大人げない大虐殺
居酒屋ギルドを出発した僕達は、日差しが気持ちよくて空気が美味しい、そんな大自然が広がる都市の外へとくり出していた。
魔物退治だなんて、これ以上ファンタジーっぽい響きのある言葉があるだろうか?いや、無い。
そう断言できてしまうくらい僕の心はときめいていて、これから起こるであろう冒険にわくわくどきどきしていた。
――目の前で、ゴブリン大虐殺パーティーが始まる前までは。
「オッラァ! 死ねや! 今すぐ死ねや!」
背中に背負っている大剣ではなく、素手でゴブリンの頭を粉砕する屈強な戦士 ガレンさん。
両目と耳をえぐり取ってから殺すそのさまは、まさに悪魔のようだった。
「苦しんで死になさい ――氷河の嵐」
逃げているゴブリン数体の背中目がけて、明らかにオーバーキルの大魔法をぶっ放す魔法使い モルガナさん。
凍らせたゴブリンを背中から蹴りを入れ破壊するそのさまは、まさに破壊神だった。
「悪がこの聖なる大地で呼吸をするでないわ ――聖なる絞首台」
命乞いをしているゴブリン相手に次々と情けなく首を刈り取る聖職者 セーショさん。
セーショは本名ではなく、いつも聖書を持っているからセーショとあだ名がついたらしい。
そんなセーショさんは、聖書らしからぬ凶悪な魔法を使ってゴブリンを皆殺しにしていた。
3人の笑い声とゴブリンの絶叫を聞きながら、僕は唖然と立ちつくしていた。
強すぎる。……いや、この人達が別格で強すぎるのかもしれない、そうだと信じたい。
これが勇者ならまだわかるが、話を聞けばこの人達はただの冒険者だ。
僕はこれからこんな凶悪な人達を殺さないといけないのか? 考えただけで心臓が痛くなりそうだった。
ゴブリンの悲鳴が聞こえなくなるまで、ファンタジーのような戦闘を僕はただ呆然と眺めていた。
「久々に魔法をぶっ放してスッキリしたわ。最近書物庫に入り浸りだったから」
満面の笑みで、モルガナさんは楽しそうにそう言った。
「ホッホッホ、無駄な殺生が過ぎましたかね」
戦闘中になるとめちゃくちゃ怖くなるセーショさんも、同じような笑みを浮かべていた。
「セーショがセッショーを好むってギャグかよ。面白いな」
一番殺していたであろうガレンさんのギャグは全然面白くなかった。
――キィギギギー!
ひと段落したと思ったその時、一匹のゴブリンが涙を流しながらこちらに向かってきた。
仲間を殺されたからだろうか、不意打ちにもなってないその行為はただの自殺だと思った。
「お前ら、いつものアレ賭けようぜー」
まるで子供同士のサッカーを始めるような雰囲気を漂わせながら、容易くゴブリンの両足を蹴り折るガレンさん。
「話にならないわね、白よ」
「ほっほっほ、私も白ですかね」
「ったく賭けになんねーじゃねーか!」
「そういうあんたは?」
「白に決まってんじゃねーか! ガッハッハ!」
何の賭けをしているのか見当がつかないが、何やら楽しそうだ。
「おいアキ、このゴブリンを殺してみな。勇者なら避けては通れない道だぜ」
そう言って、僕の目の前にゴブリンを蹴とばす。
ギロリとした気持ち悪い緑色の眼が、僕の事を睨んでいた。
「……僕がですか?」
少しビビリながら僕はガレンさんに聞いた。
縦に頷いて肯定されてしまった。
「そうだよ、殺せないか?」
足元に転がっているゴブリンは、よくわからない奇声を発しながらこちらを見ている。
なんともまあ、とても残酷なファンタジー要素が目の前にはあった。
僕は城で貰った剣を初めて抜いた。
両手にずっしりと剣の重みが伝わってくる。
……このゴブリンは仲間を、そして家族を殺されてどんな気持ちだろうか?
そして今、その敵に両足を壊された気分はどんなものだろうか?
悲しんでいるのだろうか? まだ殺意は消えていないのだろうか?
……そんな人間らしい事を考えると思っていたが、僕の体はそれに反して無意識にゴブリンの首を切り落としていた。
何の迷いもなく、綺麗にまっすぐ切り落とした。
その切り口からは、どす黒い血が噴水のように噴き出し、僕の服を赤く染め上げた。
なんとも言えない生暖かさが皮膚から伝わってくるが、別に嫌ではなかった。むしろ心地よかった。
昆虫すら嫌悪感で殺せなかった僕が、ゴブリンを殺した行動によって心が歓喜していた。
トランさんとの記憶共有の影響だろうか、それとも僕の本当の感情なのだろうか、理由は分からないけど、命を刈り取る行為に何故か喜びを感じ始めていた。
「お前って見た目と違って結構攻撃的なんだな! やっぱ黒に賭けときゃよかったぜ! ガッハッハ!」
ガレンさんは僕の肩をバンバンと強く叩いてくる。
……どうやら先程の賭けは、僕がゴブリンを殺せるかどうかだったようだ。
「迷いが無かったわね。なかなか見込みがあるわ。そして黒に賭けておくべきだったわ」
見込みがあると言いつつも不機嫌そうにモルガナさんは褒めてくれた。
「勇者様、あぁ勇者様。貴方はこれまでの腑抜けた勇者とはどこか違うようです! 私の目には狂いはなかったのです!」
……迷いなく白に賭けたセーショさんは、真面目な顔をしてそう言った。




