30話
side アリス
─修行3日目午後─
「ホントに死ぬかと思った」
「本気で殺す気でやったからな」
「なんでちょっと前に死にかけたのに同じ様な目に遭わないといけないのさ!!!」
「修行の内容についてはお互いに文句言わねぇ決まりだろうが、ガタガタ抜かすんじゃねぇ!」
「ぐぬぬぬ」
いつもの広場のベンチで歯を剥き出しにしてシデンを睨むロードがいた。シデンは手に持つ串焼きを頬張る。そんな二人を少し離れてアリスは見ていた。
(改めて思えば、ロードがこんなに打ち解けてるの珍しいわね)
アリスの知る彼は二人。魔力を失う前と後で彼は別人の様だった。失ってからのロードは笑うのが下手で、どこか陰りが見えた。魔力を取り戻す方法を日常のどこかで探して、たまに目元を腫らして。きっと泣いていた。
「じゃあ僕も言わせてもらうよ。魔術一つでも刻めた?」
「・・・今やってんだよ」
「・・・サボってた?」
「うっせぇな!お前の修行にずっと付きっきりだったから仕方ねぇだろ!」
「3日もあったんだし一つでもいいから魔術刻めばよかったじゃないか!」
「ペンなんてこちとら殆ど持ったことねぇし、あんな複雑奇怪な陣を急に書けって1日2日で出来るわけねぇだろ!」
「出来るよ!ほら!」
「ウェ、お前キモいな」
「キモ!?」
(ロード、私もそれはキモいと思うわ)
ロードは魔術書を失っている。魔力が無くなったと同時に消えたと言っていた。その状態で僅かな滲みを生み出すことなく完璧な陣を紙に描いてみせた。僅か1秒未満。人外の領域だった。
(あの頃のロードに戻ったみたい)
それは魔力を失う前のロード。幼少の頃から公開されている一般魔術全てを網羅し、大人に混じり研究を続けた若き天才魔術師。冒険者としての活躍はほぼ確約され、いずれ二つ名を授かるであろうと言われていた。その時のロードはいつも笑って魔術について語ってくれた。あの時の明るさが今のロードにも戻ってきてる感じがしてアリスは小さく笑う。
「まったく、ちょっとは変わってるかと思ったら何も変わってないわね!私は修行に戻るわ!次の依頼はもう決めてあるからちゃんと間に合わせることね!」
「え!?どんなクエスト受けたんだい!?アリス!アリス!!」
「また前みてぇなクエストかもなァ。楽しみだぜ!」
「僕はもう懲り懲りだよ!」
「諦めろ」
アリスは後ろから呼ぶ声を無視して駆け出す。変わってないなんて嘘だった。変わろうとしている二人に触発されたアリスは気合いを入れ直し修行に挑む。
─私も負けられない。私はアリス。シリウス・ステラのリーダーなんだから!




