交渉の行方
「……そうですね」
返答を促すボナールを言葉に曖昧に応対したグワラニーが相手を見返す。
「その前にそちらが勝利した場合に要求する対価はどのようなものかを教えていただきましょうか」
そう。
これは駆け引き。
そして、一見すると自らの手札を晒したように見せて、実はその切り札を示すことなく相手の持ち札を知るという手法。
そして、持ち札をすべて晒した相手から主導権を奪い、こちらの希望に沿った結末を得る。
……武辺の者?それはやり手策士のやり口。
……ですが、本気で対等な立場で交渉をおこないたければまず手札を開陳していただきましょうか。
心の中でそう呟くとグワラニーは薄く笑う。
むろん、相手に見せつけるように。
「……クペル城とキドプーラと中間を暫定的な国境として両国ともそれを犯さないという協定を結ぶこと」
「ということは、こちらが勝った場合にはモレイアン川が国境になると?」
「そういうことだ」
「断る」
「断る?」
「当然でしょう」
「理由は?」
「対価が少なすぎる」
抑えきれず漏れ出した怒気とともにやってきたボナールの問いに対し、対照的な絶対零度のようなグワラニーの簡素な言葉はさらに続く。
「まあ、そちらが勝った場合はそれでよしとすることにしても、こちらが勝った場合については全然足りないですね」
更なる要求。
そう思えるのだが、実を言えばそうではない。
実際のところ、ボナールの提示したもの以上のものを手に入れる気があれば、即座に交渉をやめ、戦いを始めればいい。
そうすれば欲しいものが手に入るだろう。
そうしないのは、求めているのが領地ではないということ。
だが、グワラニーは敢えて要求する。
自身の意図を読まれないために。
「最低限の要求としてミュランジ城とその周辺も加えてもらいましょうか」
相手が想像する要求を示したグワラニーはボナールを見やると、そのボナールはなぜか苦笑している。
「……まあ、そうだろうな」
「だが、私が約束できるのは私の支配下にある地域のみ。むろん、それだって陛下の裁可なく自由にできるわけではないのだが」
「モレイアン川の西岸にあるミュランジ城は私とは別の将軍の領域。さすがに他人の懐に手を入れるわけにはいかない」
さすがにこう言われてしまってはこれ以上ゴリ押しできない。
グワラニーは小さく頷く。
「では、それについてはミュランジ城の……」
「リブルヌ。クロヴィス・リブルヌだ」
「では、その件についてはリブルヌ将軍と相談することにしましょう」
「さて、もうひとつ確認しておかねばならないことは、我々は約束できぬことは約束しない。だが、約束したこと、特に書面で残したことについては約束するのだが……」
「フランベーニュ王国を含む人間世界では、約束は自身にとって都合のいい場合の身に守られるが、必要がなくなった、または、その先に更なる利がある場合は平気で破る。しかも、それは個人間だけではなく国家間であっても起こると聞いている」
「そのような信用できない者との取り決めをおこなうために決闘をおこなうのは馬鹿馬鹿しいと言わざるを得ないのだが、この点については『フランベーニュの英雄』はどのように考えているのか」




