自称合理主義者 ロマン主義者の将軍たちと冷徹な人妻と未知の現実に完敗する
決闘の申し込み。
一応会議の議題に載せたものの、グワラニーの腹積もりはすでに出来上がっていた。
拒否。
そもそも、グワラニーは剣の心得がない。
対して、情報によればアポロン・ボナールはフランベーニュ軍でも優秀な剣士。
むろん、このような情報は盛大に盛ったものも多いのであるのだが、このような場面で決闘を申し込むのだ。
当然相応の剣技を持っていると思って間違いない。
つまり、申し出に応じれば、ここまで積み上げてきた戦果が無に帰す。
いや。
戦果は取り戻すことはできても、決闘が始まって数瞬後には分離している自らの首と胴は永遠につながらない。
完勝目前にして、分が悪いどころか、勝ち可能性がゼロなうえに確実な死もついてくる戦いに応じる必要性など全くない。
それがグワラニーの判断であり、俯瞰的に見ても極めて常識的なものと言えた。
だが……。
……しまった。
目の前に並ぶ諸将の表情を見て瞬間、グワラニーは自らが愚かな行為をしでかしたことに気づく。
グワラニーが示したボナールの提案を好意的に受け取っていることがはっきりと読み取れる。
むろん、グワラニーが剣を振るうことができないことは知っている。
だが、それと同時に相手の指揮官が決闘の申し込みをしてきた、それを無下に断るのは武人の恥でもある。
つまり、その申し出は受けるべきであり、そうなれば誰かが剣を扱えないグワラニーの代理として「フランベーニュの英雄」と一対一で剣を交えることになる。
このうえない名誉なうえに、誰にも邪魔されず最高の獲物を得られる絶好の機会。
彼らが纏うオーラはそう語っていた。
むろん、彼らは最高位の剣士であることは知っている。
だが、ボナールの剣技がどの程度のものかがわからぬ以上、負ける可能性はある。
そして、負けるということはその将軍の死も意味する。
決闘を拒否すれば攻城戦に移行するのかもしれないが、そうであっても無用な戦いで将軍を失うリスクに比べれば百倍マシ。
何度反芻しても同じ結論にしか辿り着かないグワラニーは救いを求めてこの中で自分以外の「唯一の現実主義者」と思われるアリシアに目をやる。
だが、数瞬後、その思いが見事に打ち砕かれる。
「グワラニー様」
「ここはその申し出を受けるべきでしょう」
「……一応その理由を聞こうか。アリシアさん」
ハッキリとわかる落胆色の声で問うグワラニーに対し、アリシアはこう答える。
「もちろんそれはこちらにとって大きな利があるからです」
むろん、利はある。
だが、それは勝利によって初めて手にできるもの。
リスクに見合うものではない。
グワラニーのその心の声が聞こえたかのようにアリシアは言葉を続ける。
「まず、敵将アポロン・ボナールと顔を合わせる機会が得られます」
「そして、協議に持ち込んで停戦条件を示し守らせることができます。もちろん、フランベーニュをはじめ人間の国が結ばれた協定を破棄し、攻め入った例は多々あります。ですが……」
「今回そうなった場合、どのようなことが起こるのか?私たちはそれを彼らに示しています。直接的な災難だけではなく今後どのような状況になろうが降伏もできず、さらにそのような原因は自分たちがつくったという不名誉まで歴史に刻まれます。しかも、彼我の力の差を考えれば避けられない。王都の者たちはともかくこの場にいる彼らが結ばれた協定を破ることはないでしょう」
「そして、最後」
「どのような形であっても、たったひとりの死。それだけで戦闘は終結します」
「……なるほど」
グワラニーは自身を誰よりも現実主義者だと思っていた。
だが、アリシアの言葉を聞き、まだまだ甘さがあることを悟った。
「ですが……」
「もちろん私もグワラニー様が剣を振るえないことは知っています。当然代理を立てねばならないわけですが、ここまで言った以上、私もそれなりの責任があります」
「グワラニー様の代理としてボナール将軍と戦く者。私の夫アーネスト・タルファを推薦します」
「いやいやいやいや……」
流れるように自分の夫を血統相手に推薦するアリシアにグワラニーは慌てる。
当然といえば、当然である。
なにしろタルファは人間。
つまり、ボナールと同じ。
魔族の戦士は圧倒的な腕力を誇る。
そして、それは階級に比例するので将軍級であれば、たとえどれほどの剣技の持ち主であろうが優位は動かない。
だが、同じ人間となれば、差は剣技のみ。
勝敗はどちらになるかはわからない。
わざわざ勝率を下げるような選択はできない。
「アリシアさん。その責任感は十分に受け取りました。ですが、申し訳ありませんが……」
「いや。グワラニー殿。ここは夫人の申し出を受けるべきでしょう」
「ああ。もちろんその役を受けたい気持ちはある。なにしろ相手はフランベーニュ軍の中では一番の賞金首である『フランベーニュの英雄』アポロン・ボナールなのだから。そして、負ける気などさらさらない。だが、それと同時に絶対に負けられないものでもある。そうなると、こちらも最高の剣士を出すべき。そうなると、やはりタルファ将軍となる」
「アライランジアらしくもない殊勝な物言い。だが、一番の剣士を出すべきだという意見には同意する。功はタルファ将軍に譲るしかないだろう」
グワラニーの言葉を遮ったプライーヤに続き、アライランジアとナチヴィダデも推したのはタルファだった。
「言いにくいことなのだが、それは本心か?プライーヤ将軍」
「もちろん。ボナールの剣がどのようなものかは知らぬが、おそらく一番相性がいいのはタルファ将軍であろう」
「もちろん将軍が辞退するというのなら、我々の中から選ぶが」
「いや。やらせてもらおう」
……なんでこうなる。
グワラニーは心の中で叫び声を上げた。




