31話
アリスが去ってから二人はシデンの修行に頭を悩ませていた。
「クソっ、なんかコツねぇのか?」
「うーん、まさかここで手詰まりするとは思わなかった」
シデンは両の手でペンを持ち、丁寧に書こうと試みるがロードは失敗する未来を予見してしまっていた。持ち方もそうだが、何せペンが震えているのだ。思わずロードは苦笑いを浮かべてしまう。
「かーっ、ダメだ」
ペンが思わぬ方向へ滑り『シデンの書』の1ページが空白に時を戻す。これでもう20回目だった。シデンはペンを放り出し机に突っ伏した。ロードはそのシデンの様を自分の事の様に顔を悩ませながら拾いにいく。
「魔力はちゃんと込められてるから術自体の要求スペックは満たしてるはずさ。問題は─」
「このペンってのが気にくわねぇ」
「うーん、そればっかりはどうしようもないかも・・・」
ロードは頭を悩ませるシデンの為に何か出来ないかと思考しながら徐に杖を取り出す。
─ん?
ロードは癖で取り出した杖を見つめる。
「これ、使えるかも・・・?」
青眼は杖の魔力が通る回路を捉えた。
「でも魔力伝導率が・・・いやいける?」
魔力ペンの回路を捉え杖を後ろにペンを先に合わせる。
「出来ちゃった・・・」
回路が結合したそれを靴紐でくくり付けた。約50センチの妙な杖が出来上がった。
「シデンこれ使ってみてくれないか?」
「何だ、その奇怪な杖・・・ハァ!?」
シデンはロードからそれを奪う様に手に取った。
「悪くねぇ、悪くねぇぞロード!これならいけるぜぇ!」
「僕の杖の先に魔力ペン括りつけただけだけどね」
ヒントはあった。思い浮かぶは獣と斬り結んだあの瞬間。剣で捌きながら魔術陣を刻むあの光景を。
─僕に出来たんだ。シデンにも出来るはずだ。
ロードがあの日刻んだ陣より本に刻む方がよっぽど難しい。書き込む広さが圧倒的に狭いからだ。それでもシデンならやってくれると信じた。
シデンは思う。
─ロードが出来んだ。剣の扱いで負けてられるか。
ロードは『シデンの書』を広げシデンの正面に構える。
「さぁ!どんとこい!」
「ぜってぇ動かすんじゃねぇぞ、ロード!」
ロードは信じ、シデンは期待に応えようと構え、刻む。
「ッラァア!」
書き殴るではなく書き斬る様に、シデンは書に刻んだ。見開きの左のページが魔力光によって光り、正しく陣が描かれる。
「よっしゃぁああああ!」
「まだだよ!光ってる内に唱えながら刻むんだ!」
「何でそこにも時間制限があんだよ!紙どこいった!?」
シデンが書き込み、癖になった残心で振るった杖に煽られ、飛んでいく紙が、二人の頭上を過ぎて行く。
「「あ─」」
「もーなんだって君はこういう時やらかすのさぁ!?」
「うっせぇ!あんなの誰が予見できんだよ!」
「時間がない!僕に続くんだ!」
「詠唱を書くのか!?」
「当たり前!」
「クソがァ!やったらァ!!」
「いくよ───其は栄光に焦がれる焔人」
『─其は栄光に焦がれる焔人』
「故に焦がれるな、故に我を見るな」
『─故に焦がれるな、故に我を見るな』
「我が栄光は星をも灼く星光」
『─我が栄光は星をも灼く星光』
「灼星の降光」
『─灼星の降光』
詠唱が終わると同時にシデンの筆が止まる。魔力光は段々と縮小していき、書に収まっていった。見開きのページは空白に戻る事なく魔術が刻まれている。
「はー、よかった。よく一文字も間違えず詠唱できたね」
「ふぃー、なんとかな。字、間違わず書けてるみてぇで良かったぜ」
「詠唱もスラスラ出来てて感心したよ。僕より才能あるかも」
「それほどでもあるか─あん?詠唱?」
「・・・ん?」
シデンは「何言ってんだ?」とロードに目で語る。その様子にロードは目をパチリと瞬いた。
「俺ァ詠唱なんてしてねぇぜ。無我夢中で書き斬ってたからよ」
「え、だってさっき聞こえたよ?」
「おう、俺も聞こえたぜ」
「ん?・・・んん?詠唱、してないの?」
「・・・おう」
『─灯台元暮らしだ、アホンダラ共。しかとその目と耳で直視しろや』
陽が落ち始め世界が赤く染まる中、青白いスパークを放ち一人でに浮く本。
『─天下轟く英雄共を袖にし塵にし灰にして、遍く勇者共を遊んで弄んで揶揄んでやった大詐欺師、《ルイス・ヴァンディッシュ》たァ我様の事や!!!』
くるっと一回転し一際強いスパークを一瞬放つ。
『─ひっさびさに起きてみたらビリビリビリビリビリビリと、随分刺激的な魔力やなァおい。どした?ママやと思うて付いてったら全然別人で目を丸くする赤ん坊みたいな面しよって─』
「「しゃ、しゃべっタァーー!?」」
少年二人の声が黄昏の空に響く。




