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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
3章 ファンタジー異世界
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ダメな日は何をやってもダメ

 何をやってもダメな日というのは、人生の中で1日くらいはあるものだと思っている。

 この言葉をこの日何度呟いたか分からないが、何を言いたいのかと説明すると1日というのは24時間ありますよと数分前の自分に言いたかったのである。



 疲れ切って身も心もボロボロな僕は日が落ち切った頃にようやく聖都に到着した。

 今日という最悪の1日に終止符をぶち込みたい。

 その思いだけが僕の重い体を突き動かす原動力となっていた。


 僕は一直線にふかふかベッドの待つ宿屋の方角へ向かった。

 これが良くなかった。この選択肢が良くなかった。


 宿の隣は冒険者ギルド、つまり居酒屋だ。

 宿に行くにはギルドの前を通らないと遠回りになってしまう。


 まぁ誰かに会う確率も低いし、仮にガレンさん達に会っても「見てくださいよ、こんなにボロボロに疲れてるんですよ。可哀そうでしょ? そうですよね。だから今日は一足先に眠ります。おやすみなさい」で済むと思っていた。


 つまり、ベッドまでの道のりは既に約束された勝利の道と化しているんだ!

 ……そのはず、だったんだ。




 ちょうどギルドの目の前で、ガレンさん達とはちあってしまう。

 大丈夫、ここまでは想定内、だから問題はない。


「よぉアキ! ずいぶんと頑張ったようじゃねぇか! 全身がボロボロじゃねーか!」


 ガレンさんは笑いながら僕の肩を叩く。

 傷口に響くから本当にやめてほしい。


「ホッホッホ、勇者様、今日は飲まずに体を休めたほうがよろしいかと思いますよ ――幸福の癒し(ハピネス・ヒーリング)


 セーショさんは優しい言葉と優しい魔法で僕を癒してくれた。

 そのやさしさは僕の心も癒してくれているみたいだ。


「お気遣いありがとうございます。おやすみなさい。」


 そう言って僕は宿屋に向かおうとした瞬間、モルガナさんに腕を思いっきり抱きかかえられた。

 大きな胸を当てながら、彼女は言った。


「その胸にある物は何処で手に入れたの!?」


 物凄い驚いた顔で首元のアクセサリを見つめられていた。


「これは、その、拾ったんですよ」

「何処で!? 何時に!? まだ数はあるの!?」


 弁護士ばりに追求してくるモルガナさん。

 あまりの慌てぶりにガレンさんもセーショさんも驚いている。


「……これってそんなに珍しい物なんですか?」

「珍しいってレベルじゃないわよ! それはシャドーウルフの毛でしょ? 暗殺者の代名詞みたいな魔物の毛なのよ? 超とびっきりの極上レアじゃない!」


 めちゃくちゃ興奮しながら大きな声で説明してくれるモルガナさんの声を聴いて、まわりにいた冒険者が騒ぎ出した。


「シャドーウルフが現れた」「この付近にいるってか? ヤバすぎだろ」「どーすんだよ、俺は明日魔法都市に向かわなきゃなんねーんだぞ」「馬鹿野郎、出会った瞬間に殺されるぞ」「見たもの全てを喰らいつくす凶悪な性格らしいぞ、どうすんだ明日から」


 静かだった街が一瞬のうちに沸騰したかのように熱を帯び始めた。

 まるでお祭りが始まるかのような熱狂だ。



 ……どうやら僕はとんでもない魔物を助けてしまったらしい。


「アキ、シャドーウルフとやらは見たのか?」


 まわりの雑音を静止するように、ガレンさんはハッキリと僕に質問した。


「いえ、なんというか…… 草原が一面真っ赤に染まっていた所があったんですよ。よく見るとその赤は血でできていて、その片隅にこれが落ちていたんです。シャドーウルフ? とやらは見かけませんでした」


 シャドーウルフから直接貰った、なんて馬鹿正直に答えたらめちゃくちゃめんどくさそうだったので、僕はさらりとごまかす事にした。


「シャドーウルフは獲物をなぶり殺しにしてから食べるらしい」「俺は生きたまま頭から喰うって聞いた事があるぞ」「動けなくしてから腹を食い破るって噂もあったぞ」「どっちにしろやべーじゃねーか! 俺は一足先に部屋に帰らせてもらうぜ! 巻き込まれたくないからな!」


 もはやお祭り騒ぎと化したギルドの前で、受付のお姉さんが商売を始めていた。


「おいあんた達! 明日の命の保証がないんだ! 今ならキンキンに冷えた酒と美味しい料理がこの中で出迎えてくれるよ!」


 こんな時は飲むっきゃねえ! と言わんばかりにゾロゾロと居酒屋になだれ込む冒険者達。

 商魂たくましすぎる。そのおかげで騒がしかったギルド前も少し冷静さを取り戻しつつあった。



「アキ、聞きなさい!」


 ただ1人、熱意の冷めないモルガナさんは僕の両肩を掴んで言った。


「シャドーウルフはね、非常に希少な魔法素材になるのよ。 分かる? 理解できる? 分かるわね? だから、それは私の物よ? 分かった?」


 めちゃくちゃ丁寧に図々しく僕のアクセサリを奪おうとする魔法使いに僕は言ってやった。


「嫌ですよ」

「なんで!?」


 こっちが理由を聞きたいくらいだ。僕は無理矢理奪われる前に宿屋に逃げようとした。


「待つんだアキ! それは私の物だ! 返してくれ!」


 モルガナさんの頭の中では既に所有権は自分にあると言いたいらしい。

 残念ながら今の僕にはそのぶっ飛んだハチャメチャ論理武装は通用しない。

 シャドーウルフだかどうだか知らないけど、小さな女の子から貰ったプレゼントなんだ。

 母親以外から初めて女の子から貰ったプレゼント。これはもう一生の宝物にするしか道は無い。

 ……この騒動が鎮火しなければ、その時は手放すしか道は無いかもしれないけど。




 僕はモルガナさんの追走を振り切り宿屋に飛び込んだ。

 店主にお金を素早く払い、昨日と同じ部屋に滑り込んだ。

 鍵を閉め、装備を外してベッドに飛び込む。


 勝った! いや勝ったのか? いや、過ぎたことはもう忘れよう。

 僕は今、ふかふかのベッドの上にいるんだ。

 つまり過去に何があろうと勝利なのだ。

 今日と言う最悪の日が終わるまで、僕は絶対にベッドから降りるつもりはない。



 ポーション飲んだらまずくて苦くて、口直しにジュースを3倍の値段でふっかけられて、グラサンかけたヤンキーに絡まれて殺されかけて、不意打ちのように女の子が現れてプレゼントを貰ったら、それが原因で街が大騒ぎになる。



 今日の踏んだり蹴ったりな連続イベントはなんなんだ。泣きっ面に魔法をぶち込まれたような感覚だ。

 本来であれば一週間くらいの出来事としてバラけさせるべきなイベントの山だと僕は思う。


 ただまあ、今度こそ僕の勝ちだ。

 僕はボロボロに疲労した体をふかふかの布団に身を任せながら意識を手放そうとした。





 ドンドンドン! とドアと叩く大きな声で意識を強引に覚醒させられた。

 もう少しで眠れる所だったのに! 誰だか知らないけどふざけやがって!


「聖騎士団です! 至急話をお聞かせ願いたい! 聖騎士団です! 聖騎士団です!」


 扉の痛がる音が部屋中を大きく響き渡らせる。

 ふざけやがって、僕はもう寝てるんだ。そう、僕は今寝ているはずなんだ。

 寝ている人間が返事をできるわけがない。これは居留守でもなく、狸寝入りでも決してない。

 僕は毛布を頭まで被り、無視を決め込む事にした。



 少し静かになり、ようやく諦めたかと思ったその瞬間、大きな破壊音と共に扉が思いっきりぶち壊された。


 僕は飛び起きながら扉の方を確認する。

 バキバキに破壊された扉の上で、白銀の鎧を身に着けた屈強な戦士がこちらを見つめていた。


「聖騎士団です!」


 知ってるよ。何度も聞いたよ。


「ご都合がよろしければ、今すぐにでもシャドーウルフについてお聞かせ願いたい」


 なーにがご都合がよろしければ、だよ。頭おかしいんじゃねーか?

 だったら扉を壊してまで入ってくんじゃねーよ!

 非常識すぎるだろ、それともこれがこの世界のマナーってやつなのか?

 ファンタジーマナーってやつは扉をぶち壊してお宅訪問していいのかよ。わっかんねぇよ。わかんない。もう何もわかんない……。


 僕は山ほど文句はあったけど、簡潔に、そして簡単に死んだ目でこう答えた。



「はい、わかりました……」



 僕も含めてだが、どいつもこいつも自分勝手な奴らだなと思った。


 何をやってもダメな日っていうのは、人生の中で1日くらいはあるものだと思っている。

 ただ、2日連続してダメだった日というのは、無い。あってはならない。

 明日はきっといい日になるんだ。それだけを信じて今日を乗り越えよう。


 真上に昇った綺麗な月が、まるで僕をあざ笑うかのように見つめているように感じた。

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