2話
「──、何しやがる!」
「しつけぇんだよガキ。」
「正当な報酬を要求して何が悪ぃんだよ!!」
「どこが正当なんだよクソガキ。それで十分だろうが。とっとと失せろ。」
そんな喧騒の周りになんだなんだと人が集っていく。
「ロード!私たちも行くわよ!」
「行かないよ、危なそうだし。ささっと修道院に帰ろう。って、アリス?」
危険を感じ、人混みに関わらぬよう幼馴染を連れ帰る少年の周りには、誰もいなかった。よく見れば野次馬の方に眩い金の輝きが人の間を縫うようにスルスルと奥へ入っていく。
「ま、待ってアリス!」
ロードは金の輝きを見失わないように野次馬を押しのけて奥へ進んでいく。人に揉まれながら互いに言い合う声が聞こえてくる。
「大体猿王の森だってただの誇張だろうが。もうあそこには何もいねぇよ。現に俺たちは狼どころかゴブリンにすら遭遇しなかったじゃねぇか。それでたかだか7キロの道で10万?ふざけんじゃねぇ。」
「それでもギルドを通した正式の契約だろ!」
「残念ながら非正式だ。そもそもお前はまだ冒険者ギルドに所属していない。何故だか知らんが向こうのマスターに勧められたから雇ったはいいものを。それに何より」
身長が高く身振りが少し良さそうな髭面の男の鋭い目が、相対する青年の腰に添える獲物を見て言った。
「いざ雇ってみればその腰に刺してる木の棒が獲物だと?テメェこそ護衛の仕事を舐めているのか?」
「──、それは」
青年は一瞬泣きそうな顔をして言い淀んだ。ロードはその顔を見て思わず目を逸らした。あの顔は知ってる顔だ。見たくない顔だ。僕は違う。僕は───
「待ちなさい!」
凛となる、それでいて芯の通った声が辺りに響かせる。その声に、深く沈みそうになった思考が現実に戻る。視線を戻すと、いつも見た金の輝きが、陽の光に照らされ、その存在感を遺憾無く発揮した。
アリスだ。
「黙って聞いていれば大の大人が交わした契約すら守れないなんて、なんて情けないの。」
「─なんだと。」
「秩序と正義の神ミロスは言ったわ!『隣人や我と交わした盃を大切にしていれば、我らはそなたに微笑む』と!あなたが交わした契約を守らなければ神ミロスはあなたに微笑むことなく、災いからあなたを守らないわ!」
「ちっ、修道女か。」
「ええ、いかにも!それでどうするのかしら?守るの?守らないの?」
「・・・ほらよ。」
そう言って男はまとめた束を青年に投げた。ただ、見るからに10万シルもない。
「おいこれ半分しかねぇぞ!」
「ガキにはそれで十分だ。行くぞ。」
男は一度青年とアリスを鋭い目で睨みつけた後、もう用はないと言わんばかり馬車に乗り込む。
「フン、どうなっても知らないんだから!」
と言ってアリスは馬車目掛けて舌を出した。ロードは一息ついて辺りを見回す。何事もなく済んで良かったとアリスに一声掛けようとした瞬間、ロードは見て、叫んだ。
「アリス!伏せて!」
「えっ」
アリスに声をかけた瞬間、馬車のはるか上から何かがアリスに向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「アリ──」
「どけ。」
そう言って飛来してきた物体は、庇うようにしてアリスの前に立った青年が木の棒を使って弾いた。弾いた物体は馬車の下を通過、馬の尻に当たり馬車が猛スピードで進んでいく。
馬車の中が慌ただしくなるが、それも離れていきいずれ聞こえなくなっていった。
「ぷっ、ざまぁねぇな。」
「アリス!大丈夫!?」
「ええ、大丈夫。あなたは──」
「これで貸し借り無し。チャラな。」
「なっ」
青年は木の棒を肩に担ぎこちらを見てニヤリと笑いながら言った。アリスにはなんともムカつく顔に見えただろう。
「そんじゃ」
「ま、待ちなさい!」
青年はこちらを見ようともせず走り出して行き、
「な、なんなのよアイツ!!!」
アリスの叫びだけが虚空に消えていった。




