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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
9章 終わりの階段
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プライベート空間

 34日目を丸々寝ていたらしい僕は、この世界に来て35日目の昼を迎える事ができた。

 騒々しい中に楽しさが含まれていた朝食を食べ終え、久しぶりに恐らく暇になったであろう僕は景色が一望できる窓から外を眺めていた。


 大自然なんてものはここ一ヵ月で見飽きるほどに見て来たけど、なんだかいつもより輝いているように見えたし……

 いや、自称神を倒して魔王が復活しちゃった世界でそんな事を言うのもおかしいとは思うけど、確かに綺麗に感じてしまっている。


 少し視線を下にずらすと、遠くでオークとマンティスを中心として新しい町造りが行われていた。

 どれもこれも見覚えがあるような無いような感じがするけど、先日協力して貰った即興魔王軍の参加者達が集まった景色と同じように感じる所をみると、きっと同じ方々なのだろう。

 ……よくもまぁ昨日の今日でそこまで行動できてしまうものだ。

 少しは浮かれてみて、三日三晩続くくらいの宴会が開催されてもいい気がしないでもない。


 いや、ひょっとしたら昨日の内に住ませたのかもしれない。

 僕は丸1日寝ていたからな、もしそうであれば実に惜しい事をしてしまったんだなと後悔する。

 きっと僕は特等席に座る権利を得られると思うからね! ……いや、座りたくはないのだけれど……。



 木を綺麗に切り倒すマンティス達、丁寧器用に木材を組み立てるオーク達。

 素晴らしい役割分担で効率よく作業が進められ、嬉しさのあまりお互いにハイタッチをしてマンティスロードの鎌で負傷したオークヒーロー。

 そのまま小規模の乱闘が開始された。


 乱闘といっても、アレはじゃれあいみたいなものだ。

 僕の記憶が正しければ彼等の仲は険悪中の険悪で、遭遇すれば殺し合うような仲だったはず。

 それなのに、今の彼らは笑顔でお互いを認め合っている。

 姿が男女であれば恋仲に見えるくらいのその親密さは、一体どこから来ているのだろうか。


 一緒に戦った時に芽生えたのか、魔王のカリスマ性のおかげなのか、それとも元々そんなにお互いを嫌っていなかったからなのだろうか。

 人間のようで人間ではなくなった僕にはよく分からないけど、どちらにしろとても良い事だと思った。


 空から果物を運ぶハーピー達が手を振ってきたので、こちらも振り返してみる。

 彼等の瞳には、僕はどのように映し出されているのだろうか。


 このファンタジー異世界にきて35日目。

 まだまだこの世界は分からない事だらけ。

 だけども今、僕は少なくとも、目の前に広がる光景がたまらなく好きな事くらいは、なんとなく理解する事ができた。



 ◇◇◇◇◇



 遠くから荒々しい炸裂音と共に急接近してくる謎の物体。

 既視感のあるその存在は、その名を口にする前に――


「カッカッカ、まさか数日でここまで成し遂げてしまうとはな! セバストから聞いたぞ、大した活躍だったそうじゃないか!」

「アリディラさんの協力があってこそでした」


 エルフとはとても思えない威力の平手をギシギシの背中に叩きつけられながら、彼女は言った。


「何かと入り用だと思ってな。セバストには食料等を運ぶよう指示しておいたぞ」

「今朝いただきました。ご馳走様でした。めちゃくちゃ助かります、きっとこの城にはお菓子以外に何も無かったと思いますので……」


 朝から上流階級の食事を口にできたのは、どうやらシェフだけでなくアリディラさんのおかげらしい。

 感謝してもし足りない。僕はこの世界に来て唯一の楽しみが食事くらいなのだから。

 そんな感謝の言葉を知ってか知らでか、背後から走りながらとトランさんとバンシーさんがやってきた。


「やあアリディラばぁさん、久しぶりだな!」 

「元気そうじゃないか、生まれたばかりのひよっこ魔王様」


 終戦早々にお互いが開戦を宣言するような嫌味を言い合いながら、彼女達は笑っていた。

 きっと凄い仲がいいのだろう。僕にはよく分からないけれど。


「旧知の仲です。積もる話もあるでしょうし、僕は席を外しますね」


 空気が読める僕は、なんだかてつもなくいじられそうな気配を感じたので早々と退散を決断する。

 ……すると、振り迎え様にがっしりと腕を掴まれた。


「ま……!? まさか、あの2人の相手を私だけに任せる気じゃないでしょうね!?」


 小さく、それでいて僕の鼓膜にだけ響くような声で、バンシーさんはそう叫んだ。


「僕は用事があるんですよ」

「何よ!? 言ってみなさいよ!?」

「……掃除とかです」

「後回しでいいじゃない!」


 眼が無いけど、まるで目を見開きながら訴えてきているバンシーさんは、必死の僕の右腕を掴み続けた。

 振り払おうとも、絶対に離さないという強い意思に勝つ事ができない。


「バンシー、お茶を入れてくれ」

「……はい、ただいまお入れいたします」





 ――転移の罠(・・・・)



 あらかじめ用意していたベッド上に、僕はふわっと転移した。

 ここが僕のセーブポイント。

 そして、安息の場所。

 そくなくとも、あの大きな扉が鍵の役目をしてくれるのならば、唯一プライベート空間。


 この世界に来て35日目の昼。

 僕はようやく、ひとりでゆっくりと、何も考えないで過ごす時間を手に入れる事ができた。

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