【小話】キラキラとマメ
転生して1ヶ月ほど経った頃、肌寒さを感じる家の中で、天井の隅でキラキラと光る蜘蛛の巣を見つけた。
あまりにも美しい輝きにスキルを使う。
『アルコスパイダーの巣。世界で一番小さい魔蜘蛛の巣。キラキラと七色に輝く美しい見た目に反して、魔素を固めて作られた糸はミスリル線並の強度を持つ。触れると身体切断の可能性あり。巣を取り出したい場合、ミスリルを使った工具を使用するか、巣を作ったアルコスパイダーの魔力が必要。』
『アルコスパイダー。針の穴ほどの大きさで世界最小の魔蜘蛛。小さくて素早いので捉える事が困難である。魔素を取り込み強靭な糸で巣を作る。巣に絡みついた小さな虫を食べる。実は甘い物が好物』
(スキル使って良かった…危うく指を失うところだった…キラキラして綺麗だし、天井の隅だし、無理に除去しなくていいか)
と、放置して日々を過ごしていたらーー
「なんか大きくなってる…」
天井の片隅でキラッと光くらいだったのが、気づいたらハンドタオルくらいの大きさになっていた。
(大きくなってるって事は、アルコスパイダーが住んでるって事だよね。)
キョロキョロと視線を彷徨わせてみるが、小さすぎて蜘蛛を肉眼で捉えるのは難しい。
「アルコスパイダーさーん!巣を作るのはいいんだけど、天井だけにしておいてくださいねー!」
どこにいるかわからないアルコスパイダーに、一応お願いしておく。
(甘い物が好きって書いてあったし、賄賂になるかわからないけど…)
巣の近くにある食器棚に、小皿に入れた砂糖水を置いておく。
(これでダメなら、可哀想だけど巣を取り除くしかないかな)
次の日、小皿を確認すると綺麗に砂糖水がなくなっていた。隅ににある巣も上に広がっていて、壁の方には広がっていなかった。
(賄賂作戦成功かな?)
「お願いを聞いてくれてありがとうー!お礼に今日はクッキーを置いておくね!」
今日も居場所はわからないが、とりあえずアルコスパイダーに声をかける。戸棚にしまっていたクッキーを一欠片小皿に置く。 共存できるならその方がいい。室内の害虫を処理してくれるなら助かるしね。
こうして毎日賄賂をお供えしていると、ついに天井の四分の一が巣になった。窓から入る光にキラキラと反射して間接照明のようだ。
(殺風景な家だから丁度いいかも。癒されるー)
いつものように小皿に甘い物をお供えして、畑の確認をしに外へ出ると、より一層冷たい空気が頬を撫でてきた。
(畑は順調だけど、まだ収穫できないし、森へ探検しに行くのもありかも)
そう思いながら森の方に目を向けると、ギラリとひかる双眼がこちらを見ていた。とっさにスキルを発動させる。
『バックラビット。小型の魔獣。肉食。森や草原で生息。大きな前歯と強力な後ろ足で敵を攻撃する。群れでの行動を好むが、群れから逸れた個体が凶暴化し人里へ降りてくる事がある。攻撃さえ避ければ、スキルや武器で討伐が可能』
転生して初めて出会う魔獣に自然と足が震える。
(私のスキルでは魔獣を倒す事はできない!小型魔獣だけど三歳の体でどこまで戦えるんだろう。今持ってるのは畑を耕す鍬だけ…転生して二ヶ月でお終いだなんて最悪すぎるー!!)
混乱している間にバックラビットがこちらに向けて走り出した。思っていたよりも素早い動きに更に身体が動かない。
(むっ……無理ーーーー!!!)
半泣きで鍬を構えるが勝てる未来が見えない。
(さよなら、異世界…)
バッグラビットが間近に迫り、鍬を振り落とそうとした瞬間。
ずしゃーー!!
バックラビットの頭が吹き飛び、頭を失った四肢はその場にグシャリと崩れ、煙となり魔素に戻った。
唖然と見つめると、バックラビットの四肢の近くに、キラキラとした糸が見えた。
「アルコスパイダーの糸…?」
エメラルダが呟くと、おでこ辺りからつつつと糸が伸び、アルコスパイダーが現れた。奇抜な登場の仕方にびっくりしたものの、命の恩人にとりあえずお礼を言う。
「ありがとう。貴方が助けてくれたのね」
ふわりと微笑み、傷つけないようにそっと掌に乗せると、照れたようにくしくしと前脚を動かした。
「貴方の糸すごいわ!あんな一瞬で自分よりも大きな魔獣を倒せるだなんて!」
更に褒めるとくしくしの速度が上がる。
(可愛いー!!)
賄賂が効いたのか、おでこから垂れている糸に触れても手が切れる事はなかった。
「私のことを、お友達として認めてくれたって事かな?」
アルコスパイダーの小さな頭がこくりと頷く。どうやらお友達になれたらしい。
「これから宜しくね!えーっと…マメ!貴方の事マメって呼ばせてもらうね」
嬉しかったのか、掌でぴょんぴょんと飛び跳ねるマメに笑みが溢れる。
異世界へ来て初めての、心強い魔獣の友達ができた瞬間だ。




