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エリート官僚はどこかの誰かに飛ばされた異世界で頂点を目指すことにした  作者: 田丸 彬禰


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文官から軍人へ  

 ……コンシリアとドゥドゥル。


 ……むろん、ふたりの対立は、個人のプライドや理想などが理由ではない。

 ……あくまでどのような形で国を救うか。その方法論の違い。


 グワラニーは目の前で繰り広げられている怒号の応酬に耳を傾けながら心の中で呟いていた。


 そのとおり。


 多くの歴史で証明している通り、敗北必至となった国家からは多くの脱落者、いや、裏切り者が出る。

 もう少しだけ言葉を換えれば敵への寝返り。

 だが、自分たちが魔族で、敵が人間であるかぎりそれはあり得ない。

 なぜなら人間は魔族を滅ぼすことをこの戦いの目標のひとつにしており、実際にそれはおこなわれてきた。

 ここで寝がえりを申し出ても、扉を開く手伝いをさせられるだけで命が助かることはないのだ。

 さらにいえば、群衆に紛れ込もうとしても、純魔族はもちろん、人間種であっても魔族の証である赤い目は隠しようがない。

 つまり、生き残るために一致団結して戦い、勝利するしかないのだ。


 それからこのような状況で起こるもうひとつの事態。

 指導者が勝てない状況と知りながら自身の自尊心を優先し、負けを認めないこと。

 これはグワラニーが住んでいた世界でおこなわれた戦いのひとつ、その最終盤を例に示すことができる。

 それによって民は不要な損害を被るのだ。

 そして、その亜流となるものが、降伏することを「潔し」とせず討ち死にするという、いわゆる「城を枕に」となる。

 だが、それらはあくまで負けが前提。

 それに対しコンシリアとドゥドゥルはここから逆転し勝利し、さらにその後についてまで考えている。


 つまり、似て非なるもの。

 もしかしたら対極と言ってもいいのかもしれない。


 ……ある意味健全。

 ……人間の国ならこうはなるまい。

 ……私が魔族の民を好きになる理由がこれだ。


 ……だが、残念だが……。

 ……根本が間違っている。


 グワラニーは思う。


 ……勇者など放置し、人間たちの軍を全力で叩けばいいのだ。

 ……そうすれば、侵攻が収まる。そうでなくてもその速度は大幅に落ちるのだから。

 ……だが、勇者が強いのも事実。いや。あの強さは尋常ではない。コンシリアの策が採用され、将軍たちを千人集めて勇者討伐に向かっても、女魔術師の一撃で全滅するだけ。それは我が軍最強の剣士であるガスリンとコンシリアが加わっても変わらない。

 ……そういう点では、二案のうちのどちらを選ぶべきかといえば、ドゥドゥル案。だが、半年後には勇者がイペトスートに現れるという状況では結果はそう変わるものではない。

 ……つまり、実はそれも不正解というわけである。


 ……だが、そうなると私も決断しなければならない。


 ……安全な王都での文官生活をしながら元の世界に戻る手立てを考え、その手段を手に入れるという現在のプランではそれが実現しないうちに燃える王都と運命を共にするしかない。

 ……それでは日本語を忘れぬようにという隠れた努力も水泡に帰す。


 ……つまり、プランBのカードを切らねばならないようだ。


 ……そして、そのプランBがどのようなものなのかといえば……。


 ……軍への転出。

 ……むろん、指揮官として。


 実をいえば、このプランは、選択肢のひとつとして以前から考えられてものだった。

 それによれば、グワラニーはその軍の指揮官となり地方へ移動。

 王都陥落後、率いる軍を護衛代わりに使用し、転移魔法を使って各地を逃げ回る。

 その期間は概ね五十年。

 長いようであるが、長命の魔族にとってはその長さは生き残ることに比べればその響くほどではない。

 そして、その期間であるが、何を基準にしているかといえば……。


 魔族軍将兵でも倒すことができない勇者とその仲間たち、とくに圧倒的な魔法で猛威を振るう「銀色の髪の魔女」と呼ばれる女魔術師の寿命。


 コンシリアの言葉ではないが、勇者たちさえいなくなれば何とかなる。

 そのためには全滅は避け、相応の規模の魔族を確保する。


 だが、グワラニーはこの案を提案する気はなかった。


 この案は簡単に言ってしまえば、戦いをせずひたすら逃げ回るというもの。


 軍の幹部はもちろん、王もその案には賛成しない。

 そして、望みはしないが、最終的には王都で決戦し、消えることもやむなしと考えている。


 もちろん、それは彼らの考えた自身の身の処し方であるし、好きにやればいい。

 だが、その巻き添えなど御免こうむる。


 自己犠牲の精神などクソ食らえ。

 そんなものは、奴隷根性に基づいた自己陶酔の所業でしかない。

 やりたい奴はやればいいが、自分はそんなものは評価などしない。


 人間は生きてナンボ。

 そのためには這ってでも生き残るべき。


 むろん、今のグワラニーは魔族だから、「人間」の部分は間違いなのだが、それでも、それはグワラニーの基本姿勢を表している。


 さらに言えば、この案にはさらに奥深い理由が隠されている。


 種族は残ったものの、王や軍幹部が根こそぎ消えた。

 だが、当然生き残った者たちの束ねる者が必要となる。

 それを自分が担う。

 そして、魔族の国を復活させ、人間との戦いの勝者へと導く。

 魔族は実力主義の国。

 そうなれば、必然的に王位は自分のものとなる。


 王になったら、安全かつ自由に、自分の本当の目的である二十一世紀の日本へ帰る術を探すことができる。

 誰からの掣肘を受けずに。


 そのためには、王や、ガスリンやコンシリアなどの軍幹部はそっくり消えてもらった方が好都合。


 そう考えると、ガスリンたちでも勝つことが叶わぬ勇者たちが王都にやってくることはむしろ望ましい。


 だが、この計画には大きな問題があった。

 いや。

 壁と言った方がいいかもしれない。


 まず、第一の壁。

 それは……。


 どうやって文官から軍人になるかということだ。


 徴兵制はもちろん、志願制度であっても、戦争中の国家であれば、兵は常に不足しているのだから、軍に志願すれば、すぐに受け入れられる。

 だが、魔族の国だけはそれが叶わぬ。

 軍人になれるのは純魔族のみ。

 人間種は魔術師のみがその例外となる。

 つまり、魔法が使えぬ人間種であるグワラニーには軍人への門は開かれることはないのである。


 さらに、たとえ軍人になることに成功しても、それは最下級の兵士からしかキャリは始められないという第二の壁が立ちはだかる。


 つまり、グワラニーが望むある程度の規模を持つ部隊の指揮官の地位はどう転んでも望めない。

 それどころか、戦場の最前線に立たされ、あっという間に斬られ一生が終わることになる。


 だから、指揮官の地位が確実に確保できる方策が見つからないうちは、軍への転属はできない。

 転属ができなければ、例の策も発動できない。


 つまり、動けない。


 それが現在のグワラニーの状況というわけである。


 むろん、今の状況がそれをおこなう最高の舞台ではないのはわかっている。

 だが、これ以上待っていてもそのようなものがやってくる保障はない。

 そして、その間にも貴重な時間が浪費されていく。


 ……完璧ではないが、ここは行くしかない。


 そう心で呟くと、息を吸い、末席であるグワラニーからは遥か先となる席にいる者に対して発言を求める。


「発言をお許しいただきたい」


 発言者を探し当てるのに時間がかかったのであろう。

 それから、微妙な空白時間が過ぎたところで、相手から言葉が返ってくる。


「……グワラニーか」


「はい。陛下」


「発言を許す。何か言いたいことがあるのなら申してみよ」


 グワラニーは王へ一礼する。


 そして、口を開く。


「私に兵一万と魔術師二千を与えていただければ現在の状況を劇的に改善してみせましょう」


 むろん、それは誰にとってもまったくの予想外のものだった。

 だが、一瞬の間ののち、起こったのは失笑。

 いや、嘲笑だった。

 数瞬後、武闘派の頂点とされるコンシリアがグワラニーに嘲りに怒り色を混ぜ込んだ声でグワラニーにこのような言葉を投げつける。


「グワラニーよ。そもそも貴様は金勘定だけが仕事である文官であろうが。その文官である貴様が戦い方に関わる王と将軍たちの話に口を挟むとは無礼ではないか」


 コンシリアに続いたのはガスリンだった。


「それに軍事の専門家である我々でさえ手に負えないこの状況を、戦の指揮をとったことがないどころか、戦場で剣を振るったこともないひ弱なおまえが改善できるとは笑わせてくれる。一服の清涼感を与えたことには感謝するが断言する。たとえおまえに要求する十倍の兵を与えても一ひねりされるだけだ」


 ふたりの言葉をきっかけにして次々と飛び出したさらに数十人の将軍たちの嘲りの言葉に晒されながら、表情ひとつ変えないグワラニーに王がもう一度声をかける。


「グワラニーの今の言葉は実に勇ましい。だが、それとともに、苦労している将軍たちの前でのその言葉は大きな責任も生まれる。おまえのことだ。当然そのようなことはわかっているのだろう。聞かせてもらおうか。おまえの言う状況が劇的に変わるその策を」

「はい」


 その言葉を待っていたその男は再び王へ一礼すると、視線を下に向ける。


 ……予定通り。

 ……では、仕上げの言葉を聞いてもらおうか。


 ……この程度のこともわからぬ愚か者の皆さん。


「それは……」

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