お茶会のお誘いとマメ
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「お茶会ですか…?」
「そうだ。お前の友人を見つけるための茶会だ」
婚約者か毒杯かと言われた翌日に、グレイブから伝えられた言葉にびっくりした。
「こちらに来てから、一度もお茶会なんて参加した事なかったのに…どうして?」
「このまま何もせず毒杯を飲ませるのは、俺たち兄弟の本意ではない。それに、一年前から国王が政務にあまり介入しなくなってきた。体調不良が理由のようだが…まぁ、国王の影響が弱い今、お前が社交界デビューするのにちょうどいいんだ。」
「私は国外逃亡でもいいのですが…」
「俺たち兄弟がそんな事させると思うか?」
「させてはくれなさそうだけど、実現不可能な訳ではないです…」
「そう思えるお前のスキルが厄介だよ」
はぁー、と腰に手をあて大きなため息を吐くグレイブに、エメラルダは思案する。
(最終目標は自立して、まったりスローライフだけど、私の事を気にかけて動いてくれてる兄様や姉様を裏切るのも嫌だしなぁ)
「分かりました。でも礼儀作法に関しては実践経験がないから…そこは大目に見てほしいです」
エメラルダの言葉に意外そうな顔をしたものの、了承されたことにグレイブが満足げにニヤつく。
「今回茶会に来る貴族の子息子女達は、お前と歳が変わらないし、礼儀作法もうるさく言われない年齢だ。」
この世界の成人は16歳からだ。その前に貴族の子供達はお茶会へ参加して、他家の子供と顔合わせをする。幼いといえど、王家主催のお茶会ともなると、ある程度の位がないと参加できない。参加できるのは伯爵以上だろう。
「まあ、参加者や茶会の準備、衣装はアイリーンに任せておけ。かなり気合いを入れるみたいだから、誰も口出しできない。お前がやる事は、作法の復習と、当日までアイリーンの着せ替え人形になる事くらいだ」
「着せ替え人形ですか」
この国一の美女であるアイリーンの事を思い出す。
光を絡めとるように波打つ美しい藤色の髪の毛、大きく煌めきこぼれ落ちそうなエメラルドグリーンの瞳、すっと通った鼻筋の先には美しい薔薇色の唇、華奢なのに女性らしいラインを描く体躯は老若男女関係なく見惚れる。さらに『魅了』のスキルまで搭載され、女神が裸足で逃げ出すほどの美女。尚且つ、生まれ持った美貌と才能に胡座をかかず、美と知の努力も忘れない人格者である。
「アイリーン姉様なら安心です」
「ということだから、お前は無理せず健康に過ごすように」
そう言って家から出ようとするグレイブを、慌てて呼び止める。
「グレイブ兄様待ってください!これ!」
キッチンの棚にしまってあった、サルトベリーのジャムを取り出す。魔獣のアルコスパイダーの糸で紡いだレースでのラッピング付きだ。
「いつも様子を見にきてくれてありがとうございます。今度、隣国との合同軍事演習があるって聞きました。グレイブ兄様は強いから大丈夫だと思うけど、何かあった時このジャムを舐めて下さい」
真顔で、言葉もなくジャムを受け取ったグレイブを見上げてにっこりと笑う。
「…まぁ、そこまでいうなら…」
言葉とは裏腹に、丁寧な手つきで懐に仕舞み、扉から出ていくグレイブを見送った。
(グレイブ兄様のツンデレはいつ見てもニヤニヤしちゃう)
ぐふふ、と王女らしからぬ声で笑っていたら、アルコスパイダーのマメが髪の毛の中からひょっこりと顔を出した。
「マメ!マメが出してくれた糸で作ったレース編みが大活躍だよー!ちょっとした贈り物を包むのに丁度いい」
肩に乗っていたマメを指先に移動させる。針の穴ほどしかないマメが、どこか誇らしげに前脚をくしくしと動かした。
足早に離宮を離れた後、王城の片隅で先ほど受け取ったジャム瓶を取り出す。
アルコスパイダーの糸で編まれたレースは、キラキラと太陽の光で虹色に反射して美しい。しかし、その繊細なレースの模様からは想像できないくらい頑丈だ。
アルコスパイダーは魔獣の仲間であるものの、針の先ほどの大きさで攻撃性はない。すばしっこい為、捕まえるのも、見つけるのも困難である。生きたまま捕えても、糸を出す前に自滅してしまう。運良く巣が発見できても、糸が細いため加工できる太さになるまで集めるのが大変だ。
そんな魔獣の糸を、手作業でレース編みできるまでの太さに調節し、美しい模様を描いている。ジャム瓶を包む大きさ程度だが、相当の価値がある。市場で売れば、そこそこの財が築ける。
ーーこの価値を知らず、ぽっと渡してくる事が恐ろしくもあり愛おしくもある。
「何をニヤニヤしているんだ?」
「…エメラルダからの贈り物を眺めていたんだ」
気配を消してそっと近づいてきていたリデアに、大したこ事はないとでも言いたげな視線を向ける。
「…アルコスパイダーの糸で作ったレースと、サルトベリージャムか。国内外問わず、それを手に入れたいと目をギラつかせる貴族達の顔が目に浮かぶよ」
リデアの言葉にグレイブが視線を落とす。
「サルトベリージャムだけでも貴重なのに、アルコスパイダーの糸まで自由自在に手に入れるとはな。アイツのスキルと能天気さに驚くばかりだ」
「サルトベリーもアルコスパイダーも、エメラルダが来てから発見されたものばかりだ。私達が森を探索しても出てこなかったものが、エメラルダが現れてから発見されるようになった。スキルだけの問題なのか、エメラルダ自身に何か秘密があるのか…」
リデアが美しい双眼をエメラルダの住む離宮へと向けると、魔素の乗った風が頬や髪を撫でた。
「…茶会の件に関してはエメラルダから了承をもらった。」
森へ向けられていた視線がグレイブへと移る。
「早速準備に取り掛かろう。そのまま駐屯地の方へ行くのだろう?壊れないように私がジャムを預かっておこう」
にっこりと胡散臭い笑顔を向けられたグレイブが鼻に皺を寄せる。この笑顔にころっと騙される令嬢たちの気持ちが全くわからない。
「結構だ!何だかんだ理由をつけてそのまま自分の手元に置いておくつもりだろう!」
瓶をさっとに片付けて、ズンズンと駐屯地へと歩みを進めるグレイブを、胡散臭い笑顔のまま見送った後、リデアは会議室へと向かった。




