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シリウス・ステラ・フォール  作者: 佐藤羊
理想を友へ
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21/34

20話

『─────』


誰かが、泣いている。


『───』


大丈夫。

目の前誰かが落ち着くように、優しく伝えた。


『──』


誰かの指が触れる。

とても、暖かい。

なんたって僕は、『魔法使い』だからさ──





ロードの意識が覚醒する。


「─どうなってっ、アリス!!」


周囲に獣の姿が無く、遠くまで吹き飛ばされたようだ。アリスは地面に体を投げ飛ばした体制で意識失い、持っていた盾は無惨にひしゃげている。


「─すまねぇ、ロード。」


「シデン!!!」


シデンもまた、ボロボロの姿で横たわっていった。


「─俺が、しくじった。」


「そんな事ないさ!君はよくやった!誰よりも勇敢で、前に立ち、まさしく英雄だった!」


「それでこのザマだ。それに───」


シデンは自分の腕へと視線を落とし、ロードもそれに追うように見た。両の手の甲に黒い紋章が浮かび上がっている。


「俺はもう、剣を振れねぇ。」


「これ、は───」


「東の古い神の枷、呪いみたいなもんだ。武器を手に持ち、振るおうとすればたちまち武器が自壊し、全身に激痛を伴い、生命力を奪う。」


「なんでこんな、」


「今まで騙し騙しやってきたが、それも限界らしい。神の目は誤魔化せねぇってよ。それじ───」


「ガアアアアアアアア!!!」


勝鬨をあげるように咆哮を飛ばす獣が近づいて来る。ロードは恐怖にまた身を竦ませた。


「─おい、アリス連れてさっさと行け。」


「─っ、そんな事、出来るわけないだろう!?」


シデンはロードの顔を見て言い捨てる。


「その面じゃ、もう何も出来ねぇよ。足手まといにすらならねぇ。」


シデンの黒い瞳に映る自分の顔が、恐怖に染まっていた。顔を引き攣らせ、涙を流し、絶望に堕ちていた。


──僕は、こんな顔をしていたのか


「今のお前に、何が出来る。魔力もねぇ、魔道具もねぇ。そんなお前に、何が出来る?」


「グアアアアアア!!!」


獣の咆哮の圧が強くなる。その咆哮と共に、どんな事が起きても絶望に堕ちる事がなかったシデンの顔が、絶望に染まる。瞳に映った顔とシデンの顔が重なる。


───せめて、俺の死を無駄にすんなよ


シデンがそう口にした瞬間、額に鋭い衝撃が走る。


「君が、諦めるなよ!!!」


目の前の男は、額から血を流していた。


「笑ってくれ!いつもみたいに!バカバカしく僕たちを巻き込んで!!笑ってくれよ!!」


──


「誰よりも諦めず踏みとどまって、戦ってくれたのは君じゃないか!そんな君に憧れてしまった僕に、そんな顔を見せないでくれ!!」


────


「だから、笑えよ、シデン!!!」


そこにあったのは恐怖に震えながら怒りに身を任せ、暴れる感情を抑えきれず零れそうになる涙を必死に目に貯め、引き攣りながらも口だけ笑っている、何とも不細工な『相棒』の姿だった。


「─ハ、」


「───」


「ハッハッハッハッハッハ!!!」


男は笑った。大いに笑った。何とも不細工な顔で、足を中々踏み出せない、腰の重い『相棒』に向けて、高らかに笑った。そして目の前の男もまた、釣られて笑った。


「─なんて面だよ。ったく、思わず笑っちまったぜ。」


そう言われた男は腕で目元を拭う。


「─っ、全く、そういう君は相変わらず酷いな。」


「さて、泣け無しの勇気を出した所で、結局状況は変わってねぇ。どうするよ、相棒。」


「─その泣け無しの勇気が、必要だったのさ。これ、借りるよ。」


そう言ったロードの青い目に、強い覚悟の炎が灯っている。ロードはシデンの腰から剣を抜き取った。そして、もう1本の借りていた剣も合わせてそれぞれ両手で強く、握りしめた。


「─お前、剣で戦った事あんのかよ。」


「さっきゴブリンを倒したのが僕の剣のデビュー戦さ。」


「無茶だ、死ぬぞ。」


「大丈夫、ずっと"視て"いたから。最強の剣士の相棒を。」


剣を持つ手には震えはなかった。


「代わりにこれ、持っててくれるかな。」


「これ、杖か。」


「これに魔力を貯めて、合図したら魔術陣に流し込んでほしい。」


「陣ってどこに──」


「作るのさ!!!」


そこには、恐怖に沈む顔でも、涙を堪えた顔でもない。


「なんたって僕は不可能を可能にする、世界一の"魔法使い"になるんだから!!!」


誰かを真似たとびきりの笑顔で、少年は化け物へと駆け出した。

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