始めての人道支援
交易所の開設が決まったとき、ノルディア側は喜んだ。
これで奪われた金貨を多少なりとも取り返すことができると。
支払いをノルディア金貨でおこなうように要求したのもそのためである。
だが、魔族側から安定的な小麦の供給が決定されるという朗報は金貨奪還という側面だけを考えた場合、負の要素しかなかった。
ノルディア国内から金貨は完全に消え、さらに重要な外貨獲得手段だった奇石を対価に差し出す事態にまでなったのだから。
さらに必要量の半分を魔族側の供給で賄うという事実。
それが何を意味するかも。
だが、背に腹は代えられない。
すべてを承諾する。
さらに、承諾できる範囲であれば、魔族側の要求も呑むことも事実上承認される。
領地を返還。
人質。
いくつかの想定もされた。
だが、魔族側からは特別な要求はなかった。
誠実な代金の支払い。
要求はその一点だけ。
そう。
これは事実上のノルディア救済。
そして、この世界の歴史上初めてとなる、戦う相手への物資援助。
もちろんこのとき与える側となる魔族側にとっても、この援助に多くの利点があったことは否定できない。
だが、それでも、それによって多くのノルディア国民が救われたことは動かしがたい事実である。
その観点から見れば、これは人道支援という概念がないこの世界の歴史に残る大事件であり、魔族の王の決定は偉業と言ってもいいすばらしい出来事だったといえるだろう。
むろん、後世の歴史書にもこの出来事は美談として何度も記述されることになる。
最後にこの件に関して中心的役割を演じたグワラニーが誰もいないところで呟いた言葉を記しておこう。
「……敵に塩を送る。というところか。まあ、あれによって義将とされた上杉謙信も、実は相応の利益を得ていたという事実もあるのだ。これだって十分に評価されるべきことだろう。そして……」
「食料というのは金や銀以上に重要な物資。そして、ありがたいことにそれを我が国は大量の在庫を抱える」
「……今後もこの戦略物資は有意義に使うべきだな」
そして、その言葉どおり、この後も小麦は多くの場所で武器として扱われ、グワラニーに多大なる戦果をもたらすことになる。
「……情報。そして、戦略物資。剣を振るう以上に勝敗に影響を与えるものの出現」
「……いよいよこの世界も近代戦に近くなってきたな」
「まずはノルディアを仕留めた。次は……」
「順当にいけばマンジューク防衛戦だろうな」
「まあ、策はすでにある。あとは練度向上だ。楽しみにいているがいい。クアムート防衛戦以上のド派手な戦い方を見せてやる。そして……」
「戦いの中心は剣ではなく魔法であることをはっきりさせてやる」




