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エリート官僚 本人の断りもなく飛ばされた異世界で頂点を目指す  作者: 田丸 彬禰


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解放戦

 この世界の国は現在そのすべてが戦いの渦に巻き込まれていると言っていい。

 そして、その構図はこのようなものであった。


 魔族対人間。


 グワラニーが元いた世界に存在する多くの英雄譚では、このような場合、侵攻してきたのは魔族。

 そして、攻められているのは人間ということになる。

 だが、この世界では逆。

 つまり、攻めているのは人間であり、攻められているのは魔族である。


 もう少しだけその長い戦いの歴史を紐解いておこう。


 この世界は、もともと魔族が支配する世界だった。

 そして、この世界に存在する人間はすべて魔族の所有物。

 奴隷だった。


 だが、後に「単位王」と呼ばれる魔族の十一代目の王の命により、大部分の人間は使役から解放され大陸の中央にある魔族の国の王都イペトスートから遠い辺境地区へ居住区を与えられる。

それまで使用していた魔族の言葉とは別の言葉、さらに姓と名を与えられて。

 しかも、地域ごとに。


 さらに、この魔族の王は人間たちの集団に自治権を与え、頂点に立つ者を王、それを支える貴族という王政という形態での統治方法も人間たちに授ける。

 そして、その下には農民を中心とした平民を置き、貴族と平民の中間層ともいえる下級貴族までつくり身分制度を確立させる。


 それは、まるでどこかの封建制度のように。


 いや。

 実をいえば、これはそのコピー。


 魔族の国の十一代目の王。

 彼は別の世界、それどころか、現代の日本からやってきた者だった。


 魔法に対する造詣が深かった彼は、多くの古い魔術書を集め、その中の二冊を組み合わせ、日本語の魔法書を書き上げる。

 むろん、異世界転移のために。


 そして、それに成功した百二十年後、実力主義の国であった魔族の王となった彼は多くの改革に着手する。

 「単位王」という二つ名の由来となる、現在使用されているこの世界の単位の標準化はこの王の功績であるのだが、すべてが肯定的に受け取られているわけではない。


 そのひとつが人間を奴隷身分から解放したことだった。


 現状を考えればその意見にも一理あるわけなのだが、問題はなぜそのようなことをおこなったのか?

 唐突に。


 自身が元々人間だったから?


 もちろんそれも理由にひとつであろう。

 だが、口には出さなかったのだが、彼の内にあったその根幹はそれとは別のものだった。


 自身が住んでいた世界の歴史。


 植民地解放戦。


「人間は馬鹿ではない。いずれ、自身の尊厳に気づき、自らを開放しようとする。そうなったら……」


「圧倒的な少数派である魔族はほどなく滅びる」


「それは避けたい」


「まず、彼らを集中させる。一見すると、戦いの基本に反しているように思えるが、実はそうではない」


「最終的には軍組織となるのだろうが、初期段階におこなうのはゲリラ戦。国の中心地でそのようなことを起こされては収拾がつかなくなる。そうならぬよう、あらかじめ彼らを遠ざけておく」


「さらに、人間という種族が団結されぬように彼らに国というおもちゃを与える。これによって地域ごとの対立が起き、人間が一致して我々に当たることができなくなる。各地域に異なる言葉を与えたのは各部族に個wを意識させるためだ」


 さらに国を王と貴族に運営させるというスタイルも……。


「これによって国同士の対立だけではなく、階級によって内部対立も起こすというわけだ」


 ついでにいえば、伝統的に極端なまでの実力主義である魔族には貴族などという階級は存在しないので、王が参考にしたのはむろん元の世界の制度。

 それが、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵という爵位が存在する理由となる。


 元日本人である魔族の王による、自身が知る歴史を教訓にして用意したいくつものの対策。

 それによって、予想どおり、各地で叛乱が起こり、さらに軍隊組織が整備されていっても、人間たちは圧倒的な数的有利を生かせない。

 結果、均衡状態が続く。


 だが、予想外の事態が起こる。

 いや。

 予定外の者たちが現れると言った方がいいかもしれない。


 それが勇者と呼ばれる若者とその仲間。


 勇者をはじめとした剣士が三人。

 銀色の髪を靡かせる女性魔法剣士。

 そして、もうひとりの男性魔術師。


 三人の剣士はいずれもこの世界の成人年齢となる十五歳を少し超えただけの少年。

 だが、とてつもなく腕は立つ。

 なにしろ、人間程度なら三人纏めて相手にしても負けないと豪語していた魔族軍兵士を軽々と打倒し、さらに将軍たちにも勝利する。


 人間のガキとの剣の勝負、しかも一対一で負ける。


 プライドの高い魔族軍将兵にとってこれは屈辱以外の何物でもない。


 むろん、一対一で勝てなければ、取り囲み袋叩きにすればいいのだが、それができない。

 そして、一対一の戦いに臨み、次々に倒されていったのだ。


 さらに……。


 同行する女魔術師が駆使する魔法。


 軍として見た場合、三人の剣士たち以上に厄介だったのは彼女の魔法だった。

 十人、二十人どこか、百人単位であっても一撃で仕留める。

 しかも、躊躇いもない。

 むろん、魔族軍にも魔術師はいたのだが、彼女の魔法は相手に魔術師がいないかのように猛威を振るう。


 だが、どれだけ強くてもたかが五人。


 しかも、大海賊ワイバーンを通じて手に入れた情報によれば、彼らは、人間世界の呼び名でいうところの「冒険者」と呼ばれるどこの軍に属していない流れ者。

 相手にしなければいい。


 だが、それができない。


 魔族軍の幹部たちは、各軍から有能な戦士と魔術師を引き抜き、勇者討伐に当たらせ、有能な人材をすり潰していく。


 そして……。


 数十世代前の王のあの懸念が実現してしまうときが来る。


 きっかけは人間世界にある国のひとつ、アリターナ王国の公爵家の次期当主で私的な組織であるものの、その無双ぶりから他国の外交団からも恐れられる交渉集団「赤い悪魔」を率いるアントニオ・チェルトーザだった。


 頭に血が上り勇者たちの戦っている魔族軍の様子にチェルトーザは黒い笑みをこう呟く。


「絶好の機会。これを逃すわけにはいかない」


 そして、その言葉通り、チェルトーザは自身が持つ能力と公爵家のコネをフル活用し、裏からこの世界における二大大国のひとつブリターニャ王国に働きかけ、ブリターニャ王国を提案者に上げ、一致して魔族と戦い、その終結まで領土など多くの係争案件はすべて棚上げにさせることに成功する。


 むろん、細かな取り決め項目はすべてチェルトーザが書き上げたものの、彼の名はどこにも出ない。

 いわば黒子。


「……歴史的出来事の提唱者。そんなものはブリターニャ王国の宰相にくれてやる。名より実を取ることが重要なのだ。なによりもこの不毛な戦争を終わらせるべきことが重要なのだから」


 集まった各国の使者による協定締結式を眺めながら、チェルトーザはそう呟いた。


 そして、それから五十日後。


 ブリターニャ王国、フランベーニュ王国、アリターナ王国、そして、ノルディア王国がこれまでにないとてつもない規模で攻勢を始める。

 一斉に。


 まさに青天の霹靂。


 そもそも兵力が劣っているところに勇者討伐のために各戦線から多くの将兵を引き抜いている。

 そこに、同時に起こった大規模な攻勢。


 各戦線総崩れ。

 前線に近いに町は次々に陥落する。

 そして、その占領地では逃げ遅れ捕らえられた魔族は「この世に存在してはいけない邪悪な者」として老若男女を問わずすべて殺され、国だけではなく、魔族という種族そのものがこの世界から消えるのもそう遠くない出来事になると思われた。


 そして、そのような状況のなかでその日がやってくる。


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