29話
ロードとシデンは街の外の平原まで出ていた。シデンの手にはその辺で手に入れた手頃な木の棒が握られている。
「まぁこれで良いだろ」
「鍛えるってなったけどどうするんだい?」
「走れ」
「え」
「走るんだよ。少しでも動ける筋肉と体力をつける。レベルが上がって得られるステータスはあくまでもステータスだ。基本、つまり元の体のポテンシャルが高ければ高いほど筋力や敏捷の伸びがいいのは分かってる。俺がそうだったからな」
「だから、走るのかい・・・?そんな原始的な・・・」
「他にも理由がある。お前がこれから学ぶ剣の流派は『迅雷流』。もうスキル欄にもあるだろうから初歩は掴めてるはずだ。この流派の武の概念は『眼に映る敵全てを殲滅するまで殺し続ける』だ」
「何その物騒な概念は」
「もっとなんかまどろっこしく書いてたが、
まぁそんな意味だ。つまり動いて殺して動き続ける。その為には何よりも足と体力が必要になってくんだ。だから、走れ。疾く走れ」
「もう!?」
「たりめぇだもやし野郎。俺は後ろから追いかけて足を止めた瞬間に一撃を喰らわせるから、死ぬ気で走れよ?」
「─ェ」
当てられた殺気から逃げる様にロードは平原を駆ける。足を止めればすかさずシデンから木の棒で叩かれて、打ちどころによっては気絶をして、また走らされる。シデンはケタケタ笑いながら後ろからロードを追う。
「そらそらそらぁ!足止めたらホントに殺しちまうかもなぁ!」
「はぁ、はぁ!ホントに、死ぬっ!?」
ロードは思わず獣との邂逅がフラッシュバックした。それぐらいの殺気をシデンはロードに浴びせていた。
シデンの言ったこのただ走る訓練だが、これが意外と冒険者の中では効果的な訓練だったりする。冒険者になることによって急激に高まった身体能力を100%引き出せているのは全体の約20%。元の身体能力に引きずられてどこか心が体にブレーキをかけてしまっている事が多いのだ。だからこそ自分の今の限界を知る為にも吐くまで、気絶するまで走る訓練はかなりも効果的なのである。
(いつまで、走らされるんだ!)
「シデンっ!もぉ、限界だよっ!」
「うるせぇ!まだまだ走れるだろうが!それに昼にアリスが来てヒールしてくれっからよォ!安心してぶっ倒れるまで走れ!!!」
「この、悪魔ぁ!!」
「ハッハッハァ!何とでも言え!!!」
既に辺りは闇に包まれ、明かりが消えた。それでも足を止めようモノなら殺気が襲ってくる。シデンは限界はこんなもんじゃないと体でわからせてくる。
(こうなったら、やってやる!)
そこからロードは一睡もせず平原を駆け続け3日が経ち、気絶した。全身には所々打撲痕があり、体は悲鳴をあげている。青暗い夜に光が差す。朝日が顔を出す時間だ。
「限界か」
以前のシデンに顔を会わせずらそうにしていた頃なら1日とたたず逃げ出していた。そんな少年は気絶するまで、体の限界が来るまで走り続けた。獣との邂逅は少年の心にあった壁を何枚も乗り越えさせたのだろう。出会いは最悪だったが結果は最高だった。不細工に泣いてた少年は過去になって、少年は冒険者となった。
「ハッ、相棒。まだまだこれからだぜ」
気絶した少年を担ぎ上げシデンは言う。これから先きっと獣以上の敵がきっと現れて、そしてまた3人で挑む。シデンは直感的に、確信を持つ。それまでにこの弟子を仕上げようと覚悟を決めた。
「シデン!ロード!」
「アリスか。治してやれ」
シデンは教会に向かう道中でアリスと出会しロードを下ろして治療を頼んだ。ロードの状態を見てアリスは形のいい眉を寄せた。
「はぁ、無茶苦茶よ」
「おいおい、これでようやくスタート地点だぜ?剣士の土台がやっと出来たくらいだ。─それにしても随分朝早いな?」
シデンはアリスが朝日が出てまもなくに出会したのを疑問に思う。
「朝のミサをちょっと早く切り上げてパイを買いに行こうと思っただけよ」
アリスの二重瞼が何度か瞬く。
「ん?メリーの店は反対じゃねぇか?」
アリスはルビーの瞳を震わせ、頰に朱が灯る。
「なっ!ウチの子分バカ二人が死んでないかちょっと見に行こうとしただけよ!アタシはリーダーなんだから!」
「へぇ?心配してくれるウチの優しいリーダーの慈愛深さに感謝だなァ」
「え、ええそうよ!感謝なさい!このリーダーアリスにね!さすが私、アリスだわ!」
開き直って堂々とするアリスにシデンは「へいへい」と言って笑う。からかい甲斐のあるリーダーだ。
ロードの治療が行われる隣でシデンは本を召喚し、魔力ペンを慣れない構えで本に刻む。ペンを持つその手は所々インクで汚れていた。




