居酒屋ギルドと飲んだくれ
街を探索していると、すぐに冒険者ギルドの看板を見つけた。
ファンタジー世界には欠かせない冒険者ギルド。夢と希望がつまった冒険者ギルド。
僕はその言葉の響きに誘惑されながら入り口に一歩踏み出した。
むわっとアルコールの臭い匂いが鼻を刺した。
辺りを見渡すと、決して少なくない人数が昼間っからお酒を飲んでいた。
なんともまあ、ファンタジーらしからぬ光景……いや、一周回ってファンタジックなのかもしれない。
「あら、あなたがあたらしい勇者さんかしら? 聖都ヘブリーンへようこそ」
受付らしきお姉さんが笑顔で話しかけてきた。
「勇者ってよくわかりましたね」
「城が聖なる光を発したら、そりゃもう勇者召喚以外の理由はないわ。そして大半は真っ先にココにくるわよ。 ……ようこそ冒険者ギルドへ、なんて言ってもただの酒場みたいなものだと思っていいわ。情報交換、仲間探し、私としては料理と酒をいくつか頼んで貰えると助かるわね」
ギルドって討伐依頼とか冒険者をランク付けとかそういうのを想像していたけど、なんだか普通の出会い系居酒屋みたいな感じらしい。
夢も希望も無い冒険者ギルドの現実がここにあった。数分前の興奮を返してほしい。
「よう勇者さん、お前はどこから来たんだ?」
銀色の鎧を身に着けたマッチョな男が話かけてきた。
「ねぇねぇ、スキルはなんだったのよ?」
その後ろから黒いローブで着飾れた、いかにも魔法使いのような女性が声をかけてきた。
「勇者様、あぁ光の加護を受けた勇者様! 神への信仰に興味はありませんか?」
マルチ商法も真っ青なうたい文句でうさんくさい神官が歩み寄ってくる。
……僕の周りを3人の酔っ払いが囲いはじめた。どいつもこいつもお酒臭い。
小さなお祭り騒ぎになろうとしているその場を、いい加減にしなさいと受付のお姉さんが一喝した。
3人が素直に席に座り始めるあたり、この場で一番強い人なのかもしれない。
「新しい勇者さんが来るといっつもこうなのよ。ごめんなさいね」
「ははは、大丈夫ですよ。……いつもと言いましたが今まで勇者って何人くらい来たんですか?」
「そうね……私が受付の仕事を始めて2年たつけど、だいたい150人くらいかしら?」
ひゃ……ひゃくごじゅうにん!? 五十人増えたよ!?
いやいや、勇者ですよ? 職業勇者。僕の世界ならただの無職だけど、この世界では世界を平和に、悪を切り裂き民を導く英雄の卵じゃないんですか?
2年でひゃくごじゅう? そんな馬鹿な話があってたまるか。
「なんでそんなにいっぱい勇者がいるんですかね!?」
受付のお姉さんに、半ば興奮しながら聞いてしまった。
「300年くらい前かしら、世界のあちこちで新種のダンジョンが出現しだしたの。中から新種の魔物や、絶滅したと思われた魔獣とかわんさか溢れ出てきて、それはもう大変だったらしいわ。落ち着いたと思ったらここ数年でまた暴れだしたの。だから戦力がいくらあっても足りないのよ」
先ほどのがたいのいい男が、酒を飲みながら再び近寄ってきた。
「そうそう、魔王を超越した大魔王の出現かー? って大騒ぎになったんだよな! 世界の終末だーだの、神への信仰が足りなかっただーだの、お祭りみたいにはしゃいでたな!」
世界の終末を嬉しそうに語るこの男は、なかなか楽しそうな人生を送っていそうだった。
続いて、魔法使いの女性は楽しそうに話し乗っかり始めた。
「それに呼応して魔族どころか野盗も活発になって、もう街の中も外も昼夜問わず五月蠅くてしょうがなかったわ。まあ私としては普段なかなか手に入らない魔族の眼とか手に入って幸せだったけどね」
「神への信仰が足りません! なんて話を楽しそうに話してらっしゃるのですか! これだから冒険者は野蛮だと呼ばれるのですよ。いいですか? 魔王とは悪です。敵です。倒すべき存在なのです。魔王が復活したという事は、これはもう神からの試練以外に考えられますか? 否! 考えられません! これは神から啓示なのです! 神への信仰を怠るがなかれ! 全ての神道へと通じると! 全ては私たち人間を想うが為に与えられた慈悲なのだと! 素晴らしい! あぁ神よ、私はいつでも心身を捧げる準備はできておりますぞ!」
……一番人生を楽しんでそうな神官は、永遠に喋りだす壊れた機械みたいになっていた。
「まあ、要するに敵の数がいっぱいだから、勇者様をいっぱい召喚したって話なのよ」
簡潔で簡明な文章で、お姉さんがまとめてくれた。
「そういうことで、今は総勢300人くらい居るかしらね。まともに戦えるのは100人くらいだと聞いているけど」
……さんびゃくにんという数字を聞いて、軽く立ち眩みをおこした。
トランさんちょっと話が違わなくないですか?
そりゃ、そっちは魔王の力で地球人を何十億人殺すってそれはそれで大変そうですけど、無力の人間が勇者300人って、コレは相当きついですよ……
そんな難しい事を難しい顔で考えていると、お姉さんは僕の目を見てこう言った。
「この馬鹿3人、頭がちょっとめんどくさいけど、悪い人ではないわ」
頭がだいぶおかしいのは、火の粉がかからないようにというか、面倒なことに巻き込まないでくれというオーラがこの3人以外の客から発せられていることから察することができていた。
「あんたたち、暇なら勇者さんとゴブリン退治にでも行きなさい。ついでに素材でも拾ってきて溜まりに溜まってるツケを少しでも減らしなさい」
3人はめんどくさそうな顔をしたが「あぁん?」とお姉さんが軽く脅すと素直になっていた。
「おーいいぜ! 未来の英雄様にいっちょ手本を見せますかぁ!」
男に首根っこを掴まれながら、僕は頼んでもいないのに半ば強制的にゴブリン退治に行く事となった。




