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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
3章 ファンタジー異世界
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感情論と不思議な扉

 ダンジョンと聞いて、連想する言葉とはなんだろうか。

 凶悪な魔物? 金貨の詰まった宝箱? 封印された激レア装備?


 この世界のダンジョンには、確かにそれらのようなファンタジー要素があるみたいだ。

 しかし、聖都の近くにあるようなダンジョンは、どこもかしこも光属性の影響をうけて攻略難易度は低いらしい。

 そうなってくると、聖都周辺のダンジョンは全て攻略されてしまっており、宝箱やら武具等の目ぼしい物は全て回収済みとなってしまう。


 隅から隅まで探索され尽くしたダンジョンにはもはや何も残っていない。

 世界から用済みとなったダンジョンには、やがて周辺から迫害された弱い魔物が住み着くようになる。

 ロクな食料すらないこの場所は、弱者の避難場所としてはうってつけだった。


 そんな弱い魔物を目当てに、新米冒険者達が狩りをする。

 危なくなったら帰還の鈴を使って脱出すればいい、簡単で手軽に狩りが楽しめる初心者訓練所と化していた。


 追い込まれたネズミは猫にも噛みつく。

 そんな精神で弱々しいゴブリンは襲ってきているのかもしれない。

 弱肉強食ピラミットの最下層に位置するこの場所は、なんとも表現し難い空気で充満していた。


 トラップによる気配察知能力により不意打ちは事前に察知できる。

 隙を見せると襲ってくるゴブリン達を、回転寿司のように処理しながら下層へと進んでいった。




 地下10階に下りた所で、大きく開けた空間にたどり着く。


「ここが、ダンジョンのボスが存在していたフロアですね」


 学校の体育館を一回り大きくさせたくらいのこの場所には僕達以外の生命体は存在していなかったが、まるで壁のあちこちに眼があるかのような、誰かに見られているような、そんな正体のわからない不気味な威圧感を感じていた。


「結局、探していた女性は見つかりませんでしたね」


 がっかりと肩を下ろす魔法使いジェラさん。

 ここまでの戦いで、自分より僕とメッセさんの安全を第一に考えて行動してくれた頼もしい彼女には少し申し訳ない事をした。

 本当は、探している女性なんていないのだから。


「無事に聖都までたどり着いていればいいのですが……」


 まだ会った事のない彼女をとても心配しているメッセさん。

 今この状況下で色々とアドバイスを貰った聖母感あふれる彼女はの気遣いは、僕が生きてきた中で一番の物だった。


「一度戻りましょうか。お二人とも色々とあった所でここまで協力してくれてありがとうございます」


 久々に、心の底から頭を下げた気がする。

 人類すべてが、こんな優しくて思いやりのある人だったらよかったのに。

 そしたら、僕の生き方ももう少し変わったのかもしれない。


 どうしようもない過去を思い出しながら、道具袋にある帰還の鈴を掴もうとしたその時、視界に1つの扉が映りこんだ。


「……これは?」

「それは開かずの扉です。どのダンジョンにも同じように奥には絶対に開かない封印された扉があるんですよ。まだ誰も開けた事がないんです」

「へー それはなんとも不思議な扉ですね」


 唐突に現れたファンタジー要素がいっぱいの扉に、僕は吸い寄せられるように近づいていった。

 扉には悪魔や天使が描かれており、1つの芸術品みたいに見えた。



「開けゴマー、なーんてね」


 最奥まできた記念として、僕は笑いながら扉に手をつけた。

 すると突然、フロア全体が大きく揺れはじめ、封印された扉が紫色に眩く光りだした。

 数秒後、ガガガと大きな振動音を立てながら外向きに扉が開き始める。


 ……開かないハズのその扉は、僕達を歓迎するかのように自動で動いていた。


「な……なにが起きてるんです!?」


 きっとこの場にいる全員が思っている事を、ジェラさんは口にした。

 杖を構え、剣を持ち、僕達は徐々に開放されていくその扉の先に居るモノを見つめていた。



 ――黒い炎? 禍々しい闇? 悪魔の魂?



 一言で表現するのであれば邪悪という言葉がふさわしい、そんなモノが開かれた空間の中央に浮かんでいた。

 生命体なのか、意思をもっているのか、何もわからないソレは、確かに僕達を見つめていた。

 この世界がゲームであれば、正気度のパラメーターが全力で振り切れるであろうこの世の悪を全て詰め込んだように見えるソレに――。

 ――何もされていないハズなのに、命を握られている感覚に陥る。


 目を逸らしたくなるハズなのに、絶対に目を離せない。

 それは魅了されているからか、恐怖からくるものなのかは分からない。

 時間にして数十秒だったかもしれないが、体感では数時間くらい眺めていたように感じる。


 一歩一歩、全ての神経を使いながら慎重に扉から離れると、扉は自動で閉まりだした。

 途中で止まらないよう神に祈りながら、徐々に閉まる扉を見つめる。

 扉が閉まる鈍い音と激しい心臓の鼓動音が頭を占領していた。


 扉が閉まり切った瞬間、すさまじい安堵感と同時にため息が漏れた。

 呼吸を忘れるくらい感じた数分間の恐怖は、ここまでたどり着く数時間の労力と比べ物にならないくらい僕達を疲労させた。



 しばらく無言で立ち尽くしていると、左手に刻まれた魔王の紋章(・・・・・)が光っている事に気づいた。

 扉と同じ紫色に光っているその輝きは、薄暗く広い部屋には異彩に映っていた。


「……帰りましょうか」

「アキさん、左手が何か光ってますよ」


 ジェラさんが僕の左手の剣について指摘をしてきた。

 今まで人には決して見えなかったハズの魔王の紋章を、確かに光っていると口に出した。


「……これが見えるんですか?」


 顔の隣に紋章を見えるように移動させる。

 まだハッキリと光る紋章は、僕の頬を不気味に演出した。


「――そ、その紋章は!」


 聖母のような優しい顔が一変、驚愕の表情へと変貌させたメッセさん。

 どうやらこの紋章の正体を知っているらしい。



 人間には決して見えない魔王の紋章。

 取り扱いの説明で魔王本人であるトランさんから確かにそう聞いていた。

 初日から薄っすらと光っていたけど、誰にも気づかれていなかった。

 封印されていた扉と共鳴でもしたのだろうか? それとも、不気味な黒い炎に影響された?


 どちらにしろ、この紋章を見られた事は想定外だ。

 毎日想定外の事が起きてて、想定外の事が起こるのはもう想定内みたいなものになってきた。


 何処でどう間違ったのか。

 僕にはもう分からない。


 素早く剣を握り、攻撃能力のある魔法使いのジェラさんに切りかかる。

 その不意打ちに対応できず、なすすべもなく致命傷の一撃を受けてくれた。

 肩から腰にかけてできた大きな傷からは燃えるように赤い血が流れ出てくる。


 これ以上想定外の事をやられてしまってはたまらない。

 魔法杖を離れた場所へと全力で蹴とばし、抵抗する手段を最後の1つまで除外した。



 ヒーターランプにように熱された感情を抑えながら、僧侶のメッセさんに剣を向ける。


 ――「貴方が知っている事を、全て教えてください」


 生かす理由なんてもう無かった。

 そのはずなのに、彼女達を殺す事に僕の心は大きく躊躇っていた。

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