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エリート官僚はどこかの誰かに飛ばされた異世界で下剋上を起こして頂点を目指す  作者: 田丸 彬禰


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驚くべき策

「さて、先ほど王都より使者がやってきた」


「そして、あらたな戦いに参加するようにという陛下からの命が伝えられた」


「我々が向かう場所。それは」


「渓谷地帯。すなわち、最激戦地であるマンジューク防衛戦に参加する」


 会議の冒頭、グワラニーがそう言った瞬間、出席者たちからどよめきに似た声が上がる。

 むろん、予想はしていた。

 なにしろ、これまでずっとそのためと思われる準備と訓練がおこなわれていたのだから。


 だが、不安はある。


「グワラニー殿。ひとつ尋ねてもいいだろうか?」


 それは軍の階級からはこの部隊最高位となるペパスがその総意を代弁するため右手を上げた。

 グワラニーは右手でそれに応じるとペパスはその問いを口にする


「我々は渓谷地帯に展開する一部隊となるのか?」


「つまり、現司令官アドリアン・ポリティラの指揮下に入るということなのかということなのだが……」


 そう。

 グワラニー配下の指揮官たちの不安。

 それはこの部隊が渓谷地帯に展開している魔族軍の指揮官アドリアン・ポリティラの命令によって動くのかということだった。


 アドリアン・ポリティラ。


 無能ではない。

 だが、渓谷地帯という重要拠点の最高指揮官を務めるほどの器かといえば微妙。

 凡庸と言っていいこの男が重要拠点の指揮官に選ばれたのは総司令官アンドレ・ガスリンの派閥に属していたからと噂されている。

 少なくても自分たちが所属している部隊を使いこなすだけの才は持ち合わせていない。


 そのような者の下にいてはせっかくの長所も活かされることもなく単なる数合わせで終わってしまうのではないか。


 端的に言えばそうなる。


「将軍の言いたいことは理解した」


「だが、心配は不要」


「なぜなら、陛下は今回の戦いに関して私に自由裁量権を与えてくれた。さらに渓谷地帯に展開する全軍の指揮権と懲罰権も」


「つまり、我々がどのような戦いをしても構わないということだ。そして……」


「陛下が我々に課したもの。それは渓谷地帯からフランベーニュ、アリターナ両軍を追い出すこととなる」


 その言葉には先ほど以上のどよめきが起こる。


 言うまでもない。

 それがどれほど難しいことかは、過去三年の戦いを知っていればすぐにわかる。

 簡単な力攻めでどうにかなるのであれば、すでにマンジュークは落ちている。

 だが、それは人間側だけでなく魔族側も同じ。

 そして、昼夜休みなく戦い続け、敵味方入り乱れた混戦状態が続いている渓谷内では強力な魔法で敵を薙ぎ払うという手も使うのは困難といえる。

 むろん、味方ごと、ということであればそれは可能ではあるのだが、グワラニーがそれをおこなった場合、当然その後に待っているのは懲罰。

 敵を殲滅し渓谷を開放したところで懲罰を受けるなど馬鹿馬鹿しいかぎり。

 当然そのようなことはおこなわないだろう。


 だが、そうであれば、どのような策があるのだろうか?


 バイア、アンガス・コルペリーアとその孫娘、それから薄い笑みを浮かべているアリシア以外の全員の視線がグワラニーに集まる。


 そして、一呼吸をしたグワラニーが口を開く。


「フランベーニュとアリターナ。マンジュークを目指して渓谷に入り込んだ子の両軍を嚙み合わせたうえで、両者を纏めて仕留める」


「これが今回の戦いの概要となる」


 驚愕。


 グワラニーが示した策を聞いた一同の感想をひとことで言えば、そうなるだろう。


 それは多くの点で不可能に思えるものだったからだ。

 その中でも一番となるものは、言うまでもなくフランベーニュとアリターナを噛み合わせるという部分だ。

 なにしろ、彼らは対魔族協定で結ばれた友軍。

 そもそも人間である彼らが本来の敵である魔族の前で戦いを始めるなどありえないこと。


 さらに、両軍はともに目指しているのはマンジュークかもしれないがその位置はとんでもなく離れている。


 その両軍をどうやって戦わせるというのだ?


 納得しがたいという顔が並ぶなか、グワラニーは自作した渓谷地帯の特大地図を張り出す。


 魔族軍から見て、左方からアリターナ軍、右方からフランベーニュ軍がマンジュークを目指して進んでいる。

 むろん、進んでいると言ってもほとんど停滞したままではあるのだが、とにかくその両者が進んだ先で両者が進む道は合流する。

 そして、そこから別世界の五十キロメートルとなる五アケトほど進んだ場所に彼らが目指すマンジューク銀山がある。


「さて、先ほど私はアリターナとフランベーニュを噛み合わせると言ったわけなのだが、当然ながら現状のままでは両者を戦わせることはできない。そこで、戦線をここまで後退させる」


 そう言ったグワラニーが指し示した場所。

 そこはもちろんふたつの道が合流する場所。


「問い合わせたところ、この場所には名がないらしい。そこで、アリターナにあるらしい古い話から『バルクマン・コーナー』と名付けた」


 そこから、グワラニーはその由来となる、斥候中のアリターナ騎士エルンスト・バルクマンが遭遇した数十人のフランベーニュ騎士と戦い、九人を斬り殺し、ひとりに負傷させて逃げ切り、その後その場所は「バルクマン・コーナー」と呼ばれることになったという逸話を披露した。

 だが、これはグワラニーの創作。

 いや。

 自身の記憶にある話を置き換えた話である。


 バルクマンズコーナー。


 グワラニーがその世界にいた時に使用していた日本語に直せば、「バルクマンの曲がり角」となるのだろうが、あまりにも雰囲気が出ないため、この言葉を使用する場合、多くの日本人は、「バルクマン・コーナー」と呼ぶ。


 では、その「バルクマン・コーナー」とは何か?


 それは第二次世界大戦後期となる千九百四十四年七月、ドイツの有名な戦車乗りであるエルンスト・バルクマン親衛隊軍曹が、フランスの街道の曲がり角で自らが指揮するたった一両の五号戦車パンターで戦車戦を挑み、十両もの敵戦車を破壊または、破損させた戦いを指す。

 現在はこの出来事はドイツ軍のプロパガンダという説が有力となっているものの、バルクマンは正真正銘の戦車戦のエースであり、八十両以上の戦闘車両を破壊したと認定される技量があったのでその可能性は十分にあるとする意見もある。


 当然ながら、グワラニー以外に、「バルクマン・コーナー」を知る者はなく、作戦概要を説明するために用意された特大地図上のある一点をそう名付けたグワラニーに異議を申し立てる者はいない。


「まあ、その話が本当なのかどうかはどうでもいい。問題は、そこでアリターナとフランベーニュが出会う。出会うように我々が仕向ける」


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