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エリート官僚はどこかの誰かに飛ばされた異世界で下剋上を起こして頂点を目指す  作者: 田丸 彬禰


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英雄と救世主との交渉

実を言えば、グワラニーはボナールの申し出を受け入れ決闘を受け入れることにしていた。

むろんアーネスト・タルファをその相手という提案は納得しがたいものはある。

だが、剣に関して自分は素人。

その自分が達人の集まりである将軍たちが軍を代表する者として太鼓判を押すタルファを蹴り飛ばすなどできない。

それに意見を求めてそれに応えた部下たちが一致しているものを長が明確な根拠もなく拒否しては今後の組織運営に支障を来す。


……そもそもこうなったのは自分に剣才がないからなのだ。そうであれば、任せるしかあるまい


そう自分に言い聞かせて腹をくくっていた。


だが、いわば次善の策である代理を立てての決闘であるのだから、できればないに越したことはない。

そういうことで、ぎりぎりまで回答はしない。

もちろん代理人についてはその場になって初めて示す。


心の中で確認するように呟いたグワラニーが口を開く。


「では、提案を聞かせてもらいましょうか」


それは見事なフランベーニュ語によるもの。


実はこいつの母親はフランベーニュ人奴隷ではないのか。

ボナールはそう疑いつつ、グワラニーを見やる。

もちろん、それは半分ほど。

なにしろ、魔族が人間の言葉を解することは昔からよく知られていることであり、少し前にはフランベーニュとアリターナの同士討ちを誘った際にも魔族の将は両方の言語を操っただけではなく、両国の言葉を書き連ねた書にはその達筆さを披露していたという。

そして、あまりにも多くのことがあり過ぎて遥か昔のことにおもえるのだが、実は前日のこととなる渓谷地帯での戦闘時にも魔族の将がフランベーニュで会話をしてきた。


そう。

つまり、言葉ひとつでフランベーニュ人の縁者とは断定できないのだ。


余計な詮索をしてどうにかこぎつけた交渉の場を台無しにするわけにはいかないボナールがその言葉に応じたのはむろん、本題について。


「私は武人。文官たちと違いまどろっこしい駆け引きはできない。このような場の礼儀には悖るかもしれないのだが、端的に言わせてもらう」


「私とグワラニーの決闘を所望する」


その瞬間、魔族側がざわつく。

もっとも、フランベーニュ側の席に座るのはボナールとロバウのみなのだからざわつきようがないのだが。

そして、そのざわつきが落ち着いたところで、咳払いで仕切り直しをしたグワラニーはこう応じる。


「要求に理解した」


「だが、我々がそれをおこなう理由は少ない。なにしろ、我々はフランベーニュ軍主力を灰にしており、このまま攻め入れば無傷で目的は達せられる。それを反故にして決闘に応じるにはそれ相応の対価が必要になる」


「我々が決闘に勝った場合にどのような対価を用意しているのかを聞かせてもらいましょうか」


「我々は攻撃を始める前に撤退勧告をおこなった。その際に要求したのはクペル城にいる全フランベーニュ人の退去と周辺地域」


「そして、我々が保証したのは撤退する者の安全。動けぬ者に対しては適切な治療。そして、非戦闘員に対しての経済的弁済」


「それを拒否したのだから。当然我々が求めるのは当初の者より大きくなることはあっても小さくなることはない」

「当然だな」


「もし、私が負ければ、私が管轄するモレイアン川東岸すべてを渡す」


モレイアン川。

それはあくまでフランベーニュの呼び方であり、魔族の呼び名ではボルタ川となるのだが、それはクペル城遥か西方を流れる大河である。

なにしろ河口付近では一アケト、中流域となるこの付近でさえその半分ほどの川幅があるのだから。

そして、その気になってこの大河を下ればフランベーニュ王国の都アヴィニアまで行くことができ、さらに下れば南方の海まで到達する交通の要衝。

もっとも、現在この川を交通の要衝としているのは近くの対岸にあるミュランジから上流への上るルート。

すなわち、フランベーニュ軍前線への物資補給ルートである。


この世界には転移魔法という高速移動手段があるのだが、大量輸送には向かない。

その理由はこの世界における最上位魔法ともいえる転移魔法の枷のひとつに「術者が手に触れていなければならない」というものがある。

むろん対象物が術者から近い場所にあれば転移させることは可能なのだが、今度は転移先を制御できないという問題点が生じる。

つまり、転移魔法をおこなう際には術者は対象物に触れることが絶対条件となる。

そこにつけ加えれば、転移に関して制限が生じるのは対象物の数であって質量ではない。

これを利用したのが、グワラニーがあらかじめつくった「移動ユニット」と呼ばれる兵舎に物資や兵員を詰め込み転移させる方法であり、さらに大規模にそれをおこなっているのが、船ごと転移させる大海賊たちである。


話が脱線したが、転移魔法が物資輸送に不向きな理由は、その特性だけではない。

いや。

そちらよりもはるかに問題ともいえることがある。


魔術師不足。


前線で戦う魔術師も不足している状況を考えれば、その限りある資源を直接的な戦闘以外に投入することなど考えられないのだ。

つまり、魔術師を輸送業務に投入するのは緊急事態のみ。

通常は物理的な方法での方法を輸送の根幹にすえなければならないのだ。

そして、その主たる方法が船というわけである。


ついでにいえば、別の世界のように航空機、自動車、鉄道といったものがないこの世界では、運搬手段は船か荷馬車。


異世界を舞台とする多くの英雄譚で登場する運搬手段は荷馬車。

だが、荷馬車は想像するほど荷物は運べないうえ、速度も徒歩とそう変わらない。

その動力たる馬もただでは動かない。

それどころか相当な食料が必要となる。

さらに舗装路などない街道は雨が降ればぬかるむ。

そうなると、馬車の移動速度は徒歩以下となり、最悪の場合、荷物の投棄が必要な場合も出てくる。

これが現実。


そういうことで、後方から前線への物資の大量輸送は船が基準で、馬車は陸揚げされた荷物を目的地へと運ぶ補助的な役割を担うことになる。


その主要運搬手段であるモレイアン川の東岸を敵に明け渡すのはフランベーニュ軍にとって大きな痛手。

前線への物資運搬に支障を来すのは目に見えているのだから。


ボナールもそれは重々承知している。

承知の上でそれを提案したのは、もちろん魔族を、いや、グワラニーを決闘に呼び込むための餌。

そう。

どれだけのものを差し出そうが、勝ちさえすれば奪われることはない。

つまり、ボナールには自信があったのだ。


純魔族にだって勝つ自信がある。

まして、人間種ならばなおさら。


「どうかな」


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