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エリート官僚 本人の断りもなく飛ばされた異世界で頂点を目指す  作者: 田丸 彬禰


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捻じれた世界

 他を圧倒する才を持つ。


 それは栄達する者にとって最も重要なことである。

 だが、それだけで大きな組織内の頂点を極めることはできないのはどの世界でも同じ。

 頂上付近に権力にしがみ付く亡者が住み着き、コネや賄賂と言ったものがよく効く腐った組織となればなおさらである。


 それにもかかわらずグワラニーが実質的な文官最高位に到達したのは、文官組織のさらに上にいる者の天の声によるものだった。


 そして、その決断の要因になったこと。


 それは紙。

 つまり、グワラニーは紙の価格交渉をおこない、紙の価格を大幅に下げたことがその決断をおこなう理由となったのだ。


 この世界で紙といえば、いわゆる羊皮紙を指すのは前述したとおりである。

 つまり、元の世界で紙を示す洋紙はこの世界では生産されていなかったのである。

 だが、それにもかかわらず、その便利さからそれを盛大に利用している組織がふたつあった。

 まず、この世界の海を支配しているだけではなく、経済を通してこの世界の経済を支配している八つの大海賊。

 それからもうひとつが大海賊のひとつで紙の元締めでもある「天空の大海賊」ワイバーンから紙を大量に仕入れている魔族の国である。

 もちろん、その他の国もワイバーンから洋紙を入手していたのだが、なにしろ高価なため、使用者は王宮や大貴族などに限られていた。

 しかも、その多くは装飾品という本来の目的とは違う用途に使用されていた。


 ちなみに、価格は一枚あたり魔族銀貨十枚。

 この世界の物価や銀の単価などを参考に導き出したグワラニー独自の換算では、元の世界の一万円と等価。

 もちろんこの世界の者にとっても十分に高いのだが、元の値段を知るグワラニーにとってはその高さは彼らの数段階はあった。

 そして、それは、安物のコピー用紙を持ち込み売りさばいている大海賊ワイバーンの関係者は、「ぼろ儲け」という言葉では済まないほどのとんでもない商売をしているということになる。


 さらに言えば、魔族はこの紙の対価として金貨や銀貨、そして自国で算出する金や銀をワイバーンに渡しているのだが、実をいえば、これこそがワイバーンをはじめとした大海賊がこの世界の経済を裏で握っている根源となる。


 金銀貿易。


 それがそのカラクリの名称となる。


 この世界における金や銀、その多くは魔族の国が算出している。

 そして、人間社会はその金や銀が供給されることを前提に経済活動をおこなっていた。


 だが、これは明らかにおかしな話である。


 なにしろ、魔族と人間は戦争状態にある。

 それにもかかわらず、魔族の国の金や銀が人間の国に流れていくのかといえば、その仲介者として大海賊が存在するからである。

 むろん、魔族側は紙の代金として支払われている金や銀が人間社会の経済の根幹を成していることを薄々気づいていた。


 できることなら阻止したい。


 だが、それを徹底してしまうと、大量に紙を消費する自分たちの社会が崩壊しかねない。

 さらに……。


「今はこれでいい。我々が紙を手放せないのと一緒で奴らも我々の金や銀なしでは生きていけない体になっている。だが、今それを止めてしまってはそれに代わるものを生み出しかねない。今は好きなだけ金や銀を流し、依存体質をさらに高め、戦いの最終段階に入ったときに切り札としてそれをおこなうということにすべきだろう」


 それは現在の王が摂政時代に口にした言葉。

 当然のようにその計画は消える。


 だが、紙の値段を下げる努力はすべき。

 そうすればより多くの紙が手に入るのだから。


 何度もおこなわれた値下げ交渉は、申し出と同じ数の拒否に遭っていた。

 だが、グワラニーが交渉に乗り出したとたんにそれは成功する。


 銀貨十枚から銅貨五百枚まで単価引き下げに成功した。


 元の世界の値を知るグワラニーにとってはまだまだ十分に高い値であったのだが、一気に二十分の一にまで値を下げたのだ。

 快挙以外の何物でもないだろう。


 もちろんグワラニーには多額の報奨金が支給される。


 ……まあ、元の値段と、その大まかな生産方法を知っている私にとって寝ていてもできる程度の児戯。

 ……だが、それでも褒美としてくれるというのであれば断る理由などない。

 ……当然ありがたく頂く。


 グワラニーは恭しく頭を下げながら、黒い笑みを浮かべ、心の中でそう言ったものである。


 そして、この交渉は更なるグワラニーに齎す。

 元の世界とこの世界を行き来している者について推測できる材料を手に入れたのだ。


 ……「天空の大海賊」ワイバーンの長バレデラス・ワイバーン。


 ……この男が行き来している者で間違いない。


 ……交渉したバレデラスの部下が口にした言葉によれば、紙はバレデラス本人がどこかで調達してくるが、そがどこなのかは本人以外知らない。

 ……まあ、当然だろう。言えるはずもない。なにしろその調達先は異世界なのだから。


 ……そして、私にとってより重要なこと。


 ……向こうに行き、そして、こちらに戻ってきた際には、赤子からのやり直しは起きていない。確実とは言えないが、おそらく赤子からのやり直しは一度だけ。さらに、向こうでもやり直しはない。

 ……そして、もうひとつ。

 ……バレデラスの年齢は百歳を軽く越しているという。つまり、こちらで百年は過ごしているということになる。そこに転移前に元の世界で過ごした時間がある。普通なら、戻った瞬間、骨になっている。だが、そのような様子は何もない。


 ……向こうの時間が止まっている。または巻き戻っている。それとも、時間軸が分岐している。いわゆるパラレルワールド。


 ……まあ、どれにしてもそれを本人が状況を確かめることはできないのだが、とにかく、私も戻る手立てさえあれば、どれだけ時間を経て戻っても問題ないわけだ。


 むろん、それは誰にも届かない声での自身との会話。


 そして、それからしばらくしたところで王より新たな命が届く。


「アルディーシャ・グワラニーに文官団の差配する役を命じる」


「これまで以上に我が国のために尽くせ」


 正確にいえば、グワラニーの上にはまだ古株連中は残っている。

 だが、王は彼らをすべて形ばかりの上司となり、それまで持っていた権限はすべてグワラニーへ移される

 多くの利権とともに。


 むろん、奪われた者は不満を持つ。

 だが、王は絶対。

 気に入らなければ辞職するしかない。


 もちろん対価として得られる高給を捨ててまで自身の意志を貫くほどの者などいない。


 こうして、文官団の実質的最高位となったグワラニーは、王の命により文官団のトップとして国政に関わる会議に出席するようになる。

 補給などに関するオブザーバーとして。


 そして、この頃、些細なこととも言えないひとつの出会いがあった。


 場所は小さな菓子屋。

 そこで従者とともにやってきた人間種の少女、いや、幼女がそこに並ぶ菓子を睨みつけ悩んでいたのだが、偶然そこにやってきたグワラニーがおすすめの一品を教えたのだ。

 ただそれだけ。

 だが、このことがグワラニーの運命を大きく変えることになる。


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