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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
3章 ファンタジー異世界
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綱渡りな人生選択

 男の死体が2体転がっている横で、女性が2人お互いに身を寄せ合って全身を震わせている非日常な光景を見つめながら、僕は考える。

 僕の影に潜むリリーからは殺してしまおう! と提案しているかのようなオーラがひしひしと伝わってくる。

 確かに最初は全員漏れなく殺してしまおうとは考えていたけど、こんなに怯えて可哀そうな女性を殺めてしまうなんて事は、さすがの僕でもわずかに残っている小さな良心が痛んでしまいそうなのだ。

 こんな状況下で良心が必要か否かを考えようとしたけど、残念ながらそんな時間はなさそうだ。


 「巡回していた勇者です」と伝えたはいいが、彼女達からの返答はない。

 もっと別の、もっともらしい嘘を伝えたほうがよかったのだろうか。

 言ってしまったものはしょうがないし、今となってはどうしようもないんだけれども。


 静まり返った気まずい空気をぶち壊してくれるように、魔法使いの女性が声をあげた。


「た、助けていただいて、ありがとうございます」


 力いっぱい振り絞ってくれたその言葉で、ようやく僕は無言の圧力から助かる事ができた。


「殺すことは無かったかもしれませんが、逆に殺される可能性もありましたので、仕方ありませんでした。何にせよ大きな怪我が無いようでよかったです」

「いえ、私達が殺されていたのかもしれませんので……」


 僧侶の女性も恐る恐るだけども声を出してくれた。

 恐怖で声が出なくなっちゃいました、なんて事にはならなかったようで、その点に関しては安心してもよさそうだ。



 ……さて、これからどうしようか。

 僕の脳内は、出口の見えないダンジョンで迷子になったかのように堂々巡りを再開した。


 強姦から女性を救った勇者となるか。

 女性を殺してリリーに食べてさせてあげるか。


 この2点、非常に悩ましい選択肢だと思う。


 女性を助けた場合、勇者としての知名度や名声なんかもある程度得られるだろう。

 その結果、今後何かに失敗して魔王の仲間と疑われる事になったとしても、なんとかなりそうな武器になるかもしれない。

 信用されれば精度の高い情報が得られるようになり、魔王封印の真相に一歩でも近づける可能性もある。

 新米勇者が男2人にした勝利という状況も、相手は油断して丸腰だった事を考慮すると別に怪しまれることはないだろう。


 まさに良いこと尽くめでデメリットを感じられない。



 次に女性を殺し、リリーに食べさせた場合だ。

 リリーはおなかいっぱいになり、これまで見せた事のないくらい幸せそうな顔で僕を見つめるだろう。


 ――以上。

 つまり、殺してリリーに食べてもらうという選択肢にメリットがあまり感じられない。


 男2人分でもだいぶ量がある、リリーにはそれで我慢して貰おう。

 影からなんとも表現できない威圧を感じているが、気づかなかった事にしよう。

 本来であれば1人も殺せなかったんだから、そんなに怒らないでいてほしい。



「では、聖都に帰りましょうか。女性2人では危険でしょうし、お送りしますよ」

「本当ですか!? もう正直くたくたで、魔力も底を尽きかけていたので助かります」


 魔法使いの女性はようやく笑顔を見せてくれた。

 人助けってのは、なんだか英雄みたいで悪い気はしない。


「これでも一応勇者ですから、当然の事をしたまでです」

「……襲った勇者も、そんな紳士なら良かったんですけれども」


 なんとも複雑そうな顔で死体を眺める魔法使い。


 僕もこの世界に来るまでは勇者とは例外なく善人かと思ってたけど、そうではない。

 警察や政治家、教師や弁護士といった肩書を持つ人間は全員善人か? 本人以外に聞けば全員もれなくNOと突き付けるだろう。

 結局どんな肩書や権力を持とうと、人間なんだ。

 人間は正義のヒーローには決してなれない。

 襲われた男達にすらお祈りを捧げる献身的な僧侶さんが信仰する心清らかじゃないと、正義なんて大層な存在には成れないと思う。


 そんな僧侶さんに近づきながら、僕は優しく声をかける。


「そろそろ行きましょう。匂いに釣られて魔物が寄ってくる可能性があるかもしれません」

「……はい」


 何か言いたそうな事があるような顔をしながら彼女はそう答えた。

 僕は軽く首を傾げる事でその表情に返答した。


「いえ、こちらの勇者は無傷で、まるで眠るように死なれているのでもしかしたら生きているのかと思いまして」

「そういえばそうね」


 成程、彼女は無傷で死に絶えている男に対して興味を持ってしまっているようだ。


 ……よくよく考えてみれば、本当によくよく考えてみれば、これはヤバイ事なのかもしれない。

 スキルの正体は分かっていないと思うが、彼女達の前で一撃必殺【魔王の宣告】(サタン・センテンス)を発動させた事になるんだ。

 当たり前のように使用していたスキルだが、よくよく考えてみれば魔王から与えられた異常で異質な特殊スキルだ。


 思わぬ所で、不意に彼女達を助ける行為に大きなデメリットがぶち込まれた。


 そしてだんだん真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきてしまった。

 僕なんかが考えた所で運命なんてモノはなるようにしかならないんじゃないかと。

 足りない頭で考えるより、何も考えずに疑わしきはぶっ殺せ精神で僕を目撃した人間全員を殺して回ったほうが利口なような気がしてきた。

 ひょっとしたらそれが一番確実で、一番安全な道なのかもしれない。




 ……なーんて事は絶対にありえない。

 思考停止は一番の悪手だと、この世界に来てから色々と思い知らされてきたのだから。


「……そういえば名前をお聞きしていませんでしたね。僕の名前はアキです」

「メッセと申します。回復魔法を得意としてます」

「ジェラです。炎魔法の使い手よ」


 心を落ち着かせ、思考を脳に張り巡らせる。


「僕がここに来たのはリリーという女性がこの辺りで行方不明になったと聞いて、探しに来た為なんです」


 思考を放棄したら、この冒険は破滅に向かってしまう。

 自分と相手が今、どのような状況下に置かれているのかを冷静に考えながら言葉を選ぶ。


「あなた方がリリーさんでは無いという事は、ここより下層に行ってしまわれた可能性がありますので、やはり僕は彼女を救うためにもう少し探したいと思います。僕の所持しているポーションは全て差し上げます。ここでお待ちいただくか、申し訳ありませんが自力で脱出をお願いします」

「いえ! それならば私も微力ながらご協力させていただきます」

「……同じような目に遭いそうな人がいるのであれば、私も力になるわ。1人より3人で探したほうがすぐ見つかるわよ」


 2人は積極的に、僕に向けて助力を願い出てくれた。

 僕も彼女達の立場であれば、同じような酷い目に遭おうとしている人を助けようとするだろう。

 協力対象が命の恩人であれば尚更だ。

 今回ばかりはその良心を利用させていただくことにしよう。


「それは助かります。実はこの世界に来てまだ日が浅いので、お二人のような先輩冒険者がついていただけれれば心強いです。先頭は私が務め、必ずお守り致します」


 手持ちのポーションを全て渡すと、ゴクゴクとワイルドに飲み干した。

 効果のほどは分からないが、血色が良くなっているように見えているので効果はあるのだろう。


「だいぶ魔力が戻ったわ。すぐに行きましょう」


 魔法使いのジェラさんは、両手杖をクルクルと回しながら気合いを入れていた。


「たいした深さは無いはずです。すぐに救い出しましょう」


 僧侶のメッセさんは、回復魔法で男に襲われた時にできた傷跡を残す事なく癒しながらそう言った。



 2人を殺す事はいつでもできる。

 だけども、ダンジョンを攻略できる機会なんてものはこれから先はきっと無いだろう。

 前衛、後衛、補助。奇跡的にバランスの良いパーティーだ。

 この経験は必ず今後に生きると思う。



 それからどうするかは、先に進みながらゆっくり考えよう。

 すぐに判断できるほど僕の頭はよろしくない。

 取り返しのつかない事態にだけは絶対にしてはいけない。

 情報を整理しながらベストな行動を起こせるように、よく考えていこう。



「そういえば、ポーションって美味しく感じるんですか? 渡しておいてなんですが僕には不味くて生理的に受け付けなかったのですが」

「まずくて吐きそうですよ。薬が美味しい訳がありません」


 即答された。ごもっともだ。

 どうやら僕の味覚はおかしくないみたいだ。

 こんな感じで今後の有益な情報を引きだせていけたら御の字だなと思いながら、魔物が蠢く下層へと突き進んで行った。

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