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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
3章 ファンタジー異世界
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初めての勇者狩り

 カップル勇者とぼっち勇者という妙な3人組の勇者チームは、意外にも相性は良かったみたいだ。



 心を落ち着かせ、ゴブリンの真下にトラップを2つ仕掛ける。

 ゴブリンを束縛する事ができたら、次は女勇者の出番だ。


「燃やし尽くして! ――火の弾(ファイアーショット)!」

 数発の小さい火がゴブリンの全身を直撃する。

 呻き声と共に、ゴブリンの全身が火に覆われる。


「オッラァ!!」

 弱ったゴブリンに男勇者が剣でとどめをさす。


 縛って、遠くから弱らせて、剣で斬る。なんともまあ安全で簡単な狩りだった。

 勇者の紋章は、魔物の命を吸収し勇者の力となる。


 つまり、どんな手段であれ殺せればいいのだ。

 現実世界のようにどうやって鍛えれば強くなるのか? 効率がいいのか? なんて難しい事は考える必要はない。

 いや、ひょっとしたら考える必要はあるのかもしれないけど、二日目からソレを考える事は酷という物だ。



 ゴブリンの耳と目は売れるらしいと話をすると「気持ち悪いからお前がやれ」と言われてしまった。

 なんともまあ理不尽ではあるが、後始末は全て僕が請け負う事になった。


 僕達は効率よくゴブリンを20体程狩り殺した。

 荷物袋がネチャネチャした耳と目でいっぱいになった頃には太陽も沈みかけており、奥の森まで入ってしまった僕達は少し早めに帰る事となった。



「俺達、強くなってるな!」


 実はこの男勇者、今日初めてゴブリンを殺したらしい。

 あれだけ偉そうだったのに、よくもまぁあんな強気に出る事が出来たものだ。


「私達、これからもっと強くなれるね! 臆病だった昨日までが馬鹿みたいっ!」


 うきうきルンルンな声で女勇者は男勇者と抱き合いながら喜びを表現していた。

 ラブラブの甘ったるい瘴気を浴びせられながら、僕は一歩後ろで大自然を堪能していた。

 そよ風が草木とリズムを刻み、沈みかけた夕日が草原を綺麗に紅く染め上げていた。



「アキさん、ありがとう。貴方のおかげで私達は自信を持てたわ」


 女勇者は僕の両手を握りながら、本当に嬉しそうな顔をしていた。


「アキ、ありがとよ。お前が居なければ俺達は腑抜けたままだったかもしれねぇ。これからも一緒に冒険してくれよな」


 男勇者は笑顔で右手を差し出してきた。


「お二人からそんな事を言われるなんて、嬉しいですね」


 僕は眼を閉じて感動……した訳じゃなく、トラップを創り出す事に集中した。

 男のほうに2個、女のほうに1個 束縛トラップを真下にイメージする。

 今日何度も繰り返してきた事だ、集中さえできれば難なく創り出せるようになっていた。


 眼を開き、男の差し出した右手をさらりと避け、トラップを発動させる。

 不意打ちで身体が動かなくなった事にすら気づいていない男の頭に、左手を乗せる。


「死ね」


 言葉を発した瞬間、左手の魔王の紋章が大きく紅く輝きだした。


 一瞬ビクッと身体を動かした後、まるで魂が抜けたかのように男は前のめりに倒れた。

 なんとか無事に【魔王の宣告】を発動できたみたいだ。

 こればっかりは実際に試してみないとわからないから、ちょっと不安だった。


 女勇者の方は何が起きたか分かってはいないみたいで、大きく絶叫しながらトラップを引き剥がし、男の方に駆け寄っていた。

 肩を揺すっても、上半身を起こしても、抱きしめても、男は目覚める事は無かった。

 魂を破壊したのだから当然な話なのだが、もしかしたら愛と友情で生き返るんじゃないかと少しだけヒヤヒヤしながら見守った。


「ねぇ…… 動いて…… 動いてよぉ……」


 しばらく眺めていたけど、どうやらゾンビになって襲い掛かるような事はないみたいだ。

 僕は再び眼を閉じ、集中して女の真下に3個、トラップを仕掛ける。


 即座に発動した三重束縛トラップで、女の全身が石のように固まった。


 ――ガガギギィ


 呼吸すらままならないのか、涎を垂らしながら声にならない音を発しし続けている。

 僕が右へ移動すると女の視線が追うようにギョロリと動いた。

 どうやら意識ははっきりしているようだ。


 僕の束縛はどの程度の相手まで通用するのか、どの程度の時間まで耐えられるのか確かめないといけない。

 彼女を実験体に確かめようとしたが、よくよく考えれば今まで何もしてこなかった勇者、その辺の冒険者より遥かに格下の雑魚だ。

 こいつを基準に考えると、いつか足元をすくわれそうで不安になってきた。

 先に殺しておくべきだったのは女のほうだったのかもしれない、なんて今更ながら後悔した。


 3個のうち1個を火属性魔法に変更する。

 女は魔女狩りのような軽い火あぶり状態になった。


「あ"あ"ああああああぁー!!」


 束縛が少し緩んだからか、それともかなりの苦痛なのか、女からようやく意味のありそうな声が聞こえるようになった。

 近くの岩に腰かけながら、僕は苦しむ彼女を眺め続けた。




 5分程そのままにしておいたが、特に束縛が解けるような感じはしなかった。

 ひざから下は血だらけ、足首から下は丸コゲになっていて一部骨がむき出しになっていた。

 ジュージューと肉の焼ける音は、目隠ししていたらきっとステーキと聞き分けがつかないだろう。

 ときより聞こえる苦痛にまみれた呻き声は、鮮やかな料理のアクセントになるように添えられているようだ。



 それ以外に変化は無く、実りの無い時間だったみたいですこしがっかりした。

 太陽はもう沈みかけており、このままだと真っ暗で不気味な道を帰らなければならない。

 人間の悲鳴、死体、肉の焼ける匂い。

 よくよく考えれば魔物がおびき寄せられる要素がここには倍満で揃っていた。


 朝から軽い筋肉痛だった身体を伸ばしながら、女に近づいた。

 女はこちらを睨みながら小さなかすれた声で「絶対に許さない」などと言っていた。

 なんだ、まだまだ元気じゃないか。女っていう生き物は、演技が上手いなあとつくづく思う。


「それはこっちのセリフですよ。許さないので死んでください」


 左手を乗せた彼女の頭から、魂が壊れた音が聞こえたように感じた。


 =========================

 スキル:【復讐者の進化】アヴェンジャー・エボリューション

 戦闘時、対象への憎悪が大きいほど、スキル所有者の能力が強化される

 スキル所有者によって対象を殺害した場合、対象の能力の一部を奪う

 対象への憎悪が大きいほど、奪う力が強化される

 =========================


 雑魚とはいえ、【復讐者の進化】アヴェンジャー・エボリューションを利用して勇者2人から奪った能力は、ゴブリン30体分くらいはあったのかもしれない。

 スキル発動で失っていた体力はいつのまにか限界以上に回復しているように思えた。

 体を見渡すと、昨日の切傷が綺麗さっぱり治っている。

 身体能力だけでなく、どうやら勇者に残っていた体力すら奪う能力もあるようだ。



 最後に2人の遺体を蹴っ飛ばして重ねあげ、3個重ねた火属性魔法トラップで燃やし尽くして証拠を隠滅した。

 朝に試したキャンプファイヤー程の火力が、ほんの少しだけ上がっているように感じた。


 暗くなりかけている森に、肉が焦げる気持ち悪い臭いが充満し始める。

 僕はあわてて家路を急いだ。こんな見渡しが悪い所で魔物と出会ったらたまったもんじゃない。




 燃えている死体を囮にできたからか、帰り道に魔物と出会うことはなかった。

 最後まであのカップルは僕の役に立ってくれた。


 ……どうせ殺すと思っていたから、名前を聞き流してしまっていた。

 どうせなら名前くらいは憶えておくべきだったのかもしれない。


 「誰だか知らない勇者さん、僕の力になってくれてありがとう」


 日が落ちかけた夕闇の森に、木が発するいい香りが漂っていた。

 静かな森には、僕の笑い声だけが響き渡っていた。




 ◇◇◇◇◇




 無事に都市に到着し宿屋に向かう最中、最凶3人組、ガレンさん達とバッタリ出会った。

 どうやら先ほど殺した勇者2人が、僕に因縁をつけに出かけたという目撃情報があったらしい。


「僕はこの近くでスキルの練習をしてましたけど、会いませんでしたよ。まだ帰って来てないなら少し心配ですね」


 本日何度目か分からない嘘を、さらりと言った。


「まあ別にどうでもいいわ。使えないゴミが居なくなっても世界は変わらずに動くわ」

「働かざる者食うべからずってどこかの勇者さんが言ってたぜ」

「ホッホッホ、それはいい言葉ですな」


 その言葉のやり取りは、僕の世界でも聞いたことがある。

 もし魔王と出会わなかったら、もしトランさんと出会わなかったら、僕はあの2人のようになっていたのかもしれない。

 ファンタジー異世界まできて、同じような人生を送っていたのかもしれないと思うと、少し恐怖を覚える。




 二日連続で飲みに誘われた僕は、自分の体を労うように飲み食いした後、昨日と同じ勇者割引のきく宿屋のふっわふわの布団に飛び込んだ。

 なんだかようやく始めの一歩を踏み出すことができた気がして、とても充実感があった。


 残り約300人。

 勇者として順調に成長しているのは、この中の約100人らしい。

 強さを求める勇者はこの聖都ではなく、他の都市に移動しているという話を聞いた。


======


 聖都ヘブリーン

 勇者を召喚する自然豊かな聖なる都。

 僕が今いる場所がここだ。

 光属性が強い地域で、魔物はめったに寄ってこない。

 故に、住む場所を追われた弱い魔物しか現れない。


 魔法都市マジックスター

 魔法使いが集い、養成機関もある大都市。

 ここで創られる魔法具は高品質で評価が高いらしい。


 城塞都市ゲートラント

 魔王の領地に一番近く、最前線を戦い続ける戦士で成り立っている戦闘国家。

 周辺に住み着く魔物もかなり強く、最強を目指す勇者はここを目指す。


 集合都市アクアコット

 急激に増えた魔物に対抗する為、散らばっていた異種族の集落が集まってできた都市。

 人間を嫌っており、近づけば殺される恐ろしい場所みたいだ。


======


 未熟な僕はまだまだこの聖都から抜け出せる気がしない。

 2日目で2人殺せたのはラッキーだった。この調子で殺し続ければ一ヵ月後くらいには魔法都市に行けるかもしれない。

 ……今気づいたけど、この2日間で僕を含めて2人以上の勇者が召喚されている。

 つまり、勇者の総数は±0だ。なんてこった。よく考えれば世界状況はほとんど変わっちゃいない。



 ……今日は初めて人を直接殺す事ができただけでも、今は良しとしよう。

 怖かったり落ち込んだりすると思ったけど、何も感じなかった。

 まあ、食用肉だって元は生きてるんだ。たいしてソレと変わらないのかもしれない。


 ……なんだかよく、自分の事だってのに、よく分からなくなってきた。

 僕は水を一杯飲み干して、余計な事を考えず、二日酔いにならない事だけを祈りながらふかふかの枕に頭を埋めた。

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