魔素の森とクロ
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エメラルダの住んでいる離宮の裏には、スキルを駆使して育てた野菜が誇らしげに実っている。王城の庭園には観賞用の花しかないので、キッチンへ忍び込み、ゴミ箱から野菜の根元やヘタをコツコツと集めて植えた。前世の芋や玉ねぎ、にんじん、大根、小松菜などに似た野菜を見つけることが出来たのは、かなり助かった。
庭師の小屋から拝借した鍬を使い、一からの畑作りは未知の体験だった。病み上がりで、当時三歳のエメラルダには過酷な労働が、誰の為でもなく、自分の為に働くこと事ができる環境に、心の充足感の方が勝っていた。 スキルを使い、作物の成長を促す肥料を作り、一週間程度で大きく艶のある野菜達が畑を潤した。調味料や小麦などは王城のキッチンからくすねて、生活の要である食に関しての心配事はなくなった。
その大事な畑の目と鼻の先には、木々が鬱蒼と茂る森がある。
お城って都の中心にあって、高い塀で囲われているのでは?と思っていたが、どうやらこの森は特別な魔素が漂っているらしい。王城の一部として保護し、外部から森へ侵入しても王城へは辿り着けない。2日あれば一周できる規模らしいけど、外部侵入者が森から出たのを見た者はいない。と、王城に本で書かれていた。
そして、今日のお目当ては、そんな曰くありげな森でしか育たない珍しい木の実だ。
森へ入り木深い獣道を危なげなく進んでいく。森独特のヒヤリとした空気が、さっきまで畑仕事で汗を流していたエメラルダの身体を冷ましてくれる。20分ほど歩くと、鮮やかな草花が生い茂り、木の実が豊富に取れる灌木林にでてくる。
さすが異世界、と言いたくなる様な、不思議な形をした草木を前に『検索』と唱える。
スキルを発動すると、ウィンドウ画面のようなものがパッと現れる。画面を対象物へ向けると説明文が日本語ででてきた。
『サルトベリー:特別な魔素が漂う土地にしか生息できない。赤くて甘酸っぱい果実が常に実っている。栄養が豊富で、数粒食べれば体力と魔力が回復する。加工可能。実が甘ければ甘いほど、木や葉に長く鋭い棘が増え、採取するのが困難。水がかかるとトゲが柔らかくなる。』
棘の鋭い低木を探し、自分の飲料用に持ってきていた水をパシャリとかける。ふにゃりと柔らかくなった部分のベリーを素早くカゴへ収めていく。それを何回か繰り返し、カゴいっぱいになる頃には日が高いところに昇っていた。
「そろそろお昼にしようかな!サンドイッチも持ってきたしピクニックー」
うーん、と伸びをして、リュックを下ろす。サンドイッチを取り出そうとしたら、後ろからガサガサと物音がした。慌てて振り向くと、そこには黒い長毛を美しく輝かせた大きな狼が佇んでいた。
「クロ!」
ぱっと駆け寄り狼に抱きつく。クロが嬉しそうにエメラルダに頬擦りをした。
「ちょっと体調が心配だから見せてね『検索』」
『黒狼魔の幼体。魔力を持ち森の中や広い高原で暮らす。穏やかな性格だが、害をなす者には黒魔法による攻撃と、強靭な牙と爪で戦う。健康状態は良好』
「よかった。あれから体調は悪くなってないわね。…っていうか、いつもベリーを詰み終わるタイミングで登場するんだから!」
よしよしと首を撫でると、グルルと喉を鳴らし尻尾を嬉しそうに振った。
「こっちにおいで!一緒にピクニックしよう!」
クロを連れて、リュックのある場所へ腰を下ろす。エメラルダが腰を下ろした場所にクロも寄り添うように伏せる。
ハンカチの上に、先ほど積んだベリーを乗せてクロの前へ差し出した。
「昨日は森へ来れなくてごめんね。本を読んでたらいつのまにか夜になってて」
もさもさとベリーを頬張っていたクロが顔を上げ、仕方がないなというような顔でグルルと鳴いた。魔獣は頭が良いと本で読んだことあるが、クロは特別な感じがする。私の話す言葉を全て理解しているみたいだ。ハンカチの上に置いたサルトベリーを、行儀良く食べるクロを見ていると、クロと出会った時のことを思い出す。




