その姿はきっととんでもなくかっこ悪く見えている事だろう、慣れない事はするものではないと思った。 


「其方に神の加護がありますよう」


 門番さんの縁起のよさそうなお祈りを受け、僕は大きな門をくぐった。



 ◇◇◇◇◇



 元気なお天道様と自然の香りを運んでくれる素晴らしい春の陽気を味わいながら草木の茂る道を歩く。

 15分くらい歩いた辺りで、ぴょこっとリリーが顔を出した。


「おはよう」


 彼女と同じ目線まで腰を下ろし、優しく挨拶をした。


「おはよう」


 初めて挨拶が成立した瞬間である。

 この小さくて大きな進歩に、不覚にも少し感動すら覚えそうだ。


「聖都から離れながらゴブリンを探そう。臭いで位置とか分かるかな?」

「……わかる、でもころせない」

「僕が全部殺すよ」

「……うん」


 微笑みながらトコトコと歩く彼女についていく。

 黒いワンピースドレスが風でふりふりと揺れていく。

 こんなにカワイイ獣耳を生やした背丈半分くらいの少女が今、聖都を大混乱に陥らせているっってんだからとんでもない話だ。

 ……その騒ぎの原因は1から10まで全部僕がやった事なのだけれども。

 そういう意味では、リスクが高いのにも関わらず食料調達を手伝う行為は、彼女に罪を擦り付けてしまっている事に対する贖罪から来ているかもしれない。




 全身緑色の棍棒をもった小さいゴブリンを見つけると、体にトラップを素早く仕掛ける。

 1個で動きを止められる所を見ると、以前2個必要だった頃からはだいぶ成長しているようだった。

 そのまま首に向けて剣を突き刺し、この日一匹目の処理が完了した。


 火属性トラップも強くなっているみたいだが、束縛して斬ったほうが確実で効率が良くてなかなか使う機会がない。

 3個程まとめると小さな地雷みたいな爆発をしてくれるようになったけど、それでも確実に人を殺す威力にまでは至っていなかった。

 練習の為に燃やそうとすると「……もやすのやだ」とリリーが強い拒否反応を示すので、生き物相手に練習はできそうにない。

 できるだけ美味しい料理を食べたいという気持ちは痛い程理解できるので、今日は束縛のみで討伐する事にした。




 10匹くらい倒した所で「もうおなかいっぱい?」と聞くと「……おかわり」と答えられた。

 昨日も不思議だったけど今日は既に体積の10倍くらいの量を食べてる気がするんだけど、一体どういう体の仕組みになっているのだろうか。

 テレビの大食い選手とか見ていて毎回不思議に思ってた事だが、胃袋は別世界にでもなっているのだろうか。


「あと何匹くらい食べるの?」

「……いっぱい」


 そうですか。

 耳と目だけは残してあるので、これを売って更に肉を買ってあげたら満足してくれるかな。

 いや、しないだろうな。新鮮がいいっていってたし。

 そもそも今は都市から食料が無くなっているんだから買える余裕が無さそうだ。


 背すじを大きく伸ばしながら深呼吸した。

 シャドーウルフと一緒にいる所なんて間違っても見られてはいけないと思ってだいぶ遠くまできてしまった。

 お昼前だというのに既に少し疲れているが、まあ1人でスキル練習するよりよっぽど健康で建設的なのかもしれない。



「そろそろ次に行こうか」



 両肩をぐるぐると回転させ、全身の筋肉をほぐしながらリリーに声をかけた。


 ニコっと笑った瞬間、リリーの首は物凄い勢いでグルリと右方向を向いた。


「……なにかくる!」


 人から狼の姿へと変貌する。

 そのわかりやすい戦闘態勢で、その"なにか"が相当ヤバイものだと全身で僕に伝えてきた。

 彼女の今まで聞いたことのなかった声質からもそれは読み取れた。


 3方向にトラップを仕掛け、察知範囲を広げた。

 ……まだ気配は何もない、すくなくとも50メートル範囲は。




 ――鳥の鳴き声、風の音、木々が揺らめく自然の音楽が一切聞こえない。




 異質。

 例えるならば、昨日ダンジョンの奥で見たやばい異質な物体を見た時のような。

 その存在以外を、否定するかのように広がる恐怖。

 もしソレと同じ物がこちらに向かっているとしたら相当まずい事になる。


「逃げよう!」


 静寂の中、僕の声だけが響き渡った。

 これは絶対にやばい。やばいやばい。


 どうしてこの世界は僕に少しの休息すら与えてくれないのだろうか。

 このふざけたイベントを企画した運命を訴えてやりたい所だが、今はそんな心境にもなれない。


 僕は後ろを振り返り、全力で走ろうとした瞬間。

 まさに逃げようとしたその時まで、背後に立っていた男の存在には気づくのができなかった。





 ――はじめまして



 深淵から聞こえるように低い声で、性別は男であろうその存在は確かに僕に挨拶をした。

 その声に反応して、体がとっさに男から距離を取った。


「なになに、怪しい者ではございません」


 男の眼は、血のように赤黒く、禍々しい光りを放っていた。

 リリーと僕の気配察知能力を完全無視したその男は、何度考え直しても"怪しい者"という言葉に手足が生えた存在そのものだった。

 そいつからにじみ出る気配こそが、僕たちが警戒していた存在だと気づくのに、時間は必要なかった。


「1つ、お尋ねしたい事がございます」


 草木の音が消えたんじゃない。風が自然と止んだのではない。

 この男が黙らせた。


 男の左手が紫色に光る。

 それに呼応してか、僕の魔王の紋章もまた、宝石のように輝きだした。


「何故、魔王の紋章を持っておられるのか、教えてはいただけませんかな?」


 感情の欠片すら無いその声からは、何を考えて聞いているのかまったく読み取れない。

 だけれでも、男からの質問に断れる手段は持ち合わせていなかった。


 何かに応えようと決意した所で、ようやくまともに男の顔を見る事ができた。

 男爵のような白いヒゲ、印象的な黒いスーツと片眼鏡をかけたその男は、おおよそ人とは思えない程の紅い目をしていなければ、まるで紳士のような風貌だった。


 これから何を喋ろうかとか、どうやって逃げようだとか、死を覚悟したりとか、そんな考えの為に脳が焼き切れるくらい働かせなければならない場面だった。





 ――だけども、思い浮かんだのは、たった1つの昔話だった。




「……セバスト、さん?」



 魔王トランさんと記憶を共有した時、一番最初に登場した男。

 勇者との決戦前、母の死を告げ、最後まで魔王を想っていた魔族の姿、確かにセバストという存在が目の前にいた。



「――ほほう?」



 草木が、風が、命を吹き返したかのようにリズムを奏で始めた。

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