子育ては ブラック顔負け 重労働
離れても離れても追撃を繰り返す太陽の日差しの攻撃を受けながら、この異世界にきて5日目の朝を迎えた。
泣きたいくらいに身体の節々が悲鳴をあげている。
その悲鳴を打ち消すくらい元気な子供たちの声が窓の外から聞こえてくる。
……その元気を少しでもいいから分けて貰いたい。
そんな事を思いながら布団にくるまり抵抗しながら、嫌々今までの出来事を振り返る。
1日目
魔王と別れて聖女と会って、スキルを貰ってゴブリンを殺した後に酒を飲む。
2日目
カップル勇者に絡まれ、ゴブリン20匹退治した後に殺す。
3日目
まずいポーションを飲んでジュースをふっかけられ、イケイケ系ヤンキー勇者に殺されかけ、なんとか殺したと思ったらシャドーウルフに遭遇する。睡眠を妨害される。
4日目
筋肉馬鹿の聖騎士に扉を2度も扉をぶっ壊され、節々が痛い身体を引きずって現場を案内、そのまま図書館に向かい調べものをする。
ブラック企業顔負けの過密スケジュールをなんとか捌くことができた5日目の朝。
僕の身体は休息を要求し、ストライキ一歩手前の状況に陥っていた。
ファンタジー異世界ってスローライフ寄りじゃなかったのか!? 話が違うぞ! これならまだ社畜時代の方が楽だったぞ! と、全身が脳に訴えかけて来ている。
僕だって休みたいよ。でも昨日シャドーウルフの女の子と会う約束をしちゃったじゃないか、文句があるなら昨日の僕に言ってほしい。
僕はな、約束を守らない奴は嫌いなんだ。特に子供相手なら尚更だ。
「……そうだな、獣耳で褐色肌の小さな女の子との約束なら仕方ないな」と圧倒的支持をいただいた所で、なんとかベッドから脱出した。
◇◇◇◇◇
一昨日殺したチャラ男はたんまりとお金を持っていたから助かった。しばらくは金銭に困りそうにない。
僕は干し肉をこれでもかってくらい購入し昨日少女と出会った場所に向かった。
本当は新鮮な生肉を買ってあげたかったけど、さすがにシャドーウルフが出現しているのに匂いの強いナマモノを所持する行為は色々と怪しまれると思い断念した。
細かい所まで気を付けて生活していけば昨日みたいな大変な目に合わなくなる、そうでなくては困る。
今日から僕は慎重に行動する男に生まれ変わるんだと決意しながら、日々を過ごす事に決めた。
現地に向かう最中に、木陰からひょっこりと褐色肌を輝かせながら彼女が飛び出してきた。
「……おなかすいた」
開口一番に放たれたその言葉には、これ以上ないくらい感情が込められていた。
取り出した肉の量を見て、彼女の表情は歓喜で輝いていた。
お菓子を持って行った時のトランさんの表情と瓜二つだった。
美味しそうに食べる彼女の眺めながら、僕も少し遅い朝食を食べる事にした。
少し信用されたのか、彼女は自分の名前はリリーだと教えてくれた。
パパやママは一緒ではないのかと聞くと「しんじゃった」と悲しそうな声でつぶやいた。
なんだかとても暗い過去を聞いてしまったみたいだ。僕はそれ以上は何も聞けなかった。
空は雲一つない綺麗な青空なのに、僕達の空気は少し淀んでいた。
お互い自発的に会話するのが苦手という共通点もあり、食事中の会話はそれっきりだ。
僕から何か会話をしようにも思い浮かぶネタがない。
「昨日図書館で調べたんだけどさ、シャドーウルフって子供の頃っは小動物も殺せないんでしょ? 肉しか食べられないなら今までご飯どうしてたの?」とかそんな無神経な事を聞く訳にもいかないし。
……そうだ、この子は本当に今までどうやって生きてきたんだろうか。
ここ聖都ヘブリーンは光属性が強い地域だから住む場所を追われた弱い魔物しか寄り付かないって聞いてたけど、この子は追い詰められてここに来たのだろうか。
とても遠い所から他の魔物から命を狙われながらなんとかここにたどり着いた、という事なのだろうか。
そう考えると食料とも言える人間の死体2体分を目の前で消し炭にされたら、そりゃガッカリして不満を訴えるのも無理はない気がする。
まだまだ残ってる干し肉の山をニコニコと幸せそうに笑顔で食べ続けるリリーを見て思う。
僕はこの子をどうするべきなのだろうか。
育てるべき? それとも今日限りで終わりにするべきか?
僕がシャドーウルフと一緒にいるなんて事が知られたら想像もできない大変な事になるに決まってる。というか想像すらしたくない。
では育てるとしても僕に何かメリットはあるのか? 可哀そうだから育てる? 人を既に3人殺してる僕が可哀そうだと思えるのか? 誰かに見つかったらどうする? 下手すれば僕が殺されるんだぞ? そしてそれはトランさんの死を意味するんだぞ?
そんな堂々巡りな考えをしている最中に、彼女はペロリと全てのご飯を食べ尽くした。
「……ごちそうさま!」
まるで光り輝く宝石のような満面の笑みで僕にそう伝えた。
心がキュンとするその表情は僕のハードにダイレクトアタックをぶちかました。
この表情をする存在が世間では暗殺者と呼ばれているんだから、本当にこの世界はファンタジー要素で溢れかえっている。
「……むこうに、にんげんの匂いがする」
都市とは正反対の方角を指さしながらリリーは眼を輝かせながら言った。
どうやらあれだけ食べてもまだ食べ足りないらしい。
「じゃあ、一緒に行こうか」
僕は同じように笑顔で彼女に伝えた。
可哀そうだからとか、見つかったらどうするだとか、育てるか育てないかとか、そんなのはもう過ぎた話だ。
僕が彼女にご飯を持って来た時点でとっくに結論は出ているんだ。
彼女は人間でもないし、勇者でもない。シャドーウルフという大きな問題を除けばただの小さな女の子なんだ。
助けない理由なんてものはきっとこのファンタジー世界にも存在しない。
そもそも魔王を助けるなんて大きな問題を解決しようとしている僕が、たった1人の女の子を助けられない訳がない。
死ぬまでずっと一緒……という訳にはいかないだろうが、1人で狩りができるくらいまでは付き合おうと思う。
日頃の行いがよければこの青空のように、光射す美しい森林のように、これから先の未来は明るいに決まっている。
僕はリリーの小さな手に引っ張られながら指さす方向に向かった。




