3話
少女一行は現在、教会へ帰宅中である。
青年が去った後、綺麗な顔立ちの少女は頬を膨らませ不満そうに歩く。それに続く少年もまた苦笑いだ。
「むぅ。」
「まぁ、言いたいことは分かるよ。」
「フン、言ってみなさいよ。私の崇高な清い心の内に秘めた思いを言葉にできるかしら。」
「感謝の言葉を伝えれず名前も聞けず、口汚い青年に振り回されてムカムカしてる。」
「ええそうよ!相変わらずロードは気持ち悪いわね!」
「酷いな。でもきっとそのうち会えるさ。」
「どうしてそう思うのかしら?」
「・・・なんでだろうね。そんな気がするのさ。」
「ヴェネステラはとっても広いのよ!そう簡単に──」
ガタッと目の前で倒れる音がした。
「・・・」
「・・・」
少女一行が曲がり角を抜けた先にどこか見覚えのある風貌の青年が突っ伏して倒れている。腰に刺す得物もまた、どこかで見たものだった。そして、虫が鳴く。
「腹、へった・・・。」
「これうんめぇな!」
「ふふん、でしょ!メリーおばさまのパイは凄いんだから!」
「はぁ、水もあるよ」
「おう、サンキューな!昨日の夜からなんも食ってなかったんだ!」
ロードはさっきまで言いたいことがたくさんあっただろう少女が、全てを忘れて自慢げに胸を張っている様を見てなんとも言えない気持ちになる。
(まぁ、これはこれでアリスのいい所か)
何度これで自分を納得させたか分からない、いつもの言い訳でまた自分を納得させる。
「そういえば名前聞いてもいいかい?」
「ああ、すまねぇ。俺の名前はシデンって言うんだ。飯と水あんがとな。この恩は忘れねぇぜ。」
「よろしくシデン君。僕はロード。こっちは─」
「アリスよ!」
「シデンでいいぜ。ロードとアリスな。覚えとく。」
青年シデンは黒髪黒目とこちらの地方では珍しい風貌をしていた。身長はロードと同じくらいだが体格はよく、服はこちらでもよく見る冒険者のような格好をしている。黒シャツに鉄の胸当て、他にも腕や足を守る装備をしていた。全体的に暗めなのと広場での性格の悪そうな印象を引きずりそうになるが、意外と人懐っこい笑い方をする。
「それでさっきのお金どうしたんだい?」
「さっき?」
「さっき広場で揉めてた時の」
「ああ、あれな。全部使っちまった。」
「えぇ!?5万シルだよ!?」
「宿に雑貨にその他もろもろ。」
「その他もろもろって・・・。」
「例えば、これ。」
そう言って見せてきたのは無骨な1本の杖だった。
「───。」
ロードの胸が一瞬、大きく高鳴る。アリスはキョトンとした顔で聞いた。
「杖?」
「だと思うだろ?ここをこうして、」
シデンは杖の頭の部分の真ん中を押し込んだ。
「じゃーーーん!」
「なにこれ!スゴいわ!!」
「・・・剣?」
「仕込み刀ってんだ!すげぇだろ!」
押し込んだところが取っ手になる細い両刃の剣だった。
「商人が言うにはよ、この刃、細いがアダマンタイトで出来てて並の攻撃じゃ折れねぇ曲がらねぇって話だ!」
「・・・おいくら?」
「2万5000シルだ!」
「・・・シデン、君ってもしかして─」
「バカね!」
「なんだと!?」
この都市ヴェネステラでは一般市民の一月の平均収入はだいたい10万ほど。1万あれば食事や宿代のみで贅沢せず切り詰めれば一月は過ごせるのである。
「シデン、君はこれからどうやって生計立てていくつもりだい?」
「ギルド行ってモンスター討伐依頼でガッポガッポだ!」
「シデン、バカね!」
「なんだと!?」
「はぁ。」
ロードは、新たな出会いに喜ぶべきなのか、厄介ごとが増えたのかどう捉えるか考え、また深いため息を吐いた。




