異世界転移なファンタジーワールド
光のウォータースライダーに乗っているような錯覚に陥りながら、僕はファンタジー異世界に向かっている。
さて、気持ちを整理しよう。
僕はおそらく勇者として召喚される運命の流れに乗っている。
「あぁ勇者様! どうか世界に平和を! 悪を切り裂き我々を導いてください!」
……と、小さな背丈だけど胸の発育が素晴らしい美少女が僕の両手を掴み、涙目で魔王討伐を訴える運命の流れに乗っているに違いない。
……なんて思うのは、ゲームのやりすぎだろうか。
僕の目標は2つある。
1つ、魔王を解放する事。
2つ、勇者をいっぱい殺す事。
仮にすぐトランさんを開放できたとしても、力を消耗している状態では勇者に殺される可能性がある。
魔王が生かされているという異常事態は勇者への信仰心を増幅させる為の道具になっているが故に発生している事を忘れてはいけない。
勇者達の戦力を確かめない事には、トランさんを開放するという行為は分の悪いギャンブルにしかならない。
召喚された場所に"魔王開放スイッチ"なんて都合の良い物が転がっていたとしても、歯がゆいが押すことはできない。
……まあ十中八九、魔王の封印という最重要事項なんてものは、世界中が力を合わせて厳重に守られているに違いない。
魔王の復活=平和の終焉を意味するようなものだ。
最優先機密だろうし、見つけても厳重に守られているだろう。
という事は、どちらにしろ勇者を殺して力をつける必要があるんだ。
守るためにも、攻めるためにも力がいるのだから。
魔王と記憶を共有したということは、恨みも憎悪も共有したことになる。
勇者を殺すためにもはや他に理由はいらない。トランさんを傷つけた奴は個人的にも殺したくなっている。
勇者を殺し、力をつけ、封印場所を探し出し、解放する。
……なんだか、先の長い旅になりそうだ。
トランさんは元々力があるから、僕の世界を滅ぼす事なんか簡単だろう。
それに比べるとなんだかちょっぴりずるい気がしたが、なんの変哲もない人間が世界を滅ぼす手段を持つということを考えたら、天秤がはち切れそうなほど恵まれすぎる話なのかもしれない。
そうこうしているうちに、ゴールに近づいてきたみたいだ。
真っ白な空間の中に、いっそう輝く場所へと近づいていく。
はじめまして、よろしく、ファンタジー異世界さん。
招かれざる訪問者ですが、何卒よろしくおねがいします。
体輝き出し、意識が遠くなった。
次に目が覚める時は、勇者になっているのだろうか。
◇◇◇◇◇
――――。
――。
「初めまして、勇者様」
目の前には光属性にパラメーターが振り切れてるような、美しい女性が立っていた。
大聖堂の美しいステンドクラスは彼女を神格化するように輝いている。
「貴方をお待ちしておりました」
泣く子も黙りそうな母性感あふれる笑顔で、そう言った。
その優しいオーラとは裏腹に、僕の心の中はいつのまにかドス黒い殺意に満ちていた。
こいつらがトランさんを追いやった元凶の末裔か何かか? 今ここで、殺しておくべきか? そんな考えが頭の中をぐるぐると回り始める。
「私は、聖女のセイカと申します。突然のことで戸惑いがあるかとお察しいたします。貴方はこの世界に、神の祝福を受け、魔王を倒すべく勇者として召喚されたのです」
聖女の話が頭に入らない。周りを見渡すと、白い鎧を身に着けた屈強な騎士が数名こちらを見つめている。
僕は必死に興奮した頭を落ち着かせようとした。
よく考えるんだ、ここは勇者を召喚するような場所だぞ? 少し考えれば、ここは敵の本拠地だと分かるじゃないか。
勇者の召喚なんて大層な儀式をしているんだ、そりゃ聖女とか勇者とか、その類のヤバイ奴がいる事くらい出会う前から分かるじゃないか。
ここで戦いを挑むなんで、自殺行為でしかない。落ち着け、落ち着くんだ。
というか、光のウォータースライダーで気を抜かしていた場合ではなかったぞ。
なにしてたんだ数分前の僕。お前が目の前にいたらぶん殴って言い聞かせてる所だ。
「安心してください。みなさん、最初は同じように混乱されます。詳しく説明する前に、まずは身体を休めてください」
……出会い頭に背中から魔法を飛ばされる待遇とは正反対の対応をされながら――。
ここは勇者として聖女の提案に甘えさせて貰い、少し頭を冷やす事にした。
「最後に。貴方は1人ではありません。貴方の他に、100人以上の勇者様がいらっしゃいます」
「ひゃ、100人?」
冷静になりかけていた頭が再び沸騰しそうになる。
……話が違う! 違いすぎるよ! 勇者が100人!? 100人以上!?
トランさんどんだけ恐れられてるんですか!?
「どうか安心してこの世界をお救いください。貴方のことは私はもちろん、国民全員が応援させていただきます」
……なんだなんだ。
つまり、貴方を含め勇者100人と国民全員が敵ということになる訳ですか。
長そうな闘いになるかとは思っていたけど、これは想像以上に厳しい事になりそうだ。
そもそも闘いになるのかすら分からない。分が悪すぎるような気がしてならない。
……トランさんがお菓子を全部食べてしまう前に解決できるのだろうか? あまり時間をかけすぎると今度は魔王まで敵になりそうだ。
残念だがこの先、心休まる時間はなかなかありそうにない。
僕は魔法使いの恰好をした女性の案内に従い、大聖堂からようやく出ることができた。
どうやらここは城の中らしい。床には赤いじゅうたん、壁にはセンスのありそうな絵画が並べて飾られている。
廊下ですれ違う人々は、チラリとこちらを見てはぺこりと頭を下げる。
「あぁ勇者様! はるばるお越しいただきありがとうございます。私のような者が勇者様とお会いできるなんて光栄ですわ!」みたいな反応を想像していたのだけど、現実はそうでもないようだ。
まあ勇者が100人も居るらしいから、しょうがないっちゃしょうがないし、気持ちも分かる。
僕も魔王が100人もいたら「それもう魔王じゃなくて強い魔物じゃん。王じゃないじゃん」とか言ってしまいそうだから。




