21話
sideロード
少年は駆け出した。剣を持ってまだ間もない、そんな駆け出しの剣士が2本の剣を携えて、駈ける。
(違う、シデンはこんな走り方しない。呼吸も、走法も、重心のかけ方も全部、全部修正しろ。)
まだ新しく、鮮明な記憶を脳内で再現。ロードの眼には荒れ狂う獣だけじゃなく、前で走るシデンも映す。その背中を追い越さんばかりに少年は追いかけ、学び、修正し、一歩大地に足跡を刻む度に強くなる。
そして少年は片腕となった獣と対峙する。
「グオオオオオオオオオオオ!!!」
「うおおおおおおおおおおお!!!」
恐怖を押し付ける咆哮を少年は、自らも叫び、吹き飛ばす。
──怖い、怖いさ。でもアリスとシデンが死ぬ方がもっと怖い!!!
ロードの目の前に立ったシデンの顔は、やっぱり笑っていた。
(僕の作った幻影でも、やっぱり君はそう笑うんだね。なら───)
少年は改めて力強く獣を視る。
「お前なんてもう、怖くないさ!!!」
恐敵を前に少年は、憧れる英雄のように笑っていた。
sideシデン
──なんて不格好なんだ。
獣と打ち合う少年は、なんとまぁ危なっかしかった。振り回す獣の腕に剣を当て、何とか受け流す。一つ凌げば集中力が切れるのか、全体の動きがズレ、体制を崩す。だがそれもすぐ修正し、地面に転がりながらもまた受け流す。なんて無様。実に不格好。だが──
──打ち合えている。自分より数段上の格上相手に。
少年は獣と渡り合っていた。片腕を無くしたとはいえ数段格上、恐らくlv60は上の化け物相手に。それがどういう意味をするか、シデンは理解している。少年は自分が視ている以上の先が視えていると。
──ロード、お前は"天穴"が見えてるんだな。
ロードはよく言っていた。何事にも自信無さげな少年が、それだけは曲げることなく言っていた。"目は良いんだ"と。
天穴とは、武の頂天に手をかけた者だけに視える力の起点、または根源。そこを刺激する事で相手の力を削ぎ、全ての技がいなされ、小さな力で相手を圧倒し、ねじ伏せることが出来る。その天の穴を、武を知らない少年には確かに視えていた。
──だが、足りない。ロードの身体能力じゃ、天穴に届く前に敵の攻撃が来る。精々動きを予測して力の流れに添えるくらいだ。
足りないのはそれだけでは無い。自分自身の体の動かし方もなってない。シデンの動きをなぞるだけじゃなく、自分の身体に置き換えなければ技に芯は宿らない。所詮見栄えのいい猿真似で終わってしまう。だが───
──今はそれで十分だ。
シデンはロードの動きを見て理解していた。ロードのやりたい事を。
──アイツ人の事をバカだとか英雄だとか言っていたが、俺はお前の方が恐ろしいぜ。
ロードは何度目かまた、大地に刃を刻む。




